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一ヶ谷兼乃の |
■これまでのPDA遍歴
筆者は物覚えがいまいち優れないので、最近はPDAを良く持ち歩いている。既に製品名などは忘れてしまったが、社会人になってからは、シャープの電子手帳、SONYのパームトップコンピュータから始まって、HP200LX、Palm、シャープ ZAURUS、Windows CE搭載ハンドヘルドPC、PocketPCといろいろな製品を購入し、使ってきている。
とりあえず珍しいモノ好きなのと、実際に触ってみないとおさまりのつかない性格のため、気になったらとりあえず買ってきて、しばらく使ってみることが多い。もちろん、システム手帳といったものも試してみたが、漢字が苦手な上に字が汚いので、手帳を開くたびに自己嫌悪に陥ってしまい、すぐに使わなくなってしまった。
これまで使ってきたPDAを振り返ると、実用になるなぁと感じはじめたのは、今で言うPalm OSを搭載した製品だった。使い始めた頃は「pilot」という製品名で、日本語版などは存在しなかった。当時は、英語版のpilotを日本語化して使う方法が公開され、それで日本語化して利用していた。実用になると感じた理由は、洗練された入力方法「Graffiti」とアプリケーションの反応の良さ、電池の持ちの良さなどであった。その後、日本語版が発売され、カラー液晶搭載機種が登場する毎に、新機種に乗り換えて使ってきた。
このPalm系のPDAは、機種こそ買い換えてきとはいえ、飽きっぽい筆者にしては珍しく、3年近くも利用してきた。Palmに不満を感じ始めたのは、モバイル環境でインターネットを利用するには、いささか面倒であったということである。当時、Palmに携帯電話やPHSを接続して、モバイル環境で通信できないこともなかったが、無理やり通信機能を付加したような環境であり、あまり使い勝手が良くなかったのだ。
そこでモバイルコンピューティングの部分を補うために使ったのがWindows CEマシンである。戸外でメールを読んだり、書いたりするために、キーボードがついているハンドヘルドPCを使うようになった。
筆者が以前使用していたJornada 690 |
最初に使ったのは、ヒューレットパッカードのJornada 690。ハンドヘルドPCとしては、そんなに古い機種ではない。筆者は、知り合いのライター関係の人たちの中では、比較的Windows CEマシンデビューが遅い人間であった。
この連載の読者であれば、ご存知のとおり、Jornada 690の後は、NTTドコモのシグマリオンを使っていた。どちらも当時としては、非常に優秀なマシンで、P-inやP-in Comp@ctを挿して戸外でメールチェックしたり、ホームページを見たりするには、ほとんど不満のないモバイルインターネット端末だった。ただ、このハンドヘルドPCを使っているときにも、スケジュールや住所録管理はPalm系のPDAを利用していたため、ハンドヘルドPCとPalm系PDAの2台を持ち歩くことになり、何とか1台にまとめられないかと常日頃考えていた。
2台の機器を持ち歩くという悩みを解決してくれそうな予感を感じさせてくれたのが、シャープ ZAURUS MI-E1であった。CFタイプのPHSを挿すスロットを装備して、スケジューラやブラウザ、メーラーが標準搭載され、非常に小さいながらもフルキーボードが装備されており、筆者のニーズを全て引き受けてくれそうな気がしたのだ。もちろん、発売日に購入して、しばらく使ってみた。しかし、筆者の希望はかなえられなかった。原因は、筆者がZAURUSの操作感というか、ZAURUS文化に馴染めなかったからだ。要するに、使っていてしっくりこなかったというのが大きな理由なのだ。
■ココ最近はPocketPCがお気に入り
いろいろな機種を使ってくると、自分がPDAに求めている条件といったものがはっきりしてくる。まずはCFサイズのPHSカードを使ってインターネットに接続できること、次にWindowsのようなGUIであることだ。その他にも、手のひらサイズであること、PC上のMicrosoft Outlookとデータの同期ができること、辞書やゲームなど、アプリケーションが後で追加できること、などが自分の条件になっていることがはっきりしてきた。
そこで次のターゲットとなったのがWindows CE搭載のPocketPCだ。既にZAURUSなどを買ったときには現在と同じ世代のPocketPCは存在していたし、触ってもいたのだが、今ひとつ操作したときの反応速度にもたつきを感じたり、すでにハンドヘルドPCとはいえWindows CEマシンを持っていたため、新鮮味が薄れていた。
そんな理由で、常に持ち歩きたいと思うほど興味をもつことはできなかったのだが、知り合いから魅力的なPocketPCを見せられてしまったのだ。それがCompaqのiPAQだった。
