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1GB/secの次世代PCIバスをCompaqやIBMが提案か


●1GB/secの次世代PCIバスを巡ってIntel対Compaq、HP、IBMで緊張高まる?

 1GB/sec。現在のPC用PCIバス(32ビット/33MHz)の8倍の帯域を持つ、次世代PCIバス「PCIx」規格に関するスクープが、飛び交った。このニュースは、「Compaq, IBM, HP hop on bus spec」(NEWS.COM,9/4)や「IBM, HP, Compaq prepare updated PCIspec」(InfoWorld,9/4)など、ほとんどの技術系ニュースサイトが報じている。要約すると、Compaq ComputerとHewlett Packard、IBMの3社が、次世代PCIバス規格としてPCIxを策定、これをPCI SIG(PCI Special Interest Group)で標準化しようと、図っているというものだ。そして、PCI規格をもともと策定したIntelに、この規格を承認するようにプレッシャをかけ始めたという。

 現在のPCIバスは、PC用が32ビット幅/33MHz、最高で64ビット幅/66MHzとなっている。それに対して、PCIx規格は64ビット幅/133MHz。これだけの帯域がいったいどんな用途に必要かと言うと、それはサーバーだ。規格を策定している3社が、サーバーの大手ベンダーであることからもそれは明らかだ。I/O性能が重要なサーバーでは、なかなか発展しないPCIバスがお荷物になってきた。64ビットPCIバスでも、近い将来は不十分という声があり、そこで、新規格の策定となったというわけだ。

 しかし、この3社が策定して、Intelに承認を迫るという図式には、単に技術的な問題にとどまらない、複雑な背景があるという見方も多い。たとえば、「Compaq, H-Pand IBM Want Intel to Endorse Circuitry Design」(The Wall Street Journal,9/4)では、3社はIntelが現在開発している新規格の代わりに、この新PCIバスを受け入れさせようとしているのだと報じている。その理由は、Intelが新規格でロイヤリティを要求するようになることを恐れており、Intelに代わってバスをコントロールしようとしているのだそうだ。

 Intelが、次世代のインターフェイスを開発しているというのは、他のサイトでも報じている。たとえば、「Big PC makers split with Intel on server design」(PC Week,9/3)では、この新規格を、現行のPCIバスとMerced用の次世代バスの間を埋めるバスと位置づけているという、関係者のコメントを伝えている。また、これは、3社のサーバーのスペックに関する活動の、最初のものに過ぎないとも報じている。

 この動向をもう少し、大きなワクで見てみよう。IntelはPentium II Xeonプロセッサ発表を機に、PCサーバー市場にもPCと同様に、汎用化されたパーツをベースに誰でもローコストに製品を作れるというビジネスモデルを持ち込もうとしている。しかし、これまでサーバーベンダーとして強力だった3社にしてみれば、それはいやな展開で、独自性で付加価値をつけたPCサーバーを推進したいと考えるのは当然だ。これは、そうしたPCサーバー市場での、主導権を巡る勢力争いなのかも知れない。


●PCIバスを巡るもうひとつの動き

 PCIバスを巡る動きでは、先々週にも、同じようにPCメーカーのグループが、携帯機器向けの「Mini PCI」規格を発表するという事件があった。これは、ノートパソコン内蔵のNICやモデムを、カード式にすることで、ノートパソコンの設計期間やコストを削減しようという動きだ。こちらの規格策定グループにも、Intelが入っていないが、「Intel All For New PCI-Based Bus Standard」(Electronic Buyer's News,8/28)などによると、こちらは一応Intelがサポートする姿勢を見せている。


●Intel生みの親ゴードン・ムーア氏の使っているMPUは?

 Intel関連のニュースでは、このほか、親Intel派メーカーの筆頭だったはずのGatewayのテッド・ウェイト会長兼CEOが、Intelの製品戦略に文句をつけたというニュースがあった。「Gateway CEO wrestles Intel over chip」(NEWS.COM,9/3)によると、ウェイト氏は「彼ら(Intel)は、Pentium IIのプレミアムを保ちたいため、Celeronをあまりいい位置づけにしすぎるのを望んでいない」とのべ、そのため、IntelはCeleron 333MHzをあまり熱心にマーケティングしないと不満を漏らしたらしい。こうした声が出てきているのは、Pentium IIの価格を維持しながら、なおかつCeleronによってローエンド市場でx86互換MPUメーカーに対抗する低価格攻勢を行なうという2重ブランド化の問題が生じ始めていることを示しているのかも知れない。

