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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

AMDは今年後半から来年前半に3つのモバイルCPUを投入

●SpitfireコアでモバイルDuronの時期を早める

 モバイルDuronは、やっぱり“Duron”だった。
 米国サンノゼで現在開催されているハードウェア関連の技術カンファレンス「Platform 2000」(7月18、19日)で、AMDは、モバイルDuronのCPUコアが、デスクトップ版Duronと同じコードネーム「Spitfire(スピットファイア)」であることを明らかにした。これは、AMDのプロダクトマーケティングマネージャのマーティン・ブース氏が認めたもので、詳細なやりとりは笠原一輝氏のレポートにある。このコラムでは、AMDがモバイルDuronをSpitfireコアにすることで早期に投入するという推測をしていたが、今回はそれが裏付けられた格好だ。

 AMDがDuronをノートPCに搭載できるのには3つの理由がある。ひとつは、SpitfireコアがAthlon(Thunderbird:サンダーバード)よりも小さく、放熱量が比較的少ないこと。比較的低いクロックで投入するため、低電圧にして消費電力を下げられること。そして、ノートPCを設計する際に、CPUの放熱にどこまで対応できるようにするかの基準である熱設計電力(Thermal Design Power)がどんどん上がっていることだ。
 Platform 2000のセッションで、ブース氏は2000年のノートPCの熱設計枠は20W以上であるとのべ、さらに今後、熱設計枠は上がると予測した。逆を言えば、これはAMDがその枠内でモバイルCPUを投入してくることを意味している。そして、Duronはこの枠に収まるのだ。

●700MHz程度までならモバイルに持ち込める

 これは、以前のコラムでも書いたが、1.5Vで駆動しているデスクトップ版Duronを、1.4Vに下げると各クロックのDuronのThermal Design Powerは、計算上(データシートを元に計算)は下のようになる。

  最大値 典型値 電圧
550MHz 18.4W 16.4W 1.4V
600MHz 19.7W 17.7W 1.4V
650MHz 21.1W 19.0W 1.4V
700MHz 22.2W 19.9W 1.4V

 これを見る限り、Duronを1.4Vで駆動すれば現在のノートPCの熱設計枠になんとか収まる。ここで1.4Vとしたのは、AMDのプロセスでこれまで製品出荷されているもっとも低い電圧が1.4Vだからだ。つまり、AMDは今持っている技術だけで、700MHzまでのモバイルCPUを、比較的早期に出すことができるのだ。Intelが、モバイルCeleronのハイエンドを600MHz以上に引き上げてしまったため、AMDはできるだけ早くオーバー600MHzのモバイルCPUを必要としている。SpitfireコアのモバイルDuronはそれにぴったりのソリューションというわけだ。

 じつは、AMDはすでにモバイルDuronをOEMメーカーにサンプル出荷している。モバイル向けチップセットはALiがAladdin-K7 M1647を開発しており、近いうちに発表を行なうという。そうすると、順調に行けば年末商戦にモバイルDuronノートPCが登場することになる。つまり、Intelの600MHz以上のモバイルCeleronを迎え撃つのに間に合うことになる。

 ところでブース氏は、このモバイルDuronにもAMDの省電力テクノロジ「PowerNOW!」が搭載されるという。しかし、モバイルDuronは、「AMD-K6-2+」ほどPowerNOW!で大きく消費電力を下げることができないだろう。というのは、K6-2+の場合にはAC電源時の電圧がそもそも2Vと高く、それをミニマム1.4Vに切り替えているからだ。もし、モバイルDuronのAC電源時の駆動電圧が1.4Vなら、あまり大きな電圧切り替えは期待できない可能性が高い。そのためか、AMDのモバイルDuronの説明のスライドには、PowerNOW!のサポートが明記されていない(モバイルAthlonには入っている)。

●モバイルAthlonのクロックは?

