第3次バリューデュアルCPUブームの夢再び?
~Tyanの普及価格帯AMD-760MP搭載マザーボードTiger MP



 数年前、ある日本人ユーザーがCeleronをデュアルで動作させる方法を発見して以来、一時期CeleronをデュアルCPUとして使うことが流行した。第一次バリューデュアルCPUブームの到来である。しかし、改造にはCPUモジュールの基板を改造する必要があり、やや一般の自作PCユーザーには敷居が高く、積極的なマニアの間で密かに流行っていたというレベルだった。

 その後、Soltek ComputerがPGA370(いわゆるSocket 370)ベースでPPGAパッケージのCeleronを、SC242(いわゆるSlot1)で利用できるようにした変換ソケットに、デュアルCeleronとして利用できるジャンパを取り付けたことで、安価なCeleronで手軽にデュアルCPUのPCを作れるようにあったとあって、大ブレイクしたのだった。これが第2次バリューデュアルCPUブームだ。

 その後Celeronからデュアル機能が完全に取り除かれるなど、ブームは沈静化し、デュアルCPUを求めるユーザーは安価になったPentium IIIを利用するなど割とフツーの使い方になり、“あの頃の興奮よ。カムバック??”な状態になりつつあった。そんな、停滞していたバリューデュアルCPU熱は先週末あたりから盛り上がりつつあるようだ。導火線に火をつけたマザーボードこそが、今回取り上げるTyan ComputerのAMD-760MP搭載マザーボードであるTiger MPだ。果たして第3次バリューデュアルCPUブーム到来!となるのかどうか、検証してみよう。


●Thunder K7に比べて6万円も安価なTiger MP

 今回秋葉原で販売が開始されたTiger MPは、Tyan Computerが販売しているAMD-760MP搭載マザーボードであるThunder K7の廉価版に位置づけられる製品で、Thunder K7とは以下の点で違いがある。

(1)ボードサイズが小型化された
(2)電源コネクタが通常のATXとなった
(3)斜めについていたメモリソケットが垂直方向になった
(4)AGP Proスロットが通常のAGPスロットとなった
(5)64bitPCIスロットが1つ減り、32bitPCIスロットが2つ増えた
(6)オンボードNIC×2がなくなった
(7)オンボードビデオコントローラがなくなった
(8)オンボードSCSIコントローラがなくなった

 変更点は、いずれもコストにつながる点ばかりだ。Thunder K7では通常のATXマザーボードの1.5倍近い大きさで、ケースによっては入らないなど、ケースを選ぶだけでなく、基板のサイズが大きくなってしまっていた。また、Thunder K7では、ATXの24ピンコネクタと特殊な8ピンのコネクタが用意されていた。このため、利用するにはこの8ピンコネクタが用意されたThunder K7用の電源と組み合わせる必要があった。

 これらはThunder K7の高コストの要因となっており、Tiger MPではマザーボードの大きさは通常のATXマザーボードの大きさになり、電源も通常のATX20ピンとなっており、既にケースを持っている場合でもTiger MPに交換して利用することが可能であり、低コストでシステムを構築できる。ただ、AthlonやDuronは消費電力が高いので、利用するにはそれなりの電源に交換にしておいたほうがいいだろう。今回筆者は300Wの電源で、ビデオカード、LANカードなどを挿して利用したが、特に問題なく利用することができた。

 また、オンボードのデバイスが省略されているのも1つの特徴となっている。Thunder K7には高価な3ComのLANコントローラ(NIC)が2つ、これまた高価なAdaptecのSCSIコントローラが1つ、オンボードビデオなどが用意されている。

 確かに、サーバーやハイエンドワークステーションとして利用するには、それらのデバイスは必須で、オンボードで搭載されていることに意味があった。しかし、エントリーワークステーションなどではSCSIコントローラは不要だし、LANコントローラも安価なものがあればよく、PCIカードで増設すればよい。そうした意味では、これらを省略すれば、低コストで販売できるようになるのだ。

 以上の低コスト化により、Tiger MPのストリートプライスは4万円を切っており、電源込みで10万円を超えてしまっていたThunder K7に比べて実に6万円も安価になっているのだ。実際、オンボードで搭載されていたデバイスを足せばそのぐらいになるので、妥当な価格であるといえるだろう。


