第116回:ニーズに合わせたカーナビ選び



 本日は朝の9時半から広尾駅から徒歩10分の会場で製品の説明会。いつもなら、なんのことはない。少し早めに出かければいいだけの話だが、台風が都心を直撃するとなれば話は別だ。地上を走る電車のダイヤが乱れるだけでなく地下鉄の運行も危うい(実際に止まった区間もある)。

 その上、雨と風が同時に吹き荒れる中、いつものナイロン製バッグにPCを入れて持ち歩くのも(間違いなくずぶ濡れになるだけに)心配だ。購入したばかりのカーナビのテストもやらなくちゃいけない。などという言いわけを自宅で喋りつつ(つまり「歩きなさい」という家族の視線を感じつつ)、本日は車で取材に出かけた。台風の影響で渋滞も少ない。おかげでゆっくりと、ナビの使い勝手を試すことができた。


●車のナビは車用が一番

 4年前、PC Watchの中で発売されたばかりだった初のDVDナビ、パイオニアのカロッツェリアD909のレポート「なぜDVDカーナビなのか ~パイオニアD909~」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970812/relay51.htm )を書いたことがある。そのとき、もっとも多く質問を受けたのは「PCじゃ代用できないの?」というものだった。PCは大容量のハードディスクを持ち、プロセッサも遙かに高速で、かつ画面解像度も高いため高精細な地図表示を行なえる。

 さらに4年経過した今、その差はさらに広がっている。加えて、PDAに追加するGPSユニットも登場しており、モバイルコンピューティングというカテゴリから言えば、選択肢の幅はさらに広がっていると言えるだろう。GPSの測位精度も大きく向上し、5~10メートル程度の誤差で現在位置を調べることが可能だというから、PC Watchという媒体の性格上、PCやPDAにGPSアンテナを取り付けただけでもイイじゃないかと思う人がいても不思議ではない。

 しかし、車でのナビゲーションが主な目的なら、別途カーナビを購入するのが正解だ。DVDドライブ搭載のカーナビも、今ではかなり安価に購入できるようになった。安売りの店ならば、カーTVとのセットで10万円台前半で購入できる。旧型機ならば、10万円前後でも探せるかもしれない。そして、それだけの投資を行なうだけの差が、PDAはもとよりカーナビ化したPCとの間にあると思う。単にハードウェアが高性能ならイイというわけではないからだ。代表的な例を挙げてみよう。

・ノートPCの液晶は輝度が暗いものが多く、昼間は見にくくなることが多い
・ディスプレイを見易い位置に取り付けるのが困難
・車中でPCを操作するのはやりにくい
・ノートPCは音声操作など運転しながらの操作ができない。あるいは可能なソフトでもノイズがある中での認識率が低い
・PCにはジャイロセンサーでの自立航法装置がないため自車位置を間違えることが多く、トンネル内で位置を見失う
・PCにはVICS(渋滞情報システム)情報を受信する装置がない。

 などが、個人的にもっとも気になる点だ。特に液晶輝度が足りない点はいかんともし難い。渋滞情報はインターネット経由でも受信できるが、ネットに接続しっぱなしにしなければならないし、通信コストの面でも見合わないと思う。

 PCカーナビはGPSアンテナを付けていろいろ遊びたい(出先で撮影した写真をその場で取り込んで地図とリンクさせたアルバムを作ったり、移動経路をPCで保存しておきたいなど)という目的には向いているとは思うが、純粋に車のナビゲーションとしては劣る部分が多い。PCをナビにも、と考えている人は、その辺りを割り切る必要があるだろう。


●基本性能は十分、付加価値をどのように評価するか

CV-7700WD

 以前レビューしたD909は初のDVDナビではあったが、むしろ測位精度の高さが評価のポイントであると書いた。道を走りながら、現在、どの位置を走っているのかを考えながら走ることは大きなストレスになる上、集中力を乱すため安全性の面でも問題がある。ルート案内を正確に受けるためにも、測位精度はカーナビを選ぶ上で最も重要視しなければならないポイントだと思う。

 この分野では一般にパイオニアのカーエレクトロニクスブランド「カロッツェリア」が高い評価を受けている。僕が使っていた4年前の機種でさえ、網の目のように細街路が入り組んだ世田谷区の住宅地でも自車位置を見失わず走れたのだからたいしたものだ。旧型機種だったため画面描画が遅く、一瞬だけ自車位置がずれる場合もあったが、処理が軽くなればすぐに正しい場所に復帰する。

