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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Athlonの性能を15%伸ばすDRAM内蔵チップセット「Mamba」


●DRAMベンダーだからこそのチップセット

ディーン・A・クライン氏
 Micron Technologyは、じつに変わったチップセットを考えている。8MBのDRAMをL3キャッシュとしてチップセットに内蔵、メモリアクセスのペナルティを減らすことでプロセッサの性能を最大限に引き出そうと言うのだ。Micronによると、このチップセットでCPU性能は最大15%アップするという。原理的には、メモリアクセスとCPU内部クロックの差が大きくなればなるほど性能が上がるため、高クロックのAthlonほど性能が伸びることになる。

 10月10日から始まったCPU関連カンファレンス「MICROPROCESSOR Forum」に登場したMicronのディーン・A・クライン氏(Vice President、Integrated Products)は、のっけから「自分はメモリガイだからこそ、違う路線から見ることができる」と宣言。DRAMベンダー最大手の1社らしい、このDRAM混載チップセットを説明した。


SamuraiDDRの無駄なダイ面積
 クライン氏によると、多くのチップセットはシリコンをかなり無駄遣いしているという。本来チップセットの機能に必要なダイサイズ(半導体本体の面積)はそれほど大きくないのだが、バッドの数を確保するためにダイが大きくなっているのだという。これは、チップセットの場合、インターフェイスの数が多く、しかも高速で広幅バスが多いためだそうだ。例えば、同社の0.25μmプロセスのチップセット「Samurai DDR」の場合、ダイのうち40%(パッド部分は除くらしい)が使われていないスペースだという。右の写真で赤く示されているのが、無駄になっている面積だ。

 Mambaの基本的な発想は、この“空きスペース”をうまく利用し、そこにDRAMセルを詰め込んでしまおうというものだ。Mambaは0.15μmプロセスを想定しているため、原理的にはSamurai DDRよりさらに空きスペースは増えてしまう。それなら、そこにeDRAM(混載DRAM)を入れ込んでも、ダイサイズ(=コスト)は変えずに性能をアップさせることができるというわけだ。


●8MBのDRAMをL3として搭載

Mambaのダイブロック図
 Micronは、同社の通常のDRAMセルをeDRAMとして使うことで、DRAM面積を抑え、8MBのDRAMの内蔵を可能にするという。1MBのDRAMのセルとコントロールやパスを合わせたアレイのサイズは約4.06mm×1.004mmで、面積では約4平方ミリメートルと非常に小さい。右のMambaのブロック図を見てもらえばわかるが、Micronは、このセルを8つ、チップセットのコアの両側に並べる形で配置する。8MBものL3があれば、ほとんどのケースでヒットするだろうというのがMicronの予想だ。それにより、性能は最大で15%以上アップするという。

 Micronは、eDRAMをL3キャッシュとして使うために、いくつかの工夫もこらした。まず、同社の通常のeDRAMコアと比べて、アクセスレイテンシを減らした。これは、キャッシュではレイテンシが問題になるからだ。ページヒット時のレイテンシは、通常eDRAMが7クロックであるのに対して、MambaのeDRAMは5クロックだという。その代償として、eDRAMコアひとつ当たりの帯域は、通常eDRAMの3.2GB/secから2.4GB/secに減った。だが、これは1コア当たりの帯域であり、システムとしての帯域は広い。Mambaでは同時に4つのeDRAMコアと4つのデバイスポートにノンブロッキングアクセスが可能なため、サステインで9.6GB/sec(2.4×4)のL3帯域が確保できる(ピークは19GB/sec)という。


 チップセットだけで15%の性能アップ。パフォーマンスクレイジーにはなかなか魅力的な話だが、今回は技術発表で、まだ製品化の計画などは明らかになっていない。製品化するとしても、0.15μmが本格的に立ち上がってからとなるだろう。そうすると、早くて来年後半ではないだろうか。


●Mambaは将来への布石か

Mambaスペック
パッケージ670ピンBGA
対応CPUAthlon/Duron
グラフィックスAGP 4Xモード
メモリDDR SDRAM
I/OPCI-X
eDRAM8MB
 また、従来、DRAM混載製品は、それほど成功を収めてはこなかったため、Mambaも成功するかどうかがわからない。それは、DRAM混載が技術的な困難を抱えていたからだ。一般に、DRAMベースのDRAM混載ロジックは性能面が制約され、ロジックベースのDRAM混載ロジックはコストが高くなる。ちなみに、今回のMicronのアプローチはDRAMベースだ。MicronがDRAMベースでうまくいくとしている理由は、DRAMベースでも性能がリーズナブルなレンジに上がったと見ているからだ。

 もっとも、DRAMベンダーの多くは、DRAM混載への流れは、アプリケーションによっては確実なものだと見ている。次の0.15μmや0.13μmプロセスになると、DRAM混載は本格化してくるとうい見方もある。また、PlayStation 2のGraphicsSynthesizerのような、DRAM混載の成功事例も出てきている。


 チップの集積度が高まり、ロジックに普通に大容量のDRAMが混載されるようになると、かなりコンピュータ関連デバイスの姿も変わってくる可能性がある。今回のMambaは8MBのeDRAMをL3キャッシュとして混載しているわけだが、当然この先には、システムに必要なメモリを全て混載してしまうという考え方が待っている。Micronにしても、そうした読みがなければ、Mambaのような実験はしないだろう。

 例えば、1Gbit DRAMがそれなりのコストに収まるダイサイズになって来たときに、その半分の面積をチップセットロジックに割り当てれば、512Mbit=64MBのeDRAMの混載が可能になる。ローコストPCならこれで一応成り立ってしまう。そうすると、例えば、CPUとメインメモリeDRAM混載チップセット、ビデオメモリeDRAM混載グラフィックスチップの3チップだけで、基本的にPCができる。しかも、メモリ性能はアップするのだから、オーバーオールの性能もそこそこは出せる。

 Micronが、このMambaのテクノロジをどう生かしてゆくのか、注目する必要がある。ちなみに、Mambaとはどうやら毒ヘビの一種らしい。その毒は、一体どちらに向けられるのだろう。


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(2000年10月12日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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