NVIDIAに追いつけたか?
期待のKYRO II搭載ビデオカードが登場!



 当初の予定より約1カ月遅れで、ST Microelectronics製の最新ビデオチップKYRO IIを搭載したビデオカードが登場した。KYRO IIは、昨年末に登場したKYROの後継製品で、基本的なアーキテクチャは変わらないが、動作クロックが大幅に向上していることが特徴だ。初代KYROの性能も決して低いわけではなかったが、NVIDIAの同クラスのビデオチップとほぼ互角の性能であるだけでは、NVIDIAの牙城を崩すことはできない。KYRO IIは、動作クロックの向上によって、どこまで性能が向上したのか、早速パフォーマンスを検証してみよう。


●KYRO IIとは?

 KYRO II(STG4500)は、初代KYRO(STG4000)と同様、PowerVR Series3ベースのビデオチップである。PowerVRアーキテクチャは、NECとVideoLogic(現Imagination Technologies)が共同開発した3D描画アクセラレータのアーキテクチャで、画面を細かな領域(タイル)に分割し、そのタイルごとにレンダリング処理を行なうことが特徴だ。PowerVRアーキテクチャの利点の1つとして、Zバッファ不要の隠面処理アルゴリズムの実現が挙げられる。

 通常のビデオチップでは、画面の全てのピクセルに対するテクスチャを作成してから、Zバッファ(奥行き方向の値を保持するバッファ)を利用して隠面処理を行なう。それに対し、PowerVRアーキテクチャでは、各タイルの隠面処理をビデオチップに内蔵されているZバッファを用いて行ない、見えている部分だけのテクスチャ作成を行なう。そのため、Zバッファを必要とせず、無駄なテクスチャデータの転送がないので、ビデオメモリのバンド幅を有効に使えることがメリットだ。

 初代KYROを搭載したビデオカードは、昨年末にいくつかのビデオカードベンダーから登場したが、期待したほど性能が高くなかったため(GeForce2 MXとほぼ互角)、あまり話題にはならなかった(詳しくは、「三度目の挑戦が実るか? PowerVR Series3ベースの「KYRO」が登場!」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001211/hotrev88.htm )を参照)。初代KYROの登場から約半年経って登場したKYRO IIは、基本的なアーキテクチャはKYROとほぼ同じだが、製造プロセスルールが0.25μmから0.18μmへシュリンクされたことで、コアクロックが125MHz(実際には115MHz駆動の製品が多く流通していた)から175MHzと大幅に向上している。また、ファームウェアやドライバにも改良が施され、パフォーマンスと安定性が向上している。メモリクロックもコアクロックと同じ175MHzである。ビデオメモリとしては、SDR DRAMをサポートする。なお、初代KYROと同様に、ハードウェアT&Lエンジンは搭載していない。


●世界初のKYRO II搭載ビデオカード3D Prophet 4500

メモリは、SAMSUNG K4S643232E-TC50が裏表に計8個実装されている

 KYRO II搭載ビデオカードとして、最初に登場したのがギルモのHerculesブランドで販売された3D Prophet 4500(AGP対応)だ。3D Prophet 4500は、ギルモ製ビデオカードではお馴染みの青い基板が採用されており、KYRO IIチップにはファン付きクーラーが装着されている。ビデオメモリ容量は64MB(5ns)で、ビデオ出力端子などは装備しておらず、出力はD-Sub15ピンのみというシンプルな構成。

 基板上には、ビデオエンコーダやTMDSトランスミッタなどの実装スペースも用意されており、今後ビデオ出力端子やDVI出力端子などを装備した製品が登場する可能性もある。


●GeForce2 MX400を上回り、GeForce2 GTSに匹敵する3D描画性能を実現

 初代KYROに比べて、KYRO IIは大幅にコアクロック/メモリクロックが向上しているため、パフォーマンスの向上も期待できる。そこで以下のテスト環境で、KYRO IIを搭載した3D Prophet 4500のパフォーマンスを測定してみることにした。比較用として、初代KYROを搭載したEVIL KYRO(64MB版)、GeForce2 MX400を搭載したPixelView GeForce2 MX(GeForce2 MX400搭載版)、GeForce3を搭載したMVGA-NVG20A、RADEONチップを搭載したRADEON 32MB DDRの4枚のビデオカードを用意し、同じ環境でベンチマークを行なった。