 Intelにとっては、本当に売れて欲しいのはマージンの大きいPentium IIであり、ユーザーが常に高い性能のMPUを求め続けるという傾向が続かないと、今のマージンを維持できない。だから、今のように、PCの性能がある一定のラインに上がって、多くのユーザーがそれ以上の性能を求めなくなるという傾向が見えるのは、非常に怖いわけだ。そこで、一生懸命、高いCPU性能が必要となるPCの使い方を提案しているわけだが、Intelのその努力は、皮肉なことにIntelのトップから崩れ始めているようだ。というのは、「Intel's Moore relaxed about Y2K」(NEWS.COM,8/31)によると、Intelの創業者のひとりで、名誉会長のゴードン・ムーア氏が、自宅で使っているPCのCPUは、なんとPentium 166MHzだからだ。記事の中で、ムーア氏は、今以上のコンピュータパワーはそれほど必要ないと思うと言い、自分は(PC)ユーザーのプアな例だと皮肉っている。創業者が必要としないMPUパワーを、一般ユーザーに売り込まなければならないIntel。これはちょっと皮肉だ。


●新しいインテルクローンチャレンジャー

 MPU関連ニュースでは、このほか「Intel clones face tough market」(NEWS.COM,9/2)が面白い。AMD、Cyrixに続く、x86互換MPUチャレンジャーに関する記事で、10月にいよいよチップを発表するRise Technologyや、まだ製品が見えないTransmeta、計画中のMetaflowなどの話をまとめている。これに関しては、日本語訳の記事「まったく新しいインテル互換CPUの前途」(CNET BRIEFS,9/4)もWebにポストされているので、そちらを見た方が早いかも知れない。

 「SRAM Future Unclear As MPUs Embed Cache」(Electronic Buyer's News,9/4)は、MPUが2次キャッシュを統合するようになるため、高速SRAMの市場が激減してSRAMベンダーが困るという記事。ここで面白いのは、2001年までに、PC向けのMPUのすべてが2次キャッシュを統合するという予測だ。ということは、Intelも?

 「Professor's Idea for Speedy Chip Could Be More Than Academic」(The Wall Street Journal,8/28)は、RAIDで有名なカリフォルニア大学バークレー校のDavid Patterson教授の新プロジェクトの記事。彼は、MPUとDRAMを統合したLSIによる、新しいコンピュータのアーキテクチャを考えているという。これは「intelligentrandom-access memory(IRAM)」と呼ばれるもので、今のコンピュータが抱えるメモリアクセスのボトルネックを回避、リニアに性能が向上できるようにするという。この研究は、専門誌で紹介されていたことがあるが、経済紙にまで登場したというのはなかなかの驚き。


●IBMが直径1インチの超ミニハードディスクを発表?

 今週は、テクノロジネタが多くなってしまったが、ついでにもうひとつ。「A Disk Drive for Your Wallet? IBM Thinks So」(Electronic Buyer's News,9/4)によると、IBMがなんと1インチのハードディスクを今週発表するという。厚みがではなく、“直径”がだ。現在のノートパソコン用のハードディスク(2.5インチ)より、大幅にサイズを縮小したこの新製品は、170MBと340MBの2タイプ。ATAインターフェイスを採用し、CompactFlashのフォームファクタで登場するという。当然、CompactFlashのスロットを備える携帯情報機器の市場をターゲットにすることになるだろう。'99年に出荷すると言うが、かつてHewlett Packardを始め複数のメーカーがチャレンジして失敗したサブ2インチハードディスク市場を、今度こそ立ち上げることができるのだろうか。


●Microsoftのライバルが抱える'99年問題とは?

 最後にMicrosoftの話題をひとつ。「Gates unveils Visual Studio 6.0, talks up enterprise development」(InfoWorld Electric,9/2)によると、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CEOは、「Microsoft Developer Days 98」のスピーチで、Microsoftの競争相手は“1999年問題”を抱えていると指摘したという。その意味は、'99年にはWindows NT 5.0、COM+、Office 2000が出荷され、SQL Server 7.0が企業に定着する年だからだという。さて、Windows NT 5.0とCOM+は、ほんとうに'99年中に間に合うのだろうか?

 Microsoftに関しては、今週発売の内幕暴露本と、裁判での司法省(&20州)の提訴拡大、Intelに対する圧力疑惑という、なかなか興味深い話題があるのだが、これらに関しては、今週後半のコラムでまとめて紹介したい。

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('98年9月7日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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