6月は、NVIDIAのデスクトップ向けGPUが3製品発売され、17日にGeForce GTX 280についてはレビュー記事をお届けした。同日発表されたGeForce GTX 260、6月19日発表のGeForce 9800 GTX+についても製品を試用する機会を得たので、ここで紹介していきたい。 ●実売6万円未満の「GeForce GTX 260」 まずは先に発表された、GeForce GTX 260について簡単にまとめておきたい。GT200コアを使い、GeForce GTX 280の下位モデルとなる本製品は、表1の通りのスペックとなる。
【表1】GeForce GTX 260の仕様
GeForce GTX 280との違いは、各種動作クロックが下げられたほか、ダイ上の一部機能を利用出来ない状態にする制限も加えられている。具体的には、Streaming Processorを2クラスタ分(48基)、ROPおよびメモリコントローラを1クラスタ分(4ROP/64bitメモリインターフェイス)が省略される格好となっている。 その分価格は抑えられており、GeForce GTX 280の649ドルに対し、399ドルとなっている(当初は449ドルをアナウンスしたが後に値下げ)。僚誌AKIBA PC Hotline!が伝えるところによれば、5万円台で発売されており、8万円を超えるGeForce GTX 280に比べると、購入を検討するユーザーも多いと思われる価格帯だ。
消費電力も抑制されており、GeForce GTX 280の236Wに対して、182Wとなる。クロックダウンや一部機能制限、さらにはメモリインターフェイス削減によるメモリチップの減少などが、消費電力に対しても大きな影響を与えている。 今回テストするのは、XFXから借用した「GX-260N-ADD9」である(写真1)。外観はGeForce GTX 280に非常に近く、裏面カバーやSLI端子が2個ある点などは同様だ(写真2)。 ただし、ピーク消費電力が低下したことで、電源端子は6ピン×2個となる(写真2)。これは、ハイエンドビデオカードを選択しようとするユーザーにとって、すでにそれほど高い壁ではないと思われる。 ブラケット部は一般的なDVI×2+TV出力の構成(写真4)。両端子ともDualLinkに対応し、SLI時に便利なプライマリビデオカードを示すLEDも埋め込まれている。 なお、本製品はオーバークロック製品であり、コア640MHz、メモリ2,300MHz(1,150MHz DDR)で動作する(画面1)。今回のテストでは、動作クロックを定格(コア576MHz/メモリ1,998MHz)へ落とした場合でも検証を行なう。
●NVIDIA初の55nmプロセス製品となった「GeForce 9800 GTX+」 続いては、GeForce 9800 GTX+である。従来のGeForce 9800 GTXとの違いは表2にまとめた通り。スペック面ではGeForce 9800 GTXのコア/シェーダクロックのみを向上させたモデルとなり、マイクロアーキテクチャはG92をベースとしたものになる。
【表2】GeForce 9800 GTX+の仕様
ただし、NVIDIAとしては初めて55nmプロセスで製造されるGPUとなった点は特筆できる。そもそも、G92はNVIDIAにとって初めての65nmプロセスGPUだったわけだが、55nmプロセスも、このコアをベースに初採用されたことになる。 エンスージアスト向けのGTX 200は65nmプロセスのままであるが、これはマイクロアーキテクチャとプロセスシュリンクを同じタイミングで施すことのリスクを回避したものだろう。G92は遡ればG80という実績あるコアをベースとしており、マイクロアーキテクチャの大きな変更はせずに65nm→55nmと微細化していったことになる。 GeForce 9800 GTX+のクロックアップはおそらくこのプロセスシュリンクが大きく影響していると思われる。一方、電力面では、ボードの消費電力が公開されていないため不明。ただ、電源ユニットの最低要件が450WとGeForce 9800 GTXと同じであることから、劇的な消費電力の変化は発生していないと想像される。 今回テストに使用するのは、NVIDIAのリファレンスボードである(写真5)。若干コアクロックが高めであるが、ほぼ定格動作となっていることを確認できる(画面2)。 電源端子はGeForce 9800 GTX同様、6ピン×2個の構成(写真6)。カバーの切り欠きの大きさが変更されており、コネクタの形状によっては脱着しづらかったGeForce 9800 GTXの欠点が修正されている。そのほか、ブラケット部はDVI×2+TV出力の構成で、プライマリビデオカードを示すLEDが埋め込まれている点も含めて変更されていない(写真7)。
●ハイエンド~エンスージアスト向け製品を一挙テスト それではベンチマーク結果をお伝えしていきたい。テスト環境は表3に示した通りで、ここではエンスージアストからハイエンド向け製品を一挙に揃えてテストする。なお、前回記事と同じ環境を用いており、一部結果は流用している。 ドライバについては、前回記事同様、GeForce 9世代は156番台を使用。GeForce GTX 260については、GeForce GTX 280のテストの際に用いたGeForce Release 177.34を使用している。 なお、GeForce GTX 280の記事で紹介した、オーバークロック版GeForce GTX 280搭載製品であるXFXの「GX-280N-ZDD9」もここで併せてテストする(写真8)。こちらのクロックはコア670MHz、シェーダ1,458MHz、メモリ2,500MHz(1250MHz DDR)となる(画面3)。このほか、テストに使用した機材は写真9~16の通り。