●他ベンダーもAMD-760MPを搭載したマザーボードを展示

 昨日開催されたAMD Developer's Conferenceでは、ASUSTeK COMPUTER、GIGA-BYTE Technology、MSI COMPUTER、AOpen、ABIT COMPUTERなどが展示会場にブースを出しており、AMD向けマザーボードを展示していた。

 その中でも注目を集めていたのが、ASUSTeK COMPUTER(正確には正規代理店のユニティ)のブースで、そこにはAMD-760MPの後継であるAMD-760MPXを搭載したA7M266-Dという製品が展示されていた。AMD-760MPXは、ノースブリッジはAMD-760MPと同じAMD-762を利用しているが、サウスブリッジはAMD-768を採用している。このAMD-768はインターフェイスとしてAMD-766(AMD-760MPのサウス)がサポートしていない66MHzのPCIバスインターフェイスをサポートしており、ノース(AMD-762)-サウス(AMD-768)間は66MHzの64bitPCI、AMD-768から出るセカンダリのPCIバスが33MHzの32bitPCIバスとなる。

 スペックとしては

CPU:Athlon MP(デュアル)
メモリ:184ピンDIMM、4スロット、最大4GB
AGP:AGP Proスロット(4x)
PCIスロット:64bit×2、32bit×3
IDE:2チャネル(Ultra ATA/100)

となっており、Tiger MPと同じようなスペックになっている。

 このほか、MSIは展示は行なわなかったものの、11月に開催されるCOMDEX/Fall頃にはAMD-760MP搭載マザーボードを出荷することを明らかにしているほか、GIGA-BYTE TechnologyもAMD-760MPを搭載した製品を計画していると関係者が明らかにしている。このように、今後AMD-760MP(とAMD-760MPX)を搭載したマザーボードは多数予定されており、それらがリリースされればマザーボード自体の価格がさらに下がる可能性もあり、期待したいところだ。


●Athlon 1.4GHzとの組み合わせで劇的な効果を確認

 既に述べたように、Tiger MPはThunder K7の廉価版で、基本的なパフォーマンスはほぼThunder K7と変化がない。本来のデュアル用CPUであるAthlon MP 1.2GHz、1GHzについては、Thunder K7の回にも検証したので、今回はあえてサポート外ではあるが、ThunderbirdコアのAthlonプロセッサとSpitfireコアのDuronプロセッサでのテストを行なってみることにした。比較対象として、Athlon 1.4GHz、1.33GHz、1.2GHz、1.13GHz、1GHzと、Pentium 4 1.8GHzを用意した。環境は以下の通りだ。

Athlon(デュアル)AthlonPentium 4
マザーボードTyan Tiger MPGIGA-BYTE GA-7DXRIntel D850GB
チップセットAMD-760MPAMD-760Intel850
メモリDDR SDRAM(Registered)DDR SDRAM(Unbuffered) Direct RDRAM
容量256MB
ビデオカードPROLINK MVGA-NVG20A(GeForce3、64MB DDR)
ビデオドライバNVIDIA Detonator3 v12.41
ハードディスクIBM DTLA307030
OSWindows Me+DirectX8.0a

 今回利用したのはBAPCO( http://www.bapco.com/ )のアプリケーションベンチマークSYSmark2001、Intel Pentium 4 Application Launcherの2つだ。

 SYSmark2001は、実在するOffice、Netscape Navigator、Adobe Photoshopなどのコードをスクリプトで実行し、実行時間を計測することでPCの総合的な性能を測るベンチマークだ。

 動画や静止画の編集などといったコンテンツ作成系のアプリケーションの総合数値であるInternet Contents Creationと、オフィスアプリケーションの総合数値であるOffice Productivityの2つのスコアに加え、SYSmark2001 Ratingという総合数値を出力する。

【SYSmark2001】
Overall Rating 183
105
152
147
137
131
120
175
Internet Content Creation 222
110
155
148
136
129
115
198
Office Productivity 151
100
150
146
139
133
125
154
Athlon 1.4GHz(Dual)
Duron 900MHz(Dual)
Athlon 1.4GHz
Athlon 1.33GHz
Athlon 1.2GHz
Athlon 1.13GHz
Athlon 1GHz
Pentium 4 1.8GHz

