西川和久の不定期コラム

Windows XP搭載! DELL Inspiron Mini 12




本体

 DELL Inspiron Mini 12は、発表された時、個人的に非常に興味をもったノートPCだ。ただメモリ1GB固定でWindows Vista Home Basicだったこともあり、店頭で少し触り「やっぱり動きが鈍い」と思い、「そのうちXPモデルが出るだろう……。」と様子を見ていた。

 当初からXP版が出れば送って欲しいと編集部にお願いしていたが、先日ようやく届いたので早速、実際に使った感想などを書いてみたい。

Text by Kazuhisa Nishikawa



●DELL Inspiron Mini 12の仕様など

 同社の純粋なネットブックとして「Inspiron Mini 9」があるため、このInspiron Mini 12、仕様的にネットブックと呼んでいいのか微妙なポジションであるが、Atomプロセッサ搭載ノートPCとしては12.1型と最大級の液晶パネルを搭載し、解像度は1,280×800ドット(WXGA)と申し分ない。デザインもご覧のように非常にシンプルで薄型、MacBook Airっぽいと言えば褒め過ぎであるが筆者的には好みである。BTOなのでいろいろなバリエーションを選べ、今回届いたのは「プラチナパッケージ」となっている64,980円のモデル。スペック的には以下の通りだ。

  • OS:Microsoft Windows XP Home Edition SP3 正規版
  • CPU:Intel Atom プロセッサー Z530(1.60GHz/ 533MHz FSB)
  • チップセット:Intel システムコントローラ Hub US15W
  • 内蔵グラフィックス:Intel GMA 500
  • メモリ:DDR2-SDRAM 1GB(増設不可)
  • HDD:80GB PATA HDD 4200rpm
  • インターフェイス:USB 2.0×3、アナログVGA出力、Ethernet×1、マイク/ヘッドホン×1、メディアリーダー×1、無線LAN(802.11b/g対応)、130万画素ウェブカメラ、Bluetoothモジュール(V2.1+EDR)
  • バッテリ:3セルリチウムイオン(駆動時間: 最大3時間32分)
  • サイズ:299×229×23.3-27.6mm(幅×奥行き×高さ)/1.24kg(3セルバッテリ搭載時)
 ここで疑問なのは、現在Windows XPはHome EditionのみULCPC版があり、ProfessinalはVista Businessからのダウングレードのみとなっている。Mini 12は仕様が一般に言われているULCPCの規格から外れているのにも関わらず、ULCPC版のWindows XP Home Editionを搭載しているのは、大手のDELLだからか、何らかの政治的な背景があるのだろうか。

 また、Atom Zシリーズ搭載機種について、XPのリリースがVistaよりも遅れたのは、Intelが提供するチップセットドライバのリリースが遅れたためと言われている。いずれにせよ、1GBのメモリとAtomプロセッサでVistaを動かすよりXPの方が間違いなく軽いので、XPが選択できるようになり嬉しい限りだ。

 ほかにBTOの組み合わせとしては、OS:Windows Vista Home Basic SP1、Ubuntu 8.04(DELL カスタマイズ版)、CPU:Z520(1.33GHz)、HDD:40GB、60GB、バッテリ:6セルリチウムイオンバッテリ(駆動時間:最大7時間22分)も選択できる。一番安価な組み合わせだと思われる、Z520、Ubuntu 8.04、40GB HDDだと39,980円だ。

 また、カラーバリエーションも非常に豊富で、今回届いた「パール・ホワイト」の他に「チェリー・レッド 」、「プリティ・ピンク」、「オブシディアン・ブラック 」、そしてTristan Eaton氏がデザインした「Stickers 1 in Green」、「Stickers 1 in Black」、「Stickers 2 in Blue」、「The Muse in Orange」、「The Muse in Purple」の5種類も選べ、楽しめるBTOとなっている。