【表3】テスト環境
「3DMark Vantage」(グラフ1、2)は、オーバークロックモデルでGeForce GTX 280/260ともに10%強のパフォーマンスアップといったところ。わずかではあるが、GeForce GTX 280の方が性能向上の度合いが大きく、このクラスのモデルとしては嬉しい状況といえる。 GeForce GTX 260の定格動作の場合、GeForce 9800 GTX勢に比べると優位性のあるパフォーマンスを見せるが、GeForce 9800 GX2には劣る結果も見られる。ただし、負荷が高い場合にはGeForce 9800 GX2を上回っており、アーキテクチャの改良が功を奏した結果となっている。 GeForce 9800 GTX+は、GeForce 9800 GTXに対して23~24%程度のパフォーマンスアップとなっている。メモリクロックは同じで、コア/シェーダともに10%未満の向上であることを考えると、想像以上にスコアを伸ばした印象を受ける。Radeon HD 4850との比較では、GeForce 9800 GTXで劣っているスコアを盛り返せている点も注目できるポイントだ。 ただ、Feature Testの結果から分かるように、Pixel Shaderおよび、その演算能力が問われるPerlin Noiseでスコアを大きく伸ばしている。GeForce 9800 GTXからマイクロアーキテクチャには変更がないことに加え、ほかのテスト結果ではここまでドラスティックな変化が見られないことから、175.16から175.19へのマイナーバージョンアップではあるものの、ドライバが異なることが影響している可能性も小さくないと思われる。
「3DMark06」(グラフ3~6)も、GeForce GTX 280/GTX 260のオーバークロックモデルは順当にスコアを伸ばしている。ただ、3DMark Vantageに比べると伸び幅は下がっており、大きいところでも11%強といったところ。ほかのアプリケーションも、おおよそこの程度の性能の伸びとなっており、大雑把にまとめると、XFXの両オーバークロック製品は10%程度の性能向上が期待できるといえる。 GeForce GTX 260の結果は、全般にRadeon HD 4870と良い勝負になっている。ただ、フィルタを適用するなど負荷が高まったときには、明らかにRadeon HD 4870の方が優れている。OC版GeForce GTX 260でようやく同等程度といったスコアだ。 GeForce 9800 GTX+に関しては、GeForce 9800 GTXからの伸びが10%未満に留まっている。コア/シェーダクロックの伸びからすると、これが、この製品の実力として妥当な印象は受ける。
「F.E.A.R.」(グラフ7)は、GeForce GTX 280のオーバークロックモデルで正常に動作しなかったため結果を割愛している。ほかのテストが正常に完走しているため、ドライバ、ハードウェア双方に問題はないわけで、原因はまったく掴めていない。 GeForce GTX 260の結果を見てみると、Radeon HD 4870と同等か若干上回るレベルにある。とはいえ、GeForce 9800 GX2には、はっきり劣る結果を見せているあたりは要注意といったところか。 GeForce 9800 GTX+は順当にスコアを伸ばす程度。Radeon HD 4850との比較では、フィルタを適用すると同等程度、適用しなければ大きく上回るスコアが出ている。G92コアに比べてRadeon HD 4000勢のフィルタ適用時のスコアは全般に良好な傾向にあることを考えると、クロックアップによってしっかり対抗できるレベルにあるのは意味ある結果だろう。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ8)のGeForce GTX 260はフィルタ適用時にRadeon HD 4870と同等程度にはなるが、全般にはRadeonの良さが目に留まる結果だ。ただし、オーバークロック版は高解像度時に若干のアドバンテージを得ている。 GeForce 9800 GTX+は、フィルタ適用の有無にかかわらず、スコアはRadeon HD 4850と似たようなスコアになっている。多少良い傾向にあるが、気に留めるほどの差とはいえない。
「Crysis」(グラフ9)は、ハイエンド価格帯の製品では、Radeon HD 4870が頭一つ抜けている。GeForce GTX 260はオーバークロック版こそRadeon HD 4870を辛うじて上回っているが、定格動作だと完全に下回る。Crysisへの最適化は明らかにNVIDIAの進んでいる印象が強かったが、この比較ではややRadeon有利な傾向といえる。 一方、GeForce 9800 GTX+はSXGAでスコアが伸び悩む不思議な現象に悩まされたが、Radeon HD 4850に優位性を持てている。GeForce 9800 GTXもまずまずのスコアではあるが、クロックアップによって、より一層アドバンテージをはっきりとさせた結果となっている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ10)は、かなりNVIDIA勢が良い結果を見せる傾向にある。このアプリケーションの結果に関しては、ハードウェアよりも、ドライバやアプリケーション側の最適化の方が色濃く出ている印象だ。 なかでも興味深いのは、GeForce 9800 GTX+がRadeon HD 3870 X2を多くの条件で上回れている点。フィルタを適用した場合は解像度が高くても上回れるあたりは、1GPU製品としては、本アプリケーションとの相性の良さを感じさせる部分だ。