初めて見たのは英語版であったが、画像の表示やアプリケーションの操作感、ジャケット形式の拡張スロットなど、筆者のニーズを満たしてくれる以上のパフォーマンスを持っている製品であることを知ったのである。
その後、日本語版の発売とともに入手し、つい最近まで常時持ち歩いていた。
■気になるPDAの登場
カシオ l'agenda BE-500 |
先日、雑誌の評価記事の仕事で、Windows CEベースのPDA「カシオ l'agenda BE-500」に触れる機会があった。発売前の評価機ではあったものの、その完成度は高く、非常に魅力的なものであった。まずは、l'agenda(ラジェンダ)について簡単に説明してみよう。
カシオ計算機「l'agenda」は、Windows CE 3.0がベースになったPDAであるものの、いわゆるPocketPCではない。住所録やスケジュールといったアプリケーションは、カシオ独自のアプリケーションで、通常のPocketPCに内蔵されているアプリケーションとはまったく違うものだ。
CPUはMIPS系のVR4131(166MHz動作)で、メモリとしてROMとRAMがそれぞれ16MB搭載されている。外部機器と接続するためのインターフェイスは本体の上部にCF Type2のスロット、本体底面に独自形状のシリアルポートやヘッドホン用ステレオジャック、ACアダプタ用コネクタが装備されている。本体の大きさは76×121×17.9mm(幅×奥行き×高さ)で、重さは約158gと手の平に十分おさまる手ごろな大きさ、軽さに仕上げられている。画面は、解像度が240×320ドットの3.2インチ透過型STNカラー液晶で、32,786色表示が可能になっている。
l'agendaは、ベースがWindows CEであるものの、PocketPC用のAPIに完全対応していないため、現在流通しているPocketPC用アプリケーションが必ず動作する保証はない。また、「LoMS(Loading Memory System for PDA)」というシステムが組み込まれ、起動したアプリケーションは、高速なSDRAMにロードされるため、2回目以降の起動が高速化されるという。バッテリはリチウムイオンで、一回の充電で約6時間の連続稼動が可能になっている。
筆者が魅力を感じたのが、まずその重量である。とにかく非常に軽いのだ。筆者が使っているiPAQもPocketPCとしてはそれほど重い機種ではないものの、CFスロットを装備したジャケット込みとなると、200gを越している。ちょっとずっしりした感じのほうが、高級感があるという意見も理解できるが、この軽さはl'agendaの魅力の1つだろう。
次に魅力と感じたのが、各アプリケーションだ。PDAとして必要十分なアプリケーションが搭載されている。アプリケーションの一覧だけをみると、それほど目新しさを感じることもないが、実際に使ってみると、いろいろなところに工夫が感じられる。
例えば、スケジューラでは、時刻を設定しない終日のスケジュールや日をまたぐスケジュールも管理できる。それにスケジューラや住所録、メモ、ToDo、メーラといったものが、互いに連携が取れるところなども、筆者が触れてきた他のPDAには見られなかったところだ。
また、うれしいのがブラウザとメーラの標準装備だ。メーラはマルチアカウントに対応しいている。このブラウザとメーラもカシオ独自のもので、Outlook ExpressやInternet Explorerとは違うものだ。
筆者は、スケジュールや住所録などはパソコン上のOutlook 2002で管理している。それをActiveSyncでiPAQと同期して持ち歩いていた。しかし、l'agendaもOutlookとデータの同期ができるようになっており、この点もl'agendaに惹かれたところだ。
電源を入れた直後の状態。アプリケーションの一覧が表示される。 画面の下には各アプリを直接起動するアイコンが並ぶ | フリップカバーをつけた状態の本体。コバルトカラーにはフリップカバーもブルー系のものが付属する | 本体裏には「Windows Powered」の文字 |
P-in m@sterを挿した上体。出っ張りはそれほど目立たない | 本体底面部のコネクタ類。シリアルポートはカシオのPocketPCと同じ仕様になっている |
■l'agenda購入
とりあえず、l'agendaに興味を持ってしまったので、製品版を予約した。予約したのは、限定色のコバルトだが、実際のところ、受け取りにいって、他の色が気に入ったら、その色に交換してもらうつもりだった。
発売日は10月20日だったが、ほとんどのショップでは10月19日から店頭に並んでいた。筆者のところにも、予約しておいたショップから10月19日のお昼に連絡が入り、夕方には受け取りにいった。
店頭に並んだ実物を比較してみたが、結局、予約したコバルトをそのまま購入した。予約時には知らなかったが、購入時に「l'agenda」と型押しが入ったブルーの手帳型皮ケースと、同じくl'agendaと入ったネックストラップがオマケで付いてきた。