 マルチプロセッサの処理能力が発揮されるマルチスレッド系の処理を含まないOffice Productivityでは、Athlon 1.4GHzのシングルとAthlon 1.4GHzのデュアルでは変化が見られなかった。しかし、マルチスレッドに対応しているアプリケーションを含んでいるIntenet Contents Creationでは、Athlon 1.4GHzは155とPentium 4 1.8GHzの198に劣っていたが、デュアルAthlon 1.4GHzでは222と大幅に上回っている。

 同じ事は、Intel Pentium 4 Application Launcherでも言える。Intel Pentium 4 Application LauncherはeJay/MP3、PremiereなどSSE/SSE2に対応したアプリケーションでのパフォーマンスを図るベンチマークテストで、やはり実行時間を計測することでスコアを出力するベンチマークだ。

【Pentium 4 Application Launcher】
eJay/MP3 Plus 1.3 235
150
135
131
121
112
101
163
Premiere with Ligos 290
262
104
102
094
093
085
144
Windows Media
Encoder 7.0
172
132
108
105
098
094
085
177
Athlon 1.4GHz(Dual)
Duron 900MHz(Dual)
Athlon 1.4GHz
Athlon 1.33GHz
Athlon 1.2GHz
Athlon 1.13GHz
Athlon 1GHz
Pentium 4 1.8GHz

 これには、eJAY/MP3、Premiere、Windows Media Encoderなどマルチスレッド処理に対応したアプリケーションが含まれている。SSE/SSE2に対応したアプリケーションばかりなので、SSEに対応していないAthlon 1.4GHzはPentium 4 1.8GHzには負けてしまっている。しかし、デュアルにすると、eJAY/MP3、Premiereでは一気にPentium 4を抜きさってしまった。こうしたことから見ても、Tiger MPとAthlon 1.4GHzの組み合わせは非常に高いパフォーマンスを持っていることがわかるだろう。


●値段が下がったRegistered DIMMを利用してバリューデュアルPCが構築可能へ

 このように、Tiger MPとAthlon 1.4GHz(デュアル)の組み合わせは、マルチスレッド処理に対応しているようなコンテンツ作成系のアプリケーションで非常に高い処理能力を発揮することがわかる。Duron 900MHzのデュアルでも、時にはAthlon 1.4GHzを上回ることもあり、特にマルチスレッドに対応したアプリケーションを使う機会が多いユーザーにはメリットがあるだろう。

 しかも、Athlon 1.4GHzを2つ買って、Tiger MPを買ったとしても9万円強で、Pentium 4 1.8GHz+Pentium 4マザーボードという組み合わせで買った場合の8万円強と比べても決して高くないと言える。今回は比較していないがPentium III-S 1.26GHzと比較すれば、CPU2つ分だけで、Athlon 1.4GHz×2+Tiger MPが買えてしまう。さらに、CPUをDuronにすれば、CPU2個とマザーボードで6万円強といったところだ。コストパフォーマンスが高いといっていいだろう。

 さて、Thunder K7とTiger MP(というよりもAMD-760MPの仕様)ではメモリにRegistered PC2100 DDR SDRAMしか利用できない。これまでRegistered PC2100 256MB DDR SDRAMは2万円を軽く超えるなど、非常に高価だった。実際、筆者も6月に256MBのRegistered PC2100を購入したが、その時には2万円台の半ばだった。

 しかし、ここにきてRegistered PC2100の価格は急落しており、256MBが1万円強で購入できるようになっている。現在、Tiger MPが入荷したそばから売れているという状況のようなので、今後は流通量も増え、ますます価格の下落が進むだろう。こうしたことから考えても、今後AthlonやDuronのデュアル環境は、より安価に作れるような可能性が高く、期待できるといってよい。

 以上のように、Tiger MPを利用したAthlon、Duronのデュアル環境は、AMDの正式奨励環境ではないものの、コストパフォーマンスに優れており、自作ユーザーがデュアル環境で遊んでみたいとか、動画やオーディオファイルを高速にエンコードしたいという用途に使いたい場合に強くお薦めしたい環境であり、間違いなく第3次バリューデュアルCPUブーム到来となるだろう。

□関連記事
【6月29日】Athlon MPのパフォーマンスを計測する(デュアル編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010629/hotrev115.htm
【6月20日】Athlon MPのパフォーマンスを計測する(シングル編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010620/hotrev114.htm
□Akiba PC Hotline!関連記事
【6月29日】廉価Dual Athlonマザー「Tiger MP」の発売は21日に延期
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010817/etc.html#tigermp

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(2001年8月24日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]

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