後藤弘茂のWeekly海外ニュース

統合CPUで攻勢をかけるVIA
-複数のMatthewを計画中


●WinHECのMatthewデモのナゾ

 VIA Technologiesは「Matthew(マシュー)」で複数のバージョンを用意している。Matthewは、VIAのCPUである「C3」コアにグラフィックスとノースブリッジチップ機能を統合したCPUで、VIAは今年後半の投入を予定している。3月末に開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンス「WinHEC 2001」の技術セッションで、Matthewのエンジニアリングサンプル搭載システムを公開している。その時に公開されたシステムは下のようなスペックだった。

C3コア 533MHz
グラフィックス SavageMX
ノースブリッジ Pro133A
PC133 SDRAM
サウスブリッジ VT8231(PCIサウス)
PCIバス
LDVSトランスミッタ外付け

 実際にサンプルボードもこの構成で、WinHECでは製品時にはクロックは733MHzになるだろうと説明していた。ところが、WinHECで配布されたCD-ROMのプレゼンテーションファイルでは、下記のような異なったスペックとなっていた。

C3系コア
グラフィックス SavageMX
ノースブリッジ Pro266
PC2100 DDR SDRAM
V-Link
V-Linkサウスブリッジチップ
LDVSトランスミッタ内蔵

 WinHECの現地レポートではこの2つのスペックを明確にせずに報道してしまった。そのため、申し訳ないことに、わけのわからないレポートになってしまっている。

 実際、その時点では、この2つのスペックがどういう関係にあるのか判然としない状態だった。しかし、この2つは異なるチップだと見られる。というのは、通常、V-LinkとPCIバスはどちらか一方しか実装しないからだ。V-Linkアーキテクチャの場合はPCIバスはサウスブリッジチップ側に入れている。

 そして、このうち、VIAが最初に製品化しようとしているのは、前者のスペックだ。実際に、OEMメーカーによると、VIAは前者のMatthewを今年第3四半期から量産すると伝えているという。それによると、基本はC3にTwisterチップセットを統合した製品で、551ピンPBGAパッケージ、CPUコア電圧は1.2~1.8V、チップセット部分の電圧は2.5Vだという。また、最新の情報では、WinHEC時点ではサポートしていなかったLVDS統合もスペックに入っているという。

●市場の要求にスケーラブルに応える

 では、後者のスペックはいったい何だったのだろう。チップの設計から製品化までには、通常9~12ヶ月はかかる。VIAが後者のスペックをWinHECで発表しようとしていたからには、後者も設計に入ってなければタイミング的におかしい。では、Matthewは2種類あるのだろうか。この疑問について、VIAのManuela Mercandelli氏(VIA Technologies、Specialist International Marketing)は次のように答えている。

 「現在、当社はMatthewをまず特定のセグメント、バリューエンド市場に向けて投入する計画でいる。WinHECで見せたのは、そうしたソリューションだ。だが、Matthewでは、バリューエンド向けだけでなく、異なるソリューションも用意する。個々の市場の要求に、スケーラブルに対応できるようにするためだ。当社は多くの顧客にMatthewの計画を説明し、いい反応を得ている。その結果、Matthewのような製品には、多くの潜在市場があることがわかった。例えばホームサーバーのような。

 だが、こうした新市場では、伝統的なPCとエンターテイメントやコミュニケーションといった領域の統合が求められている。だから、近い将来にはMatthewに、もっと機能を統合したり、個々の機能を強化する必要があると考えている。実際に、昨年からそうした製品の開発も進めてきた」

 つまり、Matthewでは、VIAはスケーラブルな製品展開を考えており、複数のプロジェクトが走っているということだ。そして、VIAがそうしなければならない最大の理由は、Matthewのような統合CPUの市場が見えないことだという。

 「Matthewは、VIAにとっても本当に実験だ。この種の製品ではIntelがTimnaを計画していたが、知っての通りTimnaにはいくつかの問題があってIntelは取りやめた。元々は、Timnaは今年1月に立ち上がるはずだった。だから、われわれはIntelに市場を試させてから、Timnaの経験を生かして参入しようと計画していた。ところがTimnaが市場要求に適切に応えられず頓挫してしまったため、当社が最初になってしまった。それで、Intelと同じ困難(市場が見えない)に直面してしまった」とMercandelli氏は説明する。

 後追い戦術はVIAの得意な方法で、Matthewでもそれを狙っていた。それがファーストランナーにされて、とまどっているということらしい。

●製造プロセスは0.15μmと0.13μmの両方を検討

 同じ理由でVIAはMatthewを投入する時期も決めかねているという。

 「Matthewの市場投入時期は、本当に未定だ。Matthewでカギとなるのは適切なタイミングと適切な市場のデマンドを見いだすことだ。早く立ち上げすぎると、失敗してしまうかもしれない。当社がまだMatthewの日程を決めることができないでいるのは、そうした理由からだ。しかし、年末までには立ち上げるだろう」

 さらに、Matthewは製造プロセスも決まっていない。というか、正確には現行の0.15μmと同時に、0.13μmのプランも走っているようだ。Mercandelli氏はプロセス技術について次のように説明する。

 「Matthewの製造プロセスはまだアナウンスしていないが、現在のスペックはC3コアとなっている。C3コアは0.15μmプロセスだ」

--Matthewにはいくつかの異なるソリューションがあると説明したが、どれも0.15μmのC3コアなのか。

 「時期によって市場の要求が異なって来るだろうから当然違ってくる。例えば、もともとは、我々はM IIコア(旧CyrixのCPU)の利用も検討していた(笑)。しかし、それは性能的にも現在は意味をなさない。だから、立ち上げ時期によってどのコアを統合するのがいいか判断することになる。立ち上げが第3四半期ならC3コアになりそうだし、第4四半期ならEzra(VIAの0.13μm版CPU)になるかもしれない」

 つまり、Matthewは第4四半期にずれ込むなら、Ezraコアで0.13μmプロセスの製品になるということらしい。時期を考えると、0.13μm版の物理設計も、もうスタートしているはずだ。

 ここでMatthewのスペックを振り返ると、CPUのコア電圧が1.2~1.8Vと非常に幅広いことに気がつく。1.2Vというスペックは、じつはEzraと同じなのだ。どうやら、VIAは最初から、0.13μm版も考えてスペックをOEMに伝えているらしい。

 というわけで、VIA自身もどうアプローチしていいのか迷っているMatthew。製品スペックやリリース時期の不明瞭さは、どうやら、VIAの戸惑いがそのまま反映されているためらしい。

□関連記事
【3月28日】【海外】VIA Technologiesが統合CPU「Matthew」を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010328/kaigai01.htm


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(2001年5月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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