笠原一輝のユビキタス情報局

2009年からの立ち上げを目指すx86ベースのTV




 2009年のInternational CESでのIntelは、実に静かな存在だった。特に新しい製品も発表されていないし、2日目に行なわれたクレイグ・バレット会長の基調講演もClassmate PCが話題の中心で、特に新しい内容はなかったからだ。

 しかし、Intelブースでは次世代に向けた取り組みに関する展示がひっそり行なわれていた。それが、Canmoreの開発コードネームで知られるIAのSoC「Intel Media Processor CE3100」を搭載したセットトップボックスのデモだ。

 また、クイックサンは、TVのODMビジネスを展開するオリオン電気のブースにおいて、リモコンでTVとインターネットをシームレスに利用することができるROBROのUIを採用したAtomプロセッサ搭載TVを展示し、今年の前半に市場に投入する計画であることを明らかにした。

●x86アーキテクチャの強みは膨大なソフトウェア資産

 家電機器、特に年配者にとっての家電の王様とも言えるTVにインターネットにアクセスできる機能を統合しようという取り組みは、かなり古くから行なわれてきた。しかし、これまで成功した例はほとんどない。それらが成功しなかった理由はいくつかあるが、そのうちの1つはリモコンという限られたUI中で、効率よくインターネットにアクセスするための答えがなかなか見つからなかったためだと言える。また、それ以外にもソフトウェアの互換性がなかなか解決されなかったことが挙げられる。

 例えば、これまでのデジタル家電に搭載されてきたアプリケーションプロセッサはARMやPowerPCなどの非x86アーキテクチャを採用したプロセッサだった。これは1つには従来のx86プロセッサの消費電力が高すぎて、デジタル家電などにはあまりフィットしないということもあった。しかし、これら非x86プロセッサでインターネット環境を構築しようとすると、いくつかの課題に直面することになる。具体的にはブラウザやプラグイン、コーデックなどの非互換性だ。

 最近では、ARMやPowerPCに向けたブラウザも充実しつつあるが、それでもx86、特にPC向けのブラウザに比べると、機能面で劣っていたし、プラグインの中にはそもそもx86以外に提供されないものも多数ある。例えば、Adobe Flashのプラグインが無ければ、YouTubeは視聴できない。もちろん、非x86環境であってもFlashのようなメジャーなプラグインはすでに用意されていることが多いが、それでもバージョンが古かったりすることが多い。こうしたことから、インターネットの機能が満足できないなどの理由から結局利用されないという状況に陥っていたのが、これまでの“インターネットTV”だったと言ってよい。

 そこで、x86をTVのような家電に搭載したらどうかという動きが始まっている。ここ近年、IntelはAtomのような低消費電力のCPUに力を入れてきており、家電製品にも充分フィットできる消費電力のレベルを実現しつつある。x86の強みは、すでにソフトウェアのエコシステムがすでに存在していることだ。事実上、x86アーキテクチャ向けがなくて、ARMやPowerPC向けのみしかないブラウザプラグインというのは今のところないと言ってよい。また、Windowsで培われた膨大な数のプログラマーがすでに存在するのもx86アーキテクチャの強みと言ってよい。

●CanmoreことCE3100を搭載した製品を東芝、Samsung、GIGABYTEが展示

 CESではそうしたTVにx86をという取り組みがいくつか展示されていたが、その代表的なものはIntel自身がブースで展示したIntel Media Processor CE3100(以下CE3100)だ。

 CE3100はCanmoreの開発コードネームで開発されてきた製品で、2008年8月にサンフランシスコで行なわれたIDFで発表された。CE3100は、Dothanベースのx86プロセッサ、3D機能とMPEG-4 AVCやVC-1デコード支援機能を持つGPU、3チャネルのDDR2メモリコントローラ、オーディオコントローラ、Ethernet/USBコントローラ、RSA/SHA/AES対応セキュリティプロセッサなどを1チップにした製品で、TVやセットトップボックスといった分野をターゲットにした製品となっている。

 今回のCESでは、Intelブースにおいて、東芝とSamsung、そしてODMビジネスを手がけるGIGABYTE TechnologyによるCE3100搭載製品のデモが行なわれた。ただ、基本的なデモは、8月のIDFで公開されたものと同じで、米Yahoo! が提供する“Widget Channel”と呼ばれるTV向けのウィジットを走らせ、インターネットサービスを提供するというデモだった。Intelの公式発表によれば、東芝、Samsung共にCE3100搭載製品をリリースするのは今年の後半を予定しているとのことだった。

