NVISION08レポート 【展示会場レポート】
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会期:8月25日~27日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンノゼダウンタウン
このレポートでは「NVISION08」の展示会場で行なわれた、CUDAを利用したビデオ編集/再生のデモを紹介する。
日本のユーザーにも馴染みが深い、ペガシスの「TMPGEnc 4.0 XPress」、サイバーリンクの「PowerDirector 7」のCUDA対応版もデモされており、注目される内容となっている。
●GPUを利用したエンコード、パフォーマンス面では効果絶大
NVIDIAのブースでは、CUDAを利用したビデオ編集やビデオ再生のデモなどが公開され、大きな注目を集めた。
ざっとおさらいしておくと、CUDAは、NVIDIAが推進するGPUを利用したコンピューティングのソフトウェア環境で、ユーザーはCUDA対応のGPUドライバをインストールするだけで利用できる。ソフトウェア開発者向けにはCやC++、Fortrunなどの言語でコーディングできるソフトウェア開発環境やコンパイラが公開されており、慣れ親しんだ言語を利用してGPUのエンジンを科学演算などの処理に使える。
CUDAのアプリケーションを利用するにはWindows XP/Vista(32/64bit)、Linux(32/64bit)、Mac OSのいずれかに、NVIDIAのサイトからダウンロードしたドライバをインストールしておく必要がある。対応しているGPUは、GeForce 8シリーズ以降だ。なお、8月半ばに公開されたNVIDIAの「GeForce Power Pack」のサイトからもダウンロードできる。
そのGeForce Power Packの中に、Elemental Technologiesが試作した「badaboom Media Converter」というトランスコードソフトウェアの試用版があり、CUDAを利用したトランスコードを体験できる(使用期限は8月29日まで)。このソフトは、レポートにもあるとおり、絶大な効果があることが確認されている。
ただし、badaboom Media Converterは、どちらかと言えばISVに対してトランスコードエンジンを販売することを前提に開発されたようで、エンドユーザー向けに販売されるかどうかは未定という。
Elemental Technologiesのブースに展示されたbadaboom Media Converter | こちらはPremiere Pro CS3用の「RapiHD」。MPEG-4/AVCへエンコードする際に、CUDAを利用して高速に処理できる |
●まずはフィルタのみ対応の「TMPGEnc 4.0 XPress」
NVIDIAでは、現在市場に出回っているエンコードツールでもCUDAがサポートされるように働きかけていると、NVIDIA Multimedia Product Marketing ManagerのPatrick Beaulieu氏は説明する。
Beaulieu氏はその代表例として、ペガシスの「TMPGEnc 4.0 XPress」とサイバーリンクの「PowerDirector 7」をあげ、両ソフトウェアのCUDA実装が進む予定であることを明らかにした。
TMPGEnc 4.0 XPressに関しては、ペガシスからのリリースにもあるように、最初の実装としてフィルタ機能の一部がCUDAに対応した。Beaulieu氏は「フィルタ機能そのものの実行速度は、CPUを利用した場合に比べて圧倒的に高速だ」と述べた。
ただし、実際にエンコード処理を行なう場合、処理にかかる時間の大部分はトランスコードやエンコードの本体部分で、フィルタ機能にかかる時間はさほど多くない。このため、フィルタだけが対応したことによる処理能力の向上は「1.x倍~2倍程度だ」(Beaulieu氏)という。エンコードエンジンそのものが対応した「badaboom Media Converter」が見せたような圧倒的なエンコード時間の短縮は実現されていない。
しかし、「現在の実装は、第一歩に過ぎない。彼らは引き続きエンコードエンジン本体におけるCUDA対応も検討しており、我々もそれを最大限サポートしていく」とBeaulieu氏は述べた。なお、このイベントの3日目にはペガシスによる記者会見も予定されており、期待されるところだ。
TMPGEnc 4.0 XPressのCUDA対応版起動画面、バージョンは4.6.0.257となっていた | 操作はお馴染みのユーザーインターフェイスを利用して行なう。フィルタそのものは現行版と大きな違いはないように見える |
CUDAを利用するかどうかは詳細設定のメニューから選択する | エンコード中の画面も、現行版と大差ない |
●PowerDirector 7も、フィルタからスタート
Beaulieu氏は「PowerDirector 7」のCUDA対応版もデモをした。現時点では、CUDAが利用できるのはモーションブラーなど4つのフィルタのみであるという。しかも、CUDAのON/OFFはレジストリを直接編集する必要があるなど、初期の実装という段階のようだ。
Beaulieu氏は、PowerDirector 7を利用して、同じビットレートのMPEG-2からMPEG-2へフィルタをかけるというデモを行なった。CUDA未対応では50秒程度であるのに対し、CUDAを利用した場合には32秒で終わった。「実際にエンコード処理はエンコードの処理そのものにかかっている時間がほとんどで、フィルタ処理が占める時間は少ない。それでも、これだけの時間が短縮できるのだから効果は大きいと言える」(Beaulieu氏)としている。
Beaulieu氏によれば、将来的にはCUDAによるエンコードエンジンの実装が計画されているそうで、期待したいところだ。ただ、すでにAMDはPowerDirector 7で、GPUを利用したエンコード処理をデモしており、そちらの方が先になる可能性もある。
現時点ではCUDA対応の有無はレジストリで切り替える | こちらも慣れ親しんだユーザーインターフェイス | エンコード終了した画面、CUDA対応版では32秒で処理が終了した |
●CUDAを利用したアップスケーリングでDVDを高画質化
CUDAの利用例として、GPUによるDVDのアップスケーリング処理もデモされた。
DVDのアップスケーリングとは、SD解像度の映像を、HDのディスプレイに出力する場合、単に高解像度に引き延ばすだけでなく、シャープネスなどの高画質化処理を加えることを指す。民生機のBDプレーヤー/レコーダーに搭載されており、最近ではPC用のDVD再生ソフトなどにも実装例がある。アップスケーリング処理をCPUで行なう場合、処理能力が充分でないとコマ落ちが発生してしまう。
Beaulieu氏がデモしてくれたArcSoftのDVDプレイヤーソフトウェア(「Digital Theater」と思われる)のCUDA対応版では、左右でアップスケーリングの有無を確認することができた。アップスケーリング有効版ではシャープネスが調整され引き締まった映像になっていることや人の肌の様子などが補正され、アップスケーリングが無効な場合に比べて綺麗な映像になっていることが確認できる。しかも、CUDA対応をオフにすると、コマ落ちが発生することも確認でき、CUDAの効果がわかりやすいデモとなっていた。
なお、Beaulieu氏によれば、いずれのソフトウェアも現時点では開発中で、リリース時期はNVIDIA側でも把握していないという。しかし、今年(2008年)の後半から来年(2009年)にかけて、CUDA対応ソフトが順次登場する可能性は高い。
SD解像度のDVDを再生 | 写真ではわかりにくいが、右側のアップスケーリング対応側ではシャープネスなどの高品質処理が行なわれている | CUDA対応を無効にしてCPUによる処理に切り替えると、CPUの利用率が一気にあがり、6fpsしかデコードできない |
□NVISION08のホームページ(英文)
http://www.nvision2008.com/
□関連記事
【8月26日】ペガシス、「TMPGEnc 4.0 XPress」にNVIDIA GPUエンコードを実装へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0826/pegasys.htm
【7月23日】【多和田】コンシューマユーザーにとっても現実味が増す「GPGPU」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0723/tawada147.htm
(2008年8月27日)
[Reported by 笠原一輝]