AppleにジョブズCEOは誕生するか?
●AppleがCEOをバージョンアップ
Appleは、OSをバージョンアップするついでにCEOもバージョンアップすることにしたらしい。現行のCEOバージョン4はバグがあって、17ヶ月間デバッグして来たが、フィックスできなかったからだ……と皮肉たっぷりに伝えるのは「Apple Upgrades from CEO v. 4.0」(TechWire,7/9)。4年間に3回目のCEO交代では、皮肉られるのも仕方がないだろう。
さて、どうやら、米Apple Computer社は、毎月なにかひとつサプライズを提供して、業界関係者を楽しませるつもりのようだ。サービス精神旺盛なのはいいけれど、次世代OS「Rhapsody」の方は大丈夫? と人ごとながら心配になってしまう。そこで、今回は、急転直下のアメリオ、Apple会長兼CEO退陣の背景を、各ニュースサイトの報道から探ってみたい。
突然のアメリオ辞任だったが、業界筋はそれほど意外とは受け止めていないらしい。というのは、Apple建て直しの救世主のはずだったアメリオ氏の結果がさんざんだったからだ。「Amelio, Hancock out of Apple」(CNET NEWS.COM,7/9)によれば、Appleは7/16に4～6月までの四半期の業績を発表する予定だが、またまた赤字が予測されるという。赤字幅の予測金額は6,800万ドルというものから多いものでは1億2,100万ドルまでばらついているそうだが、赤字になること自体は確実らしい。9月には黒字にする計画だったのだから、これはかなり苦しい数字だ。「Apple's `Savior' Forced Out Amelio couldn't stop the losses」(San Francisco Chronicle,7/10)によると、過去18ヶ月間の累積赤字は16億ドルになるという。しかも、売り上げは鈍りマーケットシェアは5%を割り込み、アメリオ氏が引き継いだときに28.38ドルだった株価は13.69ドルにまで半減したという。という状況で、業界ではアメリオが失敗したと受け止められ始めていたらしい。
●自発的な辞任か、それとも辞任を迫られたのか?
では、何が悪かったのか。辞任したこともあって、各ニュースにコメントしている関係者からは、アメリオ氏批判が一気に吹き出している。「Amelio, Hancock out of Apple」(CNET NEWS.COM,7/9)では、マネジメントにビジョンがなく、頻繁に組織再編をしたことなどがやり玉に挙げられている。とくに、ビジョンがないことはアメリオ氏にもっとも指摘されるポイントで、「Apple's `Savior' Forced Out Amelio couldn't stop the losses」(San Francisco Chronicle,7/10)は、アメリオのプランは「ストラテジ・デ・ジュール(今日の戦略)」、つまり毎日戦略が変わり、しかも社内にも社外にも熱狂を作り出すことができなかったというアナリストの分析を紹介している。
今後は、Appleは代わりのCEOを探し、その間、アメリオ氏は1従業員として引継までとどまるという。では、この辞任はアメリオ氏が自発的に申し出たものだったのだろうか、それとも経営陣に迫られたものだったのだろうか。「Apple Execs Explain; Apple Watchers React」(TechWire,7/9)によると、アメリオ氏は彼の辞任を決定した経営陣のディスカッションに加わったという。しかし、「Apple's Amelio Is Ousted, Throwing Firm Into Turmoil」(The Wall Street Journal,7/10、http://www.wsj.com/から検索、有料)は、Appleのエグゼクティブのコメントとして、アメリオの辞任は経営陣からのプレッシャーによるものだと伝えている。「Apple's Amelio, Hancock Call It Quits」(TechWire,7/10)は、アナリストの分析として、Appleが後継者が決まっていないのにアメリオ氏をやめさせたことを指摘している。かなりバタバタとコトが運ばれた雰囲気がある。
●ジョブズCEOの可能性は?
