多和田新也のニューアイテム診断室

AMDの新アーキテクチャ版マルチGPUカード
「Radeon HD 4870 X2」




 AMDは8月12日、かねてより予告されていたRadeon HD 4870(RV770)を2個利用したマルチGPUビデオカード「Radeon HD 4870 X2」を正式発表した。今年1月に発表された「Radeon HD 3870 X2」に続くマルチGPUビデオカードとなるが、パフォーマンスの評判も良いRV770を利用しているだけに期待がかかる。このベンチマーク結果を紹介したい。

●GPU間の帯域も旧製品から向上

 Radeon HD 4870 X2は、基本的にはRadeon HD 4870で利用されるRV770コアのGPU2個を利用したビデオカードである。GPU 2個を搭載するだけあって、さすがにボードは長いが、Radeon HD 3870 X2と同じサイズで、シングルGPUのGeForce GTX 280と同等程度だ(写真1)。

 スペック面では、Streaming Processing Unitが800個×2で計1,600個、テクスチャユニットは40個×2で計80個、レンダバックエンドは16個×2で32個といった具合になる。メモリは各GPUが256bit幅のインターフェイスを持ち、GDDR5に対応。標準仕様では各GPUに1GBのメモリが接続され、計2GBを搭載している。

 マルチGPUカードとしては珍しく、コアクロックやメモリクロックがシングルGPUカードのスペックと同等に据えられた。つまり、Radeon HD 4870と同じく、コアクロック750MHz、メモリクロック900MHz(データレートベースの表記では3.6GHz)となっている(画面1)。

【写真1】今回のテストに使用したMSIのRadeon HD 4870 X2搭載製品 【画面1】動作クロックはシングルGPU版と同じく、コア750MHz、メモリ900MHz。Power Playが有効になっている状態では、コア507MHz(公式仕様では500MHzと思われる)、メモリ500MHzとなっている

 これまでマルチGPUビデオカードは、シングルGPUビデオカードよりもクロックを落とされることが一般的で、マルチGPUの効果が薄いアプリケーションでは、マルチGPUのオーバーヘッドとクロック低下という2つのデメリットが露呈してしまうこともあった。また、より高いクロックのシングルGPUビデオカードを2枚利用するCrossFireなりSLIの方が性能が良いというケースも目立った。Radeon HD 4870 X2は、Radeon HD 4870に対してクロック低下というスペック上の劣勢はないわけで歓迎できる仕様だ。

 外観上の特徴は、Radeon HD 3870 X2と大きな違いはない(写真2~5)。ブラケット部にはDVI×2とビデオ出力を備える。DVI端子はDual-Link対応が1系統とSingle-Link対応が1系統になっており、この点はRadeon HD 4870の仕様を踏襲したものになっている。

【写真2】ブラケット部はDVI×2とビデオ出力の構成。2スロット占有型クーラーで、上部のスリットから排気される 【写真3】CrossFire端子を1系統装備。本製品を2枚用いることでQuad CrossFireXの構築が可能
【写真4】ボード裏面は金属プレートが取り付けられている 【写真5】電源端子は6ピン×1、8ピン×1を搭載。本製品は6ピンと8ピンを接続しないと動作しない

【画面2】Radeon HD 3870 X2では6ピン×2個を取り付けても動作したが、Radeon HD 4870 X2は電源投入直後に警告が表示されて起動すらさせられない

 注意したいのは電源端子だ。本製品は8ピン×1と6ピン×1の組み合わせとなっており、この点ではRadeon HD 3870 X2と違いがない。ただし、Radeon HD 3870 X2を標準クロックで1枚のみ利用する場合は、6ピン端子を2個接続するだけで利用が可能だったが、Radeon HD 4870 X2では、6ピンと8ピンの両方を接続しないと、1枚の利用であったとしても警告が表示され、起動すらしないようになっている(画面2)。

