第418回
不満を抱えながらもiPhoneから離れられない理由



iPhone 3G

 iPhoneに関する議論をさまざまな場面で見かける。多くはiPhoneの熱狂的なファンと、その良さを理解できない携帯ユーザーという構図だが、大抵は議論がうまく噛み合わない。おそらく同じように携帯電話の1機種について議論しているつもりでも、両者が見ているiPhoneは異なって見えているのだろう。噛み合わないのも当然だ。

 前回、コラムで書いたように、現時点のiPhoneは携帯電話としては使いにくい面もあり、一般的な日本の携帯電話に比べて不便なところが少なくない。日本の携帯ユーザーは、日本の携帯電話文化の中で使い方を学び、普段の利用スタイルを構築しているのだから、そうした利用スタイルに沿って開発が行なわれていないiPhoneが使いにくいのはあたりまえなのだ。

 しかしながら、だからiPhoneがダメという話ではない。iPhoneが魅力的なのは、従来の携帯電話とは全く異なる切り口で独自の価値を生み出そうとしている。少し切り口を変えて見なければ、なぜこれほど注目を集めているかは判らない。

 今回は筆者自身、大きな不満を抱えながらもiPhoneから離れられそうにないのはなぜか、というテーマを出発点に、iPhoneのポジティブな側面について書き進めることにしたい。


●専用機対汎用機

 iPhoneと一般的な携帯電話の関係が、何かに似ていると思っていたのだが、'80年代後半から'90年前半ぐらいまで議論のあった、ワープロ対パソコン(PC)の構図に似ているように思う。

 最近のPCユーザーは想像もつかないだろうが、その昔、PCを購入するユーザーの目的で最も多かったのは(実はパソコンゲームだったりしたが、それ以外だと)日本語ワープロを使いたいからだった。

 ワープロ専用機には、かなり本格的な表計算ソフトやパソコン通信用ターミナルソフトなども内蔵されていたので、パソコンゲームでガンガン遊びたいわけでなければ、ワープロの方がずっと楽に文書作成を行なうことができた。

 パソコンで日本語ワープロを使おうと思えば、パソコン本体を買い、必要に応じてOSのライセンスを購入し、プリンタとワープロソフトを購入。必要ならメモリを追加して、やっと使い物になるレベルに達する頃には40〜50万円、場合によっては100万円ほどの予算が必要だった。

 日本語ワープロ専用機も決して安い金額ではなかったが、それでもちょっと良いものなら25万円ぐらい、高価なものはパソコン並にはしていたように記憶している。とはいえ、大抵はパソコンに比べれば安く済む。それにパソコンの方がバグによるトラブルが多く、使いこなすのも面倒というイメージがあり、その点、日本語ワープロ専用機の方が導入時のハードルは低かった。特定シリーズのワープロに慣れてしまうと、ワンストップで必要な機能が使えてしまうので余計なことを考えたり、学習する必要もない。

 メーカーが利用シナリオを用意し、さまざまな機能を提供していたワープロ専用機に対し、携帯電話キャリアが新機能やサービスの枠組みを決めている一般的な携帯電話というのは、実際、かなり似た状況にあると思う。

 結局、パソコンの性能が劇的に上がっていったスピードと、完成された商品として内蔵ソフトを含めた作り込みの速度の差は大きく、Windows 3.0の登場とともに徐々に姿を消していった。パソコン本体の性能が向上するたびに新しいソフトウェアが生まれ、どんどん機能や使い勝手が向上していったドラスティックな進化に、ワープロ専用機が対抗する術はなかったのである。

 もちろん、関係が似ているからといって、その運命まで同じになるわけではない。しかし、携帯電話キャリアが毎度打ち出す新機軸に対して「あぁ、自分とは関係ないや」と思うことが多いのであれば、iPhoneは魅力的な道具だ。その上で動くソフトウェアによって、さまざまな形に変化する。

 だから筆者はiPhoneがとても気に入った。携帯電話キャリアが提案する新機能やサービスも、その多くは自分にとって必要ではない。普段から使っているメールやスケジュールなどへのアクセス、それにWebブラウザとRSSリーダが読めることの方がずっと大切だ。加えてパソコンでも使っている各種ネットワークサービスへのアクセスも、携帯電話から使いたい。

 だから、インターネット標準に則った携帯型端末(おまけで電話機能付き)のiPhoneがシックリとくるが、もちろん、それは利用シーンによって異なる。そこを見誤ると「な〜んだ。グラフィックもキレイだし、文字も読みやすいけど、携帯電話としては使いにくいよ」という感想になる。

