GPUにおける2008年春の大きなトピックとなったのが、3月~4月にかけて登場したNVIDIAの「GeForce 9800」シリーズである。NVIDIAにとっては久々に登場した最上位モデルとなったが、パフォーマンスで今一歩インパクトに欠けたのも事実だ。ただ、これらGPUを搭載したオーバークロック製品も登場している。オーバークロックによるパフォーマンス向上はどの程度得られるのだろうか。ここでは、XFX製のオーバークロックモデルを使用しチェックしてみたい。 ●XFXから登場予定の「Black Edition」2製品 今回テストに使用するのは、XFXが発売を予定している「Black Edition」の2製品。仕様は表1に示した通り。型番は海外のもので、日本で発売される際には変更される可能性もある。
【表1】今回テストするGeForce 9800搭載製品の仕様比較
表を見ても分かる通り、コア、Streaming Processor、メモリのいずれもクロックアップされている。とくに大きくクロックを上げているのがコアクロックで、それぞれ、100MHz、85MHzのアップとなっている。ちなみに、同社からはGeForce 9800 GTXのオーバークロックモデルが、すでに日本国内でも発売されているが、Black Editionはコアクロックがさらに20MHz上げられている。 逆にメモリのクロックアップはそれほどでもない印象を受ける。それでも、G92コアの弱点であるメモリ帯域幅の改善には多少でもつながることが期待される。もっとも、ROPユニットの数自体は変わらないので、このあたりがどうかというのが、オーバークロックモデルの価値を左右するだろう。 製品自体はクーラーもリファレンスデザインのままである(写真1~4)。化粧カバーのデザインは変更されており、Black Editionオリジナルのデザインになっている(写真5)。
クーラーであるが、GeForce 9800 GTXは、それほど問題になっていないようだったが、GeForce 9800 GX2は、やや厳しい印象を受けたのも事実だ。スコアに影響が出ている節はないが、定格クロックモデルと比べると、手で触っただけで化粧カバーの温度が違うことを体感できるほど温度は上がっている。構造上、クーラーの交換も難しいだけに、ケース内のエアフローには相当こだわったほうが良いだろう。 なお、nTuneによる動作クロックの表示は、XFXから提示されているクロック通りで動作していることを確認している(画面1~4)。 ●各製品のライバルと性能比較 それではベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表2に示した通りで、GeForce 9800 GX2の比較対象としてAMDのRadeon HD 3870 X2、GeForce 9800 GTXの比較対象としてGeForce 8800 GTXを用意した。 ドライバはテスト時点における最新ドライバである。過去に本コラムで行なったGeForce 9800 GX2/GTXのベンチマークでは、GeForce 8800 GTXとドライバの統一も行なえていなかったので、今回、再テストの意味も兼ねて、定格クロックモデルも併せてテストを行なっている次第だ。
【表2】テスト環境
まずは、「3DMark Vantage」(グラフ1、2)である。Feature TestのPixel Shaderの値から見ても、Radeon HD 3870 X2は最適化が遅れていると見るべきで、GraphicsスコアもGeForce 9800 GX2が圧倒している。現時点ではGeForce 9800 GX2に軍配が上がるものの、将来的なRadeon側の最適化にも期待したい。 GeForce 9800 GTXは、定格クロックではGeForce 8800 GTXにかなわないが、オーバークロックモデルで逆転しており、オーバークロック効果がはっきり分かる結果が見られる。とはいえ、Extreme設定ではオーバークロックモデルでもGeForce 8800 GTXに劣る格好となっており、このあたりはG92コアの弱点が依然として根強いことを感じさせる結果となっている。
「3DMark06」(グラフ3~6)は、GeForce 9800 GX2の定格モデルとの比較で、低負荷の条件においてRadeon HD 3870 X2が優秀なスコアを出す傾向にあった。オーバークロックモデルでは、低負荷でもかなりスコアを詰めているが、SM2.0テストでやはりRadeon HD 3870 X2が良い結果を出している。このあたりは、G92のメモリインターフェイス周りよりコアクロックの方が効くはずの場面で、コアクロックの上がり幅が大きい今回のテスト製品に対して、もう少し頑張ってほしかったというのが本音だ。もっとも、スコアの伸びは安定しており、効果がないわけではない。 GeForce 9800 GTXは定格クロックでもわりと良いスコアを出しているが、負荷の重いHDR/SM3.0テストの高解像度条件ではG92らしさを垣間見せている。だが、オーバークロックモデルはこれを克服し、GeForce 8800 GTXを安定して上回っている。シングルGPUビデオカードの新ハイエンド製品として価値ある結果といえる。
「F.E.A.R.」(グラフ7)の結果は、GeForce 9800 GX2が定格クロックでも好結果であるが、オーバークロックによってスコアを着実に伸ばせている。低負荷ではCPU側のボトルネックもあるためか、高解像度/フィルタ適用時の性能向上が顕著である。 GeForce 9800 GTXに関してはフィルタを適用すると性能が伸び悩むG92らしい傾向を見せているが、オーバークロックモデルでもGeForce 8800 GTXには一歩及ばない結果となった。とはいえ、定格モデルではビハインドがはっきりしているのに対して、同等と表現しても差し支えない程度のスコア差まで詰めているあたりは大きなポイントだ。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ8)も、GeForce 9800 GX2に関しては着実に性能を伸ばす。G92を利用したビデオカードではあるものの、Radeon HD 3870 X2との相対的な比較において、フィルタ適用時でもスコア低下が少ないアプリケーションであり、高クオリティを追求したいときに性能向上を得られるオーバークロックモデルは大きな魅力になりそうだ。 GeForce 9800 GTXは、定格モデルでもGeForce 8800 GTXに近い値となっているが、フィルタ適用時にオーバークロックによってスコアが上回っている。また、このアプリケーションでは、フィルタ適用時にはRadeon HD 3870 X2に迫る部分も見られ、オーバークロックの効果がうまく出ているといえる。