 なお、GeForce2 MX400の定格動作クロックはコアクロック200MHz/メモリクロック166MHzだが、PixelView GeForce2 MX(GeForce2 MX400搭載版)では、コアクロック200MHz/メモリクロック183MHzで動作しているので、本来のGeForce2 MX400よりもやや高いパフォーマンスを実現していることに注意してもらいたい。また、それぞれのビデオカードのドライバは、ベンダーから提供されている最新のものを利用している。3D Prophet 4500に関しても、パッケージに含まれていたドライバCDに収録されているドライバのバージョンは4.12.01.3089(Version 7.89)だったが、ギルモのWebサイトには、5月24日付けでそれより新しいバージョン4.12.01.3103(Version 7.103)が公開されていたので、そちらのドライバを利用した。

【テスト環境】 CPU:PentiumIII 866MHz
マザーボード:ASUSTeK CUSL2(Intel 815Eチップセット)
メモリ:PC133 SDRAM 128MB(CL=3)
HDD:Seagate Barracuda ATA ST313620A(13.6GB)
OS:Windows 98 SE+DirectX 8.0a

(1)2D描画性能

 2D描画性能の計測には、Ziff-Davis Media Inc.( http://www.ziffdavis.com/ )のWinBench99 Version 1.2に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99を用いた。計測は、1,024×768ドット16bitカラー(65,536色)で行なった。

【WinBench 99 Version 1.2】
Business Graphics
WinMark 99
 295
 273
 377
 374
 361
High-End Graphics
WinMark 99
 675
 711
1,040
1,040
1,040
3D Prophet 4500(64MB)
 コアクロック:175MHz/メモリクロック:175MHz
EVIL KYRO(64MB)
 115MHz/115MHz
GeForce2 MX400(32MB)
 200MHz/183MHz
GeForce3(64MB)
 200MHz/460MHz
RADEON 32MB DDR
 166MHz/333MHz

 2D描画性能に関しては、初代KYRO、KYRO IIの両製品がほかの3製品よりもかなり低いという結果になった。とはいえ、実際にアプリケーションを使う上では、KYRO/KYRO IIともに十分なパフォーマンスを持っている。2D描画性能が低いからといって、特に気にする必要はないだろう。

(2)DirectX環境での3D描画性能

 DirectX環境での3D描画性能の計測には、MadOnion.com( http://www.madonion.com/ )の3DMark2000 Version 1.1と3DMark2001を用いた。どちらも、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークプログラムだが、3DMark2000がDirectX 7ベースのベンチマークプログラムなのに対し、3DMark2001は、DirectX 8ベースで作られているという違いがある。

【3DMark 2000 Version 1.1】
1,024×768ドット16bitカラー 4,901
3,956
5,215
6,771
4,701
1,024×768ドット32bitカラー 4,744
3,595
3,504
6,571
4,365
1,280×1,024ドット16bitカラー 4,061
2,856
3,614
6,024
3,374
1,280×1,024ドット32bitカラー 3,676
2,468
2,202
5,660
3,091
1,600×1,200ドット16bitカラー 3,189
2,108
2,672
4,984
2,556
3D Prophet 4500(64MB)
EVIL KYRO(64MB)
GeForce2 MX400(32MB)
GeForce3(64MB)
RADEON 32MB DDR

【3DMark 2001】
1,024×768ドット16bitカラー 1,656
1,596
2,545
4,659
2,815
1,024×768ドット32bitカラー 1,647
1,578
2,110
4,558
2,759
1,280×1,024ドット16bitカラー 1,584
1,450
2,021
4,226
2,305
1,280×1,024ドット32bitカラー 1,560
1,401
1,554
3,977
2,167
1,600×1,200ドット16bitカラー 1,479
1,244
1,584
3,722
1,834
3D Prophet 4500(64MB)
EVIL KYRO(64MB)
GeForce2 MX400(32MB)
GeForce3(64MB)
RADEON 32MB DDR

