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PalominoはThunderbirdよりどれだけクールなのか


●限界に近いほどホットなThunderbird

正式発表されたPalominoことモバイルAthlon 4
 AMDのAthlon 4(Palomino:パロミノ)の利点は現在のAthlon(Thunderbird:サンダーバード)と比べて、消費電力が下がることだ。これはモバイルだけでなく、デスクトップでも大きなアドバンテージとなる。というか、消費電力が下がるからこそ、Palominoでは1.73GHzを達成できる。それは、経済的な冷却機構で対応できる範囲内で1.73GHzを達成できるからだ。

 まず、現在のデスクトップ版のAthlon(Thunderbird:サンダーバード)の消費電力関連のスペックを見てみよう。MTPは最大熱設計電力(Maximum Thermal Power)で、Tdieは最大ダイ(半導体本体)温度、電圧はCPUのコア電圧だ。1.4GHzは逆算して出した推定スペック。


【Thunderbirdのサーマルスペック(一部推定)】
MHzMTPTdie電圧
100054W90度1.75V
110060W95度1.75V
113363W95度1.75V
120066W95度1.75V
130068W95度1.75V
133370W95度1.75V
140073W95度1.75V


 よく知られているように、Athlonは非常に消費電力が大きく放熱が多い。そのため、1GHz以上の高クロックAthlonでは、システムの冷却が最重要の問題となる。熱設計上のAthlonの利点は、最大ダイ温度(Tdie)が高いこと。Tdieは、ダイ温度がこれ以上上がってはいけないという上限を示す。つまり、Tdie以下なら熱暴走しないという目安だ。だから、Tdieが高ければ高いほど、熱設計は容易になる。

●温度バジェットの高いAthlon

 AMDの今年1月のPlatform Conferenceでの説明によると、AMDの設定するアンビエント温度(Max external ambient temperature)つまり、PCが設置される部屋の温度は最高35度。それに、筺体内の温度上昇を7度以内にするとして、筺体内のCPU付近の温度(Local CPU ambient temperature)は最大42度(35+7)とAMDは設定している。つまり、1.1GHz以上のAthlonの場合、CPUのダイの温度は最大95度までOKで、CPU付近の空気温度は42度まで下げろと指示しているのだ。そうすると、95度-42度=53度が温度差で、これが温度バジェット(temperature budget)となる。つまり、冷却機構が利用できる温度差というわけだ。

 で、冷却機構に要求される熱抵抗(Thermal Resistance)はというと、このtemperature budgetを熱設計電力で割ることで算出できる。つまり、Thunderbird 1.33GHzの場合は、最大パフォーマンスを活かそうと思ったら70C÷53C=0.76C/Wが必要となる。同様に各クロックを計算すると、必要な熱抵抗値は下のようになる(マックスをサポートしないならこれより緩くすることはできる)。

【Thunderbirdの熱抵抗値(一部推定)】
MHz熱抵抗
10000.88C/W
11000.88C/W
11330.85C/W
12000.81C/W
13000.78C/W
13330.76C/W
14000.72C/W


 冷却機構では、熱抵抗値が低ければ低いほどスペックが厳しく、より高性能なものが要求される。AMDのサーマルデザインガイドでは、消費電力が76WまででTdieが95度のAthlonの場合、ヒートシンクの熱抵抗値が0.35C/W、インターフェイス素材(Thermal Interface material:ヒートシンクとダイの間の接着素材)が0.35C/Wと推奨されている。合計0.70C/Wというわけで、これは経済的なコストのヒートシンクとインターフェイス素材のスペックに収まっている。

●Palominoのサーマルスペックは

 さて、PalominoはAMDによると、同条件でThunderbirdより約20%程度消費電力が下がるという。これは、トランジスタの構造などを変更した結果だが、これによりPalominoの熱設計がどうなるか見てみよう。駆動電圧が1.8VでTdieが95度と推定して計算した場合、以下のようになる。電圧が高い分、20%よりも省電力幅は少なくなっている。

【Palominoのサーマルスペック(推定)】
MHz熱抵抗MTPTdie電圧
13000.92C/W58W95度1.8V
13330.90C/W59W95度1.8V
14000.85C/W62W95度1.8V
15330.78C/W68W95度1.8V
16000.75C/W71W95度1.8V
17330.69C/W77W95度1.8V

 見ての通り、熱抵抗値は2段階くらい下がり、1.73GHzでもいちおうギリギリスペックに収まることになる。逆を言えば、同じ1.33GHzでも、ThunderbirdよりPalominoの方がずっと冷却機構回りはスペックがゆるくなる。それから、AMDはPalominoを1.8Vでスタートすると言われているが、Palominoの製品ミックスが上がるにつれて電圧を落としていく可能性もある。あるOEMによると、AMDは実際にデスクトップでも、電圧を段階的に下げていくと説明したらしい。その場合、さらに熱抵抗値はゆるくなる。

