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史上最強のx86プロセッサとなるか?
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先月の9日(現地時間)に発表されたばかりのAthlon XPプロセッサに、早くも最上位モデルとなる1900+(実クロック1.6GHz)が追加された。クロックとしては70MHzあがっただけだが、すでに1800+の時でもPentium 4 2GHzに迫る性能をたたき出していただけに、性能面でのPentium 4との比較は要注目といえるだろう。今回もベンチマークなどの結果を基に、Athlon XP 1900+(1.6GHz)の性能をチェックしていきたい。
●基本的には従来版の高クロック版となるAthlon XP 1900+
Athlon XP 1900+のコア部分 |
今回リリースされたAthlon XP 1900+は、10月9日にリリースされたAthlon XP 1800+(1.53GHz)の上位モデルで、クロックが0.07GHz(つまり70MHz)あがっただけの高クロックバージョンだと考えてよい。
CPUコアは同じPalominoコアだし、駆動電圧も1.75Vと従来モデルと変更はない。このほかのスペック、たとえばL1キャッシュ容量(128KB)、L2キャッシュ容量(256KB)、エクスクルーシブキャッシュ、SSE互換の3DNow! Professionalに対応などといったスペックは従来のAthlon XPと同様であり、今回も特に変化はない。
外見も従来モデルと同じOPGAで、プロセッサの表記は「AX1900……」となっており、基本的には従来モデルと大きな違いはない。こうしたことからも、今回の1900+が従来モデルの高クロックバージョンであると考えていいだろう。
Athlon XP 1900+の性能を計測するマザーボードとして採用したのはEPoXのEP-8KHA+で、チップセットにはVIA TechnologiesのApollo KT266Aを搭載しているマザーボードだ。
通常であれば、AMD純正のAMD-760を搭載したマザーボードにおいてのベンチマークをしているのだが、AMD-760を搭載したGIGA-BYTEのGA-7DXRを用いてテストをしたところ、なぜかベンチマークが完走しないなどの症状が発生したため、今回は急遽EP-8KHA+に変更した。単に高クロック版であるため、特にBIOSのアップデートなども必要なさそうだが、原因は不明だ(CPUクーラーやメモリなどは全く同じものを使ったのに実に不思議な症状だった)。EP-8KHA+の方は何の問題もなく動作したので、今回はこちらを利用することにした。
環境は、本連載のCPUレビューに常用しているNVIDIA GeForce3を搭載したPROLINKのMVGA-NVG20A、ハードディスクにはIBMのDTLA-307030、OSはWindows 2000+ServicePack2+DirectX 8というものだ。テストに利用したベンチマークは、BAPCOのSYSmark2001、e-Testing LabsのBusiness Winstone 2001とContents Creation Winstone 2001、MadOnion.comの3DMark2001、そしてid SoftwareのQuake III Arenaのフレームレート計測テスト(demo1利用)だ。結果はグラフの通り。
※ベンチマーク結果は一部を抜粋して掲載してあります。すべてのベンチマーク結果を見るにはこちらをクリックしてください
【動作環境】
CPU | Pentium 4 | Athlon XP 1900+ | Athlon XP(1800+~1500+) | Athlon |
---|---|---|---|---|
マザーボード | Intel D850MD | EPoX EP-8KHA+ | GIGA-BYTE GA-7DX | ASUSTeK A7M266 |
チップセット | Intel850 | Apollo KT266 | AMD-760 | AMD-760 |
メモリ | PC800 | PC2100(CL=2) | PC2100(CL=2) | PC2100(CL=2.5) |
メモリ容量 | 256MB | |||
ビデオチップ | GeForce3(64MB、DDR SDRAM) | |||
ハードディスク | IBM DTLA-307030(30GB) | |||
OS | Windows 2000(英語版)+ServicePack2 |
【SYSmark2001】
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Pentium 4 2GHz Pentium 4 1.9GHz Athlon XP 1900+(1.6GHz) Athlon XP 1800+(1.53GHz) |
【3DMark2001】
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Pentium 4 2GHz Pentium 4 1.9GHz Athlon XP 1900+(1.6GHz) Athlon XP 1800+(1.53GHz) |
【Quake III Arena】
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Pentium 4 2GHz Pentium 4 1.9GHz Athlon XP 1900+(1.6GHz) Athlon XP 1800+(1.53GHz) |
Athlon XP 1900+と比較されるであろう、Pentium 4 1.9GHzとの比較では、SYSmark2001のInternet Contents Creationをのぞき、Athlon XP 1900+が上回った。
グラフ1 | グラフ2 |
グラフ1はPentium 4 1.9GHzとAthlon XP 1900+の性能を相対的に示したもので、左側にグラフがのびている場合にはPentium 4の性能がよいことを意味し、右側に伸びていっている場合にはAthlon XPのほうが性能がよいことを意味している。