Eee PC 901-Xとの比較
Eee PC 901-Xとの比較。さすがに8.9型のパネルと、12.1型のパネルを搭載している機種はサイズ的に比較にならない

ACアダプタのサイズ
ACアダプタのサイズ。コンセント直挿しタイプでそこそこ小さい。出力は19v/1.58A

バッテリ
11.1v/24Whのバッテリ。3セルバッテリで最大3時間半。6セルバッテリもある

左側
左側。USB 2.0×2、VGA、電源入力、ロックポート。リアにはバッテリのみで何も無い

右側
右側。メディアリーダー、ヘッドホン、マイク、USB 2.0×1、Ethernet

裏
残念ながら裏からはHDDやメモリなど何もアクセスできない。ファンレスなので騒音は少ない


 ハードウェアとしての仕上がり具合はなかなか良く、安っぽい部分は見当たらない。全体的にスリム&クールでかっこいい。重量はEee PC 901-Xと比較して約140g重たいが、片手で持ち上げた感覚としてはサイズが大きい分、逆に軽く感じる。キーボードは少しクリック感があり、ストロークは深め。若干たわむものの、キーピッチも十分確保され、変な場所に変なキーがあるようなことになっておらず、扱い易い。更にファンレスなので、静かな場所で操作してもなかなか快適。ボディが熱を持つことも無い。この点についてはTDPが有利なAtomプロセッサのZシリーズとチップセットの特徴が出ている。もちろん液晶パネルは12.1型のWXGAなので欲求不満なくいろいろな情報を一度に表示可能だ。総じて第一印象は非常に良く、これで64,980円なのだから嬉しい価格と言える。余談になるが、たまたま事務所に遊びに来た友人が一目惚れしたらしく、真剣に(購入しようか)悩んでいる姿は興味深かった。それだけインパクトのあるノートPCなのだろう。

キーボードとタッチパッド
キーボードとタッチパッド。タッチパッドの表面は少しザラザラしている。HDDのアクセスランプなどインジケータ的なLEDは全く無い

キーピッチ
キーピッチ。17mm、きっちり確保されている。ただ、たわむこともありキータッチの感触はいま一歩。ThinkPadのようにもう少しガッチリした感じだとベストだ

8.9型と12.1型の比較
8.9型/WSVGAと、12.1型/WXGAの比較。PC Watchトップページの見え方がこんなにも違う。明るさも結構明るい

●軽く中身拝見

 どのような構成なのか中身を見たかったので、いろいろ調べたところ、第一段階までは簡単そうだったためトライした。その結果がご覧の通りだ。実は裏のネジを16本外し上部のカバーまで取り去ると、CPUモジュールやHDDにまでアクセスできるのだが、ネジを外してもうまくカバーが取れなかったこともあり、今回はここまでとした。分解するのが本来の目的ではないのでお許し願いたい。

カバーを外す
まずバッテリを外し、電源ボタン周囲のカバーを外す。これは単にツメで引っかかっているだけなので、割と簡単だ

キーボードを外す
パネルが外れたら、キーボードを止めているネジが二本あるので外す。本体とキーボードはZIFコネクタで接続されている。ストッパーを緩めケーブルを抜く

内部
裏側の16本のネジを外せばCPUやHDDまでアクセスできるらしいのだが、試したところ、なかなか外側が外れなかったので今回はここまで。音の悪い原因はこの小さいスピーカー。しかもモノラル。右に無線LANのモジュールが見える


 仮に全て外しても1.8型PATAのHDDとCPUモジュールにアクセスできる程度。HDDを交換できると言ってもPATAのHDDなのでSSD化してもインターフェイスがボトルネックとなりパフォーマンスの向上はあまり期待できない。メモリはCPUモジュールに直付けなので増設も不可。苦労の割りに効果は薄そうだ。また、冒頭では触れなかったが、このInspiron Mini 12の気に入らない点の1つとして「スピーカーの音量が小さく音が悪い」ことが挙げられる。分解してみて納得の結果だ。スペース的にはまだ余裕がありそうなので、是非もう少し音量・音質共に改善して欲しい。ビジネス用であればまだ許せるが、趣味で使うノートPCとしては難があるかもしれない。

●Windows XPでの使い勝手など

 さて筆者的に興味のあるのは、CPUが1.6GHzのZ530、チップセットにIntel システムコントローラ Hub US15W、グラフィックにGMA 500の組み合わせでどの程度動くのかだ。ネットブックで一般的なN270に945GSE Express、GMA 950のノートPCはもう飽きるほど触ったものの、このタイプを手元で長期間使うのは今回初めて。Vista Home Basicの入ったものを触ったとき、あまり印象が良くなかったので、OSがXPになってどう変わったが、重要なポイントとなる。

起動直後のDesktop
1,280×800ドットの解像度なので結構広い。薄いボックスはネットブックの1,024×600ドットの大きさだ。随分違うのがわかる

DELL Touchpadのパネル
DELL Touchpadのパネル。スクロールはパッドの端を使うタイプだ。外付けマウスの設定は、外付けマウスを接続した時、タッチパッドをONにするかOFFにするかの設定

HDDのパーティション
HDDのパーティション。約9.7GBがリカバリー用に割り当てられている。Cドライブは約60GBの空きとなる

デバイスマネージャ
デバイスマネージャ。HDDは1.8インチのSAMSUNG HS082HB。基本仕様は、PATA/ZIF、4,200 rpm、8MB Cache、13msとなる。もともとチップセットがSATAに対応していない

HDBenchの結果
HDBenchの結果。一般的なネットブックと比較すると、CPUやメモリは変わらないが、グラフィックとHDDが随分劣っている。参考までにEee PC 1000H-Xは、ALL 39217、CPU 99857|69115、メモリ 51082|51521|90959、グラフィック 18200|7331|4600|261|n/a、HDD 56952|56449|16141|23830

