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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IntelがAlmadorチップセットをキャンセル

●またまたキャンセルになったIntelのチップセット

 またもIntelのチップセットのキャンセル。今回キャンセルになったのは、0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)用のグラフィックス統合チップセット「Almador:アマドール」のデスクトップ版だ。

 この1年の間にキャンセルや延期になったチップセットは、いったいいくつあるだろう。昨年のIntel 820延期を皮切りに、i820/i820Eの後継チップセット「Camino3(カミーノ3)」、Pentium 4向けの第2世代RDRAM系チップセット「Tulloch(トゥルッシュ)」、バリュー向けチップセット統合CPU「Timna(ティムナ)」とひたすらIntelのチップセット戦略は迷走してきた。Almadorキャンセルは、その迷走の最新バージョンだ。

 Almadorのキャンセルにより、デスクトップ版Pentium IIIは先がないことが鮮明になった。Intelは、0.13μmプロセスではデスクトップで0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)、モバイルで0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)にフォーカスするという。デスクトップ版のTualatinは、ほとんど継子扱いで、Intelはぜんぜん力を入れるつもりはないらしい。生産量もおそらく極端に少ないし、クロックも1.26GHzにとどめるようだ。もしかすると、デスクトップTualatin自体も、この先、キャンセルになるかもしれない。Intelは、Tualatinの価格をローエンドのPentium 4よりも高く設定する可能性もある。

 また、Tualatinは現行の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)の2倍の512KBのL2キャッシュを搭載するが、デスクトップではこのうち半分を殺したTualatin-256kしか投入されない見込みだ。それに対して、モバイルでは同じTualatinでも512KBのL2キャッシュをフルに使えるバージョンが投入される。ここからも、デスクトップでのTualatinの位置づけが低いことがよくわかる。

 こうしたことからわかるのは、IntelはメインストリームデスクトップではPentium IIIアーキテクチャを来年いっぱいで見限ろうとしていることだ。これは、Pentium 4の立ち上がりを急がせるために、PCメーカーの退路を断つという戦略だと思われる。下手にデスクトップTualatinに力を入れると、当然、PCメーカーのPentium 4シフトは遅れる。Pentium 4へと一気にシフトさせたいIntelとしては、それはまずいと判断したのだろう。かつて、似たような例として、0.8μm版のPentiumと0.6μm版のDX4が併存して、DX4が人気を呼んだことがあった。

●意味がなくなりつつあったAlmador

 Tualatinは現行のPentium IIIであるCoppermineとはFSB(フロントサイドバス)の互換性がない。そのため、Tualatin対応として新しいチップセットを開発していた。それがAlmadorだった。

 Almadorはi815後継で、TualatinとCoppermine-T(Tualatin互換のインターフェイスを持つCoppermine)をサポートする。メインメモリはPC133 SDRAMで、さらにグラフィックスメモリとしてRDRAMを接続できるという変わったデザインになっていた。これは、グラフィックス統合チップセットで内部グラフィックスを使う場合に、メモリ帯域が性能の最大の制約になるためだ。PC133に加えて1チャネルのRambusインターフェイスを搭載することで、メモリボトルネックをなくすデザインになっていたわけだ。

 この、Almadorをよく見てみると、Intelがキャンセルした理由もわかる。Intelにとっては、Almadorはいくつか問題があるチップセットだったのだ。

 そもそも、AlmadorはPentium 4のチップセットがRDRAMしかサポートしていなかった時に計画された。つまり、Pentium 4がRDRAMに足を引っ張られて普及が遅れた場合に、Tualatin+Almadorで中継ぎをするという戦略のもとに開発が始まったのだ。ところが、Intelは現在、Pentium 4向けに来年後半にSDRAM/DDR SDRAMベースのPentium 4用チップセット「Brookdale(ブルックデール)」を開発している。それなら、無理にAlmadorでPentium IIIを延命する必要がなくなったのだ。

 また、Almadorは短命になる運命のチップセットだった。当初のPentium 4普及プランでも、Almadorが活躍する期間は来年の第3四半期から2002年の第1四半期まで。今のPentium 4普及プランなら、来年の第3四半期と第4四半期の2四半期しか活躍の時期がない。つまり、実質的に来年冬モデルしか有効でないソリューションなのだ。そのために、開発リソースを割き、またOEMメーカーにもマザーボードをデザインしてもらうというのは、あまり得策ではないとIntelは考えたのだろう。

 それから、性能とコストの面でも問題があった。今の流れとしては、ほかのベンダーのグラフィック統合チップセットはメインメモリをDDR SDRAMにしてメモリのボトルネックを取り払い性能を向上させる方向へ向かっている。ところが、Almadorは、メインメモリはPC133のままで、RDRAMでメモリ帯域を広げるという構成だ。これは、Almadorがメインストリームのボリュームゾーンを狙う上で、コストパフォーマンスに優れたアプローチになるとは思えない。

 Almadorは、こうしたことからキャンセルになったと思われる。ただし、IntelはモバイルではTualatinを2002年の主力に据えるつもりで、そちらではモバイル版チップセットAlmador-Mを提供する。また、デスクトップでも、Intel 815系チップセットのステッピングをチェンジして、新たにTualatinに対応できるようにする見込みだ。ただし、すでに述べた通り、IntelはTualatinのサポートにはもうあまり積極的ではない。i815でのTualatinサポートは、万が一を考えてという程度のものなのかもしれない。

●日本のPCメーカーには影響が大きいAlmadorのキャンセル

 Almadorのキャンセルは、日本のPC市場にとっては影響が大きい。それは、日本のデスクトップの主流になってしまった薄型タワーに入れられるCPUが限られてしまうからだ。Tualatinはクロックが上がるだけでなく、Coppermineよりも消費電力と発熱が減る。そのため、薄型筺体に入れやすい。日本ではそこに期待が集まっていたのだ。

 ところが、Tualatinがデスクトップでほぼ使えなくなってしまうと、来年の冬商戦時に、スリムタワーに入れられる手頃なCPUが、Pentium III/4系ではなくなってしまう。というのは、この時点でWillametteは発熱が多すぎるため、薄型のボディにはまず入れられない。また、Coppermineも1GHzクラスになっているため、やはり薄型には入れにくい。Coppermineは、アーキテクチャ的に高クロック化の限界に来ているためか、高クロック品は熱暴走しやすい。そのため、1GHzなどの高クロックチップは、ダイの温度を低く保つ必要がある。つまり、消費電力の上昇分以上に、放熱機構を強化する必要があるわけだ。Northwoodの発熱量はWillametteと比べると少ないが、来冬の時点ではまだ価格が高すぎる。こうした事情から、デスクトップ版Tualatinの後退による日本のPCメーカーの反発は必至だ。


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(2000年11月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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