第90回:安くなった無線LANで今こそ家庭内モバイルを



 ここ数年、無線で接続可能なターミナルアダプタやLANの機器が増えた。有線世代にネットワーク環境を整えた身としては、そうした機器を横目に見ながらも、相変わらずの有線生活を家庭内では送っていた。

 無線TAはOCNエコノミーによる専用線を利用している(まもなくADSLに切り替わる)ためあまり縁がなかった。PIAFSを使った無線中継装置にはルータのシリアルポートを使った仮想LAN機能をサポートするものが多いが、そもそも我が家のルータはそういった家庭向け機能が備わる以前の旧式だ。

 さらに無線LANにしても、2Mbps時代から魅力は感じていたものの、コストパフォーマンスの点で今1つ導入に踏み切れなかったのだ。我が家は、PCを利用する際に都合がよい場所すべてにLANのコネクタを設置しておいたため、有線でも何ら不都合を感じていなかったという理由もある。


●さらに1段。急激に下がりそうな無線LAN機器

 だが、最近の無線LAN装置は、そうした自制心(?)をも破壊するペースで低価格化が進んでいる。思えば5年ほど前、初めて無線LANの取材をした時は、2ノードで基地局込みの価格が20万円を超えていたように思う。速度は2Mbpsで高速と言われ、ベンダーごとの互換性など全く存在しなかった時代の話だ。

 しかし、メルコが2MbpsのIEEE 802.11準拠で無線LAN装置を発表し、その後、11Mbpsの802.11bへと進化。現在のAirStationシリーズを出してから市場は広がり、他ベンダーもそれに追随している。無線LAN向けチップを開発するLucent Technologiesのチップが急激に値を下げたことで、さまざまなベンダーが低価格化を推し進めることができたのだ。

 もっとも、この時点でもまだ、僕はまだ石橋を叩いているところだった。もちろん、これからLANを構築するという人には、無線LANを勧めていたし、設定がわからないという友人宅に出張サービスしたりもしていたのだが、自宅への導入となるとコストと現状からの改善を天秤にかけ、まだもう少しと我慢していた。

 しかし、先日アイ・オー・データ機器が販売を開始した無線LAN装置のおかげで、そんな我慢もしなくて済むようになった。価格が劇的に下がったのだ。たとえば無線LAN PCカードで比較すると、それまでの多くの製品が14,500円前後の売価だったのが、アイオー・データ機器の製品では10,500円。一気に4千円も下がっている。もっと安価な店では、1万円を切っているところもあった。

 無線LANの場合、有線LANとのゲートウェイにアクセスポイントを設けるのが普通(アクセスポイントを用いない方法もある)だが、その価格もやはり5千円ほど安くなっている。価格対効果で考えた時、この差は大きく、早速我が家も無線LAN導入に至った。


●価格低下はチップ価格の競争によるもの

 こうした急激な価格の低下は、無線LANに使われるチップの価格低下が原因のようだ。IEEE 802.11bの製品も各社から安定かつ互換性の高いチップが供給されるようになり、供給ベンダーの増加が価格競争を生み出している。

 アイ・オー・データ機器の製品では、米IntersilのPRISM IIチップが採用されているようだが、ルーセントと比較するとかなり安いらしい。“らしい”とはいい加減な表現だが、実際にどの程度の価格で仕入れているのかは聞くことができなかった。Intersilへ質問したところ、額面通りの答えしか返ってこなかったが、PRISM IIで半導体製造プロセスの世代を変更したことで消費電力が半分になり、また価格も抑えることができたという。

 しかし、この競争もまだ始まったばかりのようだ。昨年、アイオー・データ機器の担当者は、2001年中には11Mbps 対応の無線LANカードが6千円程度にまで下がるだろうという話をしていたが、無線LANベンダー各社は実際に6千円を実現するのは難しくないと考えている。価格競争によってユーザー数が激増し、量産効果が生まれてくれば、チップ価格はさらに下がると考えられるからだ。

 米国の販売店では、HomeRFというIEEE 802.11bよりも簡単に無線LANを組める規格の装置が、ある程度の成功を収めているようだが、その価格は95ドル前後。今回のアイオー・データ機器のIEEE 802.11b対応製品とほぼ同じだ。

