【ソフト】 |
アドバンスド大戦略98 Storm Over Europe
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株式会社チキンヘッド代表取締役 南 人彰 氏 |
■【3/13】Weekend Summary:セガの名作シミュレーション「アドバンスド大戦略」が蘇る
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980313/game.htm
かなりのボリュームでプレイする側を圧倒するセガ・エンタープライゼス版「アドバンスド大戦略98」。凝りに凝った内容はシミュレーションゲームを遊び尽くしたユーザーにとってもかなり楽しめる内容となった。今回は「アドバンスド大戦略98」を作り上げた南 人彰氏にお話を伺った。
■セガ・エンタープライゼス版「大戦略」とは
オープニング画面も雰囲気満点 |
南 セガ・エンタープライゼスとしては、メガドライブ版から「大戦略」を作らせてもらっています。今回は、その昔「大戦略2」をベースにして作った「アドバンスド大戦略(メガドライブ版)」を移植しないか? というお話をいただいて、それではということで、いろいろと気に入らなかったところを改良して作り上げたのが今回の「アドバンスド大戦略98 Storm Over Europe」というわけです。
システム的に「大戦略2」がベースとなっているのはわかるのですが、逆に大幅に手を加えなかったのはどうしてなんですか? たとえば「大戦略2」では、“移動して攻撃”というゲームの流れですが、どうして“攻撃して移動”といったことができないのでしょうか?
南 今回の「アドバンスド大戦略98」のスタート地点が移植ということだったので、ベーシックなルールは変えずに移植したんです。重要な部分には手をふれなかったというのが正直なところですね。もし、そこまで手を加えていくんだったら「大戦略」というタイトルをはずして違うタイトルにした方がよかったでしょうね。
マップ全体をみるのに便利なHQ(Head Quarters:司令部)画面。中央に突出部のあるこのマップはもちろんあの…… |
南 “ターン制”の利点といえば、ユーザーがじっくりと考えることができる点ですね。“リアルタイム制”はどうしても焦って操作してしまうでしょ。
シミュレーションゲームファンは比較的、シューティングゲームやアクションゲームといった細かい操作が求められる分野を苦手とする人が多いんですよ。私も含めて、リアルタイムというせわしさに自分の指がついていかないんです。
チェスでも中国将棋でも、古来から伝わっている純粋な思考ゲームの中にリアルタイムなものはなにひとつないですよね。これだけ数多くのゲームが発売されていますが、リアルタイムの将棋ってないでしょ? バカな喩えかもしれませんが、基本的にはそういうことだと思うんです。リアルタイムという要素は、どちらかといえばサッカーとかフットボールのようなスポーツの分野じゃないかと思うんです。ですから基本的には頭を使うゲームは“リアルタイム制”より“ターン制”の方が表わしやすいと、私は考えているんです。
「アドバンスド大戦略」が第2次世界大戦を舞台にしているのは何故でしょうか?