「World in Conflict」(グラフ11)は負荷が高い部分に集中してチェックしたいが、GeForce GTX 260の定格ではメモリ周りのアクセス速度と思われる急激なスコア低下も見られる一方、オーバークロックモデルではパフォーマンスの落ち込みが最小限に留まっている。定格動作時とRadeon HD 4870は似たようなスコアになっており、オーバークロックモデルの価値を感じさせる結果になっている。 GeForce 9800 GTX+については、基本アーキテクチャに変わりがないうえ、メモリクロックも据え置き。ということで、コアクロックよりもメモリやROPといった出力周りの影響が大きい本アプリケーションにおいて、負荷が高いときのスコアはGeForce 9800 GTXとほとんど変わらない結果に終わっている。
「Unreal Tournament 3」(グラフ12)は、いつも通り低負荷時のスコアが若干荒れ気味であるが、Botを表示させたうえでフィルタを適用すると、GeForce GTX 260のオーバークロックモデルが、GeForce GTX 280の定格モデルに近いスコアを出すという面白い結果が出た。ここまで、すべてのテストでGeForce GTX 280とははっきりした差を付けられていたが、アプリケーションによっては同等レベルに達することがあることを示す例だ。 GeForce 9800 GTX+には特筆すべきことはないが、全般にフィルタ適用時にRadeon HD 4850を上回る当たりは着目しておきたいポイントといえる。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)は言うまでもなくNVIDIA製で優れた結果が出やすいアプリケーションであり、結果もその傾向が強い。とはいえ、Radeon HD 4870も高負荷時にはGeForce 9800 GTX+に肉薄するシーンがあり、裏を返せばGeForce 9800 GTX+がちょっと弱さを見せる結果ともいえる。 GeForce GTX 260については、GeForce 9800 GTX+との差もはっきりしており、セグメント相応のパフォーマンスが得られる状況だ。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ14)。まず、GeForce GTX 200シリーズのアイドル時の消費電力は非常に優れたものになっている。とくにオーバークロックモデルであっても、アイドル時の電力は大幅に落ちており、この際のクロックゲーティングや電圧調整はうまく機能している。 また、GeForce GTX 280に関しては、オーバークロックモデルも使用中の消費電力が定格動作時とそれほど変わらないのも面白い結果となった。誤差の範囲に留まっている。最上位モデルである本GPUのオーバークロック動作時のマージンを取るためにも、素行の良い選りすぐりのコアが使われている可能性はありそうだ。 一方のGeForce GTX 260は、オーバークロックと定格版でそれなりに差がついており、定格モデルであってもRadeon HD 4870より消費電力は大きめとなる。
GeForce 9800 GTX+は、GeForce 9800 GTXとほとんど変わらない結果に落ち着いた。クロックが上昇している分、消費電力が増えてもおかしくないが現状維持に留まっており、こちらはプロセスシュリンクの効果が発揮されたものと思われる。 ●価格でRadeon勢に対応したいNVIDIA製品 以上の通り結果を見てくると、GeForce GTX 260はRadeon HD 4870と、GeForce 9800 GTX+はRadeon HD 4850と、それぞれ同等かやや優位性のあるパフォーマンスを見せる結果になる。とはいえ、これは必ずそうした結果が出るわけではなく、アプリケーションにも左右される。 GeForce GTX 200シリーズに関しては、すでに何社かオーバークロックモデルを投入しているが、今回テストしたXFX製品の結果を見ても、まずまず安定した性能向上が見られる。とくに、GeForce GTX 280は、1GPU製品として最も優れた性能を見せることは疑いのないところである。オーバークロックでさらに性能を伸ばせるというのは、当たり前の結果ではあるのだが、意味ある製品といえる。 消費電力に関しては、アイドル時はGeForce勢も悪くなく、GT200コアに関しては優秀であるが、3D描画中に関してはRadeon HD 4800シリーズの方がうまく抑制されている印象を受ける。 もう1つの要素として挙げられるのは価格だ。Radeon HD 4870の4万円前後に対して、GeForce GTX 260は5万円前後。GeForce 9800 GTX+は未発売であるものの、229ドルという参考価格や、GeForce 9800 GTXの現状の価格から考えても3万円前後が相場となりそうだ。Radeon HD 4850の相場より、やや上となりそうである。 こうした点をトータルに考えると、エンスージアスト向けこそNVIDIA製品の強さが光るものの、すぐ下のセグメントではRadeon HD 4800シリーズの価格性能比の良さが際立つ。絶対的なパフォーマンスの面では、価格ひとつで印象が変わる可能性が高く、価格面での対抗策がうまく打ち出せればNVIDIAが盛り返すチャンスはあると思う。価格競争は市場全体にとっては良いことばかりではないのだが、こうした状況にある今こそ、ユーザーにとってはビデオカード買い換えの好機であろう。 □関連記事 (2008年7月7日) [Text by 多和田新也]
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