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●ADT規格はメモリ帯域だけが明らかに
「ポストRDRAM、ポストDDR SDRAMの次世代メモリは、6GB/sec以上のメモリ帯域になる」
先週、米アナハイムで開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンスWinHEC 2001で、Intelのパトリック・ゲルシンガ副社長兼CTO(Intel Architecture Group)は、PCメモリの今後の見通しについて、このように説明した。6GB/secオーバーというスペックは、シングルチャネルRDRAMの約4倍、DDR266の約3倍というとてつもない数字だ。ゲルシンガ氏によると、この次世代DRAMは、メモリ業界団体ADT(Advanced DRAM Technology)で策定しているという。
ADTは、IntelがトップDRAMベンダーと作った団体で、2003年以降のPC向けのDRAM規格を策定する予定だ。ADTの次期DRAMについては、これまで一切概要が明かされておらず、今回の6GB/secオーバーというスペックが、初めての公式情報となる。ADT DRAMはレイテンシを減らす方向で策定が進んでいるという情報もあったが、ゲルシンガ氏のスピーチを聴く限りメモリ帯域も大幅に拡大するつもりのようだ。
6GB/sec以上の帯域がシングルチャネルでのスペックだとすると、IntelはほかのポストRDRAM/DDR SDRAMテクノロジである「DDR2」や「Quad Rambus Signaling Level(QRSL)」が当面のターゲットとしていたシングルチャネル3~4GB/secよりも上のラインを狙うことになる。もっとも、最近ではDDR2も6.4GB/secがターゲットに入っている(VIA DDR Chipset & CPU SeminerでのMicron Technologyのプレゼンテーション)ようなので、2003年以降という時期なら帯域では並ぶかもしれない。もしかすると、両規格が6GB/secと言い出したのはシンクロしているのかもしれない。
ADTの設立時(昨年1月)のメンバーは、Intel、Micron Technology、Samsung Electronics、Hyndai Electronics、NEC(現在は日立製作所とエルピーダメモリを設立)、Infineon Technologies社の6社。現在、この6社のほかにどんなメンバーが加わっているかわからない。それは、ADTがほとんど秘密結社に近いくらいガードが堅く、厳重なNDA(機密保持契約)で固められているためらしい。ADT参加を検討したある関係者によると、参加には途方もない金額が必要な上、新規参加企業はほかにどんな企業がADTに加わったのかすら知る権利がないような契約条件だったという。
現状では、ADTがどんなメモリテクノロジを採用するのかはわからない。しかし、ピン当たりの転送レートを著しく高める方向へ向かうのは間違いないと思われる。Intelは、インターフェイステクノロジについては、できる限りシリアルに移行させ、シリアル化できない場合もピン当たりの転送レートを高めた狭ビット幅インターフェイスへと移行させようとしているように見えるからだ。ピン当たり800MのRDRAMを選んだのもそのためと思われる。また、2003年以降となると、DRAM容量は512Mbitから1Gbitになってくるわけで、最小構成単位(Granularity)を考えると狭ビット幅インターフェイスになる(あるいは狭ビット幅構成が可能)ことも確実だろう。そうしないと、2005年以降のPCは最低で512MBを積まなければならなくなってしまうからだ。
●多様化する2003年のメモリ
しかし、ADTが登場したとしても、DRAM全体がADTに雪崩を打って移行するという動きにはならないだろう。それどころか、業界ではDRAM品種の多様化が進むという見方が多い。そもそも、2003年の段階でも、DRAMは3つのアーキテクチャが鼎立するパッチワーク状態になっていると、多くの関係者が予測している。つまり、RDRAMとDDR SDRAMのどちらも、DRAMの圧倒的主流にはなれず、しかも、SDRAMも残っていると見られているのだ。これは、これまでのDRAMアーキテクチャの世代交代のパターンからすると異例のことだ。
これまで、DRAMは常に1アーキテクチャが市場の大半を占めて来た。そして、新アーキテクチャが登場すると、ある時点で一気にアーキテクチャの転換が起こり、新アーキテクチャDRAMが圧倒的な主流になる。例えば、ここ3世代を見ると、「ファーストページモード(Fast Page Mode)DRAM→EDO(Extended Data Out) DRAM→シンクロナスDRAM(SDRAM)」へと移ってきた。現在もEDO DRAMは生産されているが、全体からすると微々たる量でしかない。また、価格も主流になったDRAMアーキテクチャが下がる。例えば、現在のEDO DRAMの価格はSDRAMの倍もする。そして、ワンアーキテクチャがほとんどの用途に使われてきた。つまり、SDRAMがPCだけでなくサーバーや、組み込み用途でさえある程度は使われているのだ。
ところが、今回は雲行きが違う。「SDRAM→RDRAM」あるいは「SDRAM→DDR SDRAM」という雪崩現象が起きず、2003年までは「RDRAM vs DDR SDRAM vs SDRAM」の対立&併存状態が続く可能性が高い。それの理由はいくつかある。
1つ目は、もちろんRDRAM主軸のIntelと、DDR SDRAM推進のほかのチップセットベンダーで、メモリアーキテクチャが2分されたこと。そのため、メインストリームデスクトップではPentium 4はRDRAM化が進むものの、ある程度はSDRAM/DDR SDRAMが占めるようになるだろう。その一方で、Athlon PCはDDR SDRAM化が進む見通しだ。
