法林岳之のTelecom Watch
第10回:1998年11月編
「ISDNダイヤルアップルータの定番は?」ほか

 メール版特別企画としてご好評をいただいていた本連載を、連載10回目となる今回より、Webサーバーでも公開します。同時に、初回からのバックナンバーもWebページ化しました。どうぞ今後もご期待ください。(編集部)


ISDNダイヤルアップルータの定番は?

 今春のMN128-SOHOの登場以来、ISDNダイヤルアップルータの人気が高まっている。Telecom Watchでも取り上げてきたように、各社から対抗製品の発売が相次いでいる。

 11月は古河電工から『MUCHO-TL』が発表された。同社は従来から『MUCHO-PS/同ST』という低価格ISDNダイヤルアップルータを販売していたが、MUCHO-TLではアナログポートの追加とPIAFSへの対応により、さらにコストパフォーマンスの高い製品へとリファインされている。価格もDSU内蔵タイプで68,800円、DSUなしのタイプで58,800円と手頃だ。おそらく実売価格ではDSU内蔵タイプで5万円台後半、DSUなしのタイプで4万円台後半程度が購入の目安になるだろう。

 ISDNダイヤルアップルータのセットアップは、HTTPサーバを搭載し、Webブラウザから行なうのがトレンドだが、MUCHOは従来同様、Windows95上で動作する専用ユーティリティを利用する。従来製品のユーティリティをリファインしたものだが、内容的には比較的平易な単語などを使い、分かりやすいものとなっている。ただ、Macintoshなどの環境からセットアップできない点や、複数の接続先のファイルを逐次アップロードしなければならない点などを考えると、Webブラウザによる設定の方に一日の長がある。LAN上にWindows 95マシンしかなく、設定ファイルを共有化できる環境であれば、MUCHO-TLはいい選択肢と言えるだろう。ただし、DSU内蔵モデルはDSUの切り離しができないので、個人的にはDSUなしのモデルをお勧めしたい。

 MUCHO-TL以外では10月以前に発表されたISDNダイヤルアップルータが相次いで出荷された。ヤマハの『RT80i』、NECの『IP45/007』などがそうだ。いずれもWebブラウザからのセットアップが可能だが、どちらもMN128-SOHOを凌駕するところまではいっていない。RT80iは従来のRT100i/102iに比べ、セットアップを容易にしたことをセールスポイントにしているが、実際に試用した印象では単にWebブラウザで設定できるようにしただけで、内容は非常に分かりにくく、マニュアル類も不親切だ。ただし、動作は非常に安定している。一方のIP45/007はアナログポートやハブの有無で3タイプがラインアップされている。こちらはRT80iよりもセットアップしやすいが、動作が不安定で、まだファームウェアが煮詰まっていないという印象を受けた。しかし、いずれも性能的にはMN128-SOHOを十分上回るものを持っているので、今後のバージョンアップ次第では次なる定番商品になる可能性を秘めている。

 ISDNダイヤルアップルータに関しては、さらに'98年以降に新製品が登場するとの噂もあるので、もう少し待てるのであれば、待った方が賢明という見方もある。もし、どうしても購入したいというのであれば、ショップやショールーム、展示会などで、実際の設定画面を触り、自分に使いこなせるかどうかをチェックしてから購入することをお勧めしたい。

【関連記事】
□古河電工、アクセスルータ「MUCHO」新製品。アナログ機能を強化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971106/muchotl.htm


ISDNターミナルアダプタに2つの新機種か

 引っ越しシーズンを控え、各社ともラインアップの拡充を進めるISDNターミナルアダプタでは、先月に引続き、NECとシャープがそれぞれ新製品を1機種ずつ発表した。

 シャープが今回発表した『DN-TA1』はDSUを内蔵したISDNターミナルアダプタで、アナログポート2つ、デジタルポート1つを備えた標準的な製品だ。フレックスホン、ISDNボイスワープなどのサービスに対応し、疑似機能、中継機能なども充実している。前回紹介した『JD-MA1』と違い、S/T点端子を備え、スタンドを電池ボックス化することで、停電対策もなされているので、一応の基準はクリアしていることになる。ただ、液晶ディスプレイ搭載モデル全盛のご時世に、LEDのみというのはやや魅力に欠ける感は否めない。価格は46,800円とのことなので、実売価格は3万円台後半に落ち着きそうだ。

 一方、NECはAtermシリーズの最廉価モデルになる『AtermIT50DSU』を発表した。こちらはAtermIT65シリーズをベースに、USBポートの省略、液晶ディスプレイのバックライト省略などのコストダウンを図っている。アナログポートもAtermIT65シリーズの3つから2つに減っている。しかし、ハード的にはAtermIT65シリーズと同じなので、インターネット接続などのパフォーマンスは申し分なく、サポートするサービスも同等のお買い得品だ。