 Radeon HD 4870 X2のリファレンスカードの消費電力は286Wとされている。Radeon HD 4870の消費電力は160Wとされているので、126Wの上昇となる。GeForce GTX 280の公称消費電力は236Wなので、1枚のビデオカードとしては相当な電力を消費するビデオカードといえる。

 このほか、非常に重要なポイントとして、2個のGPUを接続するアーキテクチャの面で、Radeon HD 3870 X2とは大きな違いがある。Radeon HD 3870 X2は、2個のGPUをPCI Express 1.1対応ブリッジで接続していた。これに対して、Radeon HD 4870 X2はブリッジチップがPCI Express 2.0対応品に変更されているのだ(図)。もちろん、ブリッジチップがPCI Express 2.0化したということは、ビデオカードとチップセット間のインターフェイスもPCI Express 2.0になったということでもある。

 また、GPU上に持つSidePortを利用してGPU同士を直接する仕組みも加えられた。SidePortはAMD 790GXやAMD 780Gでローカルフレームバッファを搭載するインターフェイスとして知られている。おそらく両者は同じもので、描画内容を転送できるインターフェイスとして幅広く活用していけるものなのだろう。

 Radeon HD 4870 X2のヒートシンクを取り外し、主要チップをチェックしてみたものが写真6~9である。インダクタの種類などは異なるが、ボードデザイン自体はRadeon HD 3870 X2に近い印象を受ける。

【図】Radeon HD 4870 X2とRadeon HD 3870 X2のGPU間接続の違い
【写真6】Radeon HD 4870 X2のクーラーを取り外した状態。ボードレイアウトはRadeon HD 3870 X2に似ている 【写真7】RV770コアのGPUを2個搭載
【写真8】PCI Express 2.0対応ブリッジ「PEX8647」。チップ全体がヒートスプレッダで覆われている 【写真9】メモリはHynixの「H5GQ1H24MJR-T0C」。最大4Gbpsの転送に対応するメモリであり、余裕を持ったチップ選定がなされている

 使用されているPCI ExpressブリッジチップはPLX Technologyの「PEX8647」で、Radeon HD 3870 X2で使用されていた「PEX8547」と同じベンダーのチップである。メモリチップはHynixのGDDR5。各GPUに8枚が接続され、表面に4枚ずつ、裏面4枚ずつを搭載する格好となっている。

 なお、今回はテストを行なっていないが、同時にRadeon HD 4850 X2も発表されている。GDDR3を搭載するRadeon HD 4850の仕様をベースとしたマルチGPUビデオカードで、同ビデオカードと同クロックで動作。こちらの消費電力は230Wとされている。

●GeForce GTX 280との性能差を中心にチェック

 それでは、ベンチマーク結果をお伝えしていく。テスト環境は表に示した通りで、今回の主な比較対象製品はGeForce GTX 280としている。Radeon HD 4870 X2は549ドルの価格設定がなされており、日本円では6万台半ばから7万円台が予想される。おおよそではあるが、GeForce GTX 280と同等か、少し高価な製品となる見込みだ。直接のライバルは、GeForce GTX 280ということになるだろう。

 また、3万円台半ばから4万円台前半の価格帯で販売されている、Radeon HD 4870を2枚用いたCrossFireも、Radeon HD 4870 X2とは価格面で競合することになる。接続形態の違いによるパフォーマンス差も気になるところなので、この環境もテストに加えている。テストに使用したビデオカードは写真10、11の通りだ。

 ちなみに、ドライバに関しては、Radeon両環境はAMDからテスト用に配布されたドライバ、GeForce GTX 280は同社Webサイトからダウンロード可能な最新版のドライバを用いている。

【表】テスト環境
ビデオカード Radeon HD 4870 X2
Radeon HD 4870(CrossFire)
GeForce GTX 280
CPU Intel Core 2 Extreme QX9770
マザーボード ASUSTeK P5Q PRO(Intel P45+ICH10R)
グラフィックドライバ Driver Package Version:
8.52.2-080722a-066081E-ATI
GeForce Release 177.41
メモリ DDR2-800 1GB×2(5-5-5-15)
HDD Seagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS)
OS Windows Vista Ultimate Service Pack 1