オマケの手帳型皮ケース。渋いブルーで本体色とのマッチングが良い | オマケのケースに本体を入れた状態。P-in m@sterを挿したままでもうまく収まっている |
l'agendaを受け取り自宅に帰ると、まずは充電を行なった。ACアダプタを直接l'agenda本体に接続してしばらく待つ。その間に、普通であればマニュアルに一通り目を通すのだが、l'agendaには製本されたマニュアルが付属せず、付属のCD-ROMにPDF形式のファイルとして収められている。もちろん筆者はPDF形式のファイルを表示する環境を持っているが、パソコンを持っていないユーザーはチョット困るのではないだろうか。
まずは、l'agendaとOutlook 2002のデータとを同期するため、ユーティリティの「PC接続」をインストールした。このPC接続ツールは、プーマテック「Intellisync」のサブセット版で、Intellisyncで用意されていたいくつかの設定が省略されているものだ。この省略された部分は、なぜかヘルプには記述されているので、サブセット版であると判断したわけだ。また、画面やヘルプには「Intellisync for CASSIOPEIA」という文字列も見ることができる。
付属のクレイドルとパソコンをUSBケーブルで接続し、次にACアダプタとクレイドルを接続した。筆者のパソコンにはiPAQ用にUSB接続のクレイドルとActiveSyncがインストールされているが、誤動作しないように、ActiveSyncの設定ではUSBで同期しないように設定した。
その後、l'agendaをクレイドルに置き、しばらくするとPCとの同期が行なわれた。とはいっても、まだOutlook 2002との同期は設定していないので、何もデータのやり取りは行なわれない。そこで、l'agendaに内蔵されているスケジュールや住所録と、Outlook 2002のデータとを同期する設定を行なった。残念ながら、Outlook 2002のメモは同期をとる事ができないようだ。
同期後のl'agendaを見てみると、今日以降のスケジュールしかデータがない。どうも、過去のスケジュールは同期をとらないようなので、PCのシステム日付を2001年の1月まで戻し、再度PC接続で同期をとると、過去のデータもきちんとl'agendaに転送された。PC接続ではOutlookとのデータ同期の他に、l'agendaのデータをPC側でバックアップしたり、バックアップデータをl'agendaにリストアする機能もある。
オリジナルのブラウザを搭載するということで、一般的なホームページがきちんと表示できるのかが心配になるが、試作機、製品版ともに、今のところ問題を感じたことはない。筆者がモバイル環境でよくチェックするのはオークションやWebメールのサイトなのだが、問題なく表示される。それ以外のページも見ているが、いまのところ不具合を感じたことはない。
マルチアカウントに対応しているメーラは、お試し程度で利用している。筆者の場合、目的によって複数のメールアドレスを使い分けているので、アルチアカウント対応はうれしいのだが、1日に大量のメールが送られてくるため、l'agendaの16MBのメモリでは心許なく、まだ本格的に利用していない。
筆者は、l'agendaに「P-in m@ster」を挿入し、モバイル環境で利用しているが、特に問題なく利用できている。l'agendaに「P-in m@ster」を挿した状態でも、アンテナ部分がそれほど飛び出さないので、見た目も違和感がない。通信時以外は、l'agendaのCFスロットにはCFメモリを入れ、ストレージとして使っているので、必要なときに入れ替えて使っているという感じだ。
先にも書いたとおり、l'agendaは、Windows CEベースだが、一般的に流通しているPokcetPC用のソフトがそのまま使えるわけではない。しかし、開発環境は類似しているため、PokcetPC用のソフトを開発しているベンダーであれば、移植はそれほど難しくないという。
すでに、フリーソフトウェアや市販ソフトも提供されている。例えば、GoodCrew Leche( http://www.goodcrew.ne.jp/leche/cassiopeia/index.html )などで今後発売するアプリケーションが確認可能だ。本体のメモリが少ないので、いろいろなソフトを使いたいのであればCFメモリにインストールするといいだろう。インストーラが用意されていないものでも、CFに[Program Files]というフォルダを作成して、その中にプログラムを入れておけば、自動的にメニュー画面に表示される仕組みになっている。
l'agendaはCFタイプのLANカードも利用することができる。Windows CEマシンと同様に、標準でNE2000互換のドライバがインストール済みなので、NE2000互換LANカードであれば、スロットに挿してネットワーク関係の設定を行なうだけで利用可能だ。有線LAN経由でインターネットにアクセスするといったことも簡単に実現できるのだ。
