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IntelとAMDがモバイルで1GHzの戦いへ突入


●当初の予定にはなかったCoppermine 1GHz

 来週から年に2度のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」が始まる。そこで、その前にIntelのCPUロードマップを一度整理しておきたい。

 まず、Intelの次の大波はモバイルでやってくる。すでに多くのリーク記事が出ているが、Intelは予定を大幅に前倒しして3月にモバイルPentium III 1GHzを投入するつもりだ。これは、現行の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)で1GHz動作のチップになる。

 じつは、このCoppermine 1GHzは、今度だけでなく、これまでに何度もスケジュールが変更になっている。その履歴をさかのぼってみると、なかなか面白い。そもそも、Intelはモバイルでの1GHz達成は、0.13μm版Pentium III(Tualatin-512k:テュアラティン)で2001年中盤だと考えていた。業界関係者によると、少なくとも、昨年前半までは、現行の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)のモバイルバージョンは900MHz台止まりになっていたという。つまりCoppermine 1GHzは、本来Intelの計画になかった製品だったのだ。

 Intelが1GHzをCoppermineではなくTualatinでと考えていたのは、もちろん熱設計の問題があるからだ。Coppermineで1GHzを実現しようとすると、熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)は計算上25W前後になってしまう。25Wというのは、デスクトップCPUとしてもちょっと前なら熱い部類だった。その分、ノートPCメーカーは冷却機構を強化するための開発負担が大きくなったり、より分厚い筺体を用意しなければならなくなる。それはメーカーの支持を得にくいというわけで、IntelはCoppermine 1GHzを当初は考えていなかったようだ。


●Intelはモバイル1GHzを急いだ

 ところが、Intelのこの方針は昨年の7月頃に変わる。Intelは、OEMメーカーにCoppermineの1GHz版を投入すると説明、しかも、それを2001年1月頃に出したいと言い始めたという。このロードマップ変更により、Pentium III 1GHzは2四半期近く一気に前倒しとなった。しかし、Coppermineで1GHzとなったことで、この1GHz版を搭載しようとするメーカーは、25WのTDPに備えなければならなくなった。

 この時のCoppermine 1GHz計画が示しているのは、どうしても2001年頭に1GHzのモバイルCPUを出したいというIntelの執念だ。Tualatinは0.13μmの製造プロセスが十分に立ち上がる今年中盤までは市場に投入できない。となると、Intelはモバイル1GHzを実現するには、どうしてもCoppermine 1GHzを出さざるをえない。

 では、どうしてIntelはモバイル1GHzにそんなにこだわったのか。おそらく、その理由はライバルメーカーの動きにある。じつは、IntelがCoppermine 1GHzと言い始めたのとほぼ同じ時期に、AMDが顧客にモバイルAthlon/Duronの製品プランを説明し始めていた。OEMメーカーによると、AMDは2001年の第1四半期からモバイルAthlonを投入、クロックは900MHz台でスタートして、第2四半期までに1GHzに引き上げるというロードマップを示したという。つまり、AMDはノートPCのハイエンドに一気に切り込む構えを見せたのだ。そのため、Intelはうかうかしていると、モバイルでもAMDにクロック競争で負けるという恐れが出てきた。おそらくそれが、Coppermine 1GHzの1月投入計画という形で現われたと思う。

 もちろん、Coppermine 1GHzでは熱設計が従来のレベルを大きく超えるため、PCメーカーにとってはいやな選択だ。しかし、AMDもモバイルAthlonのTDPがやはりこれまでの上限である20Wより高くなると示唆したらしい。それなら同じ土俵(TDP)で、高クロックをいち早く出そうという話になった可能性が高い。


●3月にはIntelとAMDがモバイルで激突

 ところが、Coppermine 1GHzのアグレッシブな投入計画は、秋も深まる頃にはトーンダウン、Coppermine 1GHzは第2四半期始めの4月頃にすると仕切直したという。つまり、1四半期まるまる後ろへずれ込んだ格好だ。ただし、依然としてCoppermineで1GHzというプラン自体は崩していなかった。

