後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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Microsoft提訴での司法省の狙いは? ほか


●Microsoft対司法省に対する米新聞の視点

 先週は、Microsoft対米司法省ネタでニュースサイトが覆いつくされた。量で言うなら、集めたニュースの5分の1程度がこの関連。これまで、これだけ話題を集めることができたのはサプライズの連続だった米Apple Computer社だけだった。Microsoft対司法省がいかに注目されているかがわかる。すでに概要は伝えているし、コンピュータ系の米媒体の視点はすでにいたるところで翻訳がWebにアップされているので、今回は、米国の新聞系媒体の反応を紹介しよう。

 面白かったのは、The Wall Street Journalなど一般紙や経済紙の捉え方。「WSJ: Is Antitrust Relevant In This Digital Age?」(The Wall Street Journal,10/22,有料サイト、http://www.wsj.com/から検索)は、このMicrosoftのケースは、ソフトとサイバースペースの支配が重要となる産業分野で、反トラスト法が受ける初めての大きな試験になると指摘。それは、前世紀の鉄道王たちを封じたのと同じくらい重要なイベントで、米国の連邦政府がこの件に勝てば、情報化時代の競争に新しいルールをうち立てることができるだろうと言っている。しかし、Microsoftに対するこの挑戦は両刃の剣で、もし政府が勝つことができなければ、Microsoftはますますアグレッシブになるだろうとも予測している。こうした見方は、他紙でも共通している。たとえば、「At Justice, a Sense of Urgency About Web Domination」(Washington Post,10/22)では、この件は、政府がハイテク産業で支配的な企業をコントロールしようとする試みに対する重大なテストになると観測。ほんとうの狙いはWindows 98で、これはその前哨戦だと言っている。また、「Microsoft case called pivotal for Justice's Klein」(San Jose Mercury News,10/24)では、司法省が勝てば、電気通信などの分野での競争や合併にも力を及ぼしやすくなると付け加えている。

 つまり、これまで連邦政府は、ソフトウェアやコミュニケーションの業界では、伝統的な業界とあまりに形態が異なるために、反トラスト法を当てはめるための線引きができずに、手をこまねいていた。そのため、たとえばMicrosoftに対しても2年前も結局、あいまいな合意判決で済ませてしまい、その結果、司法省の能力にも疑問をつけられてしまった。そこで、一気に挽回するために、今回はチャレンジに出ており、これで地歩を固めてWindows 98や他のハイテク産業にも広げようとしている、そのように見ている記事が結構目立った。

 ただし、「Software and Antitrust Law Can Make for an Uneasy Mix」(The Wall Street Journal,10/22,有料サイト、http://www.wsj.com/から検索)では、この件は、伝統的な反トラスト事件とは異なり、ソフトウェアでは何がバンドルに当たるかを判断するのが難しいので、司法省は裁判である程度の困難に直面するだろうと指摘している。つまり、前回のコラムで伝えたとおり、WebブラウザがOSの拡張か、それとも別製品かというのが争点になるというわけだ。


●決着が着くのは数ヶ月後?

 さて、いつもは饒舌なMicrosoftの競争相手たちも、今回は、連邦政府が反トラスト法の網を広げることを警戒してか、トーンがやや落ちている。「Merits of Microsoft case assessed」(NEWS.COM,10/21)の中では、Netscapeの幹部が、これはひとつの製品が他の製品とインテグレートされるかされないかという点が問題ではなく、Microsoftがビジネスで違法なことをしているかどうかが問題だとクギを刺している。

 また、問題は、この件がいつごろまでに決着が着くかだが、これはまだ見当がつかない。「Legal Experts Weigh In On Microsoft Vs. DOJ」(COMPUTER RESELLER NEWS,10/20)は、法廷はどれぐらいの期間を調査にかけるかなど、あらゆることを決定できるので、法廷のさじ加減ひとつで期間が決まると専門家が指摘。数ヶ月かかるのではないかという予測を載せている。ただし、記事のなかには短期で決着が着くと見ているものもあった。いずれにせよ、交渉で和解に落ち着くというのは、司法省の意気込みから見て、あまりなさそうだ。