CE3100を利用した米国Yahoo Widget Channelのデモ Intelブースに展示されていた東芝のCE3100搭載セットトップボックス
台湾GIGABYTEが展示したCE3100搭載セットトップボックス。GIGABYTEはCE3100の開発パートナーでもある

●クイックサンはAtom+Windows Embeded+ROBROのTVを展示

 CESで展示されたx86ベースのTVは、CE3100ベースのものだけではない。以前HotHotレビューでも紹介した、TV向けのUIであるROBROを開発したクイックサンも、オリオン電気(TVのODM製造を得意とするTVメーカー)のブースにおいて、IntelのAtom N270+Intel 945GSEを利用したTVの試作品を公開し、TVの上でROBROのUIを利用してデジタル放送とインターネットをシームレスに視聴できる様子をデモした。

 動作しているOSはWindows XP Embededで、その上にROBROのUIを被せ、インターネットのWebサイトをチャネルに割りあて、TV放送もインターネットもリモコンの数字キーの指定だけでシームレスにアクセスできる。今年の半ばまでに販売を開始する予定で、22型のパネルを利用し、価格は5万円前後あたりを想定しているという。

クイックサンがオリオン電気のブースで展示したROBROのUIを採用したTV。スイッチONでTVの画面が起動し、すべてリモコンで操作できる。ただし、USBキーボードやマウスなどのデバイスに関しては利用できる可能性がある 945GSEの3D描画機能を利用して、Amazonの3Dページなども表示が可能に

 クイックサン 代表取締役CEOの安達寛高氏は「インターネットとTVを融合させて行くにはどうしたらいいかを真剣に考えた結果、リモコンの数字キーだけで操作を完結させるというUIにたどり着いた。アプリケーションプロセッサにIAを採用したことで、Flash、Javaなどのソフトウェア互換性を保て、制限のない本格的なインターネットの体験をTVにもたらすことができる」と、インターネットの機能を本格的に取り込めるx86プロセッサを採用するメリットを強調した。今回の製品ではブラウザはInternet Explorerを利用しているため、世界中で多くのユーザーが利用しているブラウザ環境をそのまま利用でき、互換性の問題はほぼ心配しなくてよい。

 今回Atom+Intel 945GSE+Windows XP Embededという環境にROBROを実装するにあたり、CPUに高い負荷がかかるデジタル放送をフルレートで再生するために、アプリケーション側に手を入れ、GMA950のビデオアクセラレーション機能を最大限利用するように最適化したという。現時点では開発中であるため1,280×768ドット程度での表示になっていたが、リリース時には1,440×1,080ドットというデジタル放送の解像度でTV放送の再生が可能になる見通しがすでに立っているという(ただし今回の製品の液晶パネルの解像度は1,366×768ドットとなる)。なお、余談になるがAtom+945GSEでデジタル放送の再生ができるようになるのであれば、当然それをネットブックやネットトップなどに活用したいと考えるベンダーがでてきてもおかしくないが、「ネットブックやネットトップを展開するベンダーとの話もしている」(安達氏)とのことなので、今後はそうした製品への展開ということも考えられそうだ。

 また、家電ということを意識して、起動時間もできるだけ短縮する工夫を加えているという。「電源ケーブルをつないだ初回の起動に関しては30秒程度かかるが、それ以降リモコンで電源ON/OFFした場合には数秒で起動する」(安達氏)と、PCでいうところのサスペンドのような機能を利用して起動時間の短縮も実現しているという。

 安達氏によれば、ターゲットとなるユーザーは、PCは持っていないが、本格的にインターネットを試してみたいというようなユーザーになるのだという。例えば、50代、60代のユーザーはPCに親しんでいないため、インターネットという世界から隔離されている現実がある。しかし、こうした製品であれば、これまでそうしたユーザーが慣れ親しんできたTVチャンネル+リモコンというUIをそのままでインターネットを楽しむことができるようになる。

1,366×768ドットの720p用22型パネルを利用し、コントラストは800:1、輝度は400cd/平方m。接続端子はHDMI×1、USB×2、Ethernetなどが用意されている クイックサン 代表取締役CEOの安達寛高氏

●新しいインターネットTVのビジネスモデル確立を目指すクイックサン

 リモコンでTVもインターネットもシームレスに操作できるということがROBROの特徴だが、クイックサンが目指しているのは、そうした見た目の製品だけでなく、新しいTVのビジネスモデルの構築だ。

 安達氏によればクイックサンはROBROベースのTVを製造するベンダーに対して、ROBROのアプリケーションは無償か、それに近い価格で提供するという。では、どうやってクイックサンは収益を上げるのかと言えば、「弊社の収益源は2つになる。1つは番組のチャネルをポータルサイトに販売し、そこから上がってくる収益。もう1つはエンドユーザーがROBROを通じてポータルサイトなどでショッピングをした際にポータルサイトなどから支払われるアフェリエイトの2つになる」(安達氏)とのことで、インターネットという経済の中で、ROBROのエコシステムを確立し、その中でお金を回していくことで、収益を上げていくというビジネスモデルであることを明らかにした。

