Intel Developer Forum 2008レポート クレイグ・バレット会長基調講演レポート
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Intel会長のクレイグ・バレット氏 |
会期:8月19日~21日(現地時間)
会場:米San Francisco Moscone Center West
世界中のIntel製品向けの開発者などを対象としたカンファレンス「Intel Developer Forum 2008」が、今年(2008年)も米国カリフォルニア州 サンフランシスコ市にあるモスコーンセンター西館において8月19日(現時時間)よりスタートした。カンファレンスの口火を切ったのは、その朝に行なわれたIntel会長のクレイグ・バレット氏の基調講演である。
この中でバレット氏は詰めかけたエンジニアなどに向かい「我々のテクノロジーは、社会や経済の発展に役立てていくことができる」と述べ、情報技術をさらに活用することで、グローバルレベルでのさまざまな発展が可能になると呼びかけた。
●グローバルレベルの課題をテクノロジーで解決
Intel会長のクレイグ・バレット氏は、“会長”という役職こそついているものの、Intelの経営そのものは、すでにポール・オッテリーニ社長兼CEOに任せており、実際の経営にはほとんど関わっていない。しかし、Intelの対外的な顔役という役割を演じており、国連において発展途上国への技術移転を進める部会の議長を務め、年間で30カ国を訪問。発展途上国でのIT技術の普及や教育へのIT技術の利用というテーマで、さまざまな活動を行なっている。Intelが近年、積極的に進めているClassmate PCなどの発展途上国向けの低価格な教育用PCなどのプロジェクトは、このバレット氏の活動の延長線上にあるといっても過言ではない。
今回バレット氏が行なった基調講演もその路線に則ったもので、IDFに参加しているような開発者やIntel自身が開発をしている技術をどのように利用し、グローバルレベルの課題を解決していけるのかということが内容の中心になった。
バレット氏は、IDFに集った人々が開発しているテクノロジーにより、解決していくべき課題として、以下の4つがあるという。
バレット氏は「我々が開発しているテクノロジーは、これらの地球規模の課題を解決するツールになる」と述べ、それぞれのテーマに沿って、テクノロジーを利用することでどのように解決していくことができるかを説明していった。
●IT技術が低コストで優れた教育を実現する
Wiiのリモコンを利用した低価格のホワイトボードに取り組んでいるジョニー・リー博士 |
最初にバレット氏が語り始めたのは、最近同氏が最も力を入れている教育問題だ。「教育は最も重要なテーマだと言える。15~24歳の若者の85%は発展途上国に住んでおり、充分な教育を受けられない。発展途上国により綺麗な水を供給したり、援助を行なったりすることももちろん重要なことだが、将来を見据えれば、何よりも教育を充実させる必要がある」と述べ、発展途上国における教育を充実させることが、貧困などの撲滅への近道なのだと説明した。
その上でこうした発展途上国での教育を向上させるための取り組みとして、1人の子供に1台のコンピュータといった取り組みなどを上げ、それらを利用することで発展途上国の教育レベルを引き上げることができるのだと述べた。
次いで、カーネギーメロン大学でヒューマンコンピュータでPh.Dを取得したジョニー・リー氏をステージに呼び、同氏が開発を行なっている黒板の替わりとなるプロジェクター、Wiiのリモコン、デジタルペンを利用したホワイトボード(白板?)のデモを行なった。Wiiのリモコンを利用することで50ドルといった低価格(むろん、プロジェクターは別)でデジタルペンを利用した白板を実現することが可能になり、よりインタラクティブな授業を低コストで実現できるという。
プロジェクターの横に置かれたWiiリモコンの赤外線スキャンでデジタルペンを認識して、PCの操作が可能になる |
●IT技術による新しいサポートのかたち
続いてバレット氏は、発展途上国の経済発展にもIT技術が活用できると説明した。その一例として、バングラディッシュで女性に対して小規模の融資を行なうことで女性の地位向上につながったと話題を呼んだマイクロファイナンスについて触れ、そうした新しい取り組みも背後にIT技術があったからこそ実現したのだと説明した。