南 ひとつは、「スーパー大戦略」で近代戦をテーマとしたので、「アドバンスド大戦略」では目先を変えたかったというのがあるんです(笑)。もうひとつは、キャンペーンシナリオのような物語性を求めるときに、架空の世界を舞台にするより、現実の世界を舞台にした方が説得力があるというのが大きな理由なんです。第2次世界大戦はポーランドで始まってベルリンで終わるという歴史性があったので、ここに舞台を据えました。
で、第2次世界大戦を舞台にしたとき、誰を主人公にするべきかと考えると、営業上の戦略もありますが(笑)一般的にドイツを主人公にするほうがドラマ性が高いという話になったんです。第2次世界大戦の場合、ドイツ軍の人気は圧倒的なんです。これは模型(プラモデルなど)などでもそうなんですが、戦車をはじめとしてドイツ軍の兵器が一番売れ筋なんですよ。
ちなみに、“日本軍”を主人公にしなかった最大の理由は、メインの舞台が海となる太平洋戦域での戦いでは、「大戦略2」のシステムにあまり向いてないということですね。
■バランス調整の難しさ
スターリングラード攻防戦を扱った「ヴィンター・シュトゥルム作戦」。季節は冬なので画面は真っ白け。移動に制限が出るので要注意だ |
南 そうですね。シナリオ作りが一番大変でしたね。特にシナリオのゲームバランスの問題は悩みました。正直な話、どのプレイヤーにバランスを合わせればいいのかは、最後までわからなかったというか、判断がつかなかったんです。
このゲームを簡単と感じる人と、難しいと感じる人の両方がいるんですが、それぞれ両極端なんです。ちょうどいいという人がいない。で、両方の人がプレイするのを見ていると、簡単だという人は要領よく戦略していくし、難しいという人は戦いの要領が悪いんです。戦術が明らかに違いますね。両方の戦術に対応する事は、なかなかできないのが現状です。どこに線引きをするのかは最後まで悩みました。結局、うまくいかなかった人のために、コンピュータの行動や条件を下げるモードを選択できるようにしたんです。
僕個人のプレイバランスとしては、モスクワのシナリオまでは誰もが行けるようにしたつもりです。アフリカに進攻した場合なら、エルアラミーンの手前ぐらいまでは進めてほしいですね。ただし、唯一例外があって、ワルシャワで大勝利した後のルートは、いばらの道になるんです。つまり、ここで勝利した以降のシナリオは、いわゆる架空シナリオになるんです。ワルシャワで大勝利を納めるということは、架空シナリオに突入できるほどの実力があるとゲームの中で宣言したようなもんなんですね。で、ゲームも意地になって、厳しい攻めをしてくるというわけです。ノルウェー戦も同じことですね。
とはいえ、モスクワまでは初心者でも行けるはずです。天候も実は雨が降りにくくなっているんです。コンピュータの生産する兵器も比較的弱く設定していますし、前作のメガドライブ版よりも難易度は下がっていると思いますね。
あと、おすすめシナリオはどれかと聞かれたりもするんですが、キャンペーンでプレイするのを前提としているので、オススメを聞かれても困ってしまいますね。一応、青軍(第一国)でプレイするのを前提に難易度調整をしていますので、それ以外の国でプレイしてうまくできないと言われても、困りますね。ですから、どの国でもプレイバランスをとっているかと聞かれたら、とっていませんと答えるしかないです。
最初の質問で、工場という要素を省いたとおっしゃいましたが、なぜ、工場という要素を省かれたのですか?
南 「アドバンスド大戦略」ではユニットが経験値を貯めて進化するというルールを採用した段階で、“工業力”という概念が必要なくなったんです。
通常、“工業力”というのは、工場をたくさん侵略していけば、より高性能な兵器を作ることができるということなんです。でも「アドバンスド大戦略」ではより高性能な兵器を得るためには、経験値を貯めて兵器を進化させるか、もしくはマップの年代が進行することのいずれかというルールに設定しましたから、それ以外の要素は必要ないんです。
大事に使った兵器が次のマップでも使えるという、いわゆる“兵器が成長”するシステムが楽しいことには、以前から気がついていて、どうしても採用したかったんですよ。
でもまぁ、むちゃくちゃな話なんですけどね。どこの世界に進化していく兵器があるんだって! あくまでもゲームルールですよね。
このゲームには大きな嘘がふたつあって、ひとつは前述の“兵器の進化”というルールですね。もうひとつは“ターン制”に関する嘘なんです。「アドバンスド大戦略」では「“1ターン”=“1日”」って設定しているんですが、これってどう考えてもおかしいですよね。だって、戦闘機が、燃料も補給しないで何日も飛び続けているってことですからね。でも、兵器が進化すると設定した時点で、「“1ターン”=“1日”」と設定しないと、時間経過の都合上、新兵器が誕生しないことになるんですよ。ターン数だけ表示するという手もあったんですが、結局のところ「まぁ、いいやっ!」と決断して、日付も表示したんです。
