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Windows XPでのUSB 2.0は滑り込みセーフか


●USB 2.0はWindows XP発売までにドライバスタックを準備

 新ハードウェアや新インターフェイスの敵は「チキン&エッグ」だ。つまり、OSやアプリケーションのサポートがないと普及できないが、ハードウェアが揃わないとOSやアプリケーションもサポートができないで、チキン(OSサポート)が先かエッグ(ハードウェア)が先かのにらみ合いになってしまうことだ。それじゃあしようがないので、ソフトとハードの両業界は、新ハードウェアのリリースに当たっては妥協点を見つけ、離陸ポイントを探ることになる。

 そうした事情から、MicrosoftのOSバージョンアップは、ハードウェアメーカーにとって大きな意味を持つ。それは、新ハードウェアのサポートがOSバージョンアップで加わるからだ。そして、3月末に米アナハイムで開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンス「WinHEC 2001」での焦点の1つは、Windows XP(Whistler:ウイスラ)での「USB 2.0」サポートがどうなるかだった。

 今年の新インターフェイスの目玉USB 2.0の立ち上がりは、当初の予定よりずいぶんずれ込んでいる。そして、もし、Windows XPでUSB 2.0のサポートが実現しなかった場合、USB 2.0の位置は大きく後退してしまうことになる。それに対するMicrosoftの答えは、一言で言えば「ぎりぎりでなんとか間に合わせる」だった。

 どういうことかというと、Windows XPのリリース時に、Windows XPのパッケージにUSB 2.0のドライバスタックを入れ込むのは間に合わないだろうという。実際、現在のβ2版ではサポートされていない。しかし、ドライバはWindows XPリリースまでには提供できるようにするという。では、どうやってユーザーの元にUSB 2.0ドライバスタックを届けるのか。現在検討している可能性は以下のようになっている。

 まずPCベンダーについては、Windows XPの「OPK(OEM Pre-Installation Kit)」出荷時にUSB 2.0ドライバパックもサプルメントとして提供、Windows XPとともにドライバスタックをPCにプリインストールできるようにするという。

 一方、Windows XPのパッケージを買ったエンドユーザーに対しては「Windows Update」によるインターネット経由でのドライバアップデイトで提供するという。つまり、Windows XPのセットアップ時に、USB 2.0ハードウェアがある場合には、自動的にWindows Updateからドライバをダウンロードして組み込むようにするそうだ。また、MicrosoftはIHVに対しては、エンドユーザーにWindows Updateからドライバをダウンロードするようにインストラクトするように指示している。

 実際、WinHECではUSB 2.0ホストコントローラにUSB 2.0デバイスを接続したシステムに、Windows UpdateからドライバスタックをダウンロードしてUSB 2.0を認識させるというデモを行なった。もっとも、このデモは見事に失敗してしまい認識できなかった。Microsoftによると「これがまだリリースできない理由」なのだそうだ。

●ハードウェアの遅れでテストが間に合わない

 Microsoftによると、USB 2.0サポートが遅れてしまった理由は、ハードウェアが遅れていてテストが間に合わないからだという。Microsoftは、昨秋に行なった「Microsoft Windows “Whistler” Plugfest」で、USB 2.0サポートの条件を説明している。それによると、以下のハードウェアの量産品質品が揃った状態で3カ月間のエンドツーエンドのテストが必要だと言っていた。

 ところが、この条件は今の段階でも満たすことができていない。最大の原因はIntelのチップセットの対応の遅れ。Intelは、USB 2.0を統合したICH(I/O Controller Hub)チップ「ICH3」を今年中盤に出すとしていたのが、現在では来年のICHでサポートするスケジュールに遅れてしまっている。また、デバイスベンダーもNEC 1社以外はホストコントローラチップを提供していない。そのため、周辺機器ベンダーもゆっくりとしか進めることができず、Microsoftも、もともとの出荷条件で対応することはできなくなってしまったのだという。MicrosoftはUSB 2.0のためにWindows XPを遅らせることはできないため、見切り発車となったというわけだ。

 そこで、Microsoftは方針を切り替え、現状のハードウェアのテストだけでドライバをリリースする方針に変えたという。コントローラチップはNECのディスクリート(単体チップ)製品しかないが、それでテストを行なっているという。Microsoftによると、方針を切り替えた理由は、すでにハードウェアを開発してしまったベンダーに対してドライバを提供しないわけにいかないからだという。つまり、チキンエッグを回避するために妥協したというわけだ。だが、この方針は、先行してハードウェアをリリースしたベンダーが業界スタンダードを確立してしまう危険があるとも指摘している。

 Microsoftによると、現在、すでにUSB 2.0のドライバはコーディングが終わっているという。Microsoftのドライバでは、USB 2.0ハブに接続したUSB 1.xデバイスは安定して動作しているという。また、USB 2.0デバイスも、MicrosoftのドライバではIsochronous転送以外の機能は、今のところ問題なく動作しているという。ただし、Isochronous転送に関しては、実際のデバイスでテストを重ねる必要があるそうだ。特に、アウトトランスファについてはまだテストができていないという。これは、対応機器がほぼない状態なので、当然かもしれない。

 こうした状況を見ると、MicrosoftがWindows Updateでの提供にこだわるのは、デバイスが揃ってきた段階での修正の可能性を見込んでのものと言えそうだ。ちなみに、MicrosoftはUSBドライバスタックをWindows XPから変更、従来単一だったホストコントローラドライバ群を、ホストコントローラチップ毎に異なるドライバを当てるアーキテクチャに切り替えた。新しいホストコントローラチップが市場に登場した場合には、このレイヤで対応するつもりだと思われる。ただし、ベンダーのドライバへのインターフェイス(DDI)自体は変わっていないという。

 ちなみに、Microsoftは、Windows 2000/Meについても、Windows XPのリリース後にドライバサポートを行なうことを検討している。ただし、昨年のプラグフェスタの資料では対応を計画中となっていたWindows 98/98 SEでのUSB 2.0サポートは行なわれないことになっていた。

●Bluetoothは1.1からサポート

 WinHECではBluetoothサポートに関しても説明があった。じつは、このセッションはほかのセッションと重なっていたため出席していないのだが、プレゼンテーション資料によるとWindows XPでのサポートは次のようになっている。

 まず、Windows XPでのBluetoothのサポートは、新規格「Bluetooth 1.1」対応デバイス以降となるようだ。それは、Bluetooth 1.1でないと互換性が確実なものとならないためだとMicrosoftは説明している。これは、現在のBluetoothの非互換状態を見れば当然と言えるだろう。Microsoftによると、Bluetooth 1.0B系規格は不完全で、その上でのデバイスサポートは困難でありOEMメーカーにとっても負担になるとプレゼンテーションで説明している。サポートはBluetooth 1.1でのハードウェアが安定次第、サポートを行なう予定だとした。

 というわけで、USB 2.0でMicrosoftが滑り込みセーフの計画を明らかにしたことで、なんとかチキンエッグのスタック状態を抜けるメドが立ってきたように見える。ただし、実際のところ、USB 2.0とUSB 1.x互換性の状況はまだ不明で、混在環境での利用など見えない点が多い。また、ホストコントローラ側は、当然チップセット統合が普及時の本命になるため、Intelや他社のチップセット統合ソリューションが出てくるまで、ドライバスタックなどにまだ変更が加わる可能性がある。


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(2001年4月20日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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