大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第6回:メーカーの本音は、「Windows XPで騒ぐな!」なのか?


 Windows XPが、米国で10月25日に発売されることが決定し、いよいよ日本でも11月から12月の間に同OSが発売されることが濃厚になってきた。

 ちょうど今は、4月27日付けで報道関係者向けに配布されたWindows XPのβ版による「Windows XP特集」がパソコン関連雑誌各誌では目白押しだ。

 ある編集者は、「なにも、ゴールデンウィークの直前に配布しなくてもいいのに」と、まるでWindows XPによって、ゴールデンウィークが潰されたかのようなコメントをしていたが、これを聞いたマイクロソフト幹部は、「こっちだって、ゴールデンウィーク明けに、米国本社からVIPが来日したためにその準備で長期休暇は丸潰れ」と、状況は一緒だったとこちらも嘆く。

 マイクロソフトが言う米国本社からのVIPの来日というのは、スティーブ・バルマーCEOのこと。売上、収益の責任をすべて取り仕切っている同氏だけに、かねてから「ビル・ゲイツの来日よりも、バルマーの来日の方が、日本法人の社員はピリピリする」(マイクロソフト関係者)と言われる存在だ。

 さらに、米国にはゴールデンウィークがないため、バルマーCEOは、この日程での来日をあまり気にしていなかったとも言われ、日本法人にしてみれば、確かにいい迷惑だったといえるのかもしれない。

 ゴールデンウィークの散々たる状況をマイクロソフトと出版社で、お互いに言い合っても仕方がないが、Windows XPの一端がようやく我々の眼の前に明らかになったという点では、喜ばしい限りだ。

 ところで、パソコンメーカー、ソフトメーカーなどは、Windows XPの正式な発売日がまだ明らかになっていないことから、現段階では具体的な施策を打ち出していない。何人かの関係者の話を聞くと、Windows 95あるいは98の時に比べて、「あまりにも静か」という声が聞こえてくる。

 あるソフトメーカー幹部は次のように話す。

 「Windows 98の時には、ある程度の発売日が見えた段階で出版社などが、当時発売中のアプリケーションソフトが次期Windowsでも動作可能かどうかを確認する質問が相次いだが、そんな問い合わせは一件もない」という。

 マイクロソフト自身が、それほど告知を行なっていないということもあるが、メーカー、販売店などの業界関係者の間でも、Windows 95/98のような盛り上がり感はない。

 その要因の1つには、昨年のWindows Meの発売時に、マイクロソフトがあまりにも慎重にWindowsの告知戦略を推進していたことの「後遺症」との見方がある。

 Windows Meは、周知のように、Windows 9xの流れを汲むコンシューマ向けの最終OSとの位置づけをもつ。コンシューマ向けOSは、Windows XPによって、ビジネス向けOSとカーネルが統合され、一本化されることになるため、先がない(?)Windows Meの広告費用などを大幅に絞り込んだ経緯がある。先がないOSに広告/マーケティング投資を拡大しても効果は薄いと判断、事実上、ほとんど告知は行なわなかったというわけだ。

 某ハードメーカーによると、「当時、マイクロソフトからは、あまり告知をしないでほしい、というニュアンスがヒシヒシと伝わってきた。当社の本音としては、年末のコンシューマ需要期にMeを売りたいのだが、結果として、製品は投入したもののマイクロソフトとの足並みを揃えて告知を絞り込むという、どっちつかずの戦略を取らざるを得なかった」と振り返る。

 このようにマイクロソフトが一度Windowsの告知戦略を絞り込んだため、その流れが、今回も自然と踏襲されているというわけだ。

 マイクロソフトでは、「Windows XPでは積極的な告知活動を行なうことを約束する」とメーカー側に話しているようだが、現段階では、その具体的なプランが提示されていない。

 だが、そのマイクロソフトもすぐに告知戦略を積極化する考えはないようだ。

 というのも、同社が現時点で、あまりWindows XPの告知に力を注がない背景には、パソコンの普及環境の変化が大きく影響している。

 パソコンに古くから親しんでいる読者は記憶にあると思うが、Windows 3.1や95の発売時点では、マイクロソフトは、かなり早い段階からWindowsに関する告知活動をすすめていた。また、その告知活動もテレビCMをふんだんに使い、タレント(当時のWindows 3.1のCMに出ていたのは本木雅弘氏)に「Windows」と連呼させるというものであった。

 当時、マイクロソフトの社長を勤めていた成毛真氏(現・インスパイア社長)は、「Windowsと連呼するだけで、『おい、Windowsってなんだ』と思わせることができれば、このCMは成功」と話していた。つまり、Windowsそのものがまだ広く一般にも知られているものではなかったからこそ、名前を印象づけるように、長い期間をかけた告知活動を行なったわけだ。

 だが、現在では年間1,300万台ものパソコンが出荷され、その数はテレビの年間出荷台数を超えているというほどの普及状況。Windowsは相当数の人に知れ渡っている。さらに、調査会社であるデータクエストの調べによると、2000年以降は新規購入よりも、買い換え、買い増し需要が上回るという逆転現象が見られるという。政府が発表した家庭へのパソコン普及率が50%を超えた点からもそれは明らかだ。

 つまり、マイクロソフトやパソコンメーカーは、従来のパソコン普及戦略から、買い換え戦略へと主軸を移し始めているわけで、むやみにWindows XPを宣伝しても発売までの買い控えを助長するだけという構図が明らかなのだ。

 そうした意味で、マイクロソフトがどのタイミングで積極的な告知活動に乗り出すのか、という点が今後の焦点であり、メーカー各社もそれまでは「だんまり」を決め込もうというわけだ。だからこそ、ハードメーカーなどは、Windows XPに対する積極的な発言を避けており、それが盛り上がりに欠けるという現在の状況につながっている。

 あるハードメーカーの首脳は、「Windows XPで需要が一気に拡大するとは考えられない」と前置きしながらも、「むしろ、出版社などがWindows XPを煽り立てて、夏商戦での不要な買い控えを招くことの方が懸念材料」だと指摘する。

 パソコンショップなどに話を聞くと、まだWindows XPの発売を意識してパソコンを買い控えようというユーザーの動きはそれほど見られていないという。そのため、6月からスタートする夏のボーナス商戦も、それほど売れ行きには影響を及ぼさないと見ている。

 人気を博している新型iBookが順調な売れ行き(予約)を得ていることに加えて、実売価格で5万円を切る低価格パソコン(日本HPのpavilion 2000)の登場、さらにはワイヤレス対応製品、ADSLモデム内蔵パソコンの発売といった新たな材料もあるからだ。

 あとは、マスコミなどが、あまりWindows XPを煽らなければ、余計な買い控えを生まず済むというのがメーカー、販売店の本音のようである。

 つまり、Windows XPの動きに触れることになったこのコラムも、本当は書かなかった方が、業界のためには良かったのかもしれない。

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【5月10日】米Microsoft、Windows XPを10月25日に発売
-日本語版は11月8日前後か
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010510/ms.htm


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(2001年5月31日)

[Reported by 大河原 克行]


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