CEATEC JAPAN 2008レポート 【AMD基調講演編】“TFLOPS GPU”を活用した
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グラフィックス部門上級副社長兼ゼネラル・マネジャーのリック・バーグマン氏 |
会期:9月30日~10月4日
会場:幕張メッセ
AMDはCEATEC会場において、グラフィックス部門上級副社長兼ゼネラル・マネジャーのリック・バーグマン氏による「HDグラフィックス・テクノロジで加速するデジタル家電とPCの連携」と題した基調講演を実施。バーグマン氏は会見の冒頭で「私は12年間グラフィックの分野に関わってきた。各年代を経て、大きな変化が生まれてきた。しかし、まだまだグラフィックでできることはたくさんあり、やらなければならないことがある」とし、RadeonシリーズのHD体験への活用例を紹介した。
●Radeon HDが持つHD体験を高めるための機能
バーグマン氏は最初に、Radeon HDシリーズに実装されている「UVD(Unified Video Decoder)」について言及した。2007年第1四半期には800万台であった高解像度TVの販売台数が2009年第4四半期には1,600万台となる予測や、Blu-ray Discに関する米国の調査で2006年にはBlu-rayの認知度が0%であったのに対し、最近の調査では60%にまで伸びたといったデータを示し、まずは、HD市場が持つ可能性の高さを示した。
この分野に向けて提供しているAMDのテクノロジがUVDで、現行モデルには第2世代のものを実装。HD再生をGPUで支援することでCPU使用率を抑制できるという基本的なメリットのほか、一部タイトルなどで採用されているデュアルストリームデコードへの対応、HDMIやDisplayPort対応により映像と8chオーディオを1本のケーブルで出力できる点、DVDなどのコンテンツを高解像度ディスプレイで視聴する場合のアップスケール機能を紹介した。
さらに、「もう1つのエキサイティングなアイデア」として紹介されたのが、GPUによる動画のトランスコードである。800個のSPを利用したパラレル処理により、CPUに対して18倍の速度でトランスコードが完了するという結果をスライドで示した。
Radeon HD 4000シリーズに実装されている、第2世代Unified Video Decoderの機能 | IntelのCore 2 Duo E8400を利用した環境で、Blu-ray再生時のUVDの効果を示したグラフ |
ただ、800個のSPを持つのはパフォーマンスを求めるユーザーのためのものであり、「このクラスの製品はみんなが持つわけではない。70%の人は統合型チップセットを使っており、我々AMDはATIを買収したときから、プラットフォームレベルでより良いものを提供しようと考えてきた」とした。
モバイルプラットフォームについては、AMD 780Gと、Centrino2で利用されるIntel GMA X3100を比較。HD映像の画質評価ベンチマークであるHQV Benchmarkで5倍、3Dグラフィック性能のベンチマークである3DMark06で3倍のスコアを発揮することを示して、そのメリットをアピールした。
ちなみにRadeon HD 4000シリーズについては、6月のハイエンド向け製品、9月のミッドレンジ向け製品の発表に続いて、昨日ローエンド向け製品を発表した。これで、ハイエンドからローエンドまでが揃う格好となったわけだが、いずれの製品でもHQVのスコアが100点を出せる点も紹介。「専用のBlu-rayプレイヤーを数百ドルも出して買う必要はない」とした。
GPUによるトランスコードの効果を示したグラフ。Core 2 Duo E8500で10時間近くかかっている処理が、Radeon HD 4800シリーズを使うことで32分で終了 | モバイルプラットフォームにおける統合型チップセットのパフォーマンスを示したスライド | HD環境の向上のために業界との取り組みを進めており、日本のAMDもローカル企業・団体との協力体制を築くために努力しているという |
●グラフィック処理だけでなくAI処理などにもGPUを活用
バーグマン氏はRadeon HD 4000シリーズのグラフィック能力にも言及。いくつかのキーテクノロジーとして最初に取り上げたのが、DirectX 10.1のサポートだ。今年登場したこのAPIは、Radeon HD 3000/4000シリーズのみでサポート。2つの対応タイトルのデモが行なわれた。
また、次世代APIであるDirectX 11では、テッセレーションやGPGPUの活用が可能になることも紹介。テッセレーションはポリゴンを再分割(微細化)することで、より高画質にするもので、Radeon HDシリーズは専用ハードウェアを持っているのも特徴の1つになっている。またGPGPUのグラフィック分野への適用については、「AI処理によって、キャラクターの動きをインテリジェントに反応させることで、よりリアリスティックな効果を生み出せるようになる」として、ユーザー体験を高めるために必要なものとした。
このテッセレーションとGPUによるAI処理を利用したデモは、過去にも紹介されたことのあるゴブリンのデモだ。テッセレーションを活用して110万個のポリゴンを使ったゴブリンが、AI処理によってオブジェクトを避けるなどのインテリジェントな動作をするというものである。
