●Intel 815のグラフィックス削除版も登場
ついにIntelがDDR SDRAMサポートを一部のOEMメーカーに向けて説明し始めたようだ。OEM筋からの情報によると、Pentium 4用チップセットの第2世代「Brookdale(ブルックデール)」にDDR SDRAMバージョンが登場するという。これは「Brookdale-DDR」と呼ばれるチップセットで、来年第3四半期に登場するSDRAM版のBrookdale-SDRAMよりやや遅れて、2002年頭までに登場するようだ。また、USB2.0をサポートする新しいICH(I/O Controller Hub)チップ「ICH3」はどうやら遅れているらしい。
このほかにもチップセット関連のアップデートが相次いでいる。まず、Intel 815Eチップセットのカットアウト版「Intel 815EP」が来年頭に登場する。これは、内蔵グラフィックスコアを使えないようにしたバージョンで、事実上「440BX」の後継として据えるつもりだ。Intelは、このi815EPに関しては、いきなりOEMにアナウンスしたようだ。
Intelはサーバー&ワークステーションでもIA-32系CPU用チップセットを拡張する。ワークステーション用の「0.13μm版Pentium 4(Prestonia:プレストニア)」向けに「Placer(プレイサ)」を投入、サーバー用Prestonia向けには「Plumas(プルーマス)」をリリースする。また、「0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)」向けサーバーチップセットとして、ServerWorksのほかにMicronのチップセットもIntelが採用するようだ。
いよいよ、Intelがデスクトップからサーバーまでのプラットフォーム戦略の路線を明確にし始めた。
●BrookdaleはSDRAM/DDR SDRAM両対応の可能性が高い
IntelはこれまでBrookdaleについて公式には「来年登場する、PC133をサポートしたチップセット」とアナウンス(コードネームは認めていない)していた。しかし、DDR SDRAM版がロードマップに登場したことで、BrookdaleのメモリインターフェイスがSDRAM/DDR SDRAM両対応になっている可能性が高くなった。別設計のチップを作るより、一つのダイ(半導体本体)に統一した方が、製造面では経済的だからだ。そうすれば、後工程で(ヒューズやボンディングオプションによって)SDRAM版とDDR SDRAM版を作りわけることができる。実際、IntelはOEMメーカーに、Brookdale-SDRAMとBrookdale-DDRの両方のサンプルチップを、来春同時期に提供すると通告してきたという。サンプルが同時期ということは、同じダイと考えるのが自然だ。
しかし、Brookdale-SDRAMとBrookdale-DDRのスケジュールにはズレがある。IntelはBrookdale-DDRの量産スケジュールについて、今回、2段階の予定をOEMに通告してきたという。(1)順調に行なった場合は、来年の冬商戦にぎりぎり間に合う時期に量産出荷。(2)確実な線では2002年の頭に量産出荷。という2段構えだ。
IntelのDDR SDRAMサポートが来年第4四半期から2002年頭というのは、かなり遅く感じるかもしれない。しかし、これには3つの妥当な理由が考えられる。
ひとつは、アグレッシブなスケジュールはIntel 820+RDRAMで懲りたという可能性だ。i820の時は、押せ押せのスケジュールで遅延を繰り返し、その結果、RDRAMのラウンチ自体も失敗してしまった。しかし、今度のスケジュールは初めから確実なラインは2002年頭と最初から断っているわけで、大事をとっている雰囲気がある。
二つ目は、DDR SDRAMプラットフォームの互換性検証にかなりの時間がかかることだ。DDR SDRAMはメモリモジュールのガーヴァーの共通化など、規格化は以前のSDRAMの時と比べると格段に進んでいるものの、プラットフォームレベルで互換性を確実にするにはまだかなりの作業が必要だ。Intelとしては、バリデーションに最低半年から3四半期はかかると見ているのだろう。RDRAMの時のようなバリデーションを、何らかのカタチでやる必要があるかもしれない。そうした作業の余裕を見ると、無理のないスケジュールは2001年第4四半期以降ということなのかもしれない。同じBrookdaleでも、DDR SDRAM版の方が遅れるのは、このバリデーションのためだと思われる。