【写真10】GeForce GTX 280のリファレンスボード 【写真11】Radeon HD 4870を搭載する、MSIの「R4870-T2D512」

 では順に結果を見ていきたい。「3DMark Vantage」(グラフ1、2)の結果はRadeon HD 4870勢の強さが目立つ。Feature Testの結果を見ても、Perlin NoiseとPixel ShaderのテストでGeForce GTX 280を大きく引き離しており、計1,600個のSPが威力を発揮した格好といえる。

 Radeon HD 4870 X2とCrossFireの比較でいえば、PerformanceおよびHighプリセットでは同等程度の結果だが、ExtremeプリセットはRadeon HD 4870 X2が優れた結果を見せた。

【グラフ1】3DMark Vantage Build 1.0.1(Graphics Score)
【グラフ2】3DMark Vantage Build 1.0.1(Feature Test)

 ただ、「3DMark06」(グラフ3~6)はVantageとは違った傾向を見せており、描画負荷が高い条件ほど、Radeon HD 4870のCrossFireが強さを見せる結果となっている。SM2.0に関してはRadeon HD 4870 X2とCrossFireの性能差がほとんど表面化していないものの、HDR/SM3.0テストで、高負荷条件ほどCrossFireが明確に良い結果となっているのだ。相反する結果が出たという点については、後ほどのゲームベンチでも注意しつつチェックしていくことにしたい。

 一方、GeForce GTX 280との比較では、こちらも圧勝といえる。SM2.0の結果を見ると分かりやすいが、アンチエイリアスや異方性フィルタを適用したときのパフォーマンス低下が極めて小さいという、Radeon HD 4800シリーズの良さがはっきり出ている。

【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0)
【グラフ5】3DMark06 Build 1.1.0(HDR/SM3.0)
【グラフ6】3DMark06 Build 1.1.0(Feature Test)

 「F.E.A.R.」(グラフ7)は、このクラスのビデオカードにとっては軽量のゲームといえるが、全般にRadeon HD 4870 X2が良好な結果を見せている。GeForce GTX 280との差はもとより、Radeon HD 4870のCrossFireに対しても優位性のある結果だ。ただし、高負荷(とくにフィルタ適用時)に差が詰まり、その優位性は薄れている。

【グラフ7】F.E.A.R.(Patch v1.08)

 「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ8)も、わりと軽量なアプリケーションであるが、こちらはRadeon HD 4870のCrossFireが優勢な傾向にある。ただ、やはりUXGAやWUXGAのフィルタ適用時には似たようなスコアに収まる傾向がある。一方のGeForce GTX 280との差は、もはや言わずもがな、といった感じである。

【グラフ8】Call of Duty 4(Patch v1.6)

 「Crysis」(グラフ9)は、高負荷なアプリケーションで、NVIDIA製品に良い結果が出やすいイメージが強い。だが、結果は完全にRadeon勢が優勢。とくにフィルタ適用時には、Radeon HD 4870 X2がCrossFire環境を上回る結果を見せており、3DMark Vantageに近い傾向となっているのが特徴的だ。

【グラフ9】Crysis(Patch v1.2.1)

 「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ10)は、初めてGeForce GTX 280が優位に立つ結果を見せている。とはいえ、高負荷になるに連れ、Radeon HD 4870 X2が良いスコアを出す結果となっており、ビデオカードの持つポテンシャルははっきり上位にあるといって良いだろう。

 興味深いのはWUXGAのフィルタ適用時の結果で、Radeon HD 4870 X2とCrossFireで大きな差がついた。フィルタ適用時に解像度が上がるたびに徐々に差を広げる傾向を見せており、これも3DMark VantageやCrysisに近い結果といえる。

【グラフ10】COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS(Patch v2.301)

 「World in Conflict」(グラフ11)の結果は、CPUによる性能の頭打ちが目立つが、負荷が軽い状態ではGeForce GTX 280のスコアが良く、シングルGPUである効率の良さを感じさせる結果だ。ただ、負荷が高まるとRadeon勢の結果が浮き上がってくる。全体に大きな差ではないものの、ハードウェアのポテンシャルの違いを感じさせる象徴的な結果といえるだろう。

【グラフ11】World in Conflict(Patch v1.008)

 「Unreal Tournament 3」(グラフ12)の結果は全般にRadeon HD 4870のCrossFireが優勢だが、差はそれほど大きくないし、特にBotではスコアのバラつきも大きく、一貫した明確な傾向は見て取れない。同等か、ややCrossFire優勢といったところだ。CPU負荷も大きくなるBotの低解像度ではGeForce GTX 280のスコアが良好で、こちらはやはりシングルGPUの効率の良さであろう。

【グラフ12】Unreal Tournament 3(Patch v1.2)

 「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)の結果も、特に描画負荷が高い状態で、ややRadeon HD 4870のCrossFireが良好な傾向だ。Unreal Tournament 3よりも安定したスコアが出ており、Radeon HD 4870 X2でもう一伸び足りない印象が残る。

 とはいえ、GeForce GTX 280との比較では、高負荷の条件で優位に立っている。CPUの影響が大きくなる低解像度のCaveでは劣るものの、ビデオカードの能力が問われるSnowやCaveの高負荷条件では上回る。このアプリケーションはNVIDIA製品をベースにチューンされていることを考えれば、数値以上に意味のある結果といえる。

【グラフ13】LOST PLANET EXTREME CONDITION

 消費電力測定(グラフ14)の結果は、全般にGeForce GTX 280が好印象を残す。アイドル時、高負荷時ともに大きな差がついており、トランジスタ数が多いとはいえ、シングルGPUであることの強みは出ている結果といえる。

 Radeon HD 4870 X2とCrossFireの比較では、高負荷時はほぼ同等という結果であるが、アイドル時にはRadeon HD 4870 X2がかなり抑制されている。1枚のビデオカードに実装したメリットといえるだろう。

【グラフ14】消費電力

●単体ビデオカードとしてGTX 280を圧倒する性能

 以上の通り結果を見てきたが、GeForce GTX 280を超える性能を持ったビデオカードであることに疑いの余地はない。低解像度などではマルチGPUとシングルGPUの効率の違いが出る場合もあるが、このクラスのビデオカードの場合は何より高解像度、高クオリティでの描画性能が求められることを考えれば、この問題は些細なものといえよう。価格が同等か若干高い程度であることを考えると、このエンスージアスト向けセグメントにおけるコストパフォーマンスの面でも悪くない。

 Radeon HD 4870のCrossFireとの比較では、アプリケーションによって結果が左右される傾向が見られる。ただ、実際のゲームを使ったベンチマークにおいて、CrysisやCOMPANY of HEROESのようにRadeon HD 4870 X2が決定的な優位性を見せる一方で、Radeon HD 4870のCrossFireが極端に上回る結果は見られない。つまり、CrossFireの方が良い結果を出す傾向にあっても、致命的なビハインドになっていない点は、Radeon HD 4870 X2の良さと言えるのではないだろうか。

 また、Radeon HD 4870 X2の消費電力は、Radeon HD 4870のCrossFireを下回っている。この点については、GeForce GTX 280の魅力が大きいのも事実であるが、このクラスのビデオカードでは、性能と価格の2点が最重要であろう。

 最高パフォーマンス争いでは、Radeon HD 2900シリーズ/3800シリーズと、2世代に渡って苦戦してきたRadeon勢。だが、このRadeon HD 4800シリーズは、Radeon HD 4850/4870、そして今回のX2の登場によって、ハイエンド以上のセグメントを塗り替えるインパクトを持った製品を投入した。市場における今後のビデオカードの勢力図の変化にも注目していきたい。

□関連記事
【6月30日】【多和田】AMDの新ハイエンドGPU「Radeon HD 4870/4850」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0630/tawada144.htm

バックナンバー

(2008年8月12日)

[Text by 多和田新也]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.