 カーナビメーカーとしては、ほかにデンソー、アルパイン、松下通信工業、クラリオン、ソニー、ケンウッドなどがあるが、どれもパイオニアからはかなり遅れているというイメージがある。このうち、実際に使って運転をしたことがあるのは、アルパインと松下通信工業の製品だが、いずれも測位精度に若干の不満が残っていたというのが、昨年までの個人的な評価である。松下通信工業は昨年、表示画素を4倍に増やしたワイドVGAを採用したDV3300という機種がヒット商品となったが、残念ながら測位精度ではあまり褒められたモノではなかった。

 その上、今年はケータイWatchでスタパ斉藤氏がレポートした記憶媒体としてHDDを利用したカーナビがパイオニアから発売された。ちょうどカーナビの買い換えを検討していた僕としては、最初からパイオニアで決まり、という気分だったのだが、実際に購入したのは松下通信工業が今年の春に発売したDV7700。さて、なぜこんなことになったのか?

 理由はいくつかあるが、重要視する性能のうちの1つ、測位精度が十分なレベルに達したことを最初に挙げておきたい。厳密に言えば、DV7700の測位精度はパイオニアのHDDナビよりも劣るだろう。

 しかし、ある程度の精度があれば、それ以上はこだわりの世界とも言える。“最低でもこの程度は欲しい”という要求を突き抜けたところにパイオニアのカーナビは達しているが、DV7700も実用的なレベルには達していることが友人所有の車で確かめられた。DV7700の測位精度は、以前に使っていたD909と同等か、それを少し下回る程度だと思う。昨年のDV3300と比較すると、測位精度は走りはじめてすぐに感じられるほど向上していると思う。そこで、ほかの性能や機能にも目を向けた結果、それまで愛用したパイオニアのナビではなく、新たに松下通信工業のDV7700へと切り替えることにしたわけだ。

 基本性能はどちらを選んでも、おそらく問題ない。ならば、ほかの部分で自分のユーセージモデル、すなわち利用形態に合うか否かだ。


●自分のニーズに合わせた機種選びを

 とはいえ、誰にでもDV7700をお勧めしよう、という気は全くない。なぜなら、僕がこの機種を選んだ理由は、あくまで僕のニーズに合っていたからであって、誰もが同じニーズを共有しているわけではないからだ。測位精度、地図の見やすさ、ルート案内の親切さなど、カーナビとしての基本部分に大きな差を感じないのであれば、残りの部分は自分でしか判断できず、自分のニーズを分析するほかない。たとえば、予算が限られているなら、基本部分以外はあまり重視しない、どれでもいい、というのも、1つの選択肢だ。

 今回、僕が求めた付加価値は、都内でもっともよく利用する100メートルスケール(自車マークを囲む円の半径が100メートルの表示モード)での地図の詳しさ、渋滞時の抜け道の探しやすさ、ルート案内のわかりやすさの3点だ。このうち、ルート案内は基本的に他機種でも十分なのだが、松下通信工業のカーナビは3つ先の交差点案内を行なってくれる点が優れていると思う。

 またワイドVGA(800×480ピクセル)の表示を行なえる(他社は400×240ピクセル)ため、100メートルスケールで市街地マップが表示できるのも、僕のニーズにはぴったりだ。他社の場合、多くは50メートル以下のスケールでなければ市街地マップは表示されない(アルパインは100メートル市街地マップを表示可能だが、解像度が低いため視認性が低いように思う)。加えて描画チップが高速なのか、解像度が上がっているにも関わらず、描画性能はトップクラスだ。

 実はDV7700では、200メートルスケールになると細街路を意図的に消すようになっているため、他社と比べるとかなり簡素な表示になってしまう(100メートルスケールが市街地マップなだけに落差が大きい)。これは不要と思われる道路を消すことで見やすさを狙ったものと思われるが、解像度からすれば200メートルスケールで他社の100メートルスケール並の詳細な表示も可能なハズだ。オプションで表示方法を切り替えられればベストなのだが、残念なことにそうはなっていない。200メートルスケールを常用する人は、購入にあたってデモ機での確認をオススメしたい。

