Microsoftハードウェアキーマンインタビュー
米Microsoftが9~10日(現地時間)に開催したHardware Launch Event 2008にて、ハードウェアの開発およびマーケティングに関わる人物にインタビューをする機会を得たので、新製品についていろいろ伺った。 なおインタビューは1対1形式ではなく、複数の媒体を対象にしたものであるため、質問の一部は筆者から尋ねたものではないということを付け加えておく。 ●デザイン
製品のデザインについては、デザインとリサーチを担当しているUser Experience ManagerのAndy Cargile氏に話を伺った。同氏は、デザインチームのモックアップを実際の製品にしていくことを担当している。 --Microsoftの製品はこの何年かの間でデザインが変更されているが、これは何か理由があるのでしょうか。 Andy 確かに我々はこの何年間の間で、カラーリングや背の高さ、本体サイズなどを変更している。それは、ユーザーのニーズに応える製品としての完成度を高め、より広範囲をカバーするためだ。4~5年前のその時点で良いと思うデザインも、現在のニーズに応えられない。例えばゲーマーにとってはSideWinder Mouseのようなデザインが好まれるし、モバイル市場はWireless Mobile Mouse 3000のような小型のマウスが望まれる。それぞれのニーズにあわせた、よりよい製品を提供することが我々の使命であり、デザインの変更はそれに伴うものだ。 --今回、デザインにもっとも注力したのはArc Mouseだと思います。デザインするにあたり、苦労した点はなんでしょうか。
Andy 美しいデザインと使いやすさの両立、これはマウスの設計において一番難しいポイントだ。美しいデザインであるとともに、人間工学を取り入れ使いやすさを犠牲にしないということはもちろん、Arcについてはヒンジの耐久性というチャレンジな分野があった。 Arcのサイズについても十分検討を行なった。Arcを小さく作ることもできたが、それでは手のひらに大きな圧力が集中してかかり、疲れてしまう。逆に大きくすると圧力は減るものの手の小さな人にフィットしないし、本来の目的であるモビリティ性を損ねてしまう。我々は常に標準的な人間の手のサイズにフィットするような製品作りを意識しており、Arcにも同じことが言える。 --Eee PCを代表するような低価格PCが普及していく中、Microsoftの周辺機器も同じように低価格で提供するような戦略はあるのでしょうか。 Andy 残念ながらここで将来の製品と価格について話することはできない。しかし我々はそうしたユーザーのニーズについての調査は既に開始しており、各国のマーケットにマッチした製品を投入していく予定だ。 製品には「ゴールデンスペック」と呼ばれるものが存在する。すなわち我々が要求する最低限の品質を下げずに、最低限の価格で実現できるというポイントがある。確かに廉価な製品はより機械的なデザインで合理的に作られているが、信頼性の部分でコストを削るよりも、ペンキや材質などを変えていくこと安価な製品を実現している。 --Microsoftのハードウェア製品というのは最初からやや大きいサイズだが、これはやはり北米市場を意識しているものなのか。 Andy いいえ。先ほど述べましたが、我々は常に標準的な人間の手のサイズにフィットするような製品作りを意識している。すなわち90%の人間の手にフィットする製品だ。製品のサイズがやや大きいのはデザインの問題ではなく、中に実装する部品の物理的大きさの理由からだ。Xboxのコントローラも当初は大きかったが、部品の技術が進歩することによって小型化を実現した。これはマウスやキーボードにも共通して言える事である。 ●マーケティング
製品のマーケティングや戦略について、同社Group Product Marketing ManagerのCarla Forester氏に話を伺った。 【17:30訂正】記事発出時、Carla氏の名前を誤って掲載しておりました。お詫びして訂正します。 --Arcのような奇抜なデザインのものはどこから生まれたのでしょうか。 Carla 我々は毎年サイエンスフェアというのを社内でやっている。これはいわゆるエンジニア達のショーケースだ。このサイエンスフェアではサイドプロジェクトが多数展示されており、そこの展示されたもののアイディアやデザインがメインプロジェクトに反映されたり、そのままメインプロジェクトに変更される場合がある。今回のArcもサイエンスフェアから多くの要素を取り入れた。 --過去にも同様にサイエンスフェアから生まれた製品はありますか。 Carla 私の記憶の中ではNatural Ergonomic Keyboard 4000がそうでした。このときもサイドプロジェクトがそのままメインプロジェクトになったのではなく、メインプロジェクトの一部に新しい要素を取り入れましたね。