特にInternet Contents Creation以外の3つのアプリケーションベンチマーク(ビジネスアプリケーション系のSYSmark2001のOffice ProductivityとBusiness Winstone 2001、コンテンツ作成系のContents Creation Winstone 2001)はいずれもAthlon XP 1900+がPentium 4 1.9GHzを大きく上回っている。また、3D系の2つのベンチマーク(3DMark2001、Quake III Arena)でもAthlon XP 1900+が上回っている。
さらに、Athlon XP 1900+とPentium 4 2GHzの比較でも、Athlon XPはほぼ互角、場合によっては上回っているといってよいスコアをたたき出している。グラフ2が相対比較のグラフだが、Quake III Arenaでは若干Pentium 4が上回っているものの、差は1%以下であり、ほとんど互角といってよい。そうした意味では、SYSmark2001のInternet Contents Creation以外はAthlon XP 1900+が上回っているということが言えるだろう。
●非公式パッチを当てることでSYSmark2001のスコアが大幅に向上
それでは、Athlon XPはどうしてSYSmark2001のInternet Contents Creationのスコアだけがこんなに悪いのだろうか? それは、Internet Contents Creationに含まれるWindows Media Encoder 7に原因がある。
Windows Media Encoder 7はストリーミングSIMD拡張命令(SSE)に対応しており、SSEを利用した場合大きな性能向上を実現できる。これまで、Pentium 4とAthlonを比較すると、AthlonはSSEに対応していなかったため、これがCPUの性能の違いだと言ってよかった(なぜなら、命令セットもCPUの性能を大きく左右する部分であるからだ)。
だが、Athlon XPは3DNow! ProfessionalというSSE互換の命令セットを搭載していて、SSE命令を実行できるはずだ。それなのに、Pentium 4とは大きな差がついたままだ。なぜなのだろうか? それは、実はWindows Media Encoder 7はAthlon XPがSSE命令を実行できることを認識できないからだ。Athlon XPでもSSE命令を実行できるようにするにはソフトウェア側にAthlon XPがSSEに対応していると認識させるような改良を施す必要があるのだ。
AMDはメディア向けにだけ評価用としてWindows Media Encoder 7に当てるパッチを配布しており、これを当てることでWindows Media Encoder 7はAthlon XPでSSE命令を実行することができるようになる。
グラフ3 |
実際、それをあてて実行した結果がグラフ3の結果だ(ただし、このパッチはWindows XPでないと動作しなかったので、Windows XPで実行している)。みてわかるように、パッチを当てる前は大きく負けていたInternet Contents Creationは、逆にAthlon XP 1900+がPentium 4 2GHzをも上回っている。つまり、アプリケーション側がAthlon XPのSSE互換機能を利用できるようになれば、このようにベンチマーク結果が逆転してしまうのだ。
ただ、1つだけ言っておきたいのは、現在のCPUの性能は、ソフトウェアベンダがどれだけ拡張命令セットに対応しているかも含まれるといってよい。Athlon XPがリリースされて1ヶ月がたつが、そうしたパッチがリリースされた話はまだ聞いていないことを考えると、このパッチを当てた結果はあくまで参考結果であって、リアルな結果とはいえないだろう。
ソフトウェアベンダにAthlon XPのSSEについていろいろ話を聞いてみると、「3DNow!になら対応していますよ」というこちらの意図しない答えが返ってくるなど、残念ながら3DNow! Professionalに対する認知度は高いとはいえない(そもそもSSEを利用しているアプリケーションベンダがこの問題を認識しているかも怪しいところだ)。
IntelはSSEやSSE2に対応したアプリケーションを作ってもらうために、アプリケーションベンダーに対してそれなりの投資をしていると聞く。AMDがそれと同じ戦略を採るのは難しいだろうが、ソフトウェアベンダやプログラマに対してもっと積極的に働きかけていくなどの努力が必要であるといえるだろう。これはAMDがHammerで導入するx86-64でも同じような問題に突き当たる訳で、AMDの将来を左右する大きな問題であるといえ、今後に期待したいところだ。
●Pentium 4 1.9GHz相当の価格でPentium 4 2GHz並の性能を実現したAthlon XP 1900+
SSE互換の問題という点は依然として残されているが、Athlon XP 1900+それ自体はx86アーキテクチャのCPUとして最も高いと言ってよい性能を持っており、史上最強のx86プロセッサの称号を与えてもよいほど高い処理能力を誇っているといっていいだろう。
また、本日発表されたAthlon XP 1900+の千個ロット時の価格は269ドルで、Pentium 4 1.8GHzの千個ロット時の価格である273ドルと非常にコンペティブな価格となっている。すでに述べたように、Athlon XP 1900+はPentium 4 2GHzと同等ないしは条件さえ整えば上回る性能を持っており、Intelで言えば2GHzの性能が1.9GHzの値段で手に入る訳だから、お買い得度は非常に高いといえる。
Athlon XPに関しては、モデルナンバーについての議論が先行してしまい、本来の論点であるはずの性能の話がどこかへ消えてなくなってしまっている感がある。しかし、本来Athlon XPの魅力は、そうしたモデルナンバーの議論ではなく、こうした高い処理能力にあるはずだ。まもなく秋葉原などでもAthlon XP 1900+の販売が開始されるとみられるが、実パフォーマンスと性能の両方を手に入れたいユーザーであれば、非常に有望な選択肢であると言っていいだろう。
□関連記事
【11月5日】AMD、Athlon XP 1900+を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011105/amd.htm
(2001年11月5日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]