後藤弘茂のWeekly海外ニュース

米国の不況がPentium 4の普及を加速
~年末までにパフォーマンスPCの80%をPentium 4に


●年末までに80%がPentium 4に

アナンド・チャンドラシーカ インテル・アーキテクチャ事業本部副社長兼マーケティング統括本部ディレクタ
 IntelがPentium 4の普及を加速している。4月の大幅値下げに続き、Pentium 4の製品ラインナップを一気に倍増させる。また、Pentium 4の生産個数も急激に増やし、Pentium 4への移行のペースを速めるという。

 「日本以外では、デスクトップPC市場のうち、パフォーマンスPCが約70%、バリューPCが約30%の比率になっている。このパフォーマンスセグメントのうち、約80%を12月頃までにPentium 4にするのがIntelのゴールだ」とアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)インテル・アーキテクチャ事業本部副社長兼マーケティング統括本部ディレクタ(Vice President of the Intel Architecture Group and Director of the Intel Architecture Marketing Group)は説明する。

 事実上、年末までにPentium IIIはほぼフェイドアウトしてしまうスケジュールだ。Intelは以前には年末までにPentium 4が50%と公式には表明していたが、それよりもかなりペースが早まっている。また、デスクトップCPU全体で見ても、70%×80%=56%と、過半数がPentium 4コアに移行してしまう計算になる。しかし、急ピッチでPentium 4に移行して、供給不足には陥らないのだろうか? チャンドラシーカ氏は心配ないと言う。

 「それは経済のリセッションのためだ。昨年中盤からPC市場は著しくダウンした。しかし、我々の(製造)キャパシティはすでに決まっている。そのキャパシティの中で、Pentium IIIをX個作るか、Pentium 4をY個作るかという話だ。そして、PC市場が小さくなるなら、我々はダイヤルをPentium 4の方へ回して、Pentium 4をより多く市場に提供し、当社のマージンを引き上げることができる。我々の立場から言えば、Pentium IIIを作るよりもPentium 4を作った方が、より有利だ。それが、今やっていることだ」

 このコメントを補足すると、IntelのFab(工場)の製造キャパシティは、市場のサイズに関わらず決まっている。ところが、同じキャパでも、Pentium 4を作るかPentium IIIを作るかで、製造できるCPUの個数が違ってくる。それは、Pentium 4の方が生産性が低いからだ。Pentium IIIのダイサイズは100平方mm程度なのに、Pentium 4のダイサイズは217平方mmもあるため、1枚のウエーハから採れるPentium IIIの個数(X)の方が、Pentium 4の個数(Y)の2倍以上になる。例えば、1枚のウエーハからPentium IIIなら良品が160個採れても、Pentium 4なら75個しか採れないといった具合になる。

 そこで、0.18μmでも0.13μmでもPentium IIIの採れる個数がPentium 4の約2.3倍だと仮定して計算してみよう。Intelにとってパフォーマンスデスクトップ市場の需要に見合う個数を生産するのに最適なバランスが、チップ個数でPentium 4が50%、Pentium IIIが50%の比率だったとする。この場合、ウエーハではPentium 4に70%、Pentium IIIに30%を割かなければならない。ところが、それよりも市場の需要が20%ダウンしたとする。そうすると、必要なCPUの個数が減るため、IntelはPentium 4を80%、Pentium IIIを20%の比率にできる。これは、ウエーハの枚数でPentium 4に約90%、Pentium IIIに約10%の配分に相当する。

 つまり、景気がよくてPCが売れていてCPUの需要が高ければ、IntelはCPUの総生産個数を高く維持しなければならない。そうすると、Pentium 4の比率を高めにくい。ところが、現在のように景気が悪くCPUの需要が低ければ、IntelはCPUの総生産個数を減らせるので、Pentium 4の比率を高められる。つまり、皮肉なことに、米国経済に急ブレーキがかかったことが、Pentium 4の浸透を早めているというわけだ。そして、IntelがPentium 4を加速しつつあるということは、面白いことに、Intelが米経済の回復は当面ないと見ていることを示している。