--今回のBlueTrack搭載マウスは「Explorer」という、Windowsでありきたりの名前を採用しましたが、その理由はなんでしょうか。 Carla BlueTrackという技術自体、さまざまな素材面の上で利用できる性質上、マウスを利用できる場所を増やすことができました。だから「Explorer」という名前もそれにちなんだもので、「どこへでも行ける」という印象をユーザーに与えたかったのです。ほかにもいくつか候補がありましたが、結局過去の名前の原点に戻ってしまいましたね。 --今後特に注力していく分野はありますか。 Carla 全般的に注力してますが、マウス、ゲーミング、キーボード、Webカメラの4つがもっとも重要ですね。我々は常にPCの体験をよりよくするために日々努力しており、世界中のユーザーから声を聞き入れ、ニーズに応えるべく新製品を投入しています。 --競合他社と比較してのアドバンテージはなんでしょうか。 Carla もちろん、それは我々がMicrosoftの一部であるということです。ハードウェア本体のみならず、ソフトウェアとサービスを組み合わせてユーザーに届けられるのは我々だけです。すなわち、ソフトウェアとサービスの中でハードウェアがどう使われているのかを理解できるのは我々のみです。 また、エンジニアリング、エルゴノミクスについては有能な人たちが仕事に取り組んでおり、すばらしい製品を提供できるのも我々のみだと自負しています。 ●BlueTrack
BlueTrack Technologyについて、R&D Manager, Desktop Experiences GroupのMark DePue氏に話を聞いた。 --BlueTrackはMicrosoftのオリジナルですか、それとも他社製品をベースにしていますか。 Mark BlueTrackは我々の独自開発による、まったく新しいセンサーです。我々は光学式のメリットとレーザー式のメリットを両方取り入れつつ、青色LEDの採用により高いトラッキング性能を実現したのです。 光学式の利点は照射範囲がレーザーに比べて広いことです。これにより凹凸が激しい、例えば絨毯のような材質の上でもトラッキングできるようになりました。一方光の照射角度とCMOSカメラへの入射角度をレーザーセンサーのように最適化することで、コントラストの高い像を得られるようになり、これもトラッキング精度の向上に一役かっています。 --なぜ青色LEDなんでしょうか。従来の赤色LEDを採用しなかった理由は。 Mark 青は赤に比べて波長が短いため拡散しやすく、より高精度で、より高コントラストの像を得られるのです。光ディスクも青色レーザーに移行し、Blu-ray Discのように高い密度を実現したのと同じ原理です。 青より紫のほうが波長が短いので、より高い精度が得られるのでは、という意見もあります。その通りです。しかしCMOSセンサーは紫よりも青に敏感であり、青のほうがより高いコントラストの像を得ることができます。これが我々が青色LEDを採用した理由です。
--BlueTrackの解像度を教えてください。 Mark 我々はセグメント別に2種類の製品を用意しました。1つは生産性を重視するユーザー向けのExplorerで、これは1,000dpi固定です。一方ゲーミングを重視するユーザー向けのSideWinder Mouse X8では250~4,000dpiまでフレキシブルに設定できるようにしました。 X8の解像度はソフトウェア上から変更できますが、(発売が先ということもあり)まだ設定できるステップなどの詳細は決まっていません。 --BlueTrackの消費電力はどのぐらいでしょうか。 Mark 消費電力はほぼ光学式と同じぐらいになるのではないかと予測しています。センサーの開発は我々ですが、CMOSの部分はInfineon Technologiesに製造を委託しています。この部分は第4世代のASICを使っており、消費電力は問題になるとは考えていません。 BlueTrackはさまざまな材質の上でトラッキングを行なえる素晴らしい技術です。我々はBlueTrackをビジネスとして継続し、今後はほかの製品にも順次搭載していく予定です。 □Microsoftのホームページ(英文) (2008年9月16日) [Reported by ryu@impress.co.jp]
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