2つ目はRDRAMに対する抵抗から、メモリ業界でDDR SDRAMへのシフトが進んでしまったこと。IPハウスであるRambusのビジネスモデルやガチガチに固めて互換性を取ろうとするアプローチが反発を招いた結果、一時は死に体だったDDR SDRAMに勢いをつけさせてしまった。こうなっては、DDR SDRAMを完全に止めることは難しい。
そして、3つ目はニーズの多様化によって、対応するメモリも多様化が求められ始めたことだ。実際、現状でメモリが足かせになって、CPUが性能を発揮できないアプリケーションは限られている。それなら、バリューPCは、システムのトータルコストが少しでも安くつくSDRAMのままで十分という考え方が当面は強いままでいきそうだ。2003年の時点でも、バリューPCはPC133 SDRAMのままというのは、ほぼ共通認識らしい。一方、サーバー&ワークステーションでは、大容量構成やChipkill機能で優位に立つDDR SDRAMが今後浸透する見通しだ。
そして、2003年には、ポストRDRAM/DDR SDRAMのアーキテクチャである、ADT、DDR2、QRSLなどが揃っている。このうちの例えばADTとDDR2がマージしたりして、種類が減ったとしても、そのほかにモバイル用やネットワーク用のDRAM規格が策定されているわけで、メモリは多様化が当たり前の時代になる可能性が高い。
●まだ足りないRDRAMの生産量
RDRAM以前は、Intelが次のメモリアーキテクチャはこれだと言えば、PC/メモリ業界全体は必然的にそのアーキテクチャへと流れた。しかし、今はそうはいかなくなっている。例えば、2月のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」で、IntelはSamsung Electronics社、エルピーダメモリ(NEC+日立製作所)、東芝の3社からRDRAM増産の約束を取りつけたことを披露した。しかし、3社だけでは、メインストリームデスクトップの必要量すら満たすことはできない。
IDFで示されたRDRAM生産計画は次のようになっている。
Samsungは、今年第1四半期には800万個/月(以下128Mbit換算)のRDRAMを生産、第2四半期には1,200万個/月、第3/第4四半期には1,300~1,400万個/月を生産する。累計では2001年中に1億2,000万個(プレゼンでは64Mbit換算で2億4,000万個)を生産するつもりだと説明した。
エルピーダは、第1四半期には300万個/四半期(以下128Mbit換算)を生産したが、これを第2四半期には1,000万個/四半期に急増させ、第3四半期には1,500~1,600万個/四半期、第4四半期には1,800万個/四半期に持っていくという。この時のエルピーダの計画では、2002年には1四半期に3,000万~4,000万個以上を生産する計画になっている。
東芝は、3社の中ではDRAM製品中のRDRAMの比率がもっとも高い。IDFでの説明では今年第4四半期には60%をRDRAMに割くとしていた。ちなみに、第1四半期は20%、第2四半期は35%、第3四半期は50%の予定だ。ただし、東芝は製造規模がSamsungやエルピーダと比べると小さいため、それでも第4四半期に800万個/月(128Mbit換算)の生産量にとどまる。また、そのうち30%がPlayStation 2、70%がPC向けになるという。
こうして見ると、3社のRDRAMの生産個数の合計は、IDF時のプレゼンテーションを信じる限り、128Mbit換算で第4四半期でも8,000万個台となる。そうすると、Pentium 4マシンが標準で128MBを搭載するとして、供給できるRDRAMはPC 1,000万台分かそこらという計算になる。そうすると、市場予測通り第4四半期に4,000万台以上のPCが出荷されるとしたら、RDRAMはその1/4以下しかカバーできないことになる。メインストリームデスクトップの約半分がいいところではないだろうか。
RDRAMの生産量がこの程度なのは、もちろん、釜(生産キャパ)の大きなMicron TechnologyやHyundaiが加わっていないせいもあるがそれだけではない。Samsungやエルピーダにしても、RDRAMの需要がそれ以上になるかどうかを読み切れないからだと思われる。実際、エルピーダの犬飼英守氏(取締役、テクニカルマーケティング本部本部長)は、IDFで「Q3とQ4はさらにキャパシティのヘッドルーム(余裕)がある。デマンドがあれば、オーバー2,000万個の生産もできる」と説明していた。つまり、作れるけど需要が見えないからここまでにとどめておくという態勢だ。これは、SDRAM/DDR SDRAMベースのPentium 4用チップセットがIntelやサードパーティから出てくると、RDRAMへのデマンドが削がれる可能性があると警戒しているためと思われる。
そのため、Intelは次の手としては、RDRAMの需要をできる限り高める方策に出ると見られる。その手段はたったひとつ、Pentium 4の価格を徹底的に引き下げることだ。
つまり、SDRAM/DDR SDRAMベースPentium 4チップセット「Intel 845(Brookdale:ブルックデール)」を出す前に、Pentium 4の価格を思い切りPentium IIIクラスの価格にまで引き下げてしまえばいい。そうすれば割安感により、RDRAMベースのPentium 4 PCへのデマンドが大きく盛り上がり、PC業界がRDRAM増産をプッシュするというわけだ。Pentium 4 PCが1,000ドル近辺の価格レンジに来れば、Athlonも迎撃できるし、一石二鳥というわけだ。
(2001年4月6日)
[Reported by 後藤 弘茂]