MicrosoftがWindows 7のベータをリリース、日本語版を含むUltimateバージョンの一般向け配布が始まった。同社では、家庭または仕事で使用するコンピュータにベータ版をインストールしないでほしいと呼びかけているし、当然、ダウンタイムに対する責任も負わない。だが、今回のベータ版は、これなら仕事に使いたいと思わせるくらいに安定していることに驚いた。 ●4つの環境にWindows 7をインストール 2008年秋に米国で開催されたPDCとWinHEC、そして、昨年暮れに東京で開催されたWinHEC Tokyoで配布されたプリベータに対して、今回のベータ版はびっくりするほど進化している。まるで、2008年中に完成していた版のリリースを、CEOのスティーブ・バルマー氏がCESの基調講演で発表できるように寝かせていたかのような余裕を感じる。 そんなわけで、入手した日本語版ベータを、複数の環境にインストールしてみた。 最初にインストールしたのは、デルのノートパソコン「XPS M1330」。Intel PM965 Expressチップセット+Core 2 Duo+3GBメモリ+NVIDIA GeForce 8400M GS という構成で、プリベータをインストールして評価していたものだ。今回は、いったんHDDをフォーマットし、クリーンインストールを試みた。 プリベータのときもインストールの速さに驚いたが、ベータもすごい。ものの15分でインストールが終了し、あっさりと起動させることができた。デバイスマネージャで確認してみると、指紋センサーなど一部のドライバをインストールできなかったようだが、普通に評価する分には何の問題もない。おいおいVistaのドライバ類を入れてみることにして、放置したまま次に進む。 2つめの環境はデスクトップの自作機だ。かなりのハイエンドで、 Intel X58 Expressチップセット(DX58S0マザーボード)+Core i7+3GBメモリ+Radeon HD 4850という環境だ。 クリーンインストールしてみたところ、うまく起動したものの、ネットワークアダプタを認識しないほか、いくつか割り込みコントローラのドライバがインストールされないことがデバイスマネージャ上でわかった。これは、INFファイルを読み込ませても変わらなかった。 そこで、Windows Vista SP1をインストールしてみて確認したところ、ネットワークアダプタを認識しないのも、いくつかの割り込みコントローラが認識されないのも同様だし、さらに、Radeon HD 4850も標準VGAとして認識されることがわかった。ただ、INFファイルを導入すると、割り込みコントローラはきちんと認識されるようになる。 ネットワークアダプタとRadeonのドライバを未導入の状態で、Vista SP1をWindows 7にアップグレードインストールしてみたところ、これもすんなりとインストールが完了、RadeonもWDDMドライバがインストールされた。これにIntelの提供するLANドライバを追加でインストールしてできあがりだ。 ちなみに、ビデオカードのドライバに関しては、GeForceもRadeonも即座にWindows Updateから最新のWDDM 1.1ドライバが落ちてきた。また、ベータのリリース当初はMP3ファイルを頭切れにしてしまう不具合があったのだが、そのパッチもWindows Updateによって導入されている。 あまりにうまくいくので、調子に乗って、Vistaの実使用環境である「Let'snote R6」にアップグレードインストールを試みた。 さすがに時間がかかったが、これもまた、何の問題もなくインストールが完了した。ATOKが入った環境だったのだが、既定のIMEがMicrosoft IMEに再設定されたこと、そして、レジストリをいじってCtrlキーとCaps Lockキーを入れ替えるなどのキーアサイン変更をしていたものが、元に戻されたこと、また、IEのデフォルトフォントをメイリオにしていたのが、MS P ゴシックに戻されたことくらいが目立つ程度で、その他は何の問題もなかった。なお、この機体では、プリンストンのBluetoothアダプタを使っていたのだが、インストール時には外しておき、インストール完了後に装着したところ、Windows標準のドライバが組み込まれ普通に使えた。 最後のプラットフォームは、デルの「Inspiron mini 12」だ。こちらは、1.6GHzのAtom Z530搭載機で、クリーンインストールは問題なく完了した。ただし、内蔵Bluetoothが見つからないようなので、デルのサイトからVista用に提供されているドライバをインストールしたところ問題なく使えるようになった。なお、ビデオ機能はGMA500だが、これは正確に認識されているようで、Vista用に提供されているものをインストールしようとしても、すでに最新のドライバがインストールされているというメッセージが表示され、更新することはできなかった。 ●もうVistaに戻れない こうしてハイエンドからミドルクラス未満まで、4つのプラットフォームでWindows 7を動かしてみたわけだが、Atom機のような環境でも、それなりに使えてしまうことに驚いた。もちろん、GMA500でAeroはオンにならないため、エンハンスドAeroによる拡張デスクトップの機能は使えないが、プロセスのスケジューリングがVistaよりも上手になっているようで、遅いプロセッサの環境下では相応に遅いのだが、ガマンできないほどのストレスを感じることがない。ひとつひとつの仕事は遅いが、それがGUIを妨げないといったところだろうか。