大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

いよいよ、シニア向けPCに本腰を入れる富士通
〜「潔い決断」でモノづくりを進める




「FMVらくらくパソコン」

 富士通が、シニア層をターゲットとした「FMVらくらくパソコン」を発売する。

 ノートPCの「BIBLO NFシリーズ NF/B70」をベースにしながら、キーボード部などを専用化。シニア層が使いやすいPCとして提供する考えだ。

 同社では、2008年6月、電話およびウェブによる同社直販限定の「FMVらくらくパック」を商品化。2,000台限定として販売した経緯がある。

 「FMVらくらくパック」では、富士通の液晶一体型デスクトップPCである「FMV DESKPOWER EK」シリーズのEK/A50およびEK/A30、ノートPCの「FMV-BIBLO NF」シリーズ NF/A70をベースとした2機種3モデルを用意。「使いやすい」、「おまかせ」、「かんたん」、「あんしん」の観点から、画面文字やアイコンを大きいサイズに設定して出荷したり、専用メニュー画面で「インターネット」、「メール」、「ハガキ作成」の3種類のボタンだけを配置するといった仕様にしたほか、PCのセットアップを代行する訪問セットアップサービスを標準で用意。PCの開梱からキーボードの入力方法まで、約90分間の指導が付属していた。

富士通パーソナルマーケティング統括部コンシューマ活性化プロジェクト担当プロジェクト部長・菅谷創一氏

 「これまでの販売実績は、1,500台程度。購入者の75%が60歳以上、50代が15%、40代は10%という構成比。登録ユーザーのなかでの最高齢は96歳」(富士通パーソナルマーケティング統括部コンシューマ活性化プロジェクト担当プロジェクト部長・菅谷創一氏)だという。まさに、同社の狙い通りのターゲット層に売れているといえよう。

 製品告知は、ウェブや新聞広告などで行なったが、9割が電話で購入したという状況からも、ネットに慣れていないユーザーの購入であることがわかる。

 今回の「FMVらくらくパソコン」は、こうした経験を踏まえたほか、実際に、シニア向けのパソコン教室を訪問し、約20人の受講生や講師などを対象に1人当たり2時間程度ヒアリングした成果を反映し、商品化したもの。らくらくパソコン向けに、ハードを専用化したほか、量販店店頭でも新たに販売を開始するなど、より踏み込んだ取り組みとなっている。

●ワープロ専用機を彷彿とさせるキートップ

 まず見た目で特徴的なのは、キーボードだ。

 キートップには、日本語表記が目立つ。エンターキーには「確定・改行」、スペースキーには「空白」と表記するなど、昔のワープロ専用機を彷彿とさせる雰囲気だ。

 さらに、3色のキーキャップを用意し、ホワイトキーボードモデルの場合、ローマ字入力で使用する英文字部分には白、そのうち母音となる「A」、「I」、「U」、「E」、「O」と、「っ」などの小さい文字を入力する際に便利な「L」のキートップは、青色にしている。そして、数字や記号などの部分はグレーとしている。

ローマ字入力に最適化した形に色分けしたキーボード キートップには、漢字での表記が目立つ 富士通パーソナルビジネス本部ソリューション開発統括部PC/ユビキタス企画グループプロジェクト課長・瓜田健司氏

 「パソコン教室でヒアリングしたところ、すべての教室がローマ字入力で指導していた。それならば、カナ入力への対応を最小限とし、ローマ字入力を行ないやすい環境を前提とした」(富士通パーソナルビジネス本部ソリューション開発統括部PC/ユビキタス企画グループプロジェクト課長・瓜田健司氏)。

 ローマ字入力で使用される部分は、基本的には白と青の部分だ。これだけのキーを使えばいいと言われれば、初めてキーボードに触れるシニアにとってもハードルは大きく下がる。

 そして、ベースとなったNFシリーズでは、10キーが配置されていることが最大の特徴となっているが、これもキーの煩雑さを避けるためにあえて搭載しなかった。これによって、キーの数そのものを少なく見せることができている。

●機能や目的を1つに絞り込む発想

 実は、今回の商品化に当たっては、「潔い決断」が随所に見られている。

 「これも、あれも」という考え方をやめ、機能や目的を1つに絞り込むことで操作をシンプル化し、躓きやすい部分を無くそうとしているのだ。

 キーボードはその最たる例で、「ローマ字入力に特化するため、キートップのカナ表記を一切やめた試作品も作ってみた」というほどだ。「しかし、かえって難しそうに見えてしまい、断念した」(瓜田氏)と、開発裏話を明かす。

 キーボードだけでも約20種類を試作したという。

●すべての操作は「らくらくメニュー」から

独自に用意したらくらくメニュー。内容を絞り込んでいる

 では、「潔い判断」という観点を踏まえながら、いくつかの機能を見てみたい。

 キーボード上部に付属したボタンは、サポートツールが立ち上がる「サポート」、専用メニューが起動する「メニュー」、文字入力をローマ字とかな入力に切り替える「文字」、画面サイズを変更できる「画面」と、音量を操作する「音量」に限定した。ベースマシンでは、「インターネット」や「メール」、「ワンセグ」などがアサインされている場所だが、これも、シニア層が最も使う機能に置き換えた。

 「もちろん、ベースモデルで便利な機能となっている、メールやネットをこのボタンで一発起動させるということも検討した。だが、すべての操作をらくらくメニューから操作してもらうこと、なにか困ったらメニューボタンを押せば、必ずらくらくメニューの画面に戻って、最初からやり直せるという、決まった操作環境を実現するために、これら機能をボタンにはアサインしなかった」(瓜田氏)という。ここにも潔い決断があるといっていい。