さて、今回、クローズアップされてきたのはApple創業者のひとりスティーブ・ジョブズ氏の存在だ。Appleは、CEO不在の間、ジョブズ氏のアドバイザーとしての役割が拡大し、CEO選定にも協力することを明らかにしている(ただし、経営のボードメンバーではない)。問題は、ジョブズ氏自身がCEOになる可能性だが、これについてはちょっと微妙な態度を取っている。「Apple to look outside company for Amelio replacement」(ZDNN,7/9)によると、会見に臨んだ財務担当のフレッド・アンダーソン副社長は、ジョブズ氏がCEO候補かどうかという質問に直接答えず、「ジョブズ氏はPixarのCEOで非常に快適(comfortable)だと思う」と答えたという。基本的には、外の人材をCEOとして探すそうだ。しかし、このアンダーソン氏の言い方は非常に微妙だ。もし、ジョブズ氏がPixarよりAppleのCEOの方が快適(comfortable)だと強力に働きかけたらどうなるのだろう。そもそも、この状況下で、AppleのCEOを受け継ぐ人材がおいそれと見つかるとは思えない。
今回のアメリオ氏退陣劇で、ジョブズ氏がどういう役割を果たしたかはまだ明らかになっていない。しかし、「Apple's Amelio Is Ousted, Throwing Firm Into Turmoil」(The Wall Street Journal,7/10、http://www.wsj.com/から検索、有料)によると、ジョブズ氏が友人や経営陣との会話では、アメリオを批判していたという。このあたりの事情に詳しいのは、San Jose Mercury Newsの記事「Office gossip points at Jobs as mastermind of a coup」だ。この記事によると、ジョブズ氏がアメリオ氏を追い落としたという直接の証拠はないが、ジョブズ氏がApple内部で影響力を強めていたのは確かだという。旧NeXTスタッフがAppleの要職を握り、ジョブズ氏自身もよくApple社内をぶらついて、いろいろなオフィスに顔を出していたそうだ。彼の助言が重みを増して来た証拠はいくつもあるという。たとえば、5月のカンファレンスで、ジョブズ氏はAppleがNewtonを引き離すべきだと発言したが、そのすぐ後に、AppleはNewtonの分社を発表しているという。
また、ジョブズ氏がAppleに野心を持っていることを示唆する事件もあった。それは、米Oracle社の会長兼CEOのラリー・エリソン氏がApple買収計画を明らかにしたときだ。「Office gossip points at Jobs as mastermind of a coup」は、ジョブズ氏が関与を否定したにも関わらず、多くの人がこの裏にジョブズ氏がいたと疑ったとしている。
だが、ジョブズ氏も、どれだけAppleの未来に賭けているかわからない。先月、Apple株150万株がまとめて売りに出された。これは、ジョブズ氏がNeXT売却でAppleから得た株とほぼ同額であるため、ジョブズ氏が疑われた。この件に関しては、ジョブズ氏もAppleも否定も肯定もしなかったという。もしかすると、ジョブズ氏も見限っている可能性もある?
●エリソン氏が救世主?
Appleの今後に対するリアクションは様々だ。たとえば、あるソフトメーカーは、これはAppleにとって悪いニュースじゃない、むしろチャンスだ。 「Amelio's departure is an opportunity」(CNET NEWS.COM,7/9)と言っている。誰が王かどうかは関係がない、問題はRhapsodyが出るかどうかだけだという。かと思うと、今こそ救世主が必要という意見もある。それも、ジョブズ氏の旧友であるエリソン氏が救世主になるかも知れないというアナリストの意見もある。「Has Jobs seized the day?」(CNET NEWS.COM,7/9)。もちろん、Appleはもうダメで、身売りを考えないとならないという、「Apple's Amelio Is Ousted, Throwing Firm Into Turmoil」(The Wall Street Journal,7/10、http://www.wsj.com/から検索、有料)のような見方も多い。全体としては悲観論の方が大勢を占めているが、皮肉なことに、どん底の株価はそれほど変動はなさそうだ。
ところで、Appleを去るアメリオ氏だが、あまり気の毒がる必要はなさそうだ。「Amelio's golden handshake」(CNET NEWS.COM,7/9)によると、アメリオ氏は、99万ドルの年俸に加え、多大なボーナスとストックオプションも受け取っている。9月に最終的にAppleを去る時までには、推定350万ドルを手にしていると、この記事では推測している。
やっぱりCEOという商売は一回やったら病みつきかな?
□参考記事
【7/10】米Apple ComputerのCEOアメリオ氏辞任
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970710/apple.htm
（'97/7/10）
[Reported by 後藤 弘茂]