●100MHz刻みでクロックを用意

 こうした状況で、IntelはPentium 4のロードマップを切り替えた。新しいクロックの製品を急きょプラスすることにしたのだ。

 Intelは、現在1.3GHz、1.4GHz、1.5GHz、1.7GHzのPentium 4をリリースしている。また、「夏の終わり頃には2GHzを出す」(チャンドラシーカ氏)という。実際、OEMメーカーには、8月後半か9月頭と伝えているという。1.3GHzは早晩消える予定なので、これで第3四半期は1.4/1.5/1.7/2GHzの4グレードのクロックになる予定だった。

 しかし、5月後半になってIntelはロードマップを変更、1.6GHzと1.8GHzを7月に、1.9GHzを2GHzと同時期に投入すると伝えてきたという。その結果、Pentium 4の製品バラエティは、100MHz刻みとなり予定よりも倍増した。つまり、第3四半期には1.4GHz~2GHzまで7グレードのクロックの製品構成となる。

 チャンドラシーカ氏はこの件について「それは顧客の要求に応じたものだ。1.7GHzを出したあと多くのフィードバックを顧客から得た。彼らは、製品ラインナップにもっとバリエーションが欲しいと訴えた。その要求に応えることは、技術的にはもちろん可能だ」と説明する。

 実際、IntelがPentium 4の製品ラインナップを厚くする必要があるのは確かだ。それは、Pentium IIIを脇へ押しやってしまったからだ。以前の計画では、Intelは今年中盤まではPentium 4とPentium IIIの両方でラインナップを階層的に構築するつもりでいた。つまり、Pentium 4はPentium IIIの上の価格帯に止まり、Pentium IIIがパフォーマンスデスクトップの下半分を占めるという構成になるはずだった。ところが、IntelはPentium 4の価格を一気にPentium IIIと同レベルにまで下げた。つまり、Pentium 4をパフォーマンスデスクトップのローエンドにまで落とし込んできたのだ。そのため、Pentium 4は製品にバラエティが必要になってしまったというわけだ。

 もっとも、Intelは8グレードのクロックのデスクトップCPUを用意するのが典型的なパターンだ。そのうち3グレードはバリューPCなので、5グレードがパフォーマンス市場の定数となる。つまり、7グレードは明らかに多すぎる。なんとなく、数で勝負的な雰囲気も漂う。

●Socket 478では様々なコスト削減プランを提案

ビル・M・スー副社長兼ジェネラルマネージャ
 しかし、Pentium 4の場合、価格のバリヤはCPUだけではない。何と言っても、マザーボード価格が高いことが大きなバリヤになっている。そのひとつの解が、SDRAMベースのIntel 845チップセットだ。Computexでは、845マザーボードが大きな波となっていた。

 しかし、Intelは2月のカンファレンスIDFで、RDRAMシステムでもマザーボードコストを下げることができるデザインを提供すると約束していた。これについて、Intelのビル・M・スー(William M. Siu)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)が次のように説明している。

 「すでに、いくつかの(マザーボードの)デザインガイドを(顧客に)出している。その中には、4層デザインも含まれる。次のSocket 478では、Intel 850チップセットベースで、多くのコスト削減の機会をOEMに提供するつもりだ。すでに、ここ(Computex)ではいくつかのOEMカスタマが、現在のSocket 423システムで(850での)4層マザーボードデザインをレビューしている。しかし、Intelとしては、Socket 478のシステムでの4層デザインにフォーカスするつもりだ。それは、ハイボリュームになるのは、Socket 478システムだからだ。そのために、Socket 478では、マザーボードメーカーに多くのコスト削減案を提案していく」

 つまり、夏の終わりから始まるSocket 478では、Intel 845チップセット+SDRAMベースだけでなく、RDRAMベースも含めてPentium 4システム全体でコスト削減を図ってゆくつもりだという。2RIMMソケットしかなく、メモリ増設ができないデザインなどもあるかもしれない。ともかく、Intelとしては、RDRAMもやる気だということだ。


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(2001年6月12日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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