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元麻布春男の週刊PCホットライン

号外:プレイステーション2のDVD問題


■ユーティリティディスクの交換を告知

 ソニーはプレイステーション2に付属するユーティリティディスクの交換を実施すると発表した。ユーティリティディスクの実質的なリコールだ。3月30日付の朝刊にソニー・コンピューターエンターテインメント(SCE)による告知広告が掲載されたから、多くの人が目にしたものと思う。要するに、地域コード2以外のDVDビデオが再生できる可能性が判明したため、ユーティリティディスクを交換するというわけである。だが、この広告を見て釈然としないものを感じるのは、筆者だけだろうか。

 まず疑問なのは、交換の対象がユーティリティディスクに限定されている点だ。プレイステーション2のDVD再生ソフトは、いったんメモリーカードにダウンロードして利用するようになっており、本体添付のメモリーカードには、工場出荷時にDVD再生ソフトがダウンロード済みである。何らかの理由でメモリーカード上の再生ソフトが消去された場合に、ユーティリティディスクからユーザーの手によって再びダウンロードするようになっている(ゲームデータをセーブすると、本来消去されることがないにもかかわらず、再生ソフトが消去されることがある、という問題もすでに報道されているが)。

 つまり、ユーティリティディスクだけを交換しても、ほとんどの場合、何の問題解決にもならない。ユーザーの手元には、地域コード2以外のDVDビデオを再生可能な再生ソフトがダウンロードされたメモリーカードが残っているからだ。地域コード2以外のDVDビデオ再生を禁止するには、ユーティリティディスクを交換した後、個々のユーザーが自らメモリーカード上の再生ソフトを更新する必要がある。そんな面倒なこと(ちょっとオーバーだが)をユーザーに要求するにもかかわらず、くだんの告知にはこの交換によって、ユーザーが受けられる恩恵について全く記されていない(SCEIのニュースリリースには2点ほど追記されている)。

 たとえば、新しい地域コード2のDVDビデオのみ再生可能なソフトなら、これまでクラッシュしていたマルチアングル対応DVDビデオの再生が可能になる、といったことも明記されていないのである(これも、本来はバグフィックスという性質のものであり、ユーザーにしてみれば当然のことであって、恩恵と呼ぶのには抵抗を感じるが)。何の恩恵も得られないにもかかわらず、ユーティリティディスクの交換と交換後の再ダウンロードをユーザーに要求するというのは、あまりにも失礼なのではないか(告知広告には、ユーザーに不便を強いることに対する謝罪の言葉もない)。本気で問題を解決したいのなら、ユーティリティディスクとメモリーカードの両方を回収し、交換しなければならないハズだし、交換することによりユーザーが受けられる恩恵を明示しなければならないハズだ(メモリーカードの量産に問題があるため、メモリーカードの交換ができないのであろうが)。

 今回の交換は、ユーザーに何の恩恵もないばかりか、ユーティリティディスクの交換という作業自体では(メモリーカードの更新を伴わない限り)何の問題解決にもならない、という点で、実効性に疑問が残る。結局、今回の交換は、ハリウッドに対するアリバイづくり(言い訳)に過ぎない、という印象が強い。

朝日新聞 3月30日朝刊より

■ゲーム専用機とPC

 もう1つ、昨日の原稿に対する補足を。プレイステーション用の開発ソフトを手がけている読者の方から、プレイステーションのゲームモードは16bitカラーであり、PCへの移植の際に減色したとは考えられない、というご指摘をいただいた。お詫びするとともに訂正させていただく。

 ちなみに、筆者がFF8 for Windowsをプレイしたのは、グラフィックスカードにAll-In-Wonder 128(Rage 128)を用いたPentium III 450MHzのシステム(要するに仕事マシン)。GeForce 256や1GHzのCPUが登場した今となっては、ベンチマーク的には取るに足らない?システムだ。しかし、FF8をプレイするのに何のストレスも感じられない。PCの性能は、FF8というタイトルに対して完全に上回っている。

 だが、プレイステーションが登場した時点において、PCのグラフィックス能力はプレイステーションを下回っていた。それは初代のファミコンの時もそうだったし、スーパーファミコンの時もそうだった。ゲーム機の世代が更新されるにしたがって、ゲーム機の処理能力が飛躍的に向上していることは間違いないが、PCがゲーム機の能力に追いつく時間も短縮されているように思う。おそらく年内にもPCはプレイステーション2の能力を上回るだろう。

 ゲーム機だろうとPCだろうと、性能を決めるのは半導体であり、半導体がムーアの法則に支配されている限り、チップの性能は18ヶ月で2倍になる。たとえば3Dグラフィックスであれば、グラフィックスチップとCPUの2チップで処理される。それぞれが18ヶ月で2倍の性能になるとしたら、システムとしての3Dグラフィックス性能は18ヶ月で4倍になる(NVIDIAなど、これ以上のペースで性能向上を続けると確約しているわけだが)。もちろん、これが成立するには、メモリーなどその他の部分のボトルネックが解消、あるいは回避されなければならないが、今のところそれに問題はないようだ。

 PCの性能は絶えずムーアの法則に従って(実際は用いるチップの数によりムーアの法則の何乗かで)性能向上を続ける。それに対してゲーム機のような固定されたプラットフォームは、少なくとも数年間は性能向上できない。もちろん、性能向上がないことによるメリット(プラットフォームが固定されるため、ソフトの作り込みがしやすい)もあるから、一概にそれが悪いわけではない。ゲーム機のようなクローズドなシステムの性能を、PCと比較すること自体に無理があるのだと思う。

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【3月30日】プレイステーション2、DVD再生用ユーティリティディスク交換へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000330/scei.htm

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(2000年3月30日)

[Text by 元麻布春男]


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