しかし、なぜDVD-ROMを使う必要があるのか。その必要性を疑う向きも多い。そこで、ボクなりに考えてみたカーナビに必要な基本性能を、簡単に列記してみることにする。
1.地図として通用すること
2.電子地図として使いやすいこと
3.自車位置精度が高いこと
4.渋滞情報を素早く確認できること
この4つを突き詰めていくと、2の性能がDVD-ROMを採用することで向上することが分かる。
DVD-ROMの大容量は、全国主要都市の詳細地図を含んだ全国地図を1枚のディスクに収めることができるからだ。CD-ROMのままでは1枚に収まりきらず、10枚近い数のディスクで全国の詳細地図をカバーしなければならない。そのためにCDチェンジャーと組み合わせた機種も存在するが、限界はスグそこにある。
また、カーナビのCD-ROMドライブは、せいぜい2倍速程度の速度しか動いていないという。これはコストと振動対策の両面の都合らしい。これがDVD-ROMドライブなら、標準速でも8倍速CD-ROMドライブ相当の速度になるというから、操作レスポンスは大きく向上するはずだ。結果として使いやすくもなる。
とはいえ、「DVDだからこそできた……」なんていう、広告のコピーのような違いはない。本質的に電子地図を発展させた機械であることは間違いないし、機能だけならばCD-ROMドライブの機種でも、DVD-ROMドライブ搭載機と同等のものを実現できるはず。
もちろん、PCのソフトウェアがCD-ROMドライブの普及によって、どんどんリッチなデータを詰め込んで進化できたように、カーナビの場合もいろいろなデータを詰め込むことで、新しい機能を実現できる可能性は高い。しかし、DVDがカーナビの本質を変えてしまうわけではないのだ。
実はパイオニア以外にも、松下もDVDナビを発売しているが、こちらはCD-ROMナビとの機能差がほとんど無い。これは基本的にソフトウェアに大きな変更が行われていないからだ。松下はナビ後発メーカーで、プロセッサ周りが比較的新しい設計になっていたため、変える必要もなかった。
ところがパイオニアは事情が違った。同社は自社のカーナビを「カーコンピュータ」と銘打つだけあって、どちらかというと汎用コンピュータに近いアーキテクチャを持っている。起動時にソフトウェアをRAMにローディングして起動するのだ(他社製品の多くはフラッシュメモリにファームウェアを蓄える)。コストの関係から、フラッシュメモリよりも通常のDRAMの方が多く搭載できるので、将来的にソフトウェアのアップグレードで機能アップできる可能性が高い。
実際、パイオニアのCD-ROMカーナビは、ずっと互換性を確保しながら機能アップしてきた。数年前に購入した機種でも、最新版の機能をほとんど利用できるようになっている。これは初期機種のユーザーにはありがたいことだ。しかし、それが諸刃の剣となることもある。
互換性を確保するために、他社のような大幅な機能アップが難しくなってきたのだ。最初の機種が登場して6年を超える。速度や機能のアップで何とかしのいではいても、売り上げはここ数年、下降線をたどっていたようである。
そこでパイオニアは、メディアがDVDになるのを機会に過去と絶縁した。それが今回のDVDナビというわけだ。そのおかげで、これまでできなかったことを全部詰め込んでやろうという気概に満ちた製品が生まれた。
製品全体の完成度という意味では、CD-ROMナビとの連続性が強く熟成を進めた松下の機種に劣ると思うが、パイオニアのDVDナビは実に購買意欲を誘う製品に仕上がっていると思う。
ただひとつ言えるのは、カーナビは衝動買いするには少々高すぎる買い物ということだ。D909の場合、渋滞情報を受信するビーコンユニットや、専用の8インチワイド液晶モニターなどを加えると、余裕で40万円を超す値段になってしまう。自分の気持ちを納得させるためにも、(既婚者ならば)カミさんに貯金を引き出させるためにも、実用的であるという思いこみができなくては踏み切れない。
しかし心配することはない。DVDかどうかは別として、カーナビは猛烈に進化している。たとえば自車の位置や方向を指し示す精度などは、1世代ごとに驚くほど向上している。
D909にはD-GPSという、衛星測位システムの誤差を補正する機能が組み込まれている。この機能を使うと最大100メートル前後の誤差があるGPSシステムを、5メートル前後の誤差にまで精度を向上させることができるという、非常に期待を持たせる機能だ。
ところが実際に走行してみると、この違いがあまりわからない。複雑な交差点などで進んでいる道を間違える確率などは、若干少なくなるように思うが、あまり大きな差としては感じないのだ。これはD-GPSが役立たずなのではなく、D909のジャイロセンサーや自車位置の計算が非常に高性能だからだろう。
現在のカーナビは、GPSは補助的に使い、ほとんどはジャイロセンサー(独楽を回転させて、自車向きの変化などを読みとる装置)とマップマッチング(道のないところには車が移動できないことを利用して、多少のズレならば道に沿わせて表示する機能)、車速センサー(車の速度に合わせて出力されるパルス信号)などの情報から、計算で自車位置を求める。
この自車位置の計算は、どんどん精度が向上してきており、D909の場合は車の上下方向も読みとる3Dジャイロセンサーを組み込むことで、精度を向上させているとのことだ。さらに、道路に設定されているビーコン(渋滞情報を送信する装置)の位置情報を読みとり、自車位置補正をする機能なども持っているため、D-GPSを使わなくても十分な精度が出るわけだ。
実はD909には、D-GPS情報を受信するためのFM多重チューナが1系統しか用意されていない。このチューナはFM-VICS(FM多重放送を利用した渋滞情報)と兼用になっているため、どちらか片方しか利用できない。悩むところだが、ボクはD-GPSではなくFM-VICSを利用するように設定している。それでも世田谷や練馬の、すさまじい細道で位置ズレを起こさない。
自車位置精度の話が長くなったが、精度が向上することによって、他の機能が活きてくるのだ。
たとえばルート案内だが、精度が低いと実際には通り過ぎてしまった交差点を曲がれ、などと指示してくるから、使いものにならないと感じる場面もある。そうなると「渋滞情報を考慮したルート案内」などと言われても、そんなものどうせ使いものにならない、なんてことになってしまう。また、詳細図を地図代わりに使おうと思っても、自車位置があてにならないと自分がどこにいるのかわからなくなる場合もある。
そういう意味で、D909は十分に合格点、というよりもこれまで見たどんなカーナビよりも実用性が高いと思う。もちろん、案内するルートが納得できないとか、一方通行を逆送指示する場合があるとか、中央分離帯が目の前にあるのに右折を指示するとか、バカヤローな部分もあるにはあるが、これは地図情報がこなれるにしたがって解決されるだろう(と信じたい)。
果たして40万円を回収できるかどうかは疑問だが、自分の腹をくくるには十分な性能を持っていると思う。これは同時期に発表された、あるいは今後発売される新型ナビでも同じだろう。
柔軟性に富み通気性のいいメッシュ状の座面素材や、さまざまな状態に調整できる機能性、そして独創的なデザインなど、実に購買意欲をそそる製品。しかも、定価で138,000円と、20万円以上するものが多いイスとしては比較的安い(米国では700ドルぐらいというから、日本での価格設定はちょっと高いと思うが)。
日本では小田急百貨店に置いてあるほか、イトーキがオンラインで販売している。デスクワークの多い人にオススメしたい。
[Text by 本田雅一]