発売中 価格:64,000円 セイコーインスツル株式会社(SII)の「SR-S9000」は、VGA(640×480ドット)液晶を搭載した電子辞書だ。大学生をターゲットにした本製品は、就職活動や社会人生活以降にも対応したコンテンツがバランスよく収録されているのが大きな特徴だ。 ●快適な入力ができるパンタグラフキー。電源は2ウェイも持続時間は短め まずは外観から見ていこう。 筐体色はシルバーで、キーボード盤面はホワイトを採用している。上蓋はマグネシウム合金を採用しており、四隅にはリベットが打たれている。全体的にスタイリッシュな印象で、重厚というよりは軽快なイメージがある。 本体面積は、上位モデルに当たるSR-G10000とほぼ変わらず、今日の電子辞書としては標準的。重量は250gと、こちらも標準的な値だ。 入力インターフェイスは、昨今の流行りである手書き入力機能こそ搭載されていないものの、「カイテキー」と称されるパンタグラフキーの打鍵感は他社製品と比べても圧倒的に優れている。キーサイズも幅12mmと大きく、タッチタイピングも十分に可能だ。 電池はリチウムイオン電池と単4電池2本の2ウェイである。リチウムイオン充電池はACアダプタもしくはUSBケーブルを用いての充電が行なえる。現実的にはリチウムイオン充電池を常用し、出先で充電が行なえない場合のみ単4電池2本を利用するというスタイルになるだろう。 本機がこれだけ電源にこだわりを見せているのは、駆動時間が短いことの裏返しであるとも言える。例えば、リチウムイオン充電池を利用した場合は23時間と、数カ月間電池の交換なしで利用できる他社電子辞書と比べると差は歴然である。単4電池2本に至っては、駆動時間はわずか12時間でしかない。これらをカバーする手段として、2通りの電源が用意されているわけである。 もっとも、ケータイ電話や音楽プレーヤーなど、毎日充電する習慣がある機器と同じだと思えば、それほど抵抗は感じないかもしれない。このあたりはユーザー個人によっても捉え方は大きく変わるだろう。 スピーカーはキーボード手前に2カ所レイアウトされているが、本体裏面にも別途スピーカーが内蔵されているようで、上蓋を閉じた状態で音声を再生させると、全体から音が出ているように感じられる。なお、前述のSR-G10000はヒンジ部にスピーカーが内蔵されており、表面はメッシュ加工されていたが、本機ではそうした構造は採用されていない。
●VGA液晶を採用、画面の美しさは圧巻 続いて、本製品の特徴であるVGA液晶と画面まわりを見ていこう。 本製品でなにより目を引くのは液晶パネルの美しさだ。TFT液晶の採用によるメリハリの利いた画面は、他社同等価格帯の製品と比べても圧倒的に美しい。もちろん、このことが前述の駆動時間に影響してきていると考えられるのだが、こと画面のクオリティについては競合他社製品の追従を許さない。カシオやシャープ製品の売れ筋モデルと違いバックライトは搭載されていないが、そのハンデを感じさせないクオリティである。 画面サイズは5.2型で、解像度はVGA、つまり640×480ドットを採用している。競合モデルのほとんどが480×320ドットであることを考えると驚異的な高解像度で、視野角も広い。 解像度の高さを活かし、本製品では画面のタテ/ヨコ2分割表示や、訳画面を表示したまま別のワードを検索できるツイン検索など、多彩な表示機能を持つ。中でも個人的に高く評価したいのは表示スタイル切替機能だ。従来モデルから実装されていた機能だが、通常表示のほかに、行間をやや空ける「ゆったり表示」、行間を空けて罫線を表示する「ゆったり罫線表示」を切り替えることができる。文字の見やすさというのは、単純にサイズの問題だけではなく、行間や罫線の有無によっても大きく変化する。高解像度であるからこそできるワザだが、ユーザーに配慮した機能として高く評価されるべきだろう。 文字サイズは5段階で切替が可能となっている。他社製品においては非現実的とも思える巨大なサイズが表示される場合もあるが、本製品ではターゲット層の年齢を考慮した適切な文字サイズが表示される。唯一残念なのが、全コンテンツ一括で文字サイズを設定できないことだ。コンテンツごとにまったく異なる文字サイズで使うことは考えにくいだけに、基本となる文字サイズは一括で設定し、その後必要に応じて個別に変更できるというスタイルが望ましいのではないだろうか。