CrystalDiskMark
CrystalDiskMark。左のHDBenchの結果でわかるように、1.8型PATAで4,200rpmなのであまり速くない


 まずVista Home BasicからXPになっての印象が「これは厳しい。使いたくない」から「これならそれなりに使える」に変わった。Vistaでは不足となる1GBのメモリもXPなら十分な容量。グラフィックもズルズル引きずる感じは無くなり、割とスムーズだ。ただ、それでもネットブックとして一般的なGMA 950と比較すると体感的には明らかに遅く切れが悪い。この点はベンチマークテストの結果を見れば一目瞭然だろう。またGyaOなどで動画を見ると一瞬横に長細いノイズが走ることがある。CPUの使用率も40~50%の間を行ったり来たり。GMA 500の仕様としては、HDビデオの再生支援機能、DirectX 9、OpenGL 2.0に対応しているものの、XPのドライバがまだ完全にインプリメントされてない可能性がある。

 1.8型PATA接続のHDDはベンチマークテストからもわかるようにあまり速くない。これは4,200rpmと言うのも遅い理由の1つだ。しかし我慢できない速度でもなく、用途的に考えてもこれがウィークポイントになることはあまり無いだろう。知らなければ普通に使える速度だ。バッテリに関しては数日使った感じでは、3セルのバッテリだと約3時間程度しか持たなかった。長時間バッテリ駆動するのであれば6セルタイプを選びたい。

 意外だったのは、画面の明るさや音量などオンスクリーンで状態を表示する仕掛けが無いことだ。ファンクションキーとのコンビネーションで、これらの操作を行なっても、その変化は画面の明るさや音量などを実際に見て(聞いて)確認するしか手がないのだ。ソフトウェアだけで出きるので、是非対応して欲しい。

 さてこのZ530、N270と比較すると、クロックやキャッシュ、FSBも同じ。Hyper-Threadingにも対応している。ところが右の CrystalCPUIDを見ると、Intel 64はOFFでVTがONになっている。これはN270や330とは逆だ。もっとも、このクラスのCPUでVTや64bitをONにしてもあまり意味がない。

 話が横にそれてしまったが、Vista Home BasicからXPにOSが変わり、それなりに使えるようになった。ただ印象としては、CPUはそこそこ速いのにI/Oが足を引っ張っているのが残念なところ。これはネットブック全体にも当てはまる話なのだが、このUS15WとGMA 500のコンビネーションは更にそう思ってしまう。時代にマッチした省エネでそれなりの処理能力、そして安価と、ユーザーから見れば良いCPUを作っているのにも関わらず、自社のチップセットがそれを台無しにしていると言う、もったいない構図だ。

 加えて不安要素があるとすれば、メモリが1GBに固定され増設ができないことにある。もうすぐそこにWindows 7が見えているこの時期に、XPと心中するしかないノートPCを今購入するのは、個人的に抵抗を感じてしまう。特にWindows 7の前評判がいいだけに、なおさらだ。とは言え仮に2GBを搭載してもGMA 500でWindows 7が快適に使えるかと聞かれると、これはこれで悩ましい問題だ。


●総論

写り込みが激しい

グレア処理の液晶パネルなので写り込みが激しいのも気になるところ

 Windows XPを搭載したDELL Inspiron Mini 12。グラフィックのパフォーマンス、そしてスピーカーがイマイチであるが、それでもこの解像度とパネルのサイズは、日頃狭いWSVGAの画面を見ている人にとって、気になる部分を吹き飛ばしてしまうほど魅力的なAtomプロセッサ搭載ノートPCだ。デザインもかっこいい。テキスト処理が中心のビジネス用途であれば特に不満になることもないだろう。筆者的にはもう一点、EthernetをGbEにして欲しい。そうすればNASとのデータのやり取りも高速に行なえる。

 いずれにしてもスペックが横並びのネットブックの中、12型WXGAの液晶パネルを搭載しファンレス、そしてOSにVista Home Basic、XP、Ubuntuが選択可能と、Atomプロセッサで別の魅力を引き出したInspiron Mini 12は、なかなか面白い存在ではないだろうか。



□関連記事
【2008年12月12日】デル、「Inspiron Mini 12」にXP搭載モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1212/dell.htm
【2008年12月2日】デル、12.1型液晶ノート「Inspiron Mini 12」を最大35,000円値下げ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1202/dell.htm
【2008年11月7日】【Hothot!】デル「Inspiron Mini 12」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1107/hotrev385.htm
【2008年10月27日】デル、Atom Z530/12.1型液晶搭載モバイルノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1027/dell1.htm

バックナンバー


(2009年2月10日)

[Reported by 西川和久]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.