●Hydraのベータ版は来月登場か

 司法省との対決以外のMicrosoft関連ネタと言えば、Hydraの最新情報。「Microsoft Hydra Beta Due In Early November」(InformationWeek,10/20)によると、MicrosoftはHydraのベータ版を来月の早期に出すらしい。Microsoftも、最初はCOMDEXにベータ版を出すつもりだったが、その場合、COMDEXの大騒ぎでHydraの話題が埋もれてしまうことを恐れ、予定を2週間繰り上げたのだそうだ。ようは、それだけHydraとWindows-based Terminalを急いでいて、また目立たせたいと考えているということらしい。この記事によると、COMDEXではNetwork Computing DevicesやWyse Technologiesといったターミナルメーカーが、Windows Terminalを展示する予定だという。ただし、Windows Terminalベンダーも、まだMicrosoftがコミュニケーションプロトコルのスペックを確定するのを待っている状態だとか。とすると、かなりどたばたの状態ということになる。MicrosoftがこれだけWindows Terminalを急いでいるのは、業務端末市場での対NCになるモノが欲しいからではないだろうか。なにしろ、NetPCはNC対抗という位置づけからずれて、将来はWindows PCすべてに行き渡らせる「Zero Administration initiative for Windows (ZAW)」の象徴へといつの間にかかわってしまった。となると、NCが浸透しつつある業務端末向けにMicrosoftが用意できるタマはWindows Terminalということになる。

 ちなみに、Windows Terminalでは大手メーカーの中から米Hewlett Packerd社も乗ると思われている。「HP Cuts Notebook Prices, Creates Windows Terminal Group」(InformationWeek,10/24)によると、HPは、早くもWindows Terminalを売るグループを社内に編成したという。しかし、HPのほかは端末メーカーばかり。ほとんどのPCメーカーは、この戦略に乗る気はなさそうだ。


●予告されていたDECとIntelの電撃和解

 さて、今週のビッグネタになると思われるのは、すでにPC Watchのニュースで伝えているIntelとDECの電撃和解。じつは、これには前兆があった。直前にアップされた「Intel, DEC to settle?」(NEWS.COM,10/27)ではズバリ和解発表の日時まで予告していたし、先週の「Intel, Digital Court Hearing Postponed」(COMPUTER RESELLER NEWS,10/23)でも、裁判所で23日に予定されていた公聴会が延期になったことから、和解が近いという観測を伝えている。いちおう、DECの面目も立てて、Alphaの開発はDECが継続することになっているが、製造設備はIntelに渡り、IntelはDECと10年のクロスライセンスを結ぶことで、Merced開発で、DECの特許に悩まされる心配からも解放された。DECは、売りたいものはうまく売れたということだろう。

 さて、そのDECだが「Digital Will Run NT And OpenVMS Concurrently」(InformationWeek,10/24)によると、来月変なデモをするらしい。なんとAlphaベースのシステムでWindows NTとOpenVMSを同時並行で走らせるという。しかし、この時点でAlphaベースのシステムを購入する新規客がどれだけいるかは、ちょっと疑問かも。


●x86市場はどうなる?

 この間伝えた、米AMD社や米Cyrix社による、MMX拡張に関して、MPU業界の権威、Michael Slater氏がMicroprocessor Report誌のコラムで細かく分析している。「x86 Architecture Fragmenting」(Microprocessor Report,10/27)がそれで、Direct3Dのライティングとジオメトリで対応してもらうという戦略の弱点に触れている。そもそも、現状ではDirect3Dのライティングとジオメトリを使うゲームはなく、また、Direct3Dのジオメトリ機能を使うことは遅くなる可能性があるため、ゲームベンダーは乗り気ではないと指摘。そのため、AMDとCyrixは、ゲーム開発者に直接働きかけて、自社のMMXコードに合わせて書いてもらわないとならないだろうと言っている。そうなるとAMDとCyrixは当然、IntelのMMX2に対して不利になるわけで、先行きが不鮮明になってくる。


●ジョブズ氏が"正式"CEOになる?

 最後は、米Apple Computer社ネタ。「Jobs may decide on CEO post」(NEWS.COM,10/27)は、ハワイでの休暇から帰って来たスティーブ・ジョブズ"暫定"CEOが、今日、いよいよ自分の肩書きから「暫定」を外すと伝えている。ともかく、この会社は月に1回はオモシロネタを提供してくれるつもりらしい。

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('97/10/28)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp