第437回
2009年、PC業界で流行るもの



 2008年は今回で最後の更新となる。厳しい年の瀬で、TVの話題は不景気な話ばかりだが、テクノロジの進化と、それを反映する製品の進歩は止まらない。仕事柄、PCだけでなく、さまざまな分野のエンジニアや経営者と話をする機会があるが、来年もまたモバイルPCに関連した技術は前へと進んでいきそうだ。

 そうした取材の中から、来年、大きく変わりそう、あるいは立ち上がりそうな要素をピックアップしたい。

●商品企画の変化に期待

伝統的なモバイルノートの1つ「Let'snote R8」

 前回、ネットブックやMIDといったプラットフォームに関連した話を書いたが、一方でモバイルPCはどうなっていくのだろうか。ここでのモバイルPCはネットブックやMIDとは異なる、伝統的な小型ノートPCを指すことにする。もちろん、来年の製品は既に商品企画とともに開発がスタートしているだろうが、今までと同じアプローチではうまく行かないかもしれない。

 ネットブックやMIDは、一般的なノートPCと明確な差別化が意図的に行なわれているが、それだけでは、すべての人に3〜4倍もの価格差を納得させることはできないと思うからだ。値段を下げろというのではない。今のPCは、それでも充分に採算ラインギリギリでの競争が行なわれている。問題は価格ではなく、いかにしてユーザーがその製品を欲しい、あるいは購入後に満足したと感じさせるかだ。

 たとえば数年前からいくつかのPCベンダーとミーティングを持つと「年に何機種も似たような製品が出てきたり、頻繁に外装デザインを変えてしまうといった事は止められないのだろうか」と話をしてきた。

 その結果、凸凹や無駄に継ぎ目の多い筐体になったり、あるいはあまり大きな意味の無さそうな意匠が施されたバランスの悪いデザインの筐体が生まれる。ノートPCの基本的なデザイン・形というのは、ほぼ確立されているのだから、きちんとデザインに対して予算を振り分け、細かなディテールに拘り、普遍的なデザイン価値を求めるという製品があってもいいと思う。

 今PCを買った人は、おそらく数年後にはまた新しいPCを買ってくれる。しかし、せっかくこだわり、選び抜いて決めたPCが、数カ月後には「あぁ、もう俺のは古くさいんだなぁ」と思わせたとしたら、次にもう一度、同じメーカーのPCを選んでくれるだろうか。

 デザインと機能、性能は密接に関連する部分もあるので、一概に全く同じデザインを貫けとは思わない。しかし低価格PCという分野が定着しようとしている昨今、高付加価値を狙うコンシューマ向けPCの商品企画は、少し思考の方向を修正すべきではないだろうか。

 キーボードや筐体全体のしっかりした剛性感、ディスプレイといった基本部分の品位に配慮した上で、頻繁に意匠を変えなくとも高い質感と魅力を湛える製品作りを目指して欲しいのだ。数年後の買い換え時期になっても、まだデザインや質感に対して高い満足度を維持されていれば、次に買う時も同じシリーズを、と思うに違いない。

 反対に比較的低価格のPCに関しては、ファッションのようにその時々のトレンドを取り入れたデザイン提案を行なっていけばいいだろう。こちらは頻繁に表面のテクスチャなどを切り替えながら、新鮮さを演出することが求められるのだと思う。

●ソフトウェア+サービス+ハードウェア

Windows 7とLiveによるソフトウェア+サービス

 “ソフトウェア+サービス”というのは、最近のマイクロソフトの標語のようなものだ。そのコンセプトはエンタープライズからコンシューマ向けまで、幅広い分野に対して優位性を訴求している。Windows 7とWindows Liveの組み合わなどにおいても、そのコンセプトを前面に打ち出し、サービス偏重(とマイクロソフトが考えている)のGoogleに対するアンチテーゼとしているようだ。

 この考え方は今に始まったことではなく、ビル・ゲイツ氏が2000年に.NET戦略を発表した頃から、講演などで頻繁に打ち出していたコンセプトと根っこの部分は同じだ。ネットワークサービスと手元のコンピュータで動作するソフトウェアの協調動作で何らかの付加価値を生み出すという考え方は、来年、何か新しいアプリケーションを生み出してくれるかもしれない。

 一方でハードウェアメーカーには、この考え方に“+ハードウェア”を拡張した商品を期待したい。ソフトウェア+サービスを、より使いやすい形でハードウェアに取り込むことで、使いやすさを増すために何ができるだろう? と考えてみてはどうだろう。

 たとえば携帯電話が少ないキー数、小さなディスプレイ、表示画素数でも、機能的に使いやすいのは、ハードウェアとソフトウェア+サービスを一体化して設計しているからだ。ところがほとんどの小型PCはデスクトップPCと同じユーザーインターフェイスを、そのまま小さなボディの製品で使うことを強いる。

 先週、MID向けプラットフォームを活用したネットブックとは異なる、メーカーごとにカスタマイズを勧めたPCベースの情報端末がいくつか登場するだろうと書いた。商品企画のコンセプトごとに、多様なサイズ、形状の製品が登場してくることを期待しているが、それらの中でハードウェアのデザイン要素と、実際にユーザーが頻繁に利用するだろうアプリケーションやサービスとの融合が図られれば、PCのモバイルシーンでの活用も一段と進むのではないだろうか。

 また、ハードウェアを含めた統合を進める場合、“サービス”の部分は何もインターネットを通じたサービスである必要はない。Bluetoothや無線LANを通じて近傍のネットワーク対応デバイス(PCだけでなく、TV、携帯電話、デジタルレコーダなど)と協調動作させるといったことも、一歩踏み込んで考えてみると使い方の幅は広がる。