「Crysis」(グラフ9)は、全般にGeForce 9800シリーズが強いアプリケーションであるが、低負荷ではGeForce 9800 GTXのオーバークロックモデルがRadeon HD 3870 X2を上回るほど。高負荷でも肉薄する性能を見せており、現実的なパフォーマンスを得られるクオリティ設定の範囲内では、Radeon HD 3870 X2並の性能を得られそうである。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ10)も、もともとGeForce 9800シリーズが定格モデルでも好結果を残すアプリケショーンだ。だが、かなりの条件においてGeForce 9800 GTXのオーバークロックがRadeon HD 3870 X2を上回るのは特筆できる。このアプリケーションを積極的にプレイするユーザーには大きな価値があるだろう。
「World in Conflict」(グラフ11)は、GeForce 9800 GX2とRadeon HD 3870 X2の比較では全般に前者が強い。フィルタ適用なしだとスコアが頭打ち気味である。フィルタ適用をするとオーバークロックの効果が出ているものの、やはり負荷が高くないとその効果は薄い。現実的なフレームレートを想定すると、劇的な効果は得られにくそうである。 一方のGeForce 9800 GTXは、G92コアであるデメリットがはっきりと出ているアプリケーションである。フィルタを適用するとメモリやROPなどの最終出力周りの性能がはっきり出るアプリケーションということもあり、定格クロックモデルではGeForce 8800 GTXに対してかなりのビハインドを背負っている。オーバークロックによって確実に性能を伸ばしてはいるが、GeForce 8800 GTXを上回るほどでないのは惜しいところだ。
「Unreal Tournament 3」(グラフ12)の結果は、GeForce 9800 GX2の定格モデルではBotを表示させたときに一部条件でRadeon HD 3870 X2を下回る結果を見せるが、オーバークロックによって改善される傾向にあり、かなり高いパフォーマンスを安定して得られるようになった。 余談ながら、ようやくCATALYST 8.4からRadeon HD 3870 X2使用時にもアンチエイリアスが効くようになった。だが、そのパフォーマンスはとくにBot表示時に大きく落ち込む傾向が見られており、今後の最適化の進展に期待したい。 GeForce 9800 GTXもオーバークロックによってライバルとの差を詰めている。いずれの条件でもGeForce 8800 GTXと同等以上の値をマークできているあたりは、オーバークロックの効果が意味あるものといえる。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)は、GeForce 9800 GX2に関しては安定してスコアを伸ばす程度のコメントに留まる。それだけGeForceシリーズがRadeonを圧倒しているアプリケーションだからだ。 GeForce 9800 GTXについては、これまで見てきたアプリケーションと似た傾向が見て取れる。GeForce 8800 GTXに大きく劣っている部分でも、オーバークロックによって改善されている。とはいえ、1,920×1,200ドットのフィルタ適用時には、その優位性もかなり詰まっており、根本的なマイクロアーキテクチャによる弱点を抱える点では変わりようがないことを印象付けさせられる。
最後に消費電力測定の結果だ(グラフ14)。どちらもオーバークロックによって消費電力が上昇してしまっている。GeForce 9800 GX2に関しては、アイドル時の省電力機能を持つRadeon HD 3870 X2との差がさらに開いてしまった。アプリケーション実行時はおよそ10Wほど消費電力を増しており、こちらもRadeon HD 3870 X2以上の電力を安定して消費するようになってしまっている。 一方のGeForce 9800 GTXはオーバークロック後もGeForce 8800 GTXを下回っている点が特筆できる。10W超の消費電力増は見られるが、パフォーマンスの増加を考えれば納得できるレベルではないだろうか。
●魅力が際立ったGeForce 9800 GTXのオーバークロックモデル 以上の通り結果を見てくると、コア、メモリ、SPのいずれもオーバークロックした製品だけに、定格モデルに対して安定したスコア増をマークした。当たり前のことではあるが、ハイエンド製品である両GPUでは意味が大きいことだ。 GeForce 9800 GX2は、もともと定格モデルでも全般にRadeon HD 3870 X2に勝る部分が多い。そもそもが現時点で最上位レベルにあるビデオカードであり、各アプリケーションでは順当にパフォーマンスを伸ばすという点で、エンスージアストにとって大きな意味があるように思う。 それ以上に意味ある結果を見せたのがGeForce 9800 GTXのオーバークロックモデルであろう。G92コアであるがゆえにGeForce 8800 GTXを上回れていなかった部分の大半を解消した。さらには、G92らしく消費電力はGeForce 8800 GTXを下回ったままである。 今さら言っても仕方ないことではあるが、今回のXFX製品のオーバークロックのようなスペックを、NVIDIAがGeForce 9800 GTXの定格動作として登場させることができていれば、GeForce 8800シリーズからの買い換えも進んだだろう。 PureVideo HDの新機能やディスプレイ出力周りの機能の充実といった現在のトレンドに即し、かつ前世代のハイエンドモデルを上回れるビデオカードとして、今回テストしたGeForce 9800 GTXのオーバークロックモデルは高い魅力を持った製品といえる。 □関連記事 (2008年5月22日) [Text by 多和田新也]
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