第84回:モバイルプロセッサに押し寄せる競争の波



 かつてモバイルプロセッサは、インテルが市場のほとんどを独占する市場だった。競合と呼べるベンダーが無かったわけではない。しかし、インテルほどバランス良く魅力的なモバイルプロセッサを潤沢に製造できるベンダーは存在しなかった。

 しかし、それも過去の話となりつつある。デスクトップ向けプロセッサ市場がそうであるように、モバイルプロセッサ市場にも大きな競争の波がやってきているからだ。昨年、サブノートPCの分野でTransmetaが一大ムーブメントを作り出したが、今年はAMDがA4フルサイズのノートPC市場で、インテルを脅かす存在になるだろう。そして、今年、A4オールインワンのフルサイズノートPCはコストパフォーマンスを大きく向上させるだろう。


●デスクトップPCを駆逐するA4フルサイズ

 昨年末から今年にかけて、各所で2000年のPC売り上げベスト10の速報データが飛び交った。A4フルサイズのノートPCは、店頭売りでiBook、PowerBook G3といったアップル製ノートPCが大活躍したようだ。一方、Windows機に目を向けると、FDDまでを内蔵する大型の機種が売れており、このクラスの製品がデスクトップPCの置き換え需要によって伸びていることが伺える。

 また、マルチメディアを意識した過剰装備の家庭向けノートPCよりも、一通りの機能を備えながらシンプルにまとめたコストパフォーマンス重視の製品が受けている。ゴテゴテと付加機能の山が付くよりも、基本機能を抑えた上で、可能な限り価格を抑えた製品が受け入れられているわけだ。

 そして今年、そうしたデスクトップPC置き換えの売れ筋製品に、大きな変化が訪れそうだ。変化と言っても、機能的なものではない(もちろん液晶の大型化などは今より進むだろうが)。プロセッサベンダー間の競争激化により、かつてのデスクトップPCと同じような低価格化と高性能化の同時進行が期待できるというのが、ここで言う「大きな変化」だ。

 これまでこの分野でインテルのライバルといえば、AMDのK6シリーズが存在するのみだったが、モバイルK6-2はローエンドのモバイルCeleronとは競合するものの、ユーザーに対する訴求力に欠ける面があった(これは性能云々というよりはインテルとAMDのブランディング戦略の結果といえる)。

 しかし先日、AMDは低価格デスクトップPC向けプロセッサとして評価の高いDuronのモバイル版をリリースした。しかもその価格は700MHzが15,375円、600MHz版は9,375円と非常に低価格だ。近日中には、追ってモバイルAthlonも発表される見込みだ。モバイルDuronは、すでにNECが採用を決定しているが、デスクトップPC用Duronの性能からすると、インテルは大きな価格的プレッシャーを受けることになるはずだ。

 常にチップセットと周辺ボード間の互換性や安定性で問題が指摘されてきたAMDのプラットフォームだが、PCベンダーがあらかじめ各種デバイスを組み込み、PCカードやUSBなど以外に拡張性を持たないノートPCならば、そうした負の要素も関係ない。

 最終製品としてのAMD採用機を手にしていない以上、お勧めする、しないといったレベルでの話はできないが、こうしたプロセッサおよびそれを採用した製品が登場することは、良い意味での競争を生み出し最終的にエンドユーザーに対して高性能化、低価格化といったメリットをもたらすはずだ。


●低消費電力プロセッサの登場でPCベンダーの真価が問われるB5以下クラス

 一方、B5ファイルサイズ以下の携帯を前提としたノートPCは、メーカーの真価が問われる年となりそうだ。昨年、TransmetaのCrusoeが登場。それに対抗する形で超低電圧版モバイルPentium III/500MHzの投入をインテルが予告している。低電圧版モバイルPentium IIIも、近日中に700MHzへとクロックアップされるだろう。

 これまで放熱をいかに行なうかに気を取られていたPCベンダーも、やっと様々なアイディアを具現化する方向でノートPCの設計を行なえるだろう。昨年の売り上げ実績を見ると、B5ファイルサイズ以下のクラスはオールマイティなノートPCよりも、筐体構成、デザイン、機能などで他機種との差別化を図った個性的製品が受けている。

 B5ファイルサイズ以下の小型ノートPCを購入するユーザーは、1台目よりも2台目以降のPCとして選んでおり、それぞれの趣味趣向に合わせた製品を購入する(逆に1台目は様々な用途を想定するため冒険しにくい)傾向が強いためだ。

 Crusoe搭載機も、市場の様子をうかがう第1世代の製品が一巡し、今後はより個性的な製品が発表されるはずだ。すでにソニーがVAIO GTという、汎用PCというには個性が強すぎる感のある製品を出荷しているが、開発者のアイディア次第で様々な展開が考えられる。

 その結果、すべて横並び的で価格とデザイン、サイズ以外に大きな違いを見いだせない従来の没個性的PCでは差が出なかった“色”が、もっとハッキリと出るようになることを期待したい。すべての人が使いやすい道具だけではなく、目的ごとに使いやすさを追求した道具を選べるようになれば、B5ファイルサイズ以下のノートPC市場はより活気を増してくるはずだ。


●So-net海外ローミングの使い心地

 最後に先週まで2週続けて紹介した海外ローミングについて、簡単にフォローアップしておきたい。読者の方やSo-net関係者からご指摘をうけたが、北米でのローミングサービスはXO Communicationsによるベーシックサービスとフリーダイヤルのプレミアムサービス以外に、無料のベーシックサービスとして提供されるワールドワイドをサポートしたGRIC接続サービスも提供されている。

 GRICによるローミングサービスは世界的なISPの提携により実現されているもので、北米だけでなく世界中で多くのAPが利用できる。So-netだけでなく、@niftyなどでも利用可能なローミングサービスだ。

 現在、この原稿はフロリダ州オーランドの取材先で書いており、インターネットのアクセスはXO CommunicationsおよびGRICのAPを利用しているが、いずれも話し中や極端なトラフィックによる速度低下は発生していない。3種類のアクセス方法が同時に提供されているため、もしもの時の安心感も高い。

[Text by 本田雅一]


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