クイックサンといえば、本誌の読者にとってはユニークな学習リモコンや液晶TVなどをリリースしているベンダーとしてお馴染みだと思われるが、近年はPCビジネスにも積極的でコンパクトPCなどをリリースしてきた。 そのクイックサンが、昨年の末からテスト出荷するなどしてきた新しい形のPCが「ROBRO-ZERO PC」(ロブロゼロPC)シリーズだ。ROBRO-ZERO PCはクイックサンが独自に開発しWebと地デジをシームレスにアクセスできるブラウザとリモコンを組み合わせることで、付属のリモコン1つで地デジによるTVもインターネット上のWebサイトも思いのままにアクセスすることができるようになるのだ。 今回はROBRO-ZERO PCの3つのモデルのうちタイプ1/ハイエンドモデルという、CPUにIntel Core 2 Quad Q6600を採用した製品を利用してROBRO-ZERO PCの魅力に迫っていきたい。 なお、レビューに利用したのは最終製品となる前のエンジニアリングサンプルで、実際に発売される製品とは異なる可能性があることをお断りしておく。 ●クイックサンの独自コンテンツブラウザによりTV放送とWebをシームレスに楽しむことができる ROBRO-ZERO PC(以下本製品)の最大の特徴は、クイックサンが独自に開発したソフトウェアのROBRO-ZEROが標準で導入されていることだ。このROBRO-ZEROは一言で言ってしまえば、コンテンツブラウザなのだが、ユニークなのは地デジとWebサイトに対してシームレスにアクセスすることができるようになっていることだ。
ROBRO-ZEROの仕組みは上記のようになっており、ROBRO-ZEROのブラウザがリモコンからの操作を受け、コンテンツを画面に表示する。ユニークなのは、地デジチューナで受信されるTV番組も、イーサネット経由でデータを受信するWebサイト(本サイトやGoogle、Yahoo!、YouTubeなど)が、同じようなチャンネルの概念で指定されることだ。例えば、地デジのNHKが1チャンネル、教育TVが2チャンネル、YouTubeが3チャンネル…というように、TV放送とWebサイトをシームレスにアクセスすることができるようになっているのだ。 このため、本製品をリビングに置かれているような大画面TVに接続すれば、TV番組とWebをシームレスに楽しむことができる。これまでであれば、TV放送はTV、Webサイトを見るにはPCという形でそれぞれ別のものとして扱われてきたと思うが、本製品から見ればTV放送もWebサイトもコンテンツの1つとして扱うことができるということだ。
●クイックサンオリジナルのリモコンを利用して簡単に操作できる 本製品がもう1つユニークなのは、PCなのにキーボードやマウスが付属しておらず、付属のリモコンですべての操作ができるようになっていることだ。 付属のリモコンはクイックサン独自のもので、一般的なWindows PCに付属しているWindows Media Center(WMC)用のリモコンとは異なっている。上部に小型のLEDが用意されており、現在リモコンがどのモードで動作しているかを表示することが可能になっている。リモコンには大きく2つのモードがある。 (1)マウスモード マウスモードでは、十字カーソルが赤外線マウスとして動作するようになっている。つまり、これを利用すればマウスの代わりとして利用することができ、例えばWindows PCとしてコントロールパネルの設定を変えたい時などにはこれを利用して操作することになる。もちろん赤外線になるので、間に何かものがある場合には操作が中断されるなど、完全にマウスと同じような操作感で操作することはできないが、ある程度の操作なら十分可能だろう(もちろん本格的にPCとして使うのであればマウスを接続することをお奨めする)。 (2)リモコンモード リモコンモードでは、前出のROBRO-ZEROの操作をすべて行なうことができる。基本的な操作方法はシンプルで、リモコンボタンのチャンネルスロットを押すと表示されるチャンネルリストから目的のTV放送かWebサイトを選択するか、あらかじめ割り当てられている3桁の数字を直接入力する。基本的な操作はこれだけで、これだけを覚えていればほとんどすべての操作が可能だ。 Webサイトを閲覧している時に、リンクに飛びたい場合には、リンクに自動的に振られる3桁の数字をリモコンで入力し決定ボタンを押すだけでリンク先に移動することができる。