第111回:バッテリ技術、その噂と真実(その3)



 端子素材などの改良により、今後10年以上、電子機器の主要な電源として使われていくと言われるリチウムイオンバッテリだが、何かと取りざたされるのが、その安全性についてだ。

 先日、ソニーが携帯電話のバッテリを回収するというアナウンスを出したのは記憶に新しい。また、その直前にはデルコンピュータが、やはりバッテリパックの製造不良により出火の可能性ありとしてリコールされた。これは何も両社だけの問題ではない。この10年間、何度も繰り返されてきたことだ。

 ではリチウムイオンバッテリは、できれば使いたくない危険なバッテリなのだろうか?


●有機溶剤が他方式との違い

 充電可能なバッテリ、いわゆる二次電池には、鉛蓄電池、ニッカドバッテリ、ニッケル水素バッテリ、リチウムイオンバッテリなど広く使われている。このうち、リチウムイオンバッテリがほかのバッテリと大きく異なるのが電解液の性質だ。

 電解液は金属をイオン化するための液体だが、リチウムイオンバッテリ以外の二次電池は、すべて水溶性の電解液を使っている。ところが、リチウムイオンバッテリだけは、電解液に有機溶剤を使っているのだ。

 水溶性の電解液であれば、熱が加わっても出火することはないが、有機溶剤は可燃性であるため、液漏れした電解液が温度上昇により燃えてしまう。リチウムイオンバッテリが危険と言われる根拠はここにある。

 有機溶剤を難燃性にするための添加剤を混ぜることで、出火しないようにする研究も進められているようだが、添加剤を加えるとバッテリとしての性能が低下するため、バッテリ性能により多くを求められている現状では、商業的に製品化しにくいという問題もあるようだ。

 しかし、液漏れを起こしたからといって、すぐに出火するわけではない。火気があるか、極端な高温にさらされることで出火するわけだ(もちろん、その前に液漏れしないのがベストではある)。


●バッテリセル単体では怖くないが……

 リチウムイオンバッテリは過放電と過充電に対して極端に弱い。特に過充電を行なうと電池が加熱し、130度を超えてくるとバッテリが破裂し、電解液が吐出されてしまう。ここで電解液が吐出するだけであれば、バッテリセルそのものが燃えるわけではない。

 現在のバッテリセルは、内部が高温になって破裂しそうになった際、封入部のガスケットの一部分からガスを逃がすことで、破裂を防ぐようになっているそうだ。メーカーによっては、蓋になっている部分(正極側の端子)が、シャンパンの栓のように飛び出てしまうことがあるようだが、バッテリパック側でそうした事態を想定していれば問題は小さいだろう。

 セルの試験は充電しながら内部のセパレータを破壊して短絡させる(具体的にはバッテリセルの横腹から釘を差し込む)テストや、過充電などのテストで、破裂時の被害が最小になるような工夫を行なっているのが通常であり、少なくともここ数年のバッテリセルであれば、大きな事故には繋がらないという。

 しかし、これはバッテリセル単体の安全性だ。前述したようにリチウムイオンバッテリは過放電と過充電に弱いため、機器に内蔵して自由に交換できないようにしてしまうか、充電制御を行なうマイコンを内蔵させたバッテリパックとして利用しなければならない。そして、ここではバッテリセル単体の安全性はあまりあてにならない。


●バッテリパック単位での品質管理が重要

 たとえばバッテリパックの中で、1つのバッテリセルが破裂したとしよう。バッテリセルは個々に個体差があるため、同じように過充電しながら温度を上げていっても、同じところで破裂するわけではない。しかし、どれか1つが破裂するような条件下で、破裂したバッテリ内部の加熱された電解液が飛び出すと、その熱をきっかけに次々と連鎖反応を起こしていく。破裂が繰り返されることで温度が上がり、電解液が燃えてしまうとバッテリパックが燃えるわけだ。また、破裂が繰り返されることでバッテリパックのケースが破壊され、それが飛散して被害を与えるケースも考えられる。

 流れ出した電解液が充電制御回路に入り込み、基板をショートさせて発熱して燃えたり、計測端子電圧や電流を誤認識し、満充電になっているにも関わらず充電を続けて過充電による破裂に繋がるケースもある。

 たとえばIBMでは、制御基板とセルを収める部屋を分割し、間に仕切り版を入れているという。これは電解液が漏れた時、それが制御基板に入り込んでまうのを防ぐためだ。また、破裂対策のため、バッテリパックには小さな穴を開け、バッテリパック内部のガスが抜けるようになっている(ステッカーの裏側にガス抜き用の穴がある)。

 つまり、バッテリセルがパックになったときに安全性について意識して設計されているかどうかが問題なのだ。このあたり、メーカーの良識を考える上で重要なポイントと言えるだろう。


●バッテリパックを分解することの怖さを知るべき

 へたってしまったバッテリパックのケースを開け、バッテリセルを別の不要なバッテリパックの中身と交換する、といった荒技で新しいバッテリパックを作っている人の話を聞いたことがある。もしかすると、それでもほとんどは動作するのかもしれないが、破裂や出火を発生させるリスクが非常に高い危険な行為だ。

 自作の場合、端子間の接続を半田ごてで行なうことになるだろう。しかし、暖め過ぎてガスケットを痛めて液漏れを発生させたり、バッテリセル内部の電極間を絶縁しているセパレータをダメにしてショートし、充電時に破裂するといったことが考えられる。これは実際にメーカー製バッテリパックでも、リチウムイオンバッテリ初期の頃にあった事例だ。

 単に自分が馬鹿だった、で済めばいいが、それが原因でバッテリが出火し、火事に至る可能性も否定はできない。リチウムイオンバッテリの中身には、出火の可能性がある可燃性の有機溶剤が入っていることを知っていれば、そんなバカバカしいこともしないと思うのだが……。

 逆にメーカー製バッテリパックを、説明書の指示通りに使っているならば、安全性の問題はほぼないと見ていい(バッテリパックそのものの製造トラブルの場合はその限りではないが)。リチウムイオンバッテリは、確かに出火の可能性を持つバッテリだが、正しく扱えば決して爆発などはしない。むしろ長所の方が遙かに大きい。

 リチウムイオンバッテリを生かすも殺すも、危険とするか、安全とするかも、すべてはメーカーとユーザーの意識にかかっている。

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[Text by 本田雅一]


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