 ボタンによる画面の切り替えも、「標準画面」(1,280×800ドット)と、「拡大画面」(1,024×640ドット)の2種類としたのも、煩雑性を避ける狙いがある。

●シニアの使い方に配慮した設計

 また、今回の製品のために用意された「らくらくメニュー」の画面は、「インターネットを見る」、「メールを読む・送る」、「年賀状や暑中見舞いを作る」、「時刻表や乗り換えを調べる」、「地図を見る」の5つに限定した。これに「かんたん検索」、「使い方を学ぶ」、「困った!を解決する」の3つの小さなボタンを付属した。

 6月発売の「FMVらくらくパック」では、「インターネット」、「メール」、「ハガキ作成」の3種類のボタンに限定していたことに比べると、メニューが増加しているが、それでも機能を絞り込むという姿勢は変わらない。ベースモデルと比べても、搭載したアプリケーションソフトの数は4割程度に削減しているのも、重複する機能を持ったソフトを無くすことでシンプルさを追求したものだ。

 また、メニューにある「時刻表や乗り換えを調べる」も、ボタンをクリックすると、すぐにサイトに飛ぶのではなく、目的地などを入力するための大きなダイアログ画面を専用に用意し、そこに地名などを入力すれば経路を検索できるようにした。サイトの経路検索の入力画面が小さい、どこに書き込んだらいいかわからないという声を反映したものであり、これは、グループ会社であるニフティとの連動によって実現したものだ。

 「かんたん検索」も、「食べる」、「つくる・育てる」、「医療・介護」などの10種類のカテゴリーに、20個ずつの検索メニューを用意。これも、「シニアが検索することが多いキーワードを選定し、優先的にメニュー化した」という。文字入力での検索ではなく、メニューを辿っていくだけで、目的の検索結果にまで達することを優先した仕掛けただ。

 さらに、電源ボタンも、スリープや休止状態とするのではなく、押せばシャットダウンするようにした。

電源ボタンはシャットアウトする形になっている 専用ボタンには、シニアに便利な機能をアサイン 付属しているローマ字入力表。卓上に置けるように工夫している

 「シニアの使い方を見ていると、電源ボタンを押したあとに、ACアダプタも抜いて、片づけてしまうというケースが多かった。これによって、スリープ状態で保持していたデータが消えてしまうこともあったため、あえてシャットダウンのみにした」(菅谷氏)という。

 中には、電源ボタンを長押ししてしまい、リセットしてしまう恐れが想定されたことから、これに関しては、ボタン上部に、「電源ボタンは短く押してください。ポチッ」と表記し、回避することにしたという。

 今回の製品では、ノートPCだけのラインアップとしたのも、らくらくパックでのデスクトップの購入比率が2割に留まったことや、わからないところがあった時には、PC教室や知人のところに持ち込んで聞けるというノートPCの利便性がある、というヒアリング結果によるもの。ここにも、決断の潔さがある。

付属したマニュアル類。わかりやすさに配慮したものになっている らくらくパソコンのロゴ。本体には入っていないが、同梱物やカタログ、店頭POPなどで使用

●一歩踏み込んだシニア向け展開に

 今回の製品では、量販店店頭で販売するという点で、これまでの「らくらくパック」とは意味合いが違う。店頭で展示し、在庫を確保し、さらに見込み生産を行なうという踏み込んだ挑戦となるからだ。

 従来の「らくらくパック」では、専門スタッフによる訪問サービスを用意。さらに、パック購入と同時に@niftyに申し込んだユーザーに対しては、2回の訪問サービスを提供していたが、今回の製品では、こうしたサポートを「らくらく訪問サービス」として2種類のオプションとして設定。@niftyへの申し込みは必須とはしていない。

 これも、すでに回線を所有しているユーザーが多かったことに配慮するとともに、量販店側が、独自のサポートを提供できる環境を用意するという意味合いがある。

 店頭予想価格は18万円前後。ベースモデルに比べて、2〜3万円程度割高となっている。キートップが専用化されているなど、部材面でのコスト上昇が背景にある。「白キーボードと黒キーボードの2種類を用意したため、キートップのカラーはそれだけで6種類。今後、標準モデルとのコスト差の吸収を図っていきたい」(菅谷氏)とする。

 パーソナルビジネス本部 本部長代理兼パーソナルマーケティング統括部 統括部長 三竹兼司氏は、「シニアの方々が量販店店頭でPC購入の相談に訪れた際に、まず、これを店員が勧めてくれるという環境を作り上げたい」と語る。

 また、直販に加えて、シニア向け雑誌とのコラボレーションモデルを用意。さらにPC教室を通じた販路拡大といった、これまでにない角度からのアプローチも開始する。マーケティング手法も知恵の絞りどころだ。

 当面の販売目標は、2万台。NFシリーズの約1割を目指すという。

 シニア市場は残された最後の大型市場。専用ハードの開発という形で踏み出し、シニア向け提案に本腰を入れた富士通の取り組みが注目される。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□ニュースリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/11/6-1.html
□製品情報
http://www.fmworld.net/fmv/pcpm0808/rakuraku/
□関連記事
【6月19日】富士通、シニア向け「らくらくパック」2機種3モデルを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0619/fujitsu.htm
【2005年2月8日】富士通パーソナルズ、シニア向け「らくらくパソコン」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0208/fujitsu.htm
【2003年1月20日】富士通パーソナルズ、シニア向けPC「らくらくパソコン」を発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0120/fujitsu.htm

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(2008年11月6日)

[Text by 大河原克行]


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