さらに、それを一歩進めた形の新しい取り組みとしてkiva.orgの取り組みをバレット氏は紹介した。kiva.orgは新しい形の慈善事業として注目を集めており、先進国の人々が少額をインターネットを通じて寄付し、それを発展途上国で融資を必要としている人に融資するという仕組みになっている。ユニークなのは、寄付するユーザーが自分が寄付したい相手をkiva.org上で検索して、相手を選んでの寄付ができる点だ。これまでの寄付という行為はどのような相手がもらっているのか全くわからず、そもそも本来その寄付を役立てて欲しい相手に届いているのか定かではないというあやふやなものだった。
しかし、kiva.orgでは自分が寄付したい相手に確実に寄付できるので、寄付する先進国の人々も自分の寄付が役立っているのかを確認することができる。発展途上国の人々にとっては、先進国の人々のわずかな寄付が、莫大な資金になるわけで、相互にメリットがあるという仕組みになっているのだ。言ってみれば、寄付のP2P(Peer to Peer)というところだろうか。
壇上に搭乗したkiva.orgのCEOであるマット・フラネリー氏はkiva.orgについて説明した後で「ここには無線LANがあると聞いているので、みんな今からネットに接続して寄付してくれないかい」と述べ、会場の笑いを誘っていた。
また、バレット氏は途上国におけるインターネット普及の障害と見られているラストワンマイル(幹線から各家庭などにインターネットを引き込むこと)を解決する手段の1つとして、Intelなどが推進しているWiMAXをあげ「WiMAXは3Gなどに比べてコストパフォーマンスが優れている。アフリカなどにインターネットを普及させる手段として有望だ」と述べ、Intelが強力に推し進めるWiMAXをさりげなくアピールして見せた。
kiva.orgのWebサイト。発展途上国で投資を必要とする人と先進国で寄付をしたい人がネットワークで接続される | 先進国の人々はクレジットカードなどで手軽に寄付ができる | kiva.orgのCEOであるマット・フラネリー氏 |
●いまできる小さな事から始めよう
バレット氏は次にヘルスケアについて触れ「日米などの先進国では団塊世代が引退時期を迎えており、今後医療費の増大は解決すべき大きな課題になる」と述べ、デジタル技術を医療に応用したいわゆる“デジタルヘルス”の分野も今後の注目分野であるとした。
バレット氏はコロンビアの医師をステージによび、モバイルデバイスのカメラを利用しIDカードから治療履歴が格納されたバーコードを読み込むデモを行なったり、インドの病院と回線で接続し診察してもらうなどのデモを行なった。
そして、最後にバレット氏が触れたのが、エコロジーについてだ。バレット氏は「ITC業界が排出するCO2は全世界の2%でしかないが、残りの98%を減らすためにさまざまな取り組みができる」と述べ、UPSが全トラックにGPSを搭載し、特別なソフトウェアを利用して効率よく配車することで、1カ月に300万マイルも走行距離を減らしたことなどを例に挙げ、テクノロジーを応用することで、地球環境の保持に貢献できると語った。
また、バレット氏はIntelが米国で開催した未来の科学者を捜すイベントで3位に入賞した18歳のブレイン・マッカーシー氏をステージによび、その表彰を行なった。マッカーシー氏は、太陽発電を利用することでプラスチック素材を減らすアイディアをだしそれが受賞の理由になったのだが、「高校にはまだまだ同じような科学の挑戦をしている学生が沢山いる」とバレット氏に述べると、バレット氏は「今後もそういう学生たちを支援していきたい」と述べ、未来のエンジニアへエールを送っていた。
基調講演の最後にバレット氏は“Small deeds done are better than great deeds planned”というスライドを見せ、「重要なことはすごいことをやろうとしていることではなく、小さな事でも何かをなしたということだ」と述べ、詰めかけたエンジニアに自分たちのできる範囲で“世界を変える”ことにチャレンジして欲しいと呼びかけた。
□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□IDF Spring 2008 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/idfs.htm
□関連記事
【8月19日】IDF 2008前日レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0819/idf00.htm
(2008年8月20日)
[Reported by 笠原一輝]