CFにプログラムをインストールすると、メニューのカードタプの中に一覧として表示される | 標準でインストールされているアプリケーション。モバイル対応PDAとして必要十分なものが用意されている | スケジュールの入力画面。ソフトキーボードには、頻繁に入力する[http://]や[www.]、[.co.jp]といった予約語が1クリックで入力できるようになっている |
スケジューラから簡単に内容を他のアプリケーションに送ることができる | スケジューラで入力した内容をメーラに送ったところ。会議などのスケジュールを出席者にメールするといったことも簡単にできる | 入力したスケジュールが表示されている画面。週単位でも表示することができる |
この原稿を執筆している時点では、まだ購入してから1週間程度しか使っていないが、なかなか楽しいPDAだ。
まず軽いというのはとても魅力的だ。ネックストラップがオマケで付いてきたが、さすがに200gを超えるようなPDAだとネックストラップに吊り下げるだけでも無理があるのではないだろうか。まあ、これは極端な話だとしても、実際のところ、上着の胸ポケットに入れてもそれほど負担にならない。
標準でフリップカバーがあるので、わざわざケースに入れて持ち歩かなくても液晶画面をキズ付ける心配がない。iPAQにはフリップカバーがないため、CF対応のジャケット、ジャケットが収められるケースまで持ち歩くことになり、せっかくスマートな本体のメリットがあまり生かせなかった。
内蔵のアプリケーションも筆者にとっては的を射た仕様であり、いい感じで使えている。各アプリケーションが互いに連携がとれるところも、これまで触れてきたPDAにない機能で気に入っている。
動作速度に関しても、データを追加したり、メニューから切り替えるときに、瞬時に反応するとまではいかないが、快適だと感じられる範囲内だ。また、CFにアプリケーションをインストールしたときも、他のWindows CEマシンのように起動などが遅く感じることもない。これはLoMSの効果なのかもしれないが、本体内蔵メモリが16MBと、多いとはいえないサイズなので、使っていてありがたいものだ。
カシオ計算機からはl'agenda用のソフトを開発するためのSDKが、無料で公開される予定になっているため、今後l'agenda対応の市販ソフトやオンラインソフトがPocketPC並に充実することが予想される。個人的には、動画や音声を扱うものよりも、ちょっとした和英/英和辞書、電車の乗り換え案内などのソフトの登場を期待している。
総合的に判断するとl'agendaはコストパフォーマンスが高く、非常によくできたPDAだと判断している。ただ、Windowsマシンを持ってないユーザーが、単にl'agendaを単体のPDAとして利用したいという場合には、マニュアルがPDF形式ファイルになっているため、使い方がわからないといった問題が発生する。
個人的には、USBケーブルやクレイドルはオプションでもいいので、マニュアルに関しては製本したものが付属しているほうがいいのではないかと思う。逆に、Windowsマシンを持っているユーザーにとっては、親和性も高く、l'agendaのもつ機能や性能を十分生かすことができるだろう。
手ごろな価格でモバイル環境でも利用可能なPDAを探しているのであれば、十分検討に値する製品だ。もちろん、今後筆者もメインのPDAとして、このl'agendaを使っていくつもりである。
あまり使い込んでいるとはいえないが、唯一メーラに不満点がある。筆者のように届くメールが多いユーザーにとって、内蔵メモリの残量が気になるため、メールの受信がCFに直接保存できるようになるか、ヘッダーだけ先に受信して、選択したメールの本文を後でダウンロードできるような機能が欲しい。
実売価格は3万5千円弱で、カラー液晶を持つPalm OS搭載機、シャープザウルス、PocketPCよりも安い設定がなされている。旧機種で安売りされているPocketPCと比べると若干高いかもしれないが、通信を行なう場合にもカードタイプのPHSか、携帯電話やPHSと接続するためのケーブルなどを用意すればいいだけで、簡単にモバイルで利用できるという点でも価格的な優位性は十分あるのではないだろうか。
今後、この独自の仕様を持つl'agendaがどこまでユーザーに認知され、受け入れられていくかは、カシオ計算機のマーケット戦略にかかっている。ハードウェア自体は十分魅力的なものに仕上がっているため、カシオ計算機にはがんばってもらいたい。
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【11月5日】【NEWPRO】カシオ計算機 カシオペア l'agenda BE-500
組み込み用Windows CEを搭載した普及型PDA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011105/newpro.htm
(2001年11月6日)
[Text by 一ヶ谷兼乃]