後藤弘茂のWeekly海外ニュース

局所クリーン技術でIntelに先んじたAMDのFab30


●進取のAMD vs 保守のIntel

 CPUの製造について、AMDとIntelは対照的だ。一言で言えば「進取のAMD vs 保守のIntel」となる。

 どういうことかというと、AMDはリスクがあっても性能や生産効率を上げることができる技術はどんどん先取りして取り入れる。それに対して、Intelは性能や効率の向上に効果がある技術でも、リスクがある時は取り入れない。技術が成熟するのをじっと待つ。

 両社の違いを示す好例は、0.18μmルールのプロセスでの銅配線技術だ。AMDは性能が上がる反面リスクが大きな銅配線を採用した。一方、Intelはリスクを恐れて次の0.13μmまで待った。0.13μmルールでは、AMDは性能向上と消費電力の低減に効果があるSOI (silicon on insulator)を取り入れる。ところが、IntelはSOIは製造工程が複雑になりコストが高くなるとして0.13μmでも採用しない。

 こうした「進取のAMD対保守のIntel」の構図は、AMDとIntelという会社の性格の違いがそのまま出ているようで面白い。そして、それはプロセス技術だけでなく、CPUを製造するFabそのものの作り方にも見事に表れている。つまり、AMDはFab30に最新の技術をアグレッシブに取り入れているが、Intelはまだ待ちの状態でいるということだ。


●局所クリーン技術がFab30の特徴

Fab30外観 ウェハの検査風景

 「AMDはIntelに追いつかなければならない」、「そのため、Fab30は、標準的なFabよりも効率的でフレキシブルにするための新しいアプローチを導入している。」

 AMDの最新工場(Fab)であるFab30を取り仕切るジム・ドーラン(Jim Doran)副社長兼ジェネラルマネージャ(AMD Saxony Manufacturing GmbH)は、同Fabの特徴をこのように説明した。IntelはAMDよりも製造施設への投資額がずっと大きく、エンジニアの数も10倍もいる。「だから、リーダーであるIntelがするのと違うことをしなければ、AMDは追いつけない」とドーラン氏は指摘する。そのため、Fabには効率を上げ、ベストの技術をできる限り早く(=Intelよりも早く)取り入れることができる仕組みを導入したという。

 例えば、ドーラン氏によると、Fab30は標準的なFabよりも敷地が狭く、電力などの消費も少ないという。また、フレキシブルにラインの装置を変更することができるため、最良の技術をすぐに取り入れることができるという。こうしたFab30の利点は、米Asyst Technologiesの開発した局所クリーン技術「SMIF(Standard Mechanical InterFace)」システムを導入したことで実現した。

 “局所クリーン技術”と呼ぶとなんだかわかりにくいが、話はじつに簡単だ。CPUはシリコンウエーハを加工して作られ、普通は極めて清浄なクリーンルームの中で処理される。それに対して、局所クリーン技術では、ウエーハを完全密閉の容器(SMIFポッド)に入れて、そのポッドの中だけを極度にクリーンにしてしまう。そうすると、クリーンルーム全体は、今までほどクリーンにしなくてもすむ。クリーンルームの中にウルトラクリーンルームを作ってしまうと考えればいい。


●クリーンルームの中にウルトラクリーンルームを

クリーンルーム内部

 クリーンルームといってもいろいろなレベルがあるが、今の最先端半導体Fabでは、クラス1(1立方フィートの空気中に0.1μmの塵が1個以下)という、ばかばかしいくらいの清浄度が要求されている。IntelのFabは知られている限りクラス1だし、AMDも従来型の施設のFab25はクラス1だ。それは、塵がウエーハに附着すると、その部分のチップが不良品になってしまうからだ。不良率を下げるためには、チリの量を少なくしなければならない。そして、プロセスが微細になるに従って要求されるクリーン度もどんどん高まってきた。

 しかし、クリーンルーム全体をクラス1にするには、巨大な空気濾過システムをガンガン動かさなければならない。そのためには、膨大な施設投資と電力や水が必要になる。投資規模や運用コストなどが高くなってしまうのだ。

 ところが、局所クリーン技術を使うとこの問題は軽減される。Fab30のケースでは、SMIFボッドと各プロセス装置の内部とウエーハハンドリングゾーンという局所だけがクラス1よりもさらにクリーンに保たれている。これをミニエンバイロメントと呼んでおり、その外側のクリーンルームのクリーン度はクラス100T(1平方フィートに塵が100個以下)だ。つまり、クリーンルームは今までより100倍も塵が多くても大丈夫なのだ。そのため、原理的にはFab30は、生産能力に対する施設の規模や電力を少なくできる。