 これは、おそらくAMDのモバイルAthlonがそれほど順調に市場に出てこないという状況が、見えてきたからだ。Intelとしては、1月にいきなりCoppermine 1GHzを出すという、PCメーカーにいやがられる冒険をあえてやる必要が薄くなったのではないだろうか。どんなクロックでいつモバイルAthlonが登場しても、Coppermine 1GHzで即応できるようにPCメーカーの取り込みに努めながら、AMDの出方を伺っていた可能性が高い。

 だが、今年に入ってIntelは、モバイル1GHzを再び前倒しして来た。これが意味するのは何か。それは、おそらく、IntelがモバイルAthlonの登場時期をつかんだからだ。AMDは次世代Athlon「Palomino(パロミノ)」でモバイルAthlonを出すと説明している。そして、Palominoの市場投入は第1四半期中の予定だ。となると、3月下旬までには、AMDがPalominoを正式発表&出荷する可能性が高い。実際、3月19日頃にモバイルAthlon発表という報道が1月下旬に多数流れた。しかし、AMDの発表スケジュールはしばしば変更になるので、直前にならないと正確な日付はわからない。例えば、昨年のデスクトップ版Athlon 1GHzの発表の正確な日程は、2日前の日曜日までつかめなかった。

 また、AMDが3月中に1GHzまで発表するのかどうかもまだわからない。こちらもTDPの壁があるからだ。だが、いずれにせよモバイルAthlonの1GHzがオントラックなのは確かなので、Intelとしてはモバイル1GHzは急がなくてはならないだろう。デスクトップの1GHzの戦いからちょうど1年で、モバイルも1GHzの戦いに入ることになる。

 今回のモバイル1GHzの戦いでAMDが有利なのは、同じ0.18μmプロセスであっても、Athlonの方が低い電圧で1GHz駆動ができる点だ。Coppermineは1.6V以上をかけないと1GHzは達成できないが、Palominoはおそらく1.4V以下で可能だと見られる。また、Palominoは現行のAthlon(Thunderbird:サンダーバード)より同クロック同電圧でも消費電力が少なくなるとAMDは説明している。だが、AMDが不利な点もある。それは、ロジックのトランジスタ数だ。ロジックのトランジスタ数が多ければ多いほど原則として消費電力が多くなる。AthlonはPentium IIIに対して2倍以上のロジックトランジスタを積んでいるため、どうしても消費電力は大きくなってしまう。そのため、電圧を下げることで減る消費電力分を、キャパシタンスの増加が相殺してしまうことになる。


●2002年にはモバイルもオーバー1GHz時代に

 1GHzにさしかかるモバイルCPU。だが、モバイルのクロック競争は来年になるともっと狂騒的な状態になる。それは、IntelがモバイルPentium 4を投入する予定だからだ。以前のコラムでも説明したが、業界関係者によるとIntelは、来年第1四半期に0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)のモバイル版を1.5~1.6GHz程度で投入する予定だという。Intelは、もともと今年第4四半期のデスクトップ版Northwoodの投入と同時期にモバイル版も投入するとOEMに最初は説明していたらしい。それよりは1四半期ほど遅れるが、それでもモバイルNorthwoodはほぼ予定通りの投入となる。

 このNorthwoodは、TDPが30Wかそれ以上になると言われており、Coppermine 1GHzよりもさらに熱い。そのため、厚手のフルサイズA4ノートPCにしか搭載ができないと見られる。また、より動作クロックを引き上げることも難しいだろう。それから、チップセットはPentium 4用SDRAM/DDR SDRAM系チップセットである「Brookdale-M(ブルックデール-エム)」になると言われている。しかし、DDR SDRAMがこの時点でサポートされるかどうかはまだわかっていない。ちなみに、Brookdaleが計画される前は、モバイルPentium 4はRDRAM系次期チップセットの「Tulloch(トゥルッシュ)」ベースで登場することになっていた。つまり、最初はモバイルへもRDRAMを持ってくるプランだったのだ。

 めまぐるしく変わるIntelのモバイルCPU戦略。ここまでに説明したスケジュールも、どんどん変わってゆくことになるだろう。


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(2001年2月20日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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