「無安定マルチバイブレータ」(前編)




 今回から2回に渡って、回路図を見ながらブレッドボードの上に回路を組む練習をしてみましょう。題材は2つのLEDが交互にチカチカする回路「無安定マルチバイブレータ」です。まずはできあがりの様子と回路図を見てください。

【動画】2つのLEDが交互に点滅します。ブレッドボード上には10個の部品が載っています
こちらが回路図。電池の部分を除くと、きれいなシンメトリーになっていますね

 回路の詳細を決めるにあたって、加藤ただし著『図解 つくる電子回路』(講談社ブルーバックス)を参考にしました。無安定マルチバイブレータの原理を詳しく知りたい人は、この本を読んでみてください。ブレッドボーディングについても触れられていて、とても参考になる本です。

 回路図を読むことで、どんな部品が使われていて、それらの部品がどのように繋がっているかがわかります。ただし、そうした情報は回路図特有の記号であらわされているので、まずその読み方を覚える必要があります。

今回使用する部品の記号と単位

この図では、部品だけを黒く塗ってみました。また、それぞれの部品の呼び名を記入してあります。こうすると少しわかりやすくなるかと思ったのですが、どうでしょうか

 使っている部品は電池、カーボン抵抗器、電解コンデンサ、トランジスタ、そしてLEDです。それぞれの部品について、R1やTr2のような参照名と、39kΩや22μFといった値(定数)が記入されています。

 参照名は部品ひとつひとつを区別できるようにするために必要です。名前の付け方には法則があって、抵抗の場合は、R1、R2、R3……のようにアルファベットのRと数字の組み合わせで表記するのが一般的です。コンデンサはC、トランジスタはTrです(違う文字を使う場合もあります)。

 すべての抵抗とコンデンサは、設計者によって値が決められています。抵抗はΩ(オーム)、コンデンサはF(ファラド)が単位です。こうしたΩやFといった記号は省略されることがあります。抵抗の横にただ100と書いてあったら、それは100Ωを意味しています。

 大きな値や小さな値を表現する場合、ゼロを並べていると大変なことになるので、k(キロ)やm(ミリ)といった補助単位を付けます。電子工作でよく出てくる補助単位は次のとおりです。

【表1】補助単位
記号 読み方 倍数
M メガ 1,000,000倍
k キロ 1,000倍
m ミリ 1/1,000
μ マイクロ 1/1,000,000
n ナノ 1/1,000,000,000
p ピコ 1/1,000,000,000,000

 抵抗の値にはk(キロ)やM(メガ)、コンデンサの値にはp(ピコ)、n(ナノ)、μ(マイクロ)が付くことが多いです。

 コンピュータ上ではμという文字が使いにくい場合があるので、かわりにu(小文字のU)で代用することがあります。22uFは22μFのことです。

 回路図をもういちどよく見ると、トランジスタのそばには「2SC1815」という文字があります。これは製品名です。東芝の2SC1815というトランジスタが指定されています。

 ここで少し、今回初登場のトランジスタに触れておきましょう。

 トランジスタはさまざまな分野で使われてきた、もっとも基本的な半導体素子です。しかし、同じ半導体の仲間のLEDと違って、トランジスタはなかなかその働きがイメージできないと思います。動作が目に見えないのがその一因かもしれません。

 基本的な素子と言いましたが、実はこの先、この連載でトランジスタが登場することはあまりありません。トランジスタの形をしたトランジスタが登場することは、と言った方が正確ですね。トランジスタはICのなかで、もっと使いやすい形で存在しています。ICを通じて間接的にトランジスタを利用することが多いでしょう。

 以下にトランジスタの性質をごく簡単にまとめておきます。

・たくさんの種類があり、用途に応じて使い分けられる
・入力と出力があり、入力の大きさで出力の大きさをコントロールする
・増幅(信号を大きくすること)がトランジスタの主な役割
・電子的なスイッチとして使うことができる
・抵抗器やコンデンサなどと組み合わせて使う
・やらせたい仕事によって、抵抗やコンデンサの値が異なる

 今回の無安定マルチバイブレータ回路では、トランジスタを一種のスイッチとして使っています。トランジスタがLEDをつけたり消したりするわけです。LEDの電流制限抵抗(R3、R4)以外の抵抗とコンデンサはトランジスタの働きをコントロールするために存在します。

 さて、回路図に乗っている部品はすべて把握できたでしょうか。これでようやく買い物に進むことができます。使用する部品を表にまとめておきましょう。

【表2】部品リスト
部品番号 名称 定格 値/品名 数量
R1, R2 カーボン抵抗器 1/4W 39KΩ 2
R3, R4 カーボン抵抗器 1/4W 100KΩ 2
C1, C2 電解コンデンサ 10V 22μF 2
Tr1, Tr2 トランジスタ   2SC1815 2
LED1, LED2 赤色LED Vf 約2V   2

 部品リストについて補足します。まず電解コンデンサの「定格」について。この欄には、電解コンデンサにかけてもいい電圧の最大値、いわゆる耐圧が記入されています。抵抗器の耐圧はW(ワット)で表記されていましたが、コンデンサの場合はV(ボルト)です。ここでは10Vとなっています。ただし、お店によっては10Vで22μFの電解コンデンサが見つからないかもしれません。その場合は、16Vや25Vなどのより大きい値を選んでください。

 それから、LEDについては仕様が少し曖昧です。LEDを品名(型番)で指定してしまうと、購入できる店がとても限られてしまうのと、順方向電圧(Vf)が2V前後ならば、どれでも使えるので、細かく指定するのはやめておきました。もっとラフに言うと、赤色LEDならまず大丈夫です。ショップの在庫のなかから適当なものを選んでください。

 なお、上のリストには電池ボックス、電池、ブレッドボードなどが含まれていません。電池ボックスは乾電池2本用のリード線が出ているタイプを用意してください。

トランジスタは型番どおりのものを購入してください。共立エレショップの検索ページでは、トランジスタの種類を表す最初の3桁と番号を指定することで、探せるようになっています
電解コンデンサにはたくさんの種類があります。今回は一番安いものを選べば良いでしょう。共立エレショップで購入する場合は電解コンデンサ検索ページの「85℃品電解コンデンサ」という項目を探してみてください。耐圧16Vのものが1個10円です
無安定マルチバイブレータで使用する部品たち。このほかに乾電池2本用の電池ボックスと電池、そしてブレッドボードが必要です

 電解コンデンサは値(容量)の異なるものを何種類か用意しておいて、完成後に差し替えると、点滅のスピードを調整できます。10μFや、100μFといった値のものを一緒に注文しておいてもいいかもしれません。

 次回は、集めた部品を使ってブレッドボード上に回路を組む手順を説明しますが、待ちきれない方は回路図を手がかりに製作に突入してください。そういう方のために、ひとつだけ説明を追加しておきます。

回路図のなかで線が交差している部分に、点がある場合と、ない場合があります。点がある場合は、そこで2本の線がつながっています。点がない場合は、重なっているだけで、電気は通じていません

■■ 注意 ■■

・この記事の回路や部品の使用例は、短時間の実験を目的としたものであり、一般的な利用を想定していません。
・実際に実験を行なう際は、怪我や火災などが起きないよう十分注意してください。
・この記事を読んで行なった行為によって生じた損害はPC Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。

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(2008年8月21日)


船田戦闘機、スタパ齋藤、上杉季明によるユニット。電子工作からバンド演奏までさまざまな活動を行なうが、各活動に共通するテーマは“電気が通ること”としている。電子部品・電子回路の玄人ではなく、それらに対して強い興味を抱いている。ブレッドボーダーズは、そんな立ち位置から電子部品・電子回路に触れていくプロジェクトである。


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