 また、AMDはPalominoからはスモールフォームファクタ向けをもう少し積極的に推進する可能性がある。AMDはスモールファクタ向けAthlon 4を1.4V~1.5Vで投入すると見られており、こちらはサーマルスペックはさらに緩くなる。


●Palominoで下がる電力密度

 また、Palominoになると電力密度も低くなる。つまり単位面積当たりの放熱量が減る。電力密度は、消費電力をダイサイズ(半導体本体の面積)で割ることで算出できる。Thunderbirdのダイサイズは119.77平方ミリメートルだが、Palominoは128平方ミリメートルだ。そのため、以下のようなスペックになる。

【Thunderbirdの電力密度】
MHz電力密度
100046W/平方cm
110050W/平方cm
113352W/平方cm
120055W/平方cm
130057W/平方cm
133358W/平方cm
140061W/平方cm


【Palominoの電力密度(推定)】
MHz電力密度
130045W/平方cm
133346W/平方cm
140048W/平方cm
153353W/平方cm
160055W/平方cm
173360W/平方cm

 見ての通り、Thunderbird 1.4GHzとPalomino 1.73GHzがほぼ同スペックとなる。電力密度が高いと、ヒートシンクがずれただけで熱暴走や熱破壊が起きるなど扱いが難しくなる。Palominoでは、消費電力が下がり、ダイが大きくなるため、これがある程度緩和される。というか、低クロックのThunderbirdと同程度にとどまる。

 Athlonの場合、これは大きな問題だった。というのは、AMDのCPUは同世代のIntel CPUに比べてダイサイズが小さいからだ。そのため、Athlonの電力密度は、Pentium IIIやPentium 4と比べてもずっと高い。Athlonが“燃えやすい”大きな原因はここにある。だから、このスペックが悪化しないというのはかなりグッドニュースだ。

●とてつもないPentium 4のサーマルスペック

 ちなみに、ここでPentium 4のサーマルスペックを比較すると、いかにPentium 4がクレージーかがわかる。Pentium 4の現在Webで公開しているサーマルデザインガイド(昨年11月の1.5GHz発表時)だと、CPUパッケージの表面温度Tcaseが75度、ローカル温度Tlaが45度。つまり、温度バジェットは75度-45度=30度しかない。で、CPUの熱設計消費電力はというと、デザインガイドでは62W(1.7GHzを想定した数字)となっている。やけに低いと思うかもしれないが、これはIntelがスペックとして最大消費電力の75%程度を熱設計の消費電力としているからだ。つまり、実際のプログラムを走らせた場合、そこまでしか使わないというのが根拠になっている。

 ところが、それでも必要な熱抵抗値を計算すると、30度÷62W=0.48C/Wになってしまう。これは、とてつもなく厳しいスペックだ。で、Intelは、ヒートシンクの熱抵抗値を0.33C/W、サーマルインターフェイスの熱抵抗値を0.15C/Wと推奨している。数字を比べると、Athlonと比較して、どれだけスペックが厳しいかがよくわかる。だから、ヒートシンクをあれだけきっちり固定する必要があるわけだ。

 もっとも、Intelのスペックは、まだPentium 4が出だしなのでマージンを取っていることと、電力密度を下げているためもある。Intelのスペックでは、Tcaseが75度であるためサーマルバジェットが30度しかないのがかなり響いている。これは、Pentium 4がヒートスプレッダ(IHS:Integrated Heat Spreader)でCPUのダイをカバーする構造になっているからだ。

 IHSの役目は、ヒートシンクとの接触面を大きくすることにあり、CPUのダイの熱をIHSで広い面積に拡散している。Intelによると、特にダイ上の特定のホットスポットの熱を効率よく拡散するように工夫をしてあるという。つまり、CPUが燃えちゃわないようにという安全策なわけだ。

 しかし、このアプローチでは、熱は拡散できるものの、IHSおよびIHSとの間のマテリアルの分の熱抵抗で、サーマルバジェットが減ってしまう。さらにローカル温度もマージンを大きめに見ているため、サーマルスペックが余計に厳しくなっているということらしい。

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【5月15日】日本AMD、モバイルAthlon 4/Duronの発表会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010515/amd.htm
【5月17日】【kaigai】SSEとハードウェアプリフェッチサポートで性能を上げるPalomino
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010517/kaigai01.htm


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(2001年5月18日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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