 すでに多くのチャンネルはポータルサイトに販売済となっている。ROBROのシステムの場合、11チャネルを除く1~12チャネルは通常のTVと同じくTVに割り当てがされており、13チャネル以降がポータルサイトに割り当てられる。例えば11チャネルはMySpace、13チャネルはgoo、14チャネルはDMM.com、15チャネルはDisney.jp、16チャネルはMTV Japan.com……などに割り当てられている。このポータルサイトとクイックサンが契約して割り当てていくのだが、この時にポータルサイトから契約料を受け取る仕組みだ。「コンテンツパートナー様が支払う料金は、チャネルの重要性により異なっている。十番台は最も高く、それから数字が増えるごとに安価になっていく仕組みだ」(安達氏)とのことで、チャンネルを確保する料金設定も柔軟に設定されている。

クイックサンが想定するROBROベースのインターネットTVのビジネスモデル(出典:クイックサン提供の資料) ROBROのチャンネル割り当て(出典:クイックサン提供の資料)

●まずは百万台の達成を目指す、その先にはグローバル展開も

 さらには、TVを製造するOEMメーカーとも販売台数などに応じて売り上げをシェアしていくことも考えているのだという。というのも、こうしたエコシステムを構築するには、常に問題となるのが“鶏と卵”ということだ。つまり、エコシステムの仕組みそのものはすばらしくても、どこかが鶏になり、卵を産んでいかない限りはそのエコシステムはいつまでも構築されないからだ。そうしたこともあり、クイックサンはROBROをOEMメーカーに無償ないしはそれに近い価格で提供し、さらに売り上げをシェアしていくことまでを考えているのだろう。OEMメーカーにしてみればそれが動機で“じゃあやってみるか”となり、ROBROベースのTVを作り実際にそれを買うユーザーが増える。買うユーザーが増えれば、今度はポータルサイトにアクセスするユーザーが増え、インターネット上での取引が増える。つまり、エコシステムができ、1つのメディアとして成立するという仕組みだ。

 「1つのメディアとして大きな力を持つようになるのは百万台を超えることが壁だと考えている。2010年~2011年までにはそれを超えていきたい」(安達氏)と、すでに発売されているPC用のROBRO、今回投入を発表したオリオンが製造するTV、さらには別のメーカーからもROBROを搭載したTVをリリースする予定があることを示唆した。

 もちろんこうした事業には莫大な初期投資がかかることになるが、すでにクイックサンはIntelの投資部門であるIntel Capitalからの出資を受けており、ROBRO事業に利用できる資金は潤沢になっているのだという。「Intel Capitalから投資をしていただいたことで、特にグローバル市場での話がしやすくなってきている」(安達氏)と今後は米国などでの展開も検討しており、CESで展示を行なったのはその第一歩なのだろう。

●日本のTVメーカーすらもODMメーカーを使う時代、Intelなどにも参入のチャンス

 すでにTV業界は大競争時代に突入しており、すでに米国では価格競争も行き過ぎというレベルまで進んでいる。このため、コストダウンが急務なのだが、となればこれまでの自社での一括生産にこだわってきた日本メーカーも徐々に方針を変えつつある。すでに日本メーカーの中にも、台湾や中国のODMメーカーを利用して低コストに生産していくことは当たり前になりつつあるのだ。

 となれば、今後はPCで起きたことと同じように、より水平分業が進んでいくことになるだろう。今後本格的にTVにインターネットの機能を実装していかないといけないとして、自社のリソースを利用してARM+Linux+自社製ソフトウェアを開発するのと、IntelからCPUを、MicrosoftからOSを、クイックサンからアプリケーションを購入するというやり方とどちらの方が低コストで、かつ高機能なものを製造することができるのか……PCの例を見れば結果は火を見るよりも明らかだろう。

 逆に言えば、コンポーネントベンダーにとっては、そこにビジネスチャンスがある。だからこそIntelはx86を家電にという動きを積極的にしているのだろうし、そこには確かな成算があると言えるのではないだろうか。

□関連記事
【2008年4月1日】【Hothot】クイックサン「ROBRO-ZERO PC」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0401/hotrev356.htm
【2008年7月23日】ロジテック、地デジとWebをシームレスに視聴できるUSB地デジチューナ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0723/logitec.htm

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(2009年1月19日)

[Reported by 笠原一輝]


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