 そして、局所的ではあっても通常のクリーンルームよりさらにクリーン度を高めることが可能なので、原理的には歩留まりも高くなる。作業員が規定を守らず塵を多く持ち込んでしまうといった、ヒューマンファクタにも影響されにくい。


●生産ラインをフレキシブルに

並んでいるのがSMIFポッド。ウエーハが25枚ほど入り運搬される 天井に見えるのが搬送用モノレール

 従来のFabでは、ウエーハは通常オープンカセットに入れて運ばれている。しかし、Fab30ではウエーハは常に密閉されたSMIFポッドで運ばれる。ポッドは各装置の前に設置されたロードポートに載せられ、ポッドと同じクリーン度のウエーハハンドリングゾーンに密着される。そこでロボットアームがポッドを開けて、ウエーハを1枚づつ取り出し、機器に取り込むという仕組みになっている。

 AMDのFab30では、すべての装置がこのSMIF対応になっている。これには大きな利点がある。それはフレキシビリティの高さだ。

 Fab30では、SMIF規格のロードポートを備えた装置ならば、基本的には同じ運搬システムが使える。そのため、量産ラインでの装置の組み替えが簡単にできるとドーラン氏は説明する。例えば、新しいテクノロジを取り入れたい、より優れた装置を導入したいという時に迅速に対応できるという。

 従来型のFabだと、装置ごとに互換性がなかったりするため、量産ラインに変更を加える時は、作業も大変で時間もかかったという。小刻みの変更は難しく、やる時は一気に装置を変更するといった方法を取ることになってしまったそうだ。これでは、対応が遅くなってしまう。

 ところが、Fab30では、装置のインターフェイスに互換性があるため、新しい装置を既存のラインにすぐに組み込むことができる。「一晩で変更ができる」し、「(ラインの構成を)毎週だって変えることもできる」とドーラン氏は説明する。実際に、Fab30では、来年第1四半期の出荷製品のクロックを1GHz~1.2GHz以上の製品ミックスにスライドさせることを11月中旬に決定したが、そのためのラインの再コンフィギュレーションを即座に行なうことができたという。

 また、Fab30では、全ての装置がファクトリネットワーク経由でセントラルマネジメントシステムと接続している。そのため、モニタリングや制御を集中して行なうことが可能で、装置の利用効率を高めたりできるという。装置を効率的に使うことで、Fabの最大の生産キャパを最短時間で達成できるとドーラン氏は説明する。


●300mmウエーハ時代の標準となる? 局所クリーン技術

 Fab30は、こうした最新アプローチで構築されている。それが、AMDのFab25やIntelのFabとの大きな違いだという。

 もっとも、Intelだって局所クリーン技術を視野に入れていないわけではない。現行の200mm(口径の大きさ)ウエーハを使うFabでは導入していないようだが、次世代の300mmウエーハを使うFabでは取り入れる可能性が高い。IntelのWebサイトには、300mmウエーハ関連のIntelの研究発表資料が多数アップされているが、それを見ると'97年頃からすでに局所クリーン技術について突っ込んで言及している。

 というより、300mmウエーハ時代には局所クリーン技術は、標準になろうとしているようだ。SMIFは技術的には注目されたが、日本ではあまり採用事例がなかった。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)がPlayStation2(PS2)のグラフィックスチップ用Fabに採用したと報道された程度だ。これは、SMIFがオフィシャルな標準ではなかったことが大きいという。

 しかし、300mmでは、標準化を進めるイニシアチブ「I300I」(日本はJ300)で、局所クリーン技術が標準のひとつとして規格化されている。密閉ポッドとしてFOUP(Front Opening Unified Pod)という規格が決まっており、その搬送の仕組みも規格化されている。SMIFを開発したAsystもFOUP対応システムを発売している。そして、Intelは、このI300Iでもどうやら規格化で活発に活動しているらしい。

 つまり、局所クリーン技術は、次の時代の半導体製造の潮流であるわけだ。そして、AMDは、ここでも多少リスクがあっても性能や生産効率を上げることができる技術は、標準になるよりも先に取り入れた。そして、Intelはここでも技術が熟成するのをじっと待っている。いや、待つというのは正しくない、標準規格にしようと推進しているわけで、このあたりはいかにも標準化が好きなIntelらしい展開だ。

【Fab30の基本仕様】
施設総面積 約866,000平方フィート(約8万平方m)
クリーンルーム 900平方フィート(約83平方m)
クリーン度(クリーンルーム) クラス100T(0.3μm)
クリーン度(Mini Environment) 0.01 Class (0.1μm)
生産キャパシティ 5,000~6,000ウエーハ/週
テクノロジリミット 0.13μm以下
ウエーハサイズ 200mm(6インチ)


バックナンバー

(2000年12月11日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2000 impress corporation All rights reserved.