 最後の渋滞時の抜け道の探しやすさ。実は購入に至った一番のポイントはここだ。アルパインも、細街路に進入すると抜け道を探索する機能をアピールしているが、DV7700は異なるアプローチで渋滞への対応を行なっている。昭文社のベストセラー道路地図「マップル渋滞・ぬけみち」のうち、「関東レジャー編」、「名古屋・中部編」、「京阪神編」、「首都圏詳細編」の4つが収録されているという。最後の首都圏詳細編はカタログに記載されていないが、関東レジャー編に掲載されていない道も収録されていたため、松下通信工業に問い合わせてみたところ、すべてではないが首都圏詳細編の多くは収録済みとのことだ。

 DV7700で目的地へのルートを探索すると、通常はこの抜け道を考慮しないルートが引かれる。抜け道はあくまで渋滞を抜けるためのものであり、使わないで済むなら使わない方が楽な上、早く目的地に到着できる可能性が高いからだ。しかし、渋滞の回避をナビに指示すると、抜け道を利用したルートを探してくれる。

 が、この機能も、実はあまり利用していない。本当に便利だと感じたのは、抜け道を地図上で点滅表示してくれる機能である。そして、迂回路を通りたいと“自分で”思った時、ルートの案内を無視して、抜け道と表示されている道へとズンズンと入っていってしまうのだ。そうすれば、すぐにリルートがかかり、抜け道を通ったルートを引き直してくれる。


●ルート探索の品質に期待しすぎてはならない

 なんだ、自分で地図を見ながら考えるのなら、カーナビなんていらない。そう思う読者もいるかもしれない。しかし、測位精度さえ十分に高いカーナビならば、紙の地図よりずっと便利な事の方が多い。住所や施設、お店などの検索はもちろん、ルート探索も割り切り方次第で非常に便利な機能である。

 カーナビを初めて購入した人に話を聞くと「なんて酷い回り道を案内するんだ」あるいは「コレだったら自分で最短距離を調べておいた方がずっといい」なんて答えが返ってくることがある。実際、自分が走り慣れた場所でルートの検索を行なわせてみると、ちょっと納得できないような道を指示されることも少なくない。

 この点に関しては、どのカーナビを使っても同じだ。ある機種では満足できるルートを探索できたとしても、別の機種ではとんでもない道を指示する。しかし、そのとんでもない指示をする機種も別の場所では妥当なルートを引き、逆にもう1機種では不満足な結果しか出ない。カー用品店でしばらく使ってみれば、どれも似たり寄ったりであることがわかるはずだ。

 そう。どうあがいても、その地域を走り慣れた人が考えるルートにはかなわない。現在のところ、それがカーナビの限界と言えるだろう。しかし、ドライバのアシスタントとして、ドライビングを補助させるものだという割り切りがあれば、どの機種でも満足できる結果が得られるだろう。ましてや、一度も行ったことがない場所で、目的地まで案内してもらえることの便利さを味わうと、たとえそれが少々遠回りなルートだったとしても、手放せなくなること請け合いだ。

 実は今回のDV7700を装着前、2週間ほどをカーナビなしで過ごしたのだが、不便な上にいつもある情報がないため、不安な気持ちでずっとドライブしていた。これはカーナビに慣れると、道を覚えなくなるだけでなく、かつて知っていた道も忘れてしまうからだが、逆に言えばそれだけ多くの情報を伝え、アシストしてもらっていると言い換えることもできる。

 まだまだ高価な買い物だと躊躇している人には、必ずしも最高機種を購入する必要はないと申し上げておきたい。カーナビ各社に話を聞くと、純正やディーラーオプションのカーナビ以外、つまりアフター装着のマーケットでは、DVD採用の低価格品が数多く売れるため、そこでのシェア獲得を狙って力を入れた製品開発を行ない始めているという。パイオニアで言えば楽ナビ、松下通信工業で言えばPナビあたりの中間機種で、十分な性能がある。

 また、カーナビはマージンが大きい商品であるため、定価に近い金額で販売されているカー用品店と、通信販売や秋葉原などの安売り店の値段に大きな開きがある。たとえば、僕が購入したDV7700は、近所のカー用品店では約27万円だったが、秋葉原の安売り店では18万円を切っていた。カーナビ取付は専門業者にも依頼できる上、接続する信号の取り出し情報をインターネットで調べれば自分で行なうのも、そう難しい作業ではない(実際、僕も自分で取り付けた)。

 予算的な問題で悩んでいる人も、取り付けてみれば、価格以上のメリットを感じられるのではないだろうか。すでにカーナビは高額なおもちゃから、実用的な道具へと完全に脱皮していると思う。

□製品情報
http://www.mci.panasonic.co.jp/aced/navi/catalog/index.html

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[Text by 本田雅一]


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