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'99年に256KBの2次キャッシュを統合した「Dixon」を投入


今回は、IntelのCPU戦略をテーマに2日連続でお届けしています。前編もあわせてご覧ください。(編集部)


●じつは高速駆動が可能なMendocino

 前編で解説したように、Intelはかなり周到に1,000ドル前後のPC市場に向けた戦略を練っている。しかし、この戦略にはいくつか問題もある。まず、Celeronの位置づけが難しい。Intelは、メインストリームPC市場での利益はPentium IIで確保しつつ、なおかつローエンドPC市場でもCeleronで攻め立てようとしている。そのため、Pentium IIとCeleronの競合を避けなければならない。ところが、第2世代Celeron(Mendocino)によってパフォーマンスギャップが縮まってしまってしまったために、これが難しくなってきている。

 まず、ユーザーのPCを選ぶ大きな選択ポイントが動作周波数である以上、IntelはローエンドのPentium IIより動作周波数の高いCeleronを出しにくい。マーケティング的な位置づけが狂ってしまうからだ。

 じつは、MendocinoがPentium IIと比べて動作周波数を高くしにくいという理由はあまりない。これは、他のx86互換MPUメーカーが、いずれも2次キャッシュ統合MPUを現行の製品より高い動作周波数で出荷しようとしていることからもわかる。となると、想定できるのは、Intelがマーケティング的な理由で、意図的に動作周波数を抑えているということだ。今回、Intelは第2世代Celeron(Mendocino)で300/333MHzを発表したわけだが、これは、Pentium IIのローエンドのラインを事実上350MHzに切り上げるという動きと同期していると考えた方がいい。実際、Mendocinoシステムが大量に出る今秋には、Pentium II 350MHzがPentium IIファミリーの最低価格に近い200ドル近辺にまで下がると報道されている。

 となると、今年の秋からは、Pentium IIは350MHz以上、つまり100MHzベースに完全にシフト。一方、Celeronファミリは66MHzベースに置くことで、切り分けるというのがおそらくIntelの図式だ。となると、Mendocinoを400MHz(100MHzベース)にできるのは、Pentium IIから次の「Katmai(コード名:カトマイ)」へのシフトが起き、Pentium II/Katmai系が450MHz以上になる時まで待たなければならなくなるかも知れない。とすると、もし万が一、その前にx86互換メーカーが動作周波数でMendocinoを大幅に追い抜き始めた場合はどう出るかが問題となるだろう。


●次の2次キャッシュ統合MPU「Dixon」の不鮮明さ

 さらに問題は、x86互換メーカー各社がいずれも'99年までにはMendocino同様に2次キャッシュを統合したMPUを投入してくると予想されていることだ。問題は、2次キャッシュを統合してバックサイドバスでMPUコアと接続したx86互換MPUは、性能的にPentium IIのかなり強力なライバルになる可能性があることだ。

 では、これにIntelはどうやって対抗するのだろう。Intelも、より大容量の2次キャッシュを統合して行くのか?

 じつはIntelは、この2次キャッシュ統合戦略をまずMobile Pentium IIで押し進める予定でいる。Intelは、'99年前半にモバイル用Celeron(Mendocino)を投入するだけでなく、256KBの2次キャッシュを統合した「Dixon(コード名:ディクソン)」と呼ばれるMPUを投入すると言われている。米国のMPU業界専門誌「Microprocessor Report」は、このDixonの性能は、同クロックのPentium IIを上回ると予測している。

 さて、Pentium II系MPUの場合、MPUコアの設計を変えずに2次キャッシュSRAMを256KBにすると、0.25ミクロンで製造した場合、単純計算では180平方mm近いダイサイズになってしまう。これでは、高価なモバイル用MPUでは使えても、ローエンドデスクトップ向けMPUでは使いにくい。しかし、Intelは'99年中盤から0.18ミクロンの製造ラインを量産ベースで立ち上げる。0.18ミクロンならば256KBのSRAMを統合しても、単純計算では100平方mm以下、やや大きくなったとしても、十分量産品として戦えるダイサイズになると予測できる。

 ところが、まだデスクトップ向けのDixonの位置づけは業界でもあまり明確になっていないようだ。Celeronブランドで登場するという話をIntelが打ち消し、Pentium IIブランドで出すと言ったという報道も流れているが、時期や動作周波数などは明確ではない。どうやら、Intelのロードマップに混乱や未整理の部分があるようだ。ここには複雑な事情があると思われる。


●Katmai後継の「Coppermine」では2次キャッシュはどうなる?

 まず、デスクトップではIntelは'99年前半にハイエンドのPentium IIからKatmaiへのシフトを行なう。Katmaiでは「Katmai New Instructions(KNI)」と呼ばれる新命令の実行ユニットやレジスタなどが加わると見られている。このKatmaiはすでに0.25ミクロンで設計が進んでおり、2次キャッシュは統合しないと見られている。となると、Intelとしては性能的に同クロックのPentium IIと同等かそれ以上のDixonを簡単には投入できない。

 また、Dixonのように256KBを統合したPentium II系MPUは、0.18ミクロンプロセスでないと経済的に量産できないわけで、デスクトップPC市場をまかなうだけ大量に0.18ミクロンで製造できるようになるのは、おそらく'99年後半になる。

 一方、Katmaiはすぐに'99年後半には0.18ミクロンで製造する「Coppermine(コード名:カッパーマイン)」に世代交代してゆく。問題は、このCoppermine系MPUで2次キャッシュを統合するかどうか。このあたりはまだあまり情報がないが、ダイサイズを考えれば、256KB程度を統合する余裕は十分ありそうだ。となると、Intelがもし、最初は2次キャッシュを統合しなかったとしても、必要があれば2次キャッシュ統合版を投入してくる可能性はある。というか、いつでも2次キャッシュ統合に移行できる準備をしておき、ライバルが迫った時などにはすぐに投入してくるだろう。

 では、そうなった場合、IntelはどうやってPentium II系とCeleron系という2ブランドを切り分けるのだろう。まず、考えられるのはPentium II系はKNIを持ち、Celeron系は持たないという切り分けだ。CeleronファミリにKNIを入れるロードマップはまだ明確でないので、これはありうる展開だ。また、Pentium II系を'99年後半に133MHzベースクロックに移行させ、Celeron系は100MHzに移行させるというパターンも考えられる。もちろん、今のように2次キャッシュの容量に差をつけておくかもしれない。

 ちなみに、IntelはPentium II XeonとモバイルPentium IIというブランド切り分けも維持するつもりで、Xeon系ではKatmaiと同時期に「Tanner(コード名:タナー)」、Coppermineと同時期に「Cascades(コード名:カスケイド)」というMPUを投入する。またモバイルPentium IIでは、DixonのあとCoppermineに新しい省電力技術を加えた「Geyserville(コード名)」を投入、ローエンドにはMendocinoの後継に「Banister(コード名)」というMPUを投入すると言われている。

 以上がCeleronを中心に見たIntelのMPU戦略だ。かなりごちゃごちゃしているように見えるかもしれないが、これはそのままIntel内部での複雑な展開を反映している。ひとつだけ確かなのは、Intelがあらゆる事態を想定して、Pentium IIコアの派生品を次々に開発しているということだ。パラノイアのIntelは、今回も危機感を糧に、がむしゃらに突き進もうとしているようだ。

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('98/9/1)

[Reported by 後藤 弘茂]


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