第118回:World PC Expoで注目したこの製品



 先週、海外での利用に適した従量制課金のISPを紹介したが、読者から接続方法についてメールをいただいた。プリペイド形式の国際電話サービスを利用して、日本のアクセスポイントにダイヤルアップする方法だ。具体的に紹介していただいたのは「OneSuite.com( http://www.onesuite.com )」で、米国から日本へ1分あたり6.5セントで通話できるというもの。利用間隔が半年以上空くとアカウントがキャンセルされるなどの問題もあるようだが、たまに米国からアクセスするだけであれば、日本のアクセスポイントがあれば大丈夫という考え方もアリだろう。

 以前、海外出張者向けにノートPCのセットアップをしているシステム管理者の読者から、出張先ごとにいちいちダイヤルアップアイコンを作成するのが面倒といった相談を受けたことがある。出張先ごとにダイヤル先を設定し、クリックだけでインターネットへの接続が可能にして渡さないと、トラブルが頻発するのだそうだ。そのような環境の設定も、国際電話を通じた日本への接続ができるようにしておけば、どんな場所からでも同じ設定で接続可能になる。

 ただし、どの程度の速度で繋がるかなどは、まだ自分では試していないためわからない。今回は紹介だけにとどめておくが、次回、米国への出張の機会があれば、試してみることにしたい。

 さて、話は変わって先週開催された「World PC Expo 2001」で拾った話題を取り上げてみたい。


●使い勝手が大きく向上しそうな次期LOOX

富士通 LOOX S 富士通 LOOX T

 World PC Expo 2001での話題と言ってはみたものの、諸々の事情で実は会場を巡る時間がほとんど取れなかったため、あらかじめ目を付けていたスポットを駆け足で回るだけになってしまった(それでも、目的のほとんどを達成できた……つまり、比較的会場が空いていたのは、Windows XP発売と年末商戦を控えたこの時期にしては寂しい限りではある)。中でも派手さはないものの、富士通が参考出展した新LOOXシリーズは、従来機と比較して使い勝手を改善しているように思う。

 従来のLOOXシリーズは、Crusoe専用に設計されたボディや低く抑えられた価格、そしてH"inの採用など、WindowsベースのPCをモバイル専用に作るとこうなる、といった富士通の意気を感じる製品だった。モバイルPCを作るにあたって、各メーカーは様々な利用形態を想定しながら、様々なアプローチで製品開発を行なっているわけだが、その1つの方向性として初代LOOXはおもしろい製品だったと思う。

 しかし、自分で購入して使うか?と言えば、個人的には(あくまで僕個人の利用形態ではだが)そこまで踏み込めなかった部分がある。それは極端に横長な液晶パネルや、LOOX Tシリーズにおけるシステム構成の柔軟性の低さ(内蔵DVDドライブが固定で取り外せない)などが、自分には受け入れにくかったためだ。

 対して新LOOXは、Sシリーズが900gを切り、液晶パネルも縦方向に伸びて1,024×600ピクセルになるという。僅か88ピクセルだけ縦に伸びた格好だが、Webの閲覧やテキスト入力などでは、これだけでもかなり使いやすさが向上するはずだ。また、標準バッテリで900gを切るということは、言い換えると大容量バッテリ(6セル)搭載時も1.1kg以下に収まることを意味している。これはなかなか魅力的だ。

 また従来はサイズや重量などの面で中途半端なイメージを持っていたLOOX Tシリーズも、液晶パネルの縦方向が伸びて1,280×768ピクセル、しかもDVDドライブを取り外して軽量化したり、セカンドバッテリを内蔵させてバッテリ駆動時間を延長したりと、利用形態に応じて柔軟にシステムの構成を変更できるようになった。重量はウェイトセーバーベゼル取付時で1.3kgを切るとか。

 絶対的な重さから言えば、軽量クラスとは言えないLOOX Tシリーズだが、液晶の解像度やシステム構成の柔軟性を考慮すれば、かなり魅力的な製品だと思う。縦方向のピクセル数がXGAと同じ768ピクセルになることによる使い勝手の向上は特に評価したい。