 HomeRFはIEEE 802.11bよりも設定が簡単(反面、セキュリティは甘く、速度も1.6Mbpsしかない)というメリットがあるが、価格が同程度ならIEEE 802.11bの方が有利だろう。難しいと言われる設定も、マニュアルの方法をきちんと踏襲すれば、問題なく接続することができる。

 HomeRFには基地局不要でインターネットのゲートウェイソフトが付属する点で、コストメリットがあるが、両者の性能と機能の差を考えるとその差はない。インターネットへのゲートウェイ機能はWindows 98やWindows 2000にも搭載されているため、知識があるならIEEE 802.11bでも追加投資なしに利用できるからだ。設定の簡単さについても、たとえばIEEE 802.11b用設定ユーティリティから暗号化設定を除いたシンプルバージョンを個人用途向けに添付すれば、かなり容易になるはずだ。


●今のところ互換性は問題なし

 さて、今回我が家で導入したアイ・オー・データ機器の無線LAN。チップベンダーがLucent Technologiesではないということで心配される互換性も、今のところは問題なく利用できている。すべての組み合わせを試したわけではないが、メルコ、アイ・オー・データ機器、コレガの組み合わせで利用できないケースはなかった。

 ごく一部のベンダーでWEP暗号化機能を利用する際に、キーワードを16進数の暗号化キーに変換する計算式が異なるという報告もあるようだが、その場合も暗号化キーを直接入力すれば問題ないと思われる。IEEE 802.11bの互換性に関しては心配無用のようだ。

 無線LANを導入したことで、家族はPCをコタツで和みながら使うようになり、僕自身も原稿を書いている時間以外は、リビングでWebにアクセスしたり、ちょっとしたアイデアのメモをしたりしながら、ノートPCでくつろぐ時間が増えている。ディスプレイの前で、なんとなく調べものをしながら過ごす時間をリラックスできるようになったことは、今のところ精神的な余裕という面でプラスに働いている。

 今利用しているPCは、オプションで9セルの大容量バッテリとベイ内蔵バッテリを使えるため、無線LANを使いっぱなしでも5時間以上、およそ6時間ほど完全にワイヤレスで運用できる。ゼロハリ氏言うところのホームノマドの仲間入りを(遅ればせながら)果たしたというところだろうか。

 軽量なノートPCを所有しているユーザーでも、実際には外出先に持ち出さず、自宅の中で利用している人も多いという。そんな人も、安価になった無線LANで家庭内モバイル生活を実現させてはいかがだろう。想像以上の効果を得ることができるはずだ。


●余談

 この原稿を書いている現在は、Intel Developer Forumに参加するため、米国に滞在している。そこで取材仲間に勧められて購入したのが、米国内で免許なしで利用可能な無線機。Talkabout(モトローラの商標だが、店ではこれで通じる。他社製もある)という製品で、日本のアマチュア無線で利用されている430MHz付近の周波数帯を使うトランシーバだ。

 スペックでは約2マイル(約3.2km)の通信が可能とのことだが、ラスベガスでモンテカルロホテルからラスベガスコンベンションセンターとの間で通信できたというから、見通しのよい場所では、2マイル以上飛ぶのかもしれない(定格出力は500mW)。

 なにより安いのが魅力で、ローエンドの製品は1台35ドルぐらいで販売されている。2個パックのお買い得品などもあるので、これを購入して旅行先で友人に持たせるといった使い方もできる。

 カンファレンス、コンベンションやテーマパークなど、海外に出かけたとき、複数の友人同士で別々の行動を取るときに便利だ。携帯電話と違い料金がかからないため気軽に使える上、同じチャンネルに合わせてあれば、全員が同じ内容を受信できるため、同時に何人もと連絡を取り合うのが簡単だ。携帯電話とは別の意味で利便性が高い。

 米国旅行に行った際、一番安い機種を購入して連絡に使ってみてはいかがだろう。何度も米国に出かける人なら、きっと元が取れるはず。もちろん、日本では利用できないし、通信する相手がいなければ意味はないのだが。現在、海外取材で一緒になることが多い面々に、この無線機を布教中である。

[Text by 本田雅一]


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