これならAtom Nシリーズのネットブックにインストールしても、それなりに使えるかもしれない。今回は試せなかったが、使いものになるかどうかは、近いうちに評価し、ここで紹介することにしたい。 今回配布されたベータは、VistaでいうところのUltimateエディションだが、Home Basic相当までシェイプアップすればもっと快適になるかもしれない。もしかしたら数万円でネットブックを購入し、Windows 7ベータを入れ、半年以上先の使用期限である8月までフルに使うのが、もっともコストパフォーマンスが高いという結論が出るかもしれない。 逆にいうと、Core i7+Radeonの環境では、びっくりするほど高速という印象はない。もちろん、Atom Zとは逆に、ひとつひとつの仕事は劇的に速いが、GUIそのものには、さほど高速な印象を受けない。つまり、環境の処理性能の高低にかかわらず、GUIは一定水準の使い勝手を保つように仕組まれた演出のようにも感じる。 また、Let'snote R6は、1年以上も使い続けた環境であるにもかかわらず、アップグレードはすんなりと完了し、元のVista環境よりも快適に使えるようになった。スリープ状態からの復帰も速く、タスク切り替えのひっかかりもない。 本当は、MontevinaプラットフォームによるCentrino2が、あまりにもよくできているので、今年はそちらに移行しようかとたくらんでいたのだが、この7環境を体験してしまい、迷いが出てきてしまった。 ●ライブラリシステムの導入が今後のストレージ概念を変える インストールの話ばかりではつまらないので、Windows 7環境について、少し触れておくことにしよう。あまり話題になることがないのだが、Windows 7では、従来の個人用フォルダが一線を退く。たとえば、スタートメニューのユーザー名をクリックすると、Vistaでは自分の個人用フォルダが開いたが、Windows 7では、個人用ライブラリが開くようになっている。 ファイルシステム上では異なるものの、デスクトップをルートとして、個人用フォルダ、個人用ライブラリがぶらさがり、ユーザーのアプローチは個人用ライブラリに向けられるように仕向けられる。 ライブラリは、複数のフォルダのビューをまとめて参照できるもので、個人用ライブラリの中に、ドキュメントやビデオ、音楽といった目的別ライブラリが用意されるほか、ユーザーが自分で任意のライブラリを作ることができる。 ライブラリでは、既定のフォルダが保存用に使われるほか、別のフォルダを追加して設定しておける。従来のようにライブラリを開く分にはUIが変わったようには感じないが、そこに表示されるファイル群が、どこに保存されているのかを意識する必要がなくなる。これは、いわば、検索フォルダの発展系であるともいえる。 なお、個々のライブラリに追加で設定できるフォルダは、検索インデクシングの対象でなければならないため、NAS等のネットワークフォルダを含むことはできない点に注意が必要だ。本当は、Windows 7環境であれば、相手方のインデックスを利用して検索ができるはずなのだが、インデックスがないから追加ができないと文句を言われる。これらの振る舞いはヘルプとも異なるので、最終的には納得のできる地点に着地してほしい。 個人的には、Vistaから7への変更で、もっともユーザーのコンピューティング体験に影響を与えるのは、このライブラリ機能の導入ではないかと考えている。ここにクラウドが絡んでくれば、ものすごいことが起こりそうにも思える。 ●これなら仕事に使いたい Microsoftは、この環境を仕事には使うなという。でも、用意した4つの環境をしばらく使って問題がなさそうであれば、今年は、このままメインの環境をWindows 7に移行してしまおうかと思っている。 Windows 95のときも、98のときも、98 SEのときも、2000もXPもVistaも、製品リリースの半年~1年前に日本語版ベータが出た時点で、不安を感じながらも、試すことが仕事だと思って、実使用環境をベータに移行してきた。でも、今回は、ほとんど不便を感じることはないのではないか、いや、Vista SP1よりも使いやすいのではないかという印象を持った。これほど完成度の高いベータは記憶にない。もちろん、どこかのタイミングで、こりゃダメだと匙を投げるようなこともあるかもしれないが、そのときはそのときだ。過去のベータをガマンしてきたことを思えば、これならいけそうだとも思う。 この完成度の背景には、MicrosoftのWindows & Windows Liveエンジニアリンググループ担当シニアバイスプレジデントであるスティーブン・シノフスキー氏の存在が大きそうだ。ミスターWindows 7とでもいうべき立場にいる氏は、ソフトウェアのデザインエンジニアとしてMicrosoftに入社。Office 2000以降のシステムの開発指揮を担当、2007 Office Systemを完成させたあと、Windowsの担当となった。彼がOfficeのプログラム管理で培ったポリシーが、今回のベータに貫かれているのだろう。 現役で使っているパソコンがどうなったとしても、現状復帰できるのなら、まずはWindows 7を使って見てほしい。もしかしたら、現状復帰の必要性を感じなくなるかもしれない。 もちろん、この完成度の高さは巧妙に仕組まれたワナではないとも限らない。その舌の根も乾かないうちに、来週には、やっぱり使いものにならなかったという結論を、ここに書くことになるかもしれないが、それはそれで許していただきたい。 □関連記事
(2009年1月16日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
|