 AtermIT50DSUで注目なのは、'98年2月から全国でサービスが開始される『ナンバーディスプレイ』に正式に対応した点だろう。実はアナログポートがナンバーディスプレイに対応したISDNターミナルアダプタは少ないのだが、AtermIT50のアナログポートはナンバーディスプレイ対応端末を接続すれば、サービスが受けられるようになっている。トップシェアのNECらしい素早い対応と言えるだろう。標準価格は39,800円なので、おそらく実売価格は3万円を切るところまで行きそうだ。

 余談になるが、前回紹介した『AtermIW60』はやや出荷が遅れたものの、12月13日前後に少しずつ出荷が始まったようだ。月末までには潤沢にモノが出回るようなので、興味のある人はショップに足を運んでみるといいだろう。AtermIW60は個人的にも非常に注目している製品なので、チャンスがあれば、またレポートしよう。

【関連記事】
□シャープ、DSU内蔵TA「DN-TA1」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971106/sharpta.htm
□NEC、DSU内蔵の低価格TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971127/nec.htm


56kbpsモデムはいよいよ標準化へ

 '96年末に鳴り物入りで登場しながら、規格が割れてしまったため、今ひとつ盛り上がらなかった56kbpsモデムだが、相変わらず各社から新製品が登場している。

 11月はアイワからISAバス用内蔵タイプ、PCカード、外付けタイプが相次いで発表された。いずれも従来製品同様、3com(旧U.S.Robotics)などが提唱するx2Technology方式を採用した56kbpsモデムだ。価格的にも安いので、x2 Technology対応プロバイダに加入しているユーザーは検討する価値がありそうだ。もちろん、ITU-Tによる国際標準規格が正式勧告されたときの無償アップグレードが保証されており、安心して購入することができる。このあたりの面倒見の良さは、さすがアイワと言えるだろう。  さて、56kbpsモデムにTelecom Watchで逐次、最新情報を提供してきたが、ITU-Tでの国際標準規格策定に大きな動きが見えてきた。COMDEX/Fall'97ではまったくそんな気配も見せていなかったのだが、12月はじめにアメリカのオーランドで行なわれていたITU-Tの委員会で米3com、米Rockwell International、米Motorola、米Lucent Technologyが56kbpsモデム(PCMモデム)の妥協案に合意し、'98年1月末にイタリアのジェノバで開かれる会合で国際標準規格(V.pcm)の草案がまとまる見通しとなったのだ。ちなみに、この妥協案を提案し、調停役となったのは米Intelだが、モデムチップセットや基本技術を供給する各社に「このままでは56kbpsモデムは商売にならない」という危機感があったのは間違いないだろう。アメリカでもISDNやxDSL、ケーブルモデムといった技術が急速に浸透し始めており、ユーザーの興味も少しずつ移行しつつあったからだ。

 特許に絡む裁判がいくつか係争中であるため、まだ標準化を危ぶむ声もあるが、この4社が合意したのであれば、ほぼ間違いなく標準化されると見ていいだろう。ITU-Tの作業進行の関係上、正式な勧告は'98年9月になるようだが、早ければ、来春には国際標準規格を先取りした製品が発売され、既存の製品からのアップグレードサービスもアナウンスされるだろう。特に、輸入品に関してはかなり早い時期からアップグレードサービスが提供されるのではないかと予想している。

 また、1月末の草案完成を受け、半導体メーカーも56kbpsモデム関連の半導体の最終的な生産に移行する可能性が高い。COMDEX/Fall'97のTelecomレポートでもお伝えしたが、56kbpsモデム関連の半導体は急速にバリエーションが増えており、オーディオやEthernetといった機能を取り込んだ複合チップも数多く登場している。

 56kbpsモデムは1年数カ月にわたる標準化競争でかなりドタバタしたが、果して本当に普及するだろうか。個人的な予想だが、日本市場についてはISDNの伸びが急速であり、ユーザーの注目度も高いため、28.8/33.6kbpsモデムのときのような盛り上がりはないと見ている。特に、アフターマーケット(市販のパッケージ品市場)については、この傾向が顕著に出るのではないだろうか。

 '98年は56kbpsモデムの普及の本番ということになるが、キーワードは『複合化』になるだろう。PC97/98仕様のパソコンが登場したことにより、内蔵モデムはPCIバスに装着しなければならなくなる。3~5本程度しかPCIバスがないマシンに、たかがモデムのためだけに1本占有されるのはあまりにももったいないため、必然的に他の機能と複合化したカードを装着する必要があるからだ。

 同じことはPCカードについても言える。11月もTDKがデジタル携帯電話向けのデータ通信とLANの複合カードを発表しているが、'98年はデジタル携帯電話やPHS(PIAFS)、SCSI、LAN、USB、IEEE1394といった機能を組み合せた製品が登場してくるかもしれない。来年以降も各社の動向に期待したい。

【関連記事】
□アイワ、ISAバス用56kbpsモデムボード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971126/aiwa.htm
□アイワ、x2準拠のPCカードモデムなどモデム2機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971110/aiwa.htm
□TDK、デジタルデータ/FAXとLANの複合カード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971121/tdk.htm

[Text by 法林岳之]


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