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Intelの来年のチップセットは「Tulloch」と「Brookdale-G」


●RDRAMベースはTulloch

 Intelの2002年のチップセット戦略と、それに同期したCPUコアトランジション計画が見えてきた。

 まず、以前レポートした来年中盤登場のRDRAMチップセットのコードネームは、やはり「Tulloch(タラク)」であることがわかった。Tullochは、もともと「Intel 850(Tehama:テハマ)」の次のRDRAMベースチップセットとして今年中盤にリリースが計画されていた製品のコードネームだ。

 しかし、SDRAMベースのチップセット「Intel 845(Brookdale:ブルックデール)」が急きょ開発されることになったため、TullochはキャンセルになったとOEMメーカーには伝えられていた。今回のロードマップ改訂により、それが復活してきたことになる。コードネームだけ見ると、凍結状態だった開発が再開されたと見ることができる。

 ただし、チップセットのフィーチャは変わった。Tullochは、RDRAMの高速版規格である「PC1066(Hastings:ヘイスティングス)」(通称1GHz RDRAMと呼ばれていたLong Channelの1,066MB/sec RDRAM)と、RDRAMのローコストデザイン「4i(4インディペンデントバンク構成)」をサポートする。PC1066をデュアルチャネルで搭載することで、メモリ帯域は4.2GB/secとなる。これは、Pentium 4のFSBの帯域を、Intelが同等レベル(544MHz)に引き上げる可能性があることを意味している。

 また、TullochではICH(I/O Controller Hub)チップは「ICH4」になる。ICH4に関してはまだ調査中で、USB 2.0を統合する以外はわかっていない。ちなみに、もともとは今年中盤にUSB 2.0をサポートする「ICH3」が出るハズだった。このあたりは、また情報が入り次第アップデイトしたい。

●Brookdale-Gはグラフィックスを内蔵

 オリジナルのTullochは、RDRAMベースのローコストシステムを実現するためのチップセットだった。現在のi850はRDRAMの2チャネル構成だが、Tullochでは1チャネル構成もサポートできるようにする計画だったからだ。だが、現在のところ新Tullochが1チャネルRDRAM構成をサポートするとは見えない。それは、ローコストシステム向けという位置づけではi845が存在するからだ。

 そして、来年中盤にはグラフィックスコアをi845に統合したDDR SDRAMチップセットが登場する見込みだ。Intelのパトリック・ゲルシンガ副社長兼CTO(Intel Architecture Group)は、このチップセットについて次のように答えている。

--Pentium 4向けのグラフィックス統合チップセットを計画しているのか。
「オーバータイムではイエスだ」
--それは来年頃ということか
「...イエス(笑)」

 ゲルシンガ氏は、それ以上の詳細は述べていないが、複数のソースからの情報によると、このチップセットは「Brookdale-G(ブルックデールG)」と呼ばれているという。コードネームからわかる通り、i845(Brookdale)後継でDDR SDRAMベースとなる。じつは、グラフィックス業界では、以前からIntelがグラフィックス内蔵版i845を開発しているというウワサがあった。それがようやくOEMに明らかにされたわけだ。

 ここで、IntelのPentium 4チップセットを一覧にすると下のようになる。

◎Pentium 4チップセット一覧
名称(コードネーム)メモリ478pin内蔵グラフィックス1GHz RDRAM 4iRDRAM
i850(Tehama)RDRAM
×
×
×
出荷中
i850次期版RDRAM
×
×
今年中盤
TullochRDRAM
×
来年中盤
i845(Brookdale)SDRAM
×
今年中盤
i845(Brookdale)DDR SDRAM
×
来年頭
Brookdale-GDDR SDRAM
来年中盤
*表中の478ピンは、Pentium 4の新しい478ピンパッケージへの対応を示す

●Brookdale-GはPentium 4アーキテクチャのCeleronの前兆

 Brookdale-Gは2つのことを意味している。(1)Pentium 4アーキテクチャを2003年にはバリューデスクトップPCに持ってくるつもりでいること。(2)RDRAMの浸透はバリューセグメントに2003年でも及ばないとIntelも認めていること。

 まず(1)だが、IntelがBrookdale-Gを来年の中盤にリリースするのは、2003年までにPentium 4アーキテクチャをバリューセグメントに落とし込むつもりでいるからだ。Intelはメインストリームデスクトップ向けがグラフィックス外付けチップセット、バリューとメインストリームのローエンドがグラフィックス統合チップセットと切り分けている。だから、グラフィックス統合チップセットをリリースするのは、そのアーキテクチャをバリューへ持ってくるサインだと解釈できる。