●iPhoneのある一日

 そんなわけで、前回は文句ばかりを書き連ねていたiPhoneを、なぜ筆者が本気で情報ツールとして使おうと思っているのかを、一日の行動に沿って書き進めてみる。

 取材に出かけ、電車で移動中にすることは、何をさしおいてメールの整理である。以前は朝食を取る前後にパソコンの前に座り、急ぎのメールに目を通し、さらに必要ならば簡単に返信をしてから出かけていたが、iPhoneがあれば慌ただしく出かける前に処理する必要はない。

 電子メールの設定は、MacとPCで同じメールボックスを共有するために使っているIMAPサーバのアカウントをそのまま利用することにした。プッシュメールにはならないので、一度、Gmailのアカウントに転送後、さらにiPhoneユーザーに付与されるi.softbank.jpにメールを転送してSMS経由のメール着信通知を受け取る(こうすることでGmailの強力なスパムフィルタを使える)。

 この際、iPhoneのメーラーにi.softbank.jpのメールアカウントを登録する必要はない。ひたすらに転送をしておけば、メールの通知だけをSMSから受け取れる。SMSの履歴も残らず、またメールは1カ月で自動的に削除されるのでメンテナンスも不要だ。i.softbank.jpの着信通知は画面上の通知だけで、バイブレータや着信音は一切出せないが、そこは仕方がないと割り切った。(そもそも、四六時中メールが着信するので、あんまり通知には拘る必要がないという個人的な事情もある)

 この設定の弱点は、メールを読もうとした時に圏外にいると読み出す手段がないこと。電波の届く圏内であれば、メッセージのダウロードはかなり高速なので気にならないのだが……。今のところ、バッテリ持続時間を犠牲にしない程度に……ということで、1時間に1度、メッセージの同期を行なうよう設定してある。

 実は当初はMobileMeのメールを使っていたのだが、MobileMeをiPhoneに設定する際、返信アドレスを普段から使っているアドレスに変更できない。したがって、届いたメールに返信、先方がさらに返信した際にMobileMeにしか届かない。よって、パソコンで使っている主アドレスをiPhoneで使うことにした。

 普段から使っているメールアドレスがGmailなどプッシュ非対応のIMAP対応メールサービスでも同様。ただ、筆者が普段からPCで使っているメールサーバのアカウントに拘っているのには理由がある。

 上記のように電車の中でメールを読み、不要なメールは削除して、返信をして……と作業した結果が、そのままPCのメーラー上でも反映されるからである。取材先に到着してPCを開いて手持ちのPCをオンラインにすると、PC上のメールクライアントはiPhoneで作業した結果がすぐに反映される。

 逆に自宅や出先でPCを用いてメール処理を行なった後に移動を開始し、移動中にiPhoneのメールを開くと、今度はPCで行なった作業がiPhoneのメールに即座に反映されていることを確認できる。

●Mobile Meの“ちょっと残念”なところ

 メール以外の情報は、すべてMobileMeで同期を行なっている。が、このサービスに関しては期待通りに快適に使えているという側面と、ちょっとばかり“食い足りない”側面の両方が混在している。

 サービス開始早々、Webアクセス時のトラブルやパソコンとの同期が”プッシュ”とは言えないという点で、一部から非難の声が上がっていたが、これらの点は筆者はあまり気にならなかった。確かにWebアクセス時の遅さ(現在はかなり改善されている)は多少気になったが、データの同期という面では.Macと大きな違いがあるわけではなく、うまく動いている。ただ、ちょっとチグハグというか、未完成な部分が散見されるのである。

 たとえばWindows版のMobileMe同期ツールは、なぜか単体で配布されておらず、iTunes 7.7を入れなければ利用できない。iTunesとMobileMeはほぼ無関係なので、なぜこうした配布形態になっているのかわからない。

 加えてこの同期ツール、ネットワークに接続していない状況でも、なぜか繰り返し同期をトライしては失敗しを、筆者のノートPCでは繰り返してしまう。ちゃんと動いている人もいるようなので、必ず不具合が出るわけではないのかもしれないが、ちょっとテスト検証が足りない印象だ。

 また、スケジュールや連絡先、ブックマークはiPhoneと同期してくれるのだが、メモを同期してくれない。メモ機能はiPhoneにもあるし、Windows環境での標準クライアントとしてサポートしているOutlookにもある。加えて言えばMobileMeの同期項目にもリストアップされているのだが、iPhoneにはサッパリ同期されない。これはなんとかしてほしいものだ。

 また細かくて恐縮だが、ブックマークの同期先としてInternet Explorerしかサポートしていないにもかかわらず、MobileMeのWebアクセスはIE7では完全な動作をしない(FireFoxかSafariが必要)。こんなことなら、Windows版Safariのブックマークとも同期できればいいのだが、現状、それは実現されていないという、なんとも奇妙な状況にある。