●英語学習に適したコンテンツ。就職試験対策にも最適 次にメニュー画面と、搭載コンテンツについて見ていこう。 メニュー画面は、カシオ製品とよく似たタブ形式にリニューアルされた。タテ方向のタブ切替だったシャープ製品も現行モデルから横向きタブ形式を採用しており、現在市販されている電子辞書のほとんどが横向きタブのメニューを採用したことになる。 ファンクションキーは他社と同様、複数回押すことで異なるコンテンツが起動する方式が採用されている。また、3つまでのコンテンツをお気に入りキーに登録することができる。 コンテンツ数は34。英和辞典だけで「ジーニアス英和大辞典」「リーダーズ英和辞典」「リーダーズ・プラス」「英和活用大辞典」の4冊を収録しているほか、TOEIC関連のコンテンツが7つと、英語学習を前提としたチョイスが目立つ。音声出力機能は、ネイティブ音声として、「ジーニアス・サウンズ V4.2」(約60,000語)が収録されている。 ユニークなコンテンツとして、英会話をマンガで表現した「笑うコマ単」が挙げられる。9コマから成るマンガにより、英会話を楽しく学べるというコンテンツだ。目次もしくは日本語/英語での検索しか行なえないため、わざわざ探してまで読もうという気持ちになりにくいのが難点だが、高精細液晶を活かしたユニークなコンテンツだと言える。 また、SPI2対策ドリルや、一般常識対策ドリルなど、大学生の就職活動向けのコンテンツも充実している。電子辞書というのはとかく購入のタイミングによって求めるコンテンツが移ろいがちだが、本製品であれば入学から卒業までの間、大学生活をサポートしてくれる辞書としては最適だと言えるだろう。前述のTOEIC対策コンテンツや経済新語辞典など、社会人になってから使えるコンテンツも目立つ。 さらに、表計算ソフトでユーザー辞書やドリルの問題を自作して利用できる「ユーザー辞書機能」「ドリルビューア機能」もユニークだ。例えば「ユーザー辞書機能」であれば、SIIのサイトから「ユーザー辞書クリエーター」をダウンロードし、添付のファイルを参考にしながらPC上でユーザー辞書を作成する。その上で専用形式にコンバートし、USBケーブル経由で本体に転送することにより、オリジナルのコンテンツとして利用できるのだ。著作権に留意する必要はあるものの、資格取得のための自作の用語集を電子辞書に入れて持ち歩き、好きな時にチェックするといった使い方ができる。
●音楽再生にも適したMP3プレーヤー機能に注目 SDカードスロットは、同社コンテンツカードであるシルカカードの読み込みのほか、市販のSDカードへの単語帳の書き出し、カードに記録されたテキストデータの閲覧、MP3データの再生などが行なえる。 中でも注目したいのはMP3データの再生だ。他社製品では、MP3データの再生に対応していても、他のコンテンツと同時には利用できない場合がほとんどだ。本製品の場合、バックグラウンド再生に対応しているので、辞書コンテンツを利用しながら音楽を聴くことも可能になっている。 音そのものも本格志向だ。他社のMP3再生機能は音声再生に特化してチューニングされていることが多く、音楽ファイルを再生させた場合はどうしてもチープさを感じざるを得なかった。その点、本製品のMP3再生機能は音楽プレーヤーの代替になり得る存在だ。ただし、音楽を再生すると電池が尋常ならざる速度で減っていくことと、同時に別タスクを実行すると極端に動作が緩慢になる点だけは要注意である。 細かい点では、ボリューム調整ダイヤルをプッシュすることで、一時停止/再生が行なえるのも大きなメリットだ。上蓋を開かなければ再生/停止の操作が行なえない他社製品と違い、音楽プレーヤーとしての本格的な利用に耐えられる設計になっている。再生方法も、通常再生のほか、1曲リピート、全曲リピート、全曲ランダム、フォルダ内リピート、フォルダ内ランダムと、専用プレーヤー顔負けの多彩な再生方法をサポートしている。図書館や喫茶店で音楽を聴きながら電子辞書を扱いたい、でも手荷物が増えるのはイヤ、という需要にはぴったりだろう。
●大学生~社会人向け電子辞書としてバランスのとれた一品 電子辞書に限ったことではないが、こうしたデジタルガジェットにおいては、製品のターゲット層を広げようとあれもこれもと機能を盛り込んだ結果、製品本来の魅力が失われてしまうことがよくある。汎用的な機能やコンテンツばかりでお茶を濁し、ユーザー像がいまいち見えて来ない製品というのは、掃いて捨てるほど存在している。 その点、一般な大学生をメインターゲットとして英語コンテンツを豊富に揃えつつ、就職試験対策コンテンツやTOEIC関連コンテンツをバランスよく盛り込んだ本製品は、大学生~社会人層に見合った電子辞書として洗練されている。ワンセグ機能や手書き入力といった昨今の電子辞書の流行と言える機能こそ盛り込まれていないが、実直な製品を求めるユーザーにとっては最適解だと言える製品だ。
【表】主な仕様
□セイコーインスツルのホームページ (2008年6月27日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
|