なお、リモコンには“進む”ボタンも“戻る”ボタンも用意されており、使用感としてはまさにマウスでWebサイトを見ているのがリモコンに置き換わっただけで違和感なく操作することができる。 もちろん文字入力も可能で、文字入力が可能なテキストボックスを選択した場合、ソフトウェアキーボードが自動で起動する。そのソフトウェアキーボードを利用してもよいし、リモコンのテンキーを利用して携帯電話の文字入力のような形のどちらでも文字入力ができるようになっている。携帯電話での文字入力に慣れているユーザーなら違和感なく利用できるだろう。 非常に便利なこのリモコンなのだが、惜しむらくはWindows Media Center(WMC)のリモコンにはならないことだ。お馴染みの緑のスタートボタンなども用意されておらず、WMCを利用したい場合には別途サードパーティから販売されているWMC用リモコンを入手する必要がある。このあたりは、キーボードやマウスが標準では付属していないことと同じで、ユーザーが自分で用意すれば利用することは可能なので、その分安価になっているのだと納得すべきだろう。 なお、ブラウザはInternet Explorerのエンジンを利用しており、フロントエンドだけがクイックサンオリジナルになっている。このため、ActiveXなどのプラグインはIE用のものがそのまま利用できるので、オリジナルのブラウザにありがちなプラグインが利用できず不便といったことも起きない。ブックマークに関してもIEのものがそのまま利用できるので、現在利用しているPCからIEのブックマークをインポートすればすぐにROBROのシステムで利用できる。この点は大きなメリットだと言っていいだろう。
●記録型DVDへの書き出しはできないが、外付けHDDに録画データを格納可能
付属のTVチューナはエスケイネット製の地上デジタルチューナカードが採用されている。形状はPCIバスにささる形状になっているが、マザーボードとの接続はUSBを利用しており、マザーボード上にあるUSB端子(4ピン)に接続する形になっている。対応しているのは地上デジタルのみで、デジタルBS/CSについては対応していない。このため、付属のB-CASカードは地上デジタル放送のみに対応した青いカードになっている。 録画予約はROBRO-ZEROのシステムの一部として表示される“テレビ王国”のiEPGを利用して行なうことができる。なお、ROBRO-ZEROでは地上デジタル放送の放送波に含まれているEPGデータを受信する機能は持っておらず、すべての予約などはiEPGを利用して行なう仕組みになっている。それでも、放送波のEPGと同じように現在視聴している番組のデータは表示することができるので特に使い勝手に違いはないだろう。 今回の製品ではデータ放送の機能と録画した番組を記録型DVDなどに書き出す機能は実装されていなかった。本製品の性質を考えると、必ずしも必須の機能ではないと思うが、それでもユーザーの利便性などを考えるとこれらの機能は標準で欲しいところだ。なお、リモコンにはデータ放送用と思われる青、赤、緑、黄のボタンは用意されているので、将来ソフトウェアのアップデートなどで対応する可能性はあるのかもしれないので、期待したいところだ。 しかし“PCならでは”の機能もある。それはいくらでもHDDを追加できるところだ。本製品の録画ツールでは、内蔵HDDだけでなく、外付けHDDにも録画が可能だ。日本の地上デジタル放送用放送機器の仕様の制限からそのHDDを他のPCに持って行っても再生することはできないが、本製品に接続すれば再生できるので、記録型DVDに書き出す替わりに安価になってきているリムーバブルケースに入れたHDDに記録していき、容量がいっぱいになったら新しいHDDに交換するなどの使い方も可能だろう。このあたりは、HDDレコーダなどにはないPCならではのメリットと言えるだろう。