 とはいえ、MobileMeのスケジュールを変更すると、それが即座にiPhoneに反映されるというのは、とっても便利だ。WindowsやMacで入力されたスケジュールは、最長15分ほどの配信遅れが発生するが、個人的にはこの程度の時間差ならば許容できる。

 たとえば、筆者は家人にスケジュールの入力や管理をお願いしている。従って、外出中にいつの間にかスケジュールが埋まっているということが多々あるのだが、そんな場合にもiPhoneを取り出せば(少なくとも15分前ぐらいまでは)スケジュールの空き状況がわかる。

 メールの整理をしながら、スケジュールを入力する必要が出てきたら、その場で入力。その結果は即座にMobileMeのサーバにも登録されるので、オーバーブッキングの可能性も低くなる(15分の時間差があるので、完全になくなるわけではないが)。

 とにかく、こうしてメールをチェックしながらスケジュール管理をしつつ、メールへの返信をしていると、大抵は目的地に到着する時間となる。

 ただ、この使い方には大きな弱点がある。MobileMeはスケジュールや連絡先を変更・管理する権限を他ユーザーに委譲する機能がない。このため、上記の使い方では家人が使っているMacBookに、しかたなく筆者のMobileMe IDを登録してある。

 プライベートのグループを作り、そのグループで共有するカレンダーを作成できれば問題解決なのだが、そうしたグループワークをサポートするような機能は、MobileMeでは当面、実装されそうにない。これは本当に残念だ。

●そのうち、なんとかなるさ

 今回はiPhoneのすばらしさを伝えようと思って書き始めたのだが、実際に書いてみると、なかなか難しい側面もあることを再認識した。いずれもパソコンを使いこなしている人なら全く問題にならないレベルのことだが、そうじゃない人たちもiPhoneを購入するだろう。

 そしてパソコンとiPhoneを組み合わせ、使いこなしている人向けの部分でも、まだまだこれから改善しそうなところ(言い換えると不完全ぽいところ)がたくさんの残っている。これをもってiPhoneは使い物にならない! とならないのは、本機が基本的に“携帯電話型パソコン”の一種だからだ。最初の話に戻ってしまうが、そのうちソフトウェアでなんとかなりそうだと思うと、許せる気がしてくる。

 たとえば上記の使い方の中で、メールのやり取りで決まったスケジュールを入力する際、シングルタスクでしかアプリケーションが動かないiPhoneは、いちいちホーム画面を経由してメールとカレンダーの間を行き来しなければならない。もちろん、コピーアンドペーストはナシだ。

 しかしこれが、Mac OS X 10.5のようにメールメッセージの中からスケジュール入力や連絡先入力が行なえるようになれば問題は解決する。技術的な問題はあまりないハズなので、まぁ、そのうちなんとかなるだろう、と実に適当な気持ちでアップデートを待っているのが現状である。

 さて、最後に1週間使ってみての個人的なiPhone 3Gに対する結論をまとめておこう。

 既存の携帯電話こそが最高という人にとって、この端末は最悪な製品の1つだ。

 ソフトバンクはSMSでユーザーに連絡をよこすが、メッセージを開くのに10秒以上も待たされるなんて信じられない。超長文メールを開こうとするとストンとメーラーは落ちてしまうし、新規メッセージの編集中に落ちておジャンになったこともある。Safariと日本語IMの動作が改善されるという新ファームでも、やっぱり日本語IMの起動時にはかなり待たされるし、Safariも落ちるときには素早く画面から消えていく。たかだか音楽を聴いているだけで、主要なアプリケーションの動作が鈍ったり、あるいは逆に別アプリケーションの動作で音楽が途切れがちになるなんて、最近の端末じゃあまり経験しない。ついでに言えば、丸1日、バッテリが保つかどうかは、新品の現時点でもギリギリのところだ。

 これほど未完成な携帯電話を使ったのは、何年ぶりなのかも思い出せない。

 しかし、そんな最悪の体験も吹き飛ぶぐらい、iPhoneには自由がある。好きなアプリケーションをインストールし、インターネットをフルに活用できたなら、パソコンを持ち歩くのに匹敵するリッチな情報へと簡単にアクセスできる。

 ワープロ専用機全盛に、まったくその魅力が理解できず、パソコンしか使わなかった筆者としては、iPhoneの自由度の高さ、パソコン中心の仕事/作業との親和性などを体感してしまうと、もう従来の携帯電話に戻れない。

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【7月16日】【本田】iPhone 3Gを購入して経験した最高と最低の同時体験
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【7月18日】【山田】AppleにはWindows Vista PCがないというまことしやかな噂
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【7月17日】【塩田】iPhone 3Gレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0717/pda83.htm

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(2008年7月22日)

[Text by 本田雅一]


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