 これらは技術的な要素としては揃っているが、なかなか手が付けにくかった部分だ。後述するようにDLNA 1.5がWindows 7の登場で立ち上がる可能性が出てきていることを考えると、デジタルデバイス同士が結びつき、互いがそれぞれにサービスを提供する側、受ける側になって利用場面に即したユーザーとのインターフェイスを提供できれば、柔軟性の高いPCベースのデバイスには大きな可能性が広がる。

●モバイルWiMAX

IntelのWiMAXモジュール「WiMAX/WiFi Link 5350」

 ご存知のように、来年は日本でもモバイルWiMAXサービスが開始される。WiMAXのインフラを提供するUQコミュニケーションズは来年2月末から試験サービスを首都圏で開始し、夏以降には商用サービスの開始も予定されている。

 UQコミュニケーションズはMVNO(モバイル仮想ネットワーク事業者)向けに、WiMAXインフラのサービスを提供することになっているので、いくつかの事業者が公衆WiMAXサービスを提供。一般コンシューマも利用可能になるはずだ。

 WiMAXはOS側から見ると、一般的なネットワークアダプタと同様に見えるため、ダイヤルアップなどの手順を踏まず、エリア内に入ればすぐにサービスが利用可能になる(もちろん、ユーザー認証の問題はあるが、現在予定されているサービスでは端末機器ごとの認証となるようだ。他にも802.11xを用いる方法もある)ため、モバイルPCに対するネットワークサービスのあり方も変化してくるだろう。

 広域での高速インターネットアクセスが可能になるのだから、それだけでも大きな可能性が広がっていると言えるが、モバイルWiMAXのサービスインは1つのきっかけに過ぎない。

 Windows 7では、固定電話を用いたモデムによる通信アクセスを前提にしたダイヤルアップサービスの位置付けを見直し、3G携帯電話などを用いた通信時にもダイヤルアップのシミュレーションを用いずにネットワークにつながるようになる。

 簡単に言えば、今までは儀式的にモバイルコンピュータで通信を行なう際、“ネットワークへのアクセスをします”というユーザー側の宣言が必要だったのに対して、これからは携帯電話やスマートフォンと同じように、“ネットワークにつながっているのが当たり前”となる。これが前提でアプリケーションやサービスが設計されるように、少しずつ変化していけば、現在のモバイルPCを使いこなすための、やや面倒なプロセスというのが不要になるだろう。

 すぐに大きな変化はないだろうが、数年のスパンで考えれば、PCベースのモバイル機器の可能性を大きく広げるきっかけになった、と振り返ることになると思う。

●DLNA 1.5

デジタル リビング ネットワーク アライアンス

 DLNA 1.5そのものは2007年の発表だから、決して最新というわけではないが、まだ認知もあまり進んでいるとは言い難い状況だ。しかし、少しずつではあるがDLNAに対応する機器が増加してきたことに加え、Windows 7がDLNA 1.5に対応することが発表されたことで、認知や普及が広がってくる可能性が高まってきた。サーバーの実装もデジオンのDiXIMを搭載することになっており、互換性や相互運用性の確保という面でも、障害は少なくなるだろう。欧州などでは主流のパケットビデオTwonkey MediaもDLNA 1.5に対応した。

 DLNA 1.5の世界では、TVやレコーダ、オーディオ機器、それにPCや携帯電話、それにNASなどが有機的かつシームレスに結合可能になる。DLNA 1.0では、主にメディアデータの共有に重きが置かれていたが、そうした初歩的な段階を抜けて、DLNAで結合された機器同士が“連動”しはじめる。

 どのような連携が行なわえるかなどのアイディアは多様で、ここでは書ききれないが、BB Watchに掲載された清水理史氏の記事などが詳しい。

 実際に家庭の中でDLNA、あるいは独自に実装したネットワークAV機器などを使っているが、意外に悩みが深いのが、リモートコントロールをどのようにするかという問題だ。たとえば一般的な赤外線リモコンのようなユーザーインターフェイスでは、たとえ小型の液晶パネルを搭載するなどしても、あまり使い勝手は向上せず、DLNAらしい柔軟な機器の連携をユーザーは制御しきれない。

 最低でもスマートフォンやPDAクラスの柔軟性やディスプレイの解像度、それに内蔵プロセッサの能力も必要だ。理想的にはPCクラスのデバイスの方がいいだろう。というのも、ホームネットワークでメディア共有を続けていくと、メディアの量がどんどん増えていき、決して減ることはないからだ。たとえば筆者宅のメディアサーバーには、12,000曲ほどの音楽データが置かれている。

 扱う情報の量が多くなっていることに加えて、DLNA 1.5で可能になる機能の範囲が大きく広がっているため、全体をマネジメントして快適に使いこなすには、それなりに多くの情報を整理して表示し、素早くユーザーの操作に対しても応答できないと使いにくい。

 しかし、ネットブックのような低価格PCやMIDなどの小型PCデバイスであれば、その役割を果たすことができるに違いない。対応するリモートコントロールのためのソフトウェアも開発が進んできており、来年には使いやすさや目的に応じて選択の幅は広がっているはずだ。

□関連記事
【12月25日】両極から多様化へ。モバイルPC変化の時代
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1225/mobile436.htm
【12月16日】WinHEC 2008 Tokyo基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1216/winhec.htm
【11月10日】ブロードバンド用語のツボ モバイルデータ通信編 第3回:モバイルWiMAX (BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/koko_osa/23779.html

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(2008年12月26日)

[Text by 本田雅一]


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