●ROBROソフトウェアを終了すれば一般的なデスクトップPCとして使える リモコンに用意されている“閉じる”ボタンを押すと、ROBRO-ZEROのソフトウェアが終了し、Windowsデスクトップが表示される。また、ROBROが起動していない状態で“閉じる”を押すと再びROBROを起動させることができる。 Windowsデスクトップを表示させ、一般的なキーボードやマウスを接続すれば、Windows Vista Home Premiumを搭載したWindows PCとして利用できる。CPUはCore 2 Quad Q6600、Core 2 Duo E6550、Pentium Dual-Core E2140の3つから選択することができ、それぞれCore 2 Quad Q6600が500GB HDDとの組み合わせで148,000円、Core 2 Duo E6550が320GB HDDとの組み合わせで128,000円、Pentium Dual-Core E2140が320GB HDDとの組み合わせで98,000円となっている。 チップセットはNVIDIAの統合型チップセットとなるGeForce 7150+nForce 630iとなる。GeForce 7150はメモリがシングルチャネル構成でもWindows Vistaのプレミアムロゴ要件を満たす統合型チップセットとしてNVIDIAから発売されているもので、DirectX 9世代のGPUが統合されている。なお搭載メモリはいずれのモデルも2GB(1GB×2、空きスロットなし)となっている。 採用されているマザーボードは、BIOSTARのTF7150V-UMで、microATXフォームファクタ。採用されているケースは標準的なmicroATXフォームファクタではなくやや特殊な形状になっており、拡張カードはライザーカードを利用して装着する形になっている。このため、空きスロットがなくカードなどを増設できないのは残念だ。ただし、USBポートが前面に2つ、背面に4つ用意されているので、ある程度の増設はそれで可能だ。
●Windows Aeroで利用するには十分な3D性能を実現 それでは実際のベンチマークプログラムを利用して本製品のPCとしての性能に迫っていこう。PCMark05 v1.2.0、3DMark06 v1.1.0、FINAL FANTASY XI Official BenchMark 3の3つを利用した。結果は表の通りだ。同時にWindows標準のWindowsエクスペリエンスインデックスの結果もあわせて掲載しておく。
基本的にはIntel Core 2 Quad Q6600を搭載した製品としては標準的な性能と言える。3Dの性能が単体型のGPUに比べるとあまり高くないが、それでもWindows Aeroを利用するには問題なく、重たい3Dゲームにはあまり向いていないが、ちょっとした3Dアプリケーションを利用するには十分な性能と言っていいだろう。 ●“放送と通信の融合”という見果てぬ夢を今ある技術で実現した新しい形のPC 以上のように本製品は、ROBRO-ZEROというクイックサンオリジナルなソフトウェアにより、リモコン1つでTV放送もWebもシームレスに楽しむことができるという、ちょっと他に競合製品が思いつかないぐらいユニークな製品だ。コンセプト的に近い製品といえば、ソニーのTP1がそれに近いと言えるが、TP1の場合地デジチューナはネットワーク経由という特殊な形になっているので、地デジとWebがシームレスに使えるという意味で本製品とはやや趣が異なるだろう。 むろん、すでに述べたように地デジ周りの実装ではDVDへの書き出しやデータ放送などの点で課題があるのは事実だが、外付けHDDにも録画することができるので、むしろDVDへ書き出さずHDDへハイビジョンのまま保存しておけるというメリットがあることも指摘しておきたい。 そうした課題があるとしても、TV放送とWebサイトをシームレスに利用できるメリットは非常に大きいことは最後に強調しておきたい。ユーザーにとって、重要なことはコンテンツを楽しむことだ。それが放送であるのか、Webであるのかはどうでもよい訳だ。これまでであれば、Web上にあるコンテンツならPCの前に座りに行き、TV放送のコンテンツなら今度はTVの前に座り直すという人間が移動するということを面倒を強いられていた。 しかし、本製品を使えば、そのどちらもリビングのソファーに座ってリモコン1つで楽しむことができる。そうした本当の意味での“放送と通信の融合”という見果てぬ夢を今ある技術で実現する製品として、本製品は十分検討してみる価値があるのではないだろうか。 □クイックサンのホームページ (2008年4月1日) [Reported by 笠原一輝]
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