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元麻布春男の週刊PCホットライン

WORLD PC EXPO 2000で気になったもの


●民生用DVD-RWを展示したパイオニア

 今週も、前回に続きWORLD PC EXPO 2000からの話題だ。残念ながら筆者は、国内では最大規模のこの展示会の会場を、舐めるように見て回ったわけではない。だが、かといってSuperDiskの話しか聞かなかったわけでもない。ほかにもいくつか楽しみにしていたものがあった。そのうちの1つがDVD-Rドライブだ。

 以前、このコラムでも取り上げたように、現在オーサリング向けに売られているプロフェッショナル用(オーサリング用)のDVD-Rドライブに加え、一般用途向けのDVD-R/DVD-RWドライブの開発が進められている。技術的には両者の最大の違いは、前者が635nmのレーザーを使うのに対し、後者は650nmのレーザーを使う、ということにある。が、何よりユーザーにとって最も重要な違いは、プロフェッショナル用のドライブが1台100万円近いような価格で売られているのに対し、一般用のドライブは普通のユーザーが購入可能な価格になるであろう、ということだ。この一般向けのDVD-R/DVD-RWドライブが、おそらく初めてWORLD PC EXPO 2000で展示される予定だということは事前に聞いていた。

 確かに、会場のパイオニアブースには、一般向けのDVD-R/DVD-RWドライブ(ちなみにプロフェッショナル用のドライブにRW機能は提供されないから、RW機能があることイコール一般用と考えて良い)の展示があった。だが話を聞くと、展示されているのはトレイが動くだけのモックアップで、会場に動作する一般向けのDVD-R/DVD-RWドライブはないとのこと。社内には試作品はあるらしいのだが、まだ5インチハーフハイトのフォームファクタになっていないのだという。すでにプロ用が5インチハーフハイトになっている以上、一般向けドライブを技術的に5インチハーフハイトで作れない、ということはないハズだ。まだ規格が完全にフィックスしていないため、製品用のASICが作れないため、基板がディスクリートのチップで構成されているとか、そういった事情ではないかと思う。何にせよ、若干スケジュールは遅れ気味のようだ。

 先行するDVD-RAMに対しDVD-R/DVD-RWの利点は、メディアを既存のDVD-ROMドライブや民生用のDVD-Videoプレイヤーで読み取れる、ということにある。もちろんドライブやプレイヤーのメーカーが、実際にDVD-RやDVD-RWのメディアとの互換性を保証するかというと、これはまた別問題だが、かなりの確率で読み出せるらしい。たとえば、DVD-RにDVD-Video互換のフォーマットで書きこんだムービーをプレイステーション2で再生することは、(おそらくソニーは保証しないだろうが)現時点で可能だという。もちろん、こうした互換性を実現するには書き込みソフトウェアも重要になるわけだが、DVD-RAMドライブに対抗するには書き込みソフトウェア込みで5万円台の実売価格(PC用の内蔵DVD-R/DVD-RWドライブ)が求められるだろうし、PCへの標準搭載(OEM採用)を目指すのであれば、さらに低価格化する必要がある。こうした課題をクリアして、早期に製品が登場することを期待したい。

 なお、パイオニア製のDVD-ROMドライブは、公式にDVD-RおよびDVD-RWメディアの互換性を「保証」するのは16倍速の世代からとのことだった。またDVD-Rの書き込みは、書込み中にほかのプログラムを実行させなければバッファアンダーランすることはないものの、ほかのプログラム等を実行すると書き込みエラーが生じ得るという。つまりCD-RでいうBURN-ProofやJust Linkのような機能は備えていないことになる。

 先週のSuperDisk 240MBにせよ、DVD-R/DVD-RWにせよ、こうした光技術を用いた(SuperDiskはサーボだけだが)ストレージというのは、PCにあってまだ日本が技術的な優位性を持つ分野だ。半導体は米国のファブレスベンチャーが設計し、台湾等のファウンダリが製造するというパターンが定着してしまった。完成したチップを使ったカードやボードも、多くの場合台湾企業の手によって作られる。液晶パネルやDRAMも、台湾や韓国(特に韓国)の追い上げが激しい。そんな中にあって光ストレージの分野は、コンシューマー機器とのリンク、レーザー素子の開発など、日本企業が今でも競争力を保っており、国内の展示会では注目すべき分野だと考えている(PC本体に興味がないわけではないのだが、フタを開けないことには気が済まない筆者にとって、こうした展示会はあまり面白くない)。