三つ目は、DDR SDRAMが本格化し始めるのは、実際には2001年中盤以降になりそうだということだ。DRAMベンダーの中のDDR派は、Rambusに対するけん制もあるためかDDR SDRAMについて威勢がいい発言が多いが、現実的には来年中盤からと踏んでいるフシがある。また、価格も、今のところはDDR SDRAMとSDRAMでかなりの差がある。DDR SDRAMの本命が、0.15μm以下のプロセスでSDRAM/DDR SDRAM共通ダイ(半導体本体)の製品だと考えると、時期的には来年後半からということでだいたい合う。
●追い込まれるRDRAM
IntelがDDR SDRAMをPentium 4プラットフォームでサポートすると、RDRAMは窮地に陥る。それは、RDRAMの性能優位が揺らいでくるからだ。
64ビットインターフェイスのDDR SDRAMのメモリ帯域は2.1GB/sec(PC266 DDR SDRAM時)。それに対してデュアルチャネルのRDRAMの帯域は3.2GB/sec(PC800時)。依然としてRDRAMの方が帯域では優位だが、おそらくこの差はほとんど性能には出てこないだろう。それで、DDR派のDRAMベンダーが言うようにDDR SDRAMの方が価格が安くなるのなら、RDRAMはデスクトップPCのエリアからは実質的に駆逐されてしまう可能性が高い。
IntelのRambusへの態度にも変化の兆しが見える。先週は、ちょうど時期を見計らったようにIntel幹部のRambusへの失望を表明するコメントが新聞記事「Counting cost of Rambus partnership」(The Financial Times,2000/10/18)に載った。この記事の中でIntelのクレイグ・R・バレット社長兼CEOは結構RDRAMについて辛辣なことを言っている。これは、裏返せばDDR SDRAMへのエールでもある。
また、業界関係者によると、Intelは2002年に提供するパフォーマンスチップセットがRDRAMベースになるという説明もやめたという。RDRAMからIntelがまたひとつ後退したのは確かなようだ。
●815のグラフィックス抜き版も提供
IntelはPentium IIIプラットフォームでもチップセット戦略を切り替えた。440BX後継チップセットを望む声と、チップセット市場での他ベンダーの攻勢に押されて、ついにIntel 815Eチップセットのカットアウト版をリリースすることにしたのだ。Intelは、特定ベンダーにこの“グラフィックス抜き”のi815EPを来年頭から供給するらしい。
Intelは、単体チップセットはRDRAMベースのi820のみで、SDRAMベースのチップセットはグラフィックス統合という路線を取ったために「単体チップセットでPC133 SDRAMと133MHz FSB(フロントサイドバス)をサポートするチップセット」がなくなってしまった。そのため、440BXを無理矢理延命せざるをえなかった。AGPポートを持つi815はその窮状を救うリリーフとして登場したのだが、Intelがグラフィックスコアの分のコストを価格に上乗せしたために、440BXの完全な後継になることはできなかった。その結果、チップセット市場はVIA Technologiesなどに浸食され、Intelのシェアは大きく後退してしまった。
i815EPはこの状況を救うための製品だ。Intelのやることは簡単だ。ラフに言ってしまうと、i815Eのグラフィックスコアを後工程のボンディング段階で殺して、パッケージの刻印を変えるだけですむ。実質的には、内部グラフィックスを使わないOEMのための、i815Eのディスカウント版とも言える。
このほか、Intelのデスクトップチップセットでは目立たないが大きな変化がひとつあった。それは、USB 2.0サポートのICH3が後ろへずれ込んだことだ。これについてはまだ詳細がわかっていないが、少なくとも来年中盤のPentium III向けチップセット「Almador(アマドール)」に含まれているのはICH3ではなくICH2らしい。
サーバー&ワークステーション向けチップセットでは、冒頭で説明したように、PlacerとPlumasというチップセットが来年終わりから2002年頭にかけて登場してくる。しかし、いずれもデュアルプロセッサ用のようだ。また、Plumasまでの期間、Intelのサーバー用チップセットは空白になってしまうわけだが、そこはサードパーティのチップセットがカバーする。そのためにIntelは、これまでサーバー&ワークステーション向けチップセットベンダーのServerWorksを後押ししていたのだが、MicronもIntelと提携したらしい。業界筋の情報によると、MicronもPentium III系サーバー向けにチップセットを提供するという。
(2000年10月27日)
[Reported by 後藤 弘茂]