 では、モバイルDuronが700MHzまでを達成できるとして、モバイルAthlonはどこまでのクロックを達成できるのだろう。あるOEMによると、AMDはPCメーカーに対してモバイルAthlonで800MHz以上を約束しているという。来年中盤にハイエンドが1GHzに達するPentium IIIに対抗するには、900MHzは実現できるようにしたいところだろう。問題は、そのクロックを、普通の熱設計のノートPCに載せられるかどうかだ。  現在のデスクトップ版のキャッシュ統合Athlon(Thunderbird)のThermal Design Powerは以下の通りだ。

  最大値 典型値 電圧
750MHz 40.4W 36.3W 1.7V
800MHz 42.6W 38.3W 1.7V
850MHz 44.8W 40.2W 1.7V
900MHz 49.7W 44.6W 1.75V

 これをモバイル版で、駆動電圧を1.4Vに下げることができるとしたら、消費電力は64~68%になるので、計算上は下のようになる。

  最大値 典型値 電圧
750MHz 27.4W 24.6W 1.4V
800MHz 28.9W 26.0W 1.4V
850MHz 30.4W 27.3W 1.4V
900MHz 31.8W 28.5W 1.4V

 CPUコアの改良で内部抵抗を多少下げることができたとしても、これでは900MHzをノートPCに載せることはできない。ちなみに、前にこのコラムでモバイルAthlonのThermal Design Powerを計算した時は、じつは、計算を間違えていた。シート上で参照する数字が違っていたという単純なミスで、ここでおわびしておきたい。

 さて、AMDのモバイルAthlonは、モバイルDuronとはCPUコアのデザインが大きく異なる。Fab 30の銅配線プロセスに最適化された新しいCPUコアを使った「Corvette(コルベット)」がモバイルAthlonだ。そして、今回のPlatform 2000では、この新コアではデザインの改良により、より低い電圧での駆動を実現し、大幅にパワーを減らすと説明された。ブース氏は、より低い電圧がどの程度なのかは答えてくれなかったが、Duronより低い電圧でないと高クロックを達成できない。では、Corvetteで1.3Vまで電圧を下げることができたらどうなるか、Thunderbirdコアで同様に試算してみよう。

  最大値 典型値 電圧
750MHz 23.6W 21.2W 1.3V
800MHz 24.9W 22.4W 1.3V
850MHz 26.2W 23.5W 1.3V
900MHz 27.4W 24.6W 1.3V

 これに、電圧以外の要素で消費電力を減らす分と、PCメーカーの熱処理能力が上がる分を含めれば、計算上ではなんとか行けそうだ。しかし、実際には、AMDが1.3Vまで電圧を下げることができるようになるかどうかはわからない。低電圧駆動は、AMDにとって決して得意なことではないからだ。プロセス技術や回路設計、いろいろな面での改良が必要になる。しかも、低電圧で高クロック駆動ができるCPUは、少ししか採れない。そのため、高コストになってしまう。しかし、逆を言えば、AMDはこれくらいのことができないと、ノートPCにAthlonを載せることができないというわけだ。つまり、ハードルは依然として高いことになる。

●AMDにとって有利な戦略は下の市場に集中することか

 Intelは来年中盤には早くも次の製造プロセス0.13μmテクノロジで製造するPentium IIIを、来年後半には0.13μm版のPentium 4をモバイルに持ってくる。AMDが、あくまでもIntelとクロックで競ろうとするなら、道のりは厳しい。デスクトップと違って、熱設計が壁となり高クロック品をガンガン繰り出せないからだ。
 そのため、AMDにとっていちばん論理的なモバイル戦略は、あまり上は攻めないで、比較的低いクロックのエリアに集中することになる。具体的に言えば、対モバイルCeleronと、モバイルPentium IIIのローエンドあたりまでに集中することだと思われる。

 AMDは、今のSpitfireコアのモバイルDuronの他に、CorvetteのダウンバージョンのモバイルDuronの計画(コードネームCamaroとウワサされている)を持っていると言われる。これは、Corvetteよりも2次キャッシュの量を減らしたものだと想像される。新設計のCPUコアで2次キャッシュを大幅に減らし、電圧を下げることができれば、試算では800MHz以上も載せられるようになると思われる。
 今のDuronではせいぜい700MHzまでしか載せられないとすると、それでモバイルCeleronを抑えきることができるのは年内いっぱいだ。IntelがモバイルCeleron 750/800MHzを投入してくる来年前半には、AMDもこの新しいモバイルDuronを投入していなければならないだろう。この想像が当たっているとすると、来年のAMDは、SpitfireコアのモバイルDuronでローエンドを支え、その上のクラスでは次世代コアのモバイルDuronで対抗、モバイルPentium IIIにはCorvetteで対抗するという3段の布陣をしかなければならない。AMDが、3つのモバイルAthlon/Duronの計画を持っているのは、そのためだろう。


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(2000年7月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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