それで、文句を言ってくる人がいると思ったんですが、案外誰も何も言わない。これってあまりにも極端なスケールの嘘なので、誰にでも嘘ってわかるじゃないですか。だから許されたんだと思うんです。これが微妙な嘘だったら、マニアックな人からいろいろ言われて大変なことになったと思うんです。
写真 1と写真 2が“戦闘シーン”で使われたジオラマ。ダムの部分は初めきちんとしたものが撮られ、その後、決壊したものが再度撮影された。写真 2は写真 1のダム部分のアップ。 写真 3と写真 4は、やはり“戦闘シーン”で登場する模型。かなり細かく作り込まれており、そのサイズから考えると驚異モノだ。 |
■これまでの「大戦略」との違い、そしてこれから……
“戦闘シーン”に登場する模型の大きさを表わしたお約束写真。でも、この写真でいかにこの模型が小さいかがわかってもらえると思う。 |
南 今回の「アドバンスド大戦略98」になって、前作から何が変わったかと言えば、いろいろ細かい点はあげられるんですが、僕の方ではそれほど変わってないと思っています。兵器の数がちょっと増えて(編注:ものすごく増えています、念のため)、前作では気に入らなかった天候に関して少し直したぐらいなんです。
昔は天候とか気温という分野は、わりとデタラメに設定されていたんですが……実は、現在でも結構デタラメなんですが、もう少し現実味を出してみたんです。兵器も前回入れられなかったものを入れ、シナリオに関しても東部戦線で欠落していたものを入れてみました。
ではシステムソフトの「大戦略」とどう違うかというと、その質問に答えるのは、ちょっと困ってしまうんです。というのも「アドバンスド大戦略98」は「大戦略2」のシステムを引きずっているわけですが、それにあたるソフトが現在のシステムソフトさんのラインナップにないんです。現在のシステムソフトさんのラインナップは、より多くの人に楽しんでもらえるような、ストーリー性などを取り入れた、ライトユーザーをターゲットとした作品に仕上がっていると思いますます。ですから、ターゲットが違うという点で、全く違うものだと思います。
僕にとっての「大戦略」は兵器中心の、現実にある兵器が主人公のゲームだと思うんです。ですから、「アドバンスド大戦略98」もシステム的にはちょこちょこ変わってはいますが、基本的にはそのテーマに沿って作っているつもりです。
最後の質問ですが、これからはどのようなどういった方向を目指していきたいですか。
南 う~ん…………正直な話、戦争ゲームはもう(作らなくても)いいかなぁと思うんですよ(笑)。「もうちょっと違うジャンルも作りたいかなぁ」とも思うんですが。
それとは別に、今回の「アドバンスド大戦略98」以降のことも考えてはいます。というのも、私個人としてやり残したことが結構あるんです。あれもやってない、これもやってないというのが、正直なところで、兵器ひとつとってもまだ全然足りてないんです(編注:現在でもものすごく多いです、念のため)。
あと、システムからくる問題点を大幅に変える方法と、変えない方法がありますが、あえて変えないということで話を進めた場合でも、いろいろと不満点があるんです。たとえばキャンペーンだと、用意しているのはドイツだけというのも不満です。販売戦略的には何の足しにもならないかもしれないけれど、イギリスが主人公のキャンペーンモードをつけてみるとかしたいですね。
他にも、スペイン内戦のシナリオを最初に持ってくるとか、ドイツが戦勝国になったときも、今のキャンペーンモードだったら、勝った後のシナリオがあっけなく終わってしまうんです。もし、ヨーロッパ全土に鉤十字(ハーケンクロイツ、ナチス軍の党章)の旗がはためいた場合、アメリカとの戦いが待っていると思うんですよ。そういった展開の話が入っていませんので、そういったシナリオも入れたいですね。
攻略するだけでもかなりの時間を要し、さらに兵器コレクションなど数多くの要素を持つ「アドバンスド大戦略98」。ファンとしては,まずはこの作品をじっくり遊び込んでみようではないか。
Interviewer 谷川 潔
Text by PC Watch編集部
Interview Date at '98/4/3
(C)SEGA ENTERPRISES,LTD. 1998 (C)System Soft 1988
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