第89回:PoP-Syncに見る新しい名刺のカタチ



 昨年末、密かに注目していたサービスがある。ソニーが始めた名刺サービス「PoP-Sync( http://www.pop-sync.net/card/main/ )」だ。PoP-Syncというサービス、名前を聞いただけでは何がなんだかわからない。しかし、リリース文( http://www.world.sony.com/JP/News/Press/200012/00-060/ )を注意深く読めば、斬新さと秘めたるパワーを感じることができるのではないだろうか。

 この名刺サービス。実は個人的に心の中で温めていた(後に説明する)アイディアととても似ているので、とても興味を持ったわけだ。僕が考えていたアイディアとPoP-Syncは、アプローチのやり方こそ違うものの、本質的には同じものだと思う。


●個人に付属する情報

 PoP-Syncが特徴的なのは、インターネット上で名刺として扱うカードを作成し、それに関連する情報を一括して管理するところだ。カードには自分の顔写真やイラスト、住所や電話番号といった属性を設定できるが、カードはたった1つの原本を管理するだけで、どこに配布しても最新の情報に更新することができる。

 たとえば現実社会の名刺の場合、名刺を渡した後に部署などの属性が変わると、新しい名刺を渡さない限り、その名刺は更新されない。しかし、データをインターネット上で一元管理するPoP-Syncでは、新しい情報に更新した後、それを一斉発信することで最新のものへと更新することができる。

 ここでは“個人属性を示す情報を記したカード”という意味で名刺という言葉を使っているが、個人にはさまざまな情報が付随するものだと思う。個人向けPoP-Syncの場合、その人のオススメサイトを記入する欄があるが、その人の考え、あるいはスケジュールなども同じように管理し、いくつかのレイヤーにわけてセキュリティロックをかけることで、個人のまわりにある情報をうまく活用できるようになるだろう。

 PoP-Syncでは、企業向けにカスタマイズ可能なPoP-Syncシステムを販売したり、PoP-Syncカードを持つ個人を認証してセキュアなコミュニティを作ったり、個人向けには友人同士のコミュニケーションツールとして普及させるつもりのようだ。

 PoP-Sync自身も興味深いサービスだが、少し視点を変えてみると、別の応用手法も見えてくる。


●ある個人に付属する情報は世界に1つだけ

 タイトルの通りだ。ある個人、たとえば本田雅一の属性情報や、本田雅一に関連するスケジュールや仕事リストなどの情報は、世界に1つだけのハズだ。実際にはグループウェアサーバ、クライアント、PDA、携帯電話、ネットサービス、自宅のPIMソフトなどに分散していたとしても、それは運用上、しかたなくそうなっているだけで、本田雅一自身の周りにある情報が複数セット存在するわけではない。

 もっとも、情報は特定個人に付随するだけではない。特定の役割に付随する場合もある。たとえば、A社B部門の仕入れ担当者(あるいは遊びなら○○サークルの幹事でもいい)が必要とする連絡先や、この担当者への連絡先、スケジュールなどなど。個人が重要なのではなく、特定の役割の部分が必要な場合もある。

 ここで名刺に話を戻そう。名刺の場合、先に挙げた2つの意味を同時に持っている。ある名刺をもらったとき「本田雅一の連絡先はここか」と認識するか、「A社B部門の仕入れ担当者はこの連絡先ね」と思うかは、その人次第だろう。後者の場合、たとえ担当者が本田雅一以外になっても、部署そのものの連絡先が変わらなければ連絡はできる。しかし、前者の場合は異動先を探さなければならなくなる。

 せっかくインターネットがあるのだから、世界でただ1人の本田雅一にも、世界でただ1人だけのA社B部門仕入れ担当にも、ユニークなカードを電子的に発行なすることで、情報を一括管理できないものだろうか、というのが、僕のアイディアだ。

 本田雅一に連絡を取りたいなら、本田雅一のカードを開いてみればいい。会社を変わっているかも知れないし、あるいは引っ越ししているかもしれない。しかし、インターネット上で管理された唯一最新の情報ならば、必ず連絡がつくはずだ。A社B部門の仕入れ担当に連絡したい人も同じ事である。


●個人認証との組み合わせへ発展可能(なハズ)

 おそらくそうしたサービス、アプリケーションは、企業にとって有効なものになるはずだ。担当者の異動が多く、名前を覚えられないほど大きな企業では、単純なコンタクト先の管理でさえ、かなり面倒くさいと僕は思う。取引先と共に導入すれば、互いの組織変更や人の入れ替え時に混乱が少なくなる。企業内システムのディレクトリサービスと統合されていれば、実に便利なサービスとなるハズだ。

 ただ、個人的にはこうした情報サービスと、個人認証や電子マネー、電子ウォレットなどのサービスと結びついて欲しい。その方が、より普及が進むと思うからだ。また、企業内システムと結びつけてしまうと、会社を辞めて異動する時のトラッキングができない。

 最終的には、ネット上で電子名刺の情報を標準的な手法で参照することができればベストだ。ある人の情報にアクセスするとき、ユニークIDをサーバに投げると、特定XMLスキームに準拠したカタチで情報が返るようにしておく。そしてすべてのアプリケーションは、オンライン時に必ずネット上の情報を参照するように設計する。そうすれば、異動や転職があってもデータの矛盾は発生しなくなる。

 僕がズボラなだけなのかもしれないが、PDAや携帯電話を使っていると、きちんと同期を取っているようでも、時間が経過するにつれ、古い情報がだんだんと増えていってしまう。そろそろ、こうした本質的ではない部分に気力を奪われるのはやめにしたいものだ。

[Text by 本田雅一]


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