●デスクトップPCに高速バスは不要なのか

 さて、先週のSuperDiskに加え、事前に話を聞く約束があったのが、InfiniBandだ。InfiniBandというのは、一番最初はNGIO、次にSystem I/Oなどと呼ばれていたスイッチベースのI/O技術。記憶力のいい人なら、Intelが次世代のI/O技術にNGIOを推すのに対し、IBM、HP、CompaqがPCI-Xを推して、一時対立した話を覚えているかもしれない。筆者が今回確かめたかったのは、果たしてInfiniBandはPCに関係するのか、ということだった。

 InfiniBandは、必要に応じて複数のリンクを用いることで、非常に広い帯域を提供することが可能だ。また、Fibre Channel等と異なり、目的はストレージに限らない。ネットワークであろうとストレージであろうと、接続することができる汎用のI/O技術だ。もちろん、筐体内部のI/Oにも、外部のI/Oにも用いることが可能である。

 と、何だか良いことづくめだが、果たしてこれがPCに降りてくる技術なのか、というとまた別問題だ。おそらく当初はPCには高価過ぎることは間違いないが、価格については、量産規模や技術革新によって解決する可能性がある。それより問題なのは、ソフトウェアサポートではないかと思う。今回確かめたところ、InfiniBandのHCA(Host Channel Adapter、ホストコントローラやホストアダプタに相当するものと考えれば良い)とホストシステムのメモリコントローラ(PC的に言えばNorth Bridge)の間のインターフェイスは、特に規格として統一されないとのことだった。

 たとえば現在PCで普及しつつあるPlug and Playの外部I/Oの場合、IEEE-1394はOHCI、USBならUHCI/OHCI/EHCI(USB 2.0)など、ホストアダプタとNorth Bridgeの間のインターフェイスには、レジスタレベルでの統一規格が存在する。だからこそ、これに準拠する限り、OSが標準サポートするドライバで様々なアダプタがサポートされるし、逆にOSは1つの標準をサポートするだけで、事実上ほとんどすべてのハードウェアをサポートすることができる。これが今のPCの在り方だ。

 しかしInfiniBandでは、あえてホストインターフェイスは統一せず、HCAを実装する会社の判断に委ねられる。つまり、ハードウェアごとにドライバを用意せねばならない。おそらく、最適化されたI/Oを実現するためには、単にドライバでの対応だけでなく、OSのカーネルやHALのレベルでの対応が必要になるだろう。InfiniBandは当初はそうしたソフトウェアサポート力のある大手ベンダのためのインターフェイスになる可能性が高い(うがった見方をすれば、Intelの標準化攻勢に対し、大手ベンダに技術力発揮の余地を与えるインターフェイス、ということなのかもしれない)。

 シナリオとしては、IntelがInfiniBandをサポートしたチップセットをリリースする、それが標準規格ではないもののデファクトスタンダードになる、それがOSで標準サポートされる、PCに降りてくる、ということも考えられなくはないのだが、果たしてPCにInfiniBandを必要とするアプリケーションがあるか、ということも疑問がある。当面グラフィックスはAGPを使いそうだが、ネットワークやサウンドはオンボード化、あるいはソフトウェア化が進んでいくだろう。ストレージはSerial ATAを使うことになりそうだ。ここに480MbpsのUSB 2.0を加えたとき、PCIバスを必要とするのはIEEE-1394のホストアダプタ(DVキャプチャ用)だけになるかもしれない。InfiniBandを必要とするアプリケーションはPCにはないかもしれない。

 ただ気になるのは、本当にPCから汎用の高速バスがなくなって良いのだろうか、ということだ。現在PCに使われている32bit幅33MHzのPCIバスは、最大データ転送速度が133MB/secに過ぎず、もはや「高速」とは言えなくなりつつある。このPCIをリプレースする技術がサーバには提供される(InfiniBand)が、PCには提供されないとなると、PCの自由度はまた大きく制限されることになる。たとえば、SCSIはパラレルインターフェイスを維持したまま、高速化を続けているが、すでに普通のPCではUltra 160のホストアダプタをインストールするバスは存在しない。ターゲットであるサーバやワークステーションなら64bit PCIや66MHz PCI(あるいは64bit/66MHz PCI)を使うことになるだろう(InfiniBandの先にパラレルSCSIのホストアダプタを接続するのも「あり」だろう)が、それはPCには存在しないバスだ。PCで利用できる高速I/Oは、チップセットに統合されたものだけ、というのが今の流れである(現時点でチップセットへの統合を表明したベンダがないという意味で、SCSIやIEEE-1394には、PCのI/Oとしての将来はないことになる)。PCを小型に、そして安価に、という大きな流れの前では、PC向けの汎用高速バスというのは贅沢過ぎる技術なのかもしれない。

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WORLD PC EXPO 2000レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/link/wpe00_i.htm

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(2000年10月25日)

[Text by 元麻布春男]


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