 なお、いずれも従来のH"inをAir H"に対応させたAir H"inを内蔵したモデルを用意するという。定額接続もしくは準定額接続が可能になったことで、通信デバイス内蔵のメリットがより高くなるだろう。個人的には複数台のノートPCを利用しているため、PCカードあるいはCFカードの通信デバイスの方が便利だが、1台のPCで外出先での様々な作業をこなそうというなら便利な機能だ。料金的にも、音声とデータ、両方のH"を併用するユーザー向けには割引サービスが開始されており、以前よりもデータ通信専用に通信デバイスを所有する場合のコスト負担は少なくなってきている。


●新Crusoeをアピールするディッツェル氏とNEC初のPocketPC

 また、新LOOXには0.13μm版のCrusoe「TM5800」が搭載される模様だ。クロック周波数は明らかではないが、Transmetaは年内に出荷するTM5800の動作クロック周波数が600MHzから800MHzになると話している。できれば両モデルとも800MHz版が搭載されることを期待したい。

 実は別途、Transmeta CTO(最高技術責任者)のデビッド・ディッツェル氏に話を聞く機会があったが、同氏によるとTM5800は製造プロセス変更によるダイ面積縮小と共に、製造委託先をIBMから台湾TSMCに変更したこともあり、半分のコストに抑えることができたという。Crusoeのチップ価格がTM5800でさらに下がるならば、価格的にも期待できるモノになると考えられる。さらに、消費電力もCMSの改良も併せ、半分近くになっているそうだ。

 消費電力が半分というのは少々大げさだが、Crusoeはプロセッサコアのトランジスタ数がPentium IIIの1/4と少ないため、製造プロセスの微細化で問題となるリーク電流の増加による影響が少ない。このため、アイドル時の消費電力が低く、0.13μm化による消費電力低減効果も大きいようだ(ただし、システム全体に占めるプロセッサの電力が下がってきた現在、バッテリ駆動時間に対する影響はそれほど大きくないだろう)。

 昨年のCrusoeブームをもう一度、とはなかなか行かないだろうが、年末にかけては他社の製品動向も含め、低消費電力プロセッサ搭載モバイルPCの第2世代に注目していきたい。第1世代でなにを学習し、第2世代でどのような改良を加えて来るのか。

 World PC Expoへの展示という意味では、LOOX以外に注目する製品を見つけられなかった。しかし、何も新Crusoe搭載機だけがモバイルPCではない。Intelの超低電圧版モバイルPentium III-M搭載モデルも含め、Windows XP搭載モデルがどのようなパッケージングで登場するのか楽しみに待ちたいと思う。

NECのPocketPC
 図らずもWorld PC Expoレポートのつもりが、LOOXレポートになってしまったが、もう1つだけ触れておきたいのが、NECが参考出展した同社初のPocketPC搭載PDAについてだ。65,000色表示可能な液晶パネルやCF TYPE2スロットとSDスロットの両方を標準で備えている点は、日本市場の事情をよく把握したNECならではと言える。

 ジョグダイヤルや全体のフォルム、色遣いを見ると、どうしてもソニーのCLIEを思い起こしてしまうが、そうした外見的なことよりも、NECがPocketPCで何をしたいのかが興味深い。展示は本当に展示だけで、それを戦略的にどのようにNECの事業に組み込んでいくのか。それとも、単純にモバイルソリューションの1つとして、PocketPCに取り組んでいるだけなのか。製品の出来はいいだけに、どのような意図での参入なのかを含め、製品の登場までに取材を重ねていこうと考えている。


□間連記事
【9月19日】WOLRD PC EXPOレポート
ソニーVAIO QRと富士通LOOXの次期モデルが参考出品
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010919/wpe03.htm
【9月20日】WOLRD PC EXPO 2001会場レポート
ソニーやTDKがIEEE 802.11a対応機器を参考出品( 「NEC、PocketPCを参考出品」の項を参照 )
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010920/wpe05.htm

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[Text by 本田雅一]


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