一方、映画などで使われるコンピュータによるグラフィックについても言及。1つのフレームに数日間を費やすこともあるこの分野においては、1秒間に30フレームをレンダリングできる能力を持つことで初めてリアルタイムな映像を作ることになるわけだが、これは3Dゲームに対して324万倍の演算能力を必要とするという。そこで、200ドルぐらいで1TFLOPSの演算能力を持つRadeon HD 4800シリーズの強みを紹介。世界で初めての1TFLOPSコンピュータは500kWほどの消費電力を必要としたほか、講演に使われたカンファレンスルームぐらいの大きさになっていたそうである。
●GPUが将来起こすイノベーション
ここでバーグマン氏は「今後のイノベーションに大きく関わってくる人物」として、ハリウッドでCG製作などを行ない、AMDのデモも作っているという、Jules Worldのジュレス・アーバック氏を招待。
アーバック氏が作ったというのは、RadeonシリーズのキャラクターであるRubyの最新デモ。一般ユーザーが参加するイベントで紹介するのは初めてとのことだが、報道関係者向けのイベントでは何度か上映されており、過去の記事などでご覧になった方も多いだろう。HD解像度の映像を、ポリゴンではなくポイントクラウドデータを使って生成。レイトレーシングを行ない、リアルタイムにレンダリングするのがこのデモのコンセプトだ。ただし、最終的なデモでは、ポリゴンモデルをボクセル化した高クオリティなオブジェクトも加えられているという。
Jules World創業者のジュレス・アーバック氏 | リアルタイムのレンダリングによって実現されているRubyの最新デモ |
LightStageと呼ばれる顔のダイナミックレンダリングソフト。ボクセルデータを使った顔のCGを、光源の情報などを反映してレンダリングする |
こうした試みは同社にとっても初めてのものだったが、まだまだやりたいことはあるという。その1つが、Ruby自体の表現だ。人間の肌をCGで完璧に表現するのはまだまだ難しいものであるそうだが、同社で開発中のLightStageという顔のリアルタイムレンダリングを行なうアプリケーションを紹介。ボクセルデータを使ったもので、表情や光源の変化に応じてダイナミックレンダリングが可能。ハリウッドではこうした技術を採用しているところがすでにあるそうだが、「GPUを使えば効率的にレンダリングできる。映画だけでなくビデオゲームでも使える」と同氏は述べている。いわゆるデジタルアクターの世界であるが、LightStageの技術を使って全身を表現する技術の開発も進めており、CGであれば、どんなシーンでも、何人でも配置できることになる。
さらに同氏は、こうした技術の今後の形として、リアルタイムの映像キャプチャ技術との連携例を紹介。ビデオカメラなどのキャプチャ映像から動きを参照し、LightStageの技術を組み合わせて完全CGのアニメーションを作るというものだ。元の映像の人物は誰でもよく、あとでCGで顔を差し替えればいい。例えば日本舞踊などの動きを専門家が行ない、日本舞踊のたしなみがない女優の顔に差し替えてCGでアニメーションを作る、といったことも実現できるだろう。
さらに次のステップとして示されたのが、3Dホログラフィック技術だ。AMDとも協力して開発を進めているそうで、現時点では単色の3Dホログラフをリアルタイムにレンダリング。コントローラを使って動かすことができるようになっている。すでに人間の顔程度のサイズを映し出せる第2世代のものが完成しているほか、カラー化にも取り組んでいくという。
AMDのグラフィック技術における2009年の取り組み。プロセスルールは40nmから32nmを見込んでおり、Radeon HD 4000シリーズのモバイルへの組み込みも行なわれるとのこと |
バーグマン氏は、アーバック氏が示したデモの共通点として、いずれも高い演算能力が必要である点を強調。Radeon HD 4870 X2をCrossFireXで利用すれば、9.6TFLOPSを1つのプラットフォーム上で持たせることができることを強くアピールした。
最後に、来年の展望として、プロセス技術は40nmから32nmプロセスへの移行をにらむ。微細化によってRadeon HD 4000シリーズがノートブックにも使われていくほか、Windows 7の登場やOpenCLの普及、コンシューマアプリケーションへのGPGPUの活用などのトピックを紹介。
そして、現在TFLOPSを実現しているGPUは、3~4年でPFLOPSへ到達するだろうと未来を予測している。10年後とかの話ではなく、アーバック氏が紹介したようなデジタルアクターが2~3年で実際の映画にも使われるようになるということだ。
そして、ホログラフィックなどの技術が進化することで、すべてをグラフィックでバーチャル化するという大胆な希望を示し、「2018年のCEATECでは、私自身は来ないで、3Dホログラフィックの私が、ここにいるかも知れない。AMDとしてはビジュアルの体験を追求していきたい」と述べて講演を締めくくった。
□CEATEC JAPAN 2008のホームページ
http://www.ceatec.com/
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【9月30日】【CEATEC】AMDがGPUによる動画アップスケールや新モバイルGPUをデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0930/ceatec01.htm
(2008年10月2日)
[Reported by 多和田新也]