 まず、3DMark2000の結果だが、予想以上にKYRO IIが健闘している。3DMark2000は、ハードウェアT&Lエンジンに対応したベンチマークであり、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵していないKYRO IIには不利なテストといえるが、1,024×768ドット16bitカラーモードを除く全ての解像度・色数において、KYRO IIは、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵したGeForce2 MX400を大幅に上回る値を出している。もちろん、価格レンジが大幅に異なるGeForce3に比べればパフォーマンスは劣るが、GeForce2 GTSの対抗として登場したRADEONよりも高いパフォーマンスを実現しているのは高く評価できる。

 3DMark2001は、3DMark2000よりもハードウェアT&Lエンジンの利用度が高いため、KYRO IIにとっては厳しいテストである。こちらのテストでは、さすがにGeForce2 MX400やRADEONのほうが有利なようだが、高解像度多色環境になるほど性能差が縮まっていることに注目したい。ビデオメモリのバンド幅を削減できるPowerVRアーキテクチャの利点があらわれているといえる。

 なお、3DMark2001は、DirectX 8対応のベンチマークテストであり、全てのテストを実行するには、DirectX 8をフルサポートしたビデオチップが要求される。DirectX 8をフルサポートしたビデオチップは現時点でGeForce3しか存在せず、それ以外のチップでは「Game 4 - Nature」の実行がキャンセルされるので、その分スコアが低くなってしまうことを考慮しておきたい。

(3)OpenGL環境での3D描画性能

 OpenGL環境での3D描画性能の計測には、id Software( http://www.idsoftware.com/ )の3DゲームQuake III Arenaを利用した。Quake III Arenaは3Dシューティングゲームだが、フレームレート(1秒間に何フレーム表示できたか)を計測するテストとしても利用することが可能だ。

【Quake III Arena】
800×600ドット16bitカラー 109.0
092.1
117.2
121.2
097.8
800×600ドット32bitカラー 109.2
089.0
094.9
122.1
092.7
1,024×768ドット16bitカラー 095.7
062.3
091.7
119.3
070.8
1,024×768ドット32bitカラー 092.6
057.8
061.3
118.0
062.8
1,280×1,024ドット16bitカラー 065.2
038.4
057.4
106.3
044.6
1,280×1,024ドット32bitカラー 059.7
034.7
036.5
102.9
040.1
3D Prophet 4500(64MB)
EVIL KYRO(64MB)
GeForce2 MX400(32MB)
GeForce3(64MB)
RADEON 32MB DDR

 Quake III Arenaの結果に関しても、十分満足できる。低解像度環境では、GeForce2 MX400やRADEONのほうがフレームレートがやや上回っているが、高解像度多色環境になるにつれ、KYRO IIの優位性が明らかになる。特に、1,280×1,024ドットモードでは、GeForce2 MX400の2倍近いパフォーマンスを叩き出している。

 以上のことから、KYRO IIの3D描画性能は、GeForce2 MX400を上回り、GeForce2 GTSやRADEONクラスだと言えるだろう。


●ハードウェアT&Lエンジンを搭載する次世代KYROが期待できる

 今回のベンチマークテスト結果で明らかになったように、KYRO IIは、ハードウェアT&Lエンジンを搭載していないにも関わらず、高い3D描画性能を実現している。3D Prophet 4500の実売価格は2万円前後であり、64MBのビデオメモリを搭載していることを考えれば、コストパフォーマンス的にもGeForce2 MX400搭載ビデオカードと互角以上だといえる。しかし、3DMark2001の結果では、GeForce2 MX400に及ばなかったことからもわかるように、ハードウェアT&Lエンジンをフルに利用するアプリケーションが増えてきた場合、KYRO IIが不利になるのは否めない。PowerVR Series4をベースとする次世代チップKYRO 3(STG5000)では、ハードウェアT&Lエンジンを搭載し、レンダリングパイプラインも大幅に強化されるという。KYRO 3は今年後半に登場する予定だが、大いに期待できそうだ。


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【5月26日】KYRO II搭載ビデオカードの第1弾がGuillemotからデビュー
GeForceシリーズの有力対抗馬となるか?「3D Prophet 4500」
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010519/536dx.html

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(2001年6月1日)

[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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