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■ケーブルインターネット接続の仕組み


●CATVシステムの概要

 システムとしてのCATVは、屋根の上のアンテナ線を分配して各部屋に引き込む家庭用の設備を大掛かりにしたものと考えてよい(距離や分配数は桁違いだが)。CATVの放送設備をヘッドエンドといい、ここから同軸ケーブルや光ファイバーを使って信号が送り出される。ケーブルは、ヘッドエンドから順次ツリー状に分岐されエリア内をカバーしている。家庭への引き込みは電話と同様、電柱そのそばにあるタップオフ(引き込み用の端子)から分岐し、保安器を経由して屋内に配線される。

 ケーブルの伝送能力は、一般に使われている同軸ケーブルのもので450MHz程度。主幹に光ファイバーを用いたハイブリッドタイプ(HFC~Hybrid Fiber/Coax)で750MHz程度の帯域が利用でき、76~222MHzのVHF放送帯(FMラジオとテレビ)には、地上波の信号がそのまま送信される(空いているチャンネルで自主放送を送信する局もある)。したがって、共視聴用のCATVの場合はこれでおしまい。

【帯域マップ】

 多チャンネル局の場合は、空いている高周波帯に衛星放送やスペースケーブルなどのチャンネルを割り当てており、ホームターミナルを使って受信する。ちなみに、テレビ放送の1チャンネルは6MHzなので、全域がフルに使えると仮定した場合には、同軸で38({450-222}÷6=38)、HFCで88({750-222}÷6=88)チャンネル分確保できる計算になる。これらは、基本的に局からユーザ方向の下り専用であり、双方向対応の場合には、低域側の10~50MHzを上り用に使用する(有線放送やホームセキュリティなどに使われてしまっている場合もある)。ヘッドエンドとの間には、増幅器や分配器、保安器等が介在しているので、インターネット接続やCATV電話などを実現するためには、これら中継機器が全て、下り信号だけでなく上り信号も正しく処理する双方向対応になっていなければいけない。この辺は、一戸建ての場合にはどうにでもなるのだが、集合住宅の場合には既設の配線次第で実現が難しかったり、異なるアプローチを採らなければならい。


●ケーブルモデム

 CATVは、電波を使った通常の放送と同じ信号をケーブルを使って伝送している。放送は、映像や音声を決まった周波数帯の信号に乗せて送り(変調)、必要な周波数帯を受信して元の信号を取り出す(復調)仕組みだが、これと同じ事を1本のケーブルの中でやっているのである。インターネット接続用のデジタル信号も、これと同じやり方で伝送する。空いている周波数帯にデジタル信号を乗せてしまうのである。このような変調/復調を行なうデバイスを一般にモデム(modem~modulator/demodulator)といい、CATV用のものは特にケーブルモデムと呼ばれている(ユーザーで用意するのではなく局からレンタルする)。電話回線に使用する音声帯域用のモデムの高周波版というわけで、これをユーザー側と局側(仕様は当然異なる)に設置し、CATVの上りチャンネルと下りチャンネルの2つの周波数帯を使って双方向通信が行なえるようにしている。間に入るメディアとデバイスは異なるが、電話回線を使ってプロバイダに接続するのと基本的には同じ構成だ。

 変調方式には、コンディションの良好な下りには、位相差と振幅差を使ってbitの状態を伝送する直交振幅変調(QAM~Quadrature Amplitude Modulation)を使ったものが一般的で(1回の変調で64値をマッピングするQAMが多い)、1チャンネル分の6MHzをフルに使用し、30Mbps程度の容量が確保できる。ただし、これはあくまでモデム間の仕様上の能力であり、局側のインターネット回線やトラフィックに大きく左右されるし、帯域制限がかけられていることも多い。

 CATV網は、ヘッドエンドからツリー状に分岐し、多数の端末がぶら下がるスタイルなので、上り方向には末端からのノイズが累積して行く形になる(流合雑音と呼ばれる)。上りは下り並みのコンディションが期待できないため、スループットよりもノイズ耐性を重視。位相差だけを使ってbitの状態を伝送する、位相変調(PSK~Phase Shift Keying)がよく用いられる(4つの位相差を使う4相のPSKが多い)。こちらは、6MHzフルで10Mbps程度。一般的なインターネットの使い方では、上り方向の伝送量は圧倒的に少ないので、使用帯域を数100kHz~2MHz程度に押さえた設計のものが多い(上下10Mbpsの対称モデムもある)。

【CATVのしくみ】


●標準的な接続環境

【端末接続】

 ケーブルモデムの場合は、CATV側のインターフェイスに同軸用のF型コネクタ、PC側のインターフェイスに10Base-T用のRJ-45が出ており、同軸を接続して通電すると自動的にチャンネルをスキャンして通信が確立される。ケーブルモデムの電源は入れっぱなしが原則なので、メディア的には常に接続された状態。ちょうど、局のHUBポートが家まで出張して来た感じになっているので、PCをつないでネットワークの設定を行なえばよい。

 一般向けのサービスの場合は、局のDHCPサーバからIPアドレス(グローバルアドレスのところもあればプライベートアドレスのところもある)等を取得し、端末を自動的にセットアップするスタイルになっているので、ネットワークの設定も基本的には何も要らない。Windowsマシンの場合は、ネットワークカードを組み込むとデフォルトでTCP/IPのDHCPクライアントにセットアップされるので(ドライバとプロトコルスタックが組みこまれ、「TCP/IPのプロパティ」の「IPアドレス」が「IPアドレスを自動的に取得」の状態になる)ケーブルモデムにつないで起動すれば、即インターネットが利用できる状態になる。

 なお局によっては、予めネットワークカードのMACアドレスを登録しておかなければならないところもある。「winipcfg」を起動(Windows 98)あるいは、プロンプトで「ipconfig /all」を実行して(Windows 98/NT/2000)表示される、「アダプタアドレス」や「物理アドレス」「Physical Address」に書かれている「XX-XX-XX-XX-XX-XX」がそれなので(ハイフンは特に関係ないが)、ケーブルモデムを接続するネットワークカードのものを申請しておく。このMACアドレスは、ネットワークカード等に付けられている6B(48bit)のIDで、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)が管理する3バイトのベンダーコードと、各ベンダが管理する3バイトのコードで構成。全てのデバイスが、固有のIDで識別できる(Ethernetは最終的にこのMACアドレスを使って通信を行なうがアドレスの認識はプロトコルの中で行なわれる)。MACアドレスを登録する局の場合には、これを使って接続できる端末を特定しているので、ネットワークカードが変わってしまう場合には、申請内容の方も変更しておかなければいけない。

(2000年6月1日)

[Text by 鈴木直美]


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