 おそらく、IntelはPentium 4コアのCeleronブランドCPUを、早ければ2002年末、遅くとも2003年中盤までに出すだろう。昨年、ゲルシンガ氏は、2002年中はPentium 4アーキテクチャをバリューにもたらすことはないだろうと説明していた。裏を読めば、2003年くらいにはPentium 4コアCeleronを出すつもりだと想定できる。

 次に、(2)では、Pentium 4向けグラフィックス統合チップセットが、RDRAMではなくSDRAM/DDR SDRAMベースになったことが重要だ。これは、IntelもバリューPCにまでRDRAMが降りてくる可能性は低い(ない)と見ているということだ。つまり、2002年後半から2003年中盤までのフェイズでも、バリューとその上のパフォーマンスデスクトップのローエンドはSDRAMまたはDDR SDRAMにとどまると、チップセットでも認めたことになる。

●割高なIntel 845チップセット

 もっとも、IntelがPentium 4でのSDRAM/DDR SDRAMサポートに熱心かというと、ぜんぜんそんなことはない。その逆だ。

 それが如実に表れているのは価格だ。OEMメーカーによると、Intelは、RDRAMベースのi850とSDRAMベースのi845に、価格差をほぼつけないと説明しているという。i845も、登場時には1,000個価格でi850と同様の40ドル台の価格になるようだ。つまり、Intelはi845の方がi850より価格帯が下のPC向けと言っておきながら、チップセット自体の価格は同じにしているというわけだ。

 Intelはチップセットの価格も階層構造にしている。デスクトップチップセットは、通常、上は40ドル台でスタートして、バリュー向けのローエンドが20ドル前後(1,000個時)になる。こうしたことを考えると、本来i845は20ドル台後半から30ドル程度が適切な価格のはずだ。

 実際、他ベンダーのチップセットは通常その程度かそれ以下の価格で提供されている。i815も最初はi845と同じような価格だったが、あちらはグラフィックスコアを統合していた。グラフィックスなしで40ドルはかなり割高だ。価格を見る限り、Intelはi845にそれほどやる気があるとは思えない。なぜi845はこんなに高いのか。

 この価格戦略で、まず考えられるのは、IntelがRDRAMプラットフォームとSDRAMプラットフォームでメモリ価格以外の違いをできるだけなくそうとしていることだ。ただでさえ、RDRAMシステムはSDRAMシステムに対してプラットフォームコストがかかるわけで、その上、チップセットで価格差ができるのはまずいと考えたのだろう。

 つまり、RDRAMとSDRAM/DDR SDRAMを同じ土俵で競わせるには、プラットフォームコストの差をミニマムにしなければならないということだ。「i845+SDRAMならチップセットもメモリもずっと安い。だったらPentium 4はSDRAMで行こう」という流れができるのは、Intelにとって好ましくないわけだ。特に、現状では4基のメモリソケットや6層基板などでどうしてもRDRAMシステムの方が割高になってしまうだけに、その上にチップセットにまで価格差をつけたくはないのだろう。

●不熱心さが表れているIntelの計画

 IntelのDDR SDRAMサポート計画にもIntelの不熱心さが表れている。Intelは、現在のところi845ではSDRAM版を今年の第3四半期からOEMに提供、来年頭にDDR SDRAM版をリリースというスケジュールを崩していない。現在、SDRAM版に関してはもうオントラックで走っていて、ベンダーはマザーボードデザインも終えている。

 ただし、DDR SDRAM版に関しては周回遅れで進行しており、出荷時期も遅い上に、当初は帯域が狭い「PC1600(DDR200)」DDR SDRAMしかサポートしないとしている。また、i845プラットフォームでのメモリモジュールのバリデーションもサーバー&ワークステーション向けが先行する計画になっている。

 もっとも、帯域が広い「PC2100(DDR266)」DDR SDRAMに関しては、i845でサポートするという話は持ち上がっているようだ。一部ベンダーに対してはサポートを計画していると説明をしたり、DDR SDRAM版マザーボードのデザインガイドにDDR266サポートを前提とした変更が加えられたという。ただ、現在のところは、OEMに対しても、公式にはまだPC1600だけのサポートという説明にとどめているようだ。

 こうした戦術を見ていると、「Pentium 4はRDRAMで行ける見込みがあるなら、あまりDDR SDRAMは推進したくない」というIntelの本音が見えてくるようだ。でも、Pentium 4の普及浸透は図りたいから、SDRAM/DDR SDRAMソリューションは用意する必要があるというあたりが、Intelの抱えるジレンマだろう。そして、RDRAMを守るこの戦略は、Intelにとって諸刃の剣ともなりうる。それは、他社チップセットが付け入る隙が大きくなるからだ。


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(2001年4月18日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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