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国内ネットブック/UMPC開発者インタビュー【富士通編】
mm/mW/g単位での追求を積み重ねたLOOX U

富士通LOOX U


 これまでこの特集では、ネットブックのメーカーに話を聞いてきた。今回、取り上げる富士通では、欧州でこそFujitsu Siemensでネットブックを発売しているが、国内では取り扱っていない。しかし同社は、5.6型でWXGA対応液晶を搭載する「LOOX U」という他に類を見ないUMPCを開発している。ネットブックとUMPCでは、価格や位置づけが異なるものの、小さくて、モバイルで利用するという点では似通ってもいる。そこで、今回は富士通の開発者の方々に、同社が考えるモバイルPCはどのようなものかという点について話を伺ってきた。

 インタビューには、パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部の栗林健氏、小林伸行氏、小中陽介氏、PC事業部PCデザイン技術部の飯島崇氏、ITシステム研究所パーソナルシステム研究部の中島善康氏、パーソナルビジネス本部グローバルビジネス統括部の藪内裕子氏が応じてくれた。

●初代から変わった点と引き継いだ点

Q まず、富士通の考えるUMPC、あるいはLOOX Uのコンセプトとはどのようなものか教えてください。

左から小中氏、小林氏、栗林氏

小中氏 この製品は、持って歩いて外で使うということが前提で、その点において機能的にちゃんと使えるものであるか、また適切な大きさであるかを重視しました。この製品は2代目となるもので、通信機能などを初代から拡充させ、これだけあれば不自由しないという仕様に仕上げました。

Q 今回のLOOX Uは、初代と比べ、引き継いだところと、変えたところがあります。まず、本体サイズ、タッチパネル、コンバーチブルスタイルという点について、なぜ引き継いだのか教えてください。

栗林氏 まず、初代は手に持って使う観点から横幅を決定しました。本体サイズが変わると、その利用シーンも変わってきますが、2代目も利用シーンは同じなので、サイズは踏襲しました。その上で、キーボード、液晶などの仕様において、凝縮感を高めました。

 タッチパネルおよびコンバーチブルスタイルについては、入力の基本はキーボードになりますが、ブラウズで使う時は、このサイズではコンバーチブルスタイルにして、片手で持って、もう片方の手でペンで使うというのが直感的だと考え、踏襲しました。

初代(右)と現行機(左)

Q 大きく変わった点として、プラットフォームがCentrino Atomになり、キーボード配列や、液晶解像度があります。それらを採用した理由を教えてください。

小中氏 Centrino Atomを採用したのは、消費電力と性能においてこれに勝るものがほかにないからです。

小林氏 この製品はファンも改良していますが、CPUとチップセットの発熱量が減ったことで、初代より騒音も下がっています。

栗林氏 キーボード部は全体で8mmほど幅を広げ、配列を変更するとともに、キーピッチも広げることができました。これにより、さらに使いやすくなりました。

現行機(上)と初代(下)のキーボードの比較

小中氏 液晶解像度については、Windows、特にVistaだとメニューバーが大きくなったりしたことで、実際にコンテンツなどが表示されるエリアが狭くなっているといった理由から上げました。表示できる情報量をなるべく増やしたいと考えたのです。

Q 液晶はこの製品専用で値段も高いのではと思いますが。

小中氏 製品のどこに力を入れるかと言うことにもよるのですが、我々はUMPCも、家で使うフルPCと同じ解像度を持っていて、初めてPCを外に持ち出したことになるものと考えており、液晶の解像度にはこだわりを持っています。この液晶についてはパネルメーカーにも協力してもらい特注で作りました。ただ、特注かどうかという点については、他のLOOXシリーズも、ガラスを薄くしたり、軽くしたりとなにかしらのカスタマイズを施した特注品がほとんどなのです。

Q 液晶について、ユーザーの反応はどうでしょうか。

栗林氏 LOOX UはPCに詳しい人が使っているということもあり、情報量が増えたことを歓迎していただいている声が多いです。

Q パネルがグレアなのは理由があるのでしょうか。

小中氏 個人的にはグレアだからビジネス用途で使いにくくなるとは思いません。ノングレアは後ろから光が入ると画面が光って見にくくなりますが、グレアは低反射コートされているので、例えば電車でいすに座って背後から日光が差してもちゃんと見えます。外で使うことを考えると、グレアの方が好適だと思います。

●コイル1個レベルでの効率を追求

Q 手元で計算したところ、LOOX Uの消費電力は約3.7Wで、他社の同じプラットフォームの製品より低く抑えられてます。この秘訣はどこにあるのでしょう。

左から中島氏、飯島氏

中島氏 LANやUSB、オーディオなどは使っていないときに低消費電力モードに移行させています。

小中氏 我々は消費電力を下げるためにコイル1つから、どれが一番効率が良いかを細かくチェックし、選んでいるのです。ただ電力をオフにするだけなら誰でもできるかもしれませんが、我々は長年かけて積み重ねてきた知識/経験をもとに、サイズと効率の両面から最適なものを選択しています。例えば、この製品には一部不釣り合いに大きな部品を使っていたりしますが、それは効率を考えた時にもっともバランスの良いものだから選択したのです。

Q Intelではデザインガイドを提供していますが、電源のデザインは独自なのでしょうか。

小中氏 CPUとチップセットの繋ぎ方は我々には変えられませんが、それ以外の周りの部分はすべて我々が独自に設計しています。それはバッテリを制御するマイコンのファームにまで至ります。

Q バッテリ駆動時間が約4時間から約5.3時間に伸びたのは、プラットフォームが変わったところが大きいのでしょうか。それとも、独自の設計に負う部分が大きいのでしょうか。

小林氏 本製品はプラットフォームのところでTDPが5W下がっています。これも大きいですが、ここが下がると、周辺部分の消費電力削減の効果もより大きくなるというのもあります。

Q マザーボードは何層基板でしょうか。

小林氏 10層です。

Q マザーボードを小型化するメリットはどのようなものでしょう。

小林氏 1つにはパターンのロスが減ります。今回は初代に比べマザーボードの面積が7割になっていますが、これで重量が10g減らせましたし、ファンも小型化できました。

Q メモリがオンボードなのはなぜでしょう。

小林氏 メモリに関わる面積と高さを削るためです。モジュールにすると、コネクタ分の高さが必要になってきますので。

初代(左)と現行機(右)のトップカバーを外したところ 初代(右)と現行機(左)のマザーボード

Q 容積も大きく、利用頻度が下がっているCFスロットを採用した理由は何でしょう。

小中氏 CFスロットは基本的に通信カード用です。2台目のPCとして屋外で使うなら、これはあった方が親切だと考えました。

●外観・筐体

Q 筐体が横から見た時にくさび形になっているのは何か理由があるのでしょうか。

栗林氏 デザイン的理由もありますが、持った時のホールド感などを考慮してのものです。

Q 途中からtokidokiモデルが追加されましたね。

藪内氏 このコラボレーションのアイディアは日本から出たものです。LOOX Uは、20~30代の男性をメインターゲットにした製品ですが、女性ユーザーも取り込もうと提案しました。ちなみに、最初男性上司の反応は芳しくありませんでした(笑)。

 アーティストのレーニョ氏に話を持ちかけたところ、先方としても日本のファンにもアピールしたいと承諾を得られました。ちなみに、tokidokiは特に海外でファンが多いのですが、ITとのコラボレーションはこれが初だそうです。

Q 天板はどのようにペイントしているのでしょう。

中島氏 色/図柄の入った板を両面テープで貼り付ける構造です。

藪内氏 カラーバリエーション以外にtokidokiデザインの天板もある

Q 初代の裏面にあった放熱シートがなくなりましたね。

中島氏 本体の発熱量が減り、不要となったため外しました。

Q 裏面の取り外せるフタの部分の面積が大きいですね。

中島氏 我々のサポートから要望があり、メンテナンス性を高めるため、そういった構造にしました。しっかりした材料でつくり、試験もクリアしてるので、剛性に問題はありません。

●今後の予定/方向性

Q IntelはLOOX Uが発売された後に、Centrino Atomでメモリ2GBをサポートしましたが、この製品でメモリ2GBモデルの予定はないのでしょうか。

小中氏 今のところ予定はありません。2GBにしてしまうと、大きさや価格のバランスが崩れてしまうからです。

小林氏 ちなみに、チップセットが変わったこともあって、LOOX UのOS起動時間は初代よりも1分くらい早くなっています。

Q IntelからWindows XP用チップセットドライバが近く出されるという話ですが、LOOX UのXPモデルの予定はあるのでしょうか。

小中氏 ニーズが多いのは承知していますが、現時点でコメントできることはありません。

Q Windows XP用のドライバを将来富士通のサイトで公開する可能性はどうでしょう。

小中氏 それができる環境が整えば、前向きに検討したいと思います。

Q ネットブックが広く普及してきたことで、この製品に影響は出ましたか。

小中氏 モバイルPCという括りでの選択肢が増えたということで、このジャンルの裾野が広がりました。我々はこれをチャンスだと捉えています。

飯島氏 ネットブックの不満点を解消するのがこの製品なので、ネットブックの興隆はLOOX Uにプラスに作用すると考えています。

Q 今後の富士通のUMPCの方向性について教えてください。

小中氏 今後も通信技術に力を入れていきたいと思っています。この点で他社に負けることはあり得ないと考えています。また、バッテリ駆動時間でも勝ちたいですね。

栗林氏 LOOX Uの2代目では、初代のフィードバックから使い勝手を改善しました。この次はというと、外で使うPCという点は変えずに、アプローチを変えて、今の製品のブラッシュアップではなく、何か新しいものをやりたいと考えています。

Q ありがとうございました。

 同じモバイルPCではあるものの、もともとUMPCとネットブックは直接競合するジャンルの製品ではなかった。むしろ富士通では、ネットブックによっとモバイルコンピューティングというスタイルの知名度が上がることが、LOOX Uにとってプラスになると考えている。それは、安価なネットブックに満足できなかったユーザーの受け皿になりうるスペックと機能を持っていると自負しているからであろう。

 実際、LOOX Uでは、この仕様を実現するために、mm、mW、gという単位の改善を目指した試行錯誤の積み重ねでできている。注目度においては今はネットブックの方が集めているが、期待度はメーカーのこだわりと同じくらいにUMPCの方がある。まだかなり気が早いが、特に次期モデルは大がかりな方向性の変更もありそうなので、期待が高まる。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□製品情報
http://www.fmworld.net/fmv/pcpm0808/biblo_loox/lu/
□関連記事
【8月20日】富士通、キーボードを改良したAtom搭載「LOOX U」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0820/fujitsu1.htm
【2007年6月12日】富士通、5.6型ワイド液晶搭載超小型PC「LOOX U」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0612/fujitsu.htm
□ネットブック/UMPCリンク集(